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ASBJが実務対応報告第40号「LIBORを参照する金融商品に関するヘッジ会計の取扱い」を公表

月刊誌『会計情報』2020年11月号

『会計情報』編集部

企業会計基準委員会(ASBJ)は、2020年9月29日に、実務対応報告第40号「LIBORを参照する金融商品に関するヘッジ会計の取扱い」を公表した。

現在、2014年7月の金融安定理事会(FSB)による提言に基づく金利指標改革(以下「金利指標改革」という。)が進められている中、ロンドン銀行間取引金利(London Interbank Offered Rate。以下「LIBOR」という。)の公表が2021年12月末をもって恒久的に停止され、LIBORを参照している契約においては参照する金利指標の置換が行われる可能性が高まっている。LIBORは5つの主要な通貨について公表されており、LIBORを参照する取引は広範に行われているため、金利指標改革により多くの取引に影響が生じる可能性がある。

そこで、2019年3月に開催された第405回企業会計基準委員会において、公益財団法人財務会計基準機構内に設けられている基準諮問会議より、金利指標改革に起因する会計上の問題に関して、基準開発の要否も含めて適時に検討を行うことが提言された。

この提言を受けて、ASBJは、2019年11月に開催された第420回企業会計基準委員会において、金利指標改革に対応する会計基準の開発に着手することを決定し、検討を重ねてきた。今般、2020年9月24日開催の第442回企業会計基準委員会において、標記の「LIBORを参照する金融商品に関するヘッジ会計の取扱い」(以下「本実務対応報告」という。)の公表が承認され、公表された。

また、本実務対応報告公表時には、金利指標の選択に関する実務や企業のヘッジ行動について不確実な点が多いため、本実務対応報告の公表から約1年後に、金利指標置換後の取扱いについて再度確認する予定とされている。

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<本実務対応報告の概要>

■範囲(本実務対応報告第3項、第27項及び第29項)

  • 金利指標改革に起因して公表が停止される見通しであるLIBORを参照する金融商品について金利指標を置き換える場合に、その契約の経済効果が金利指標置換の前後で概ね同等となることを意図した金融商品の契約上のキャッシュ・フローの基礎となる金利指標を変更する契約条件の変更のみが行われる金融商品を適用範囲とすることとしている。

  また、こうした契約条件の変更と同様の経済効果をもたらす契約の切替に関する金融商品も適用範囲とすることとしている。

  • 本実務対応報告の公表後に新たにLIBORを参照する契約を締結する場合、その金融商品も適用範囲に含まれるとしている。

 

■金利指標置換前の会計処理

●ヘッジ対象又はヘッジ手段の契約の切替(本実務対応報告第5項)
  • 本実務対応報告の適用範囲に含まれる金融商品をヘッジ対象又はヘッジ手段としてヘッジ会計を適用している場合、金利指標改革に起因する契約の切替が行われたときであっても、ヘッジ会計の適用を継続することができるとしている。

 

●ヘッジ会計の原則的処理方法(繰延ヘッジ)

(1)ヘッジ対象となり得る予定取引の判断基準(本実務対応報告第6項)

本実務対応報告の適用範囲に含まれる金融商品がヘッジ対象である予定取引が実行されるかどうかを判断するにあたって、ヘッジ対象の金利指標が、金利指標改革の影響を受けず既存の金利指標から変更されないとみなすことができるとしている。

 

(2)ヘッジ有効性の評価

  • 事前テスト(本実務対応報告第7項)

本実務対応報告の適用範囲に含まれる金融商品をヘッジ対象又はヘッジ手段としてヘッジ会計を適用する場合、ヘッジ対象及びヘッジ手段の参照する金利指標は既存の金利指標から変更されないとの仮定を置いて事前テストを実施することができるとしている。

 

  • 事後テスト(本実務対応報告第8項)

本実務対応報告の適用範囲に含まれる金融商品をヘッジ対象又はヘッジ手段としてヘッジ会計を適用する場合、事後テストにおける有効性評価の結果、ヘッジ有効性が認められなかった場合であってもヘッジ会計の適用を継続することができるとしている。

 

(3)包括ヘッジ(本実務対応報告第9項)

本実務対応報告の適用範囲に含まれる金融商品を含むグループをヘッジ対象として包括ヘッジを適用する場合、個々の資産又は負債のリスクに対する反応とグループ全体のリスクに対する反応が、ほぼ一様であると認められなかった場合であっても、包括ヘッジを適用することができるとしている。

 

●時価ヘッジ(本実務対応報告第10項)

本実務対応報告の適用範囲に含まれる金融商品をヘッジ対象又はヘッジ手段として時価ヘッジを適用する場合、繰延ヘッジを適用する場合について定めた特例的な取扱いと同様の取扱いとすることができるとしている。

 

●金利スワップの特例処理等

(1)金利スワップの特例処理(本実務対応報告第11項)

本実務対応報告の適用範囲に含まれる金融商品をヘッジ対象又はヘッジ手段として金利スワップの特例処理を適用する場合、日本公認会計士協会 会計制度委員会報告第14号「金融商品会計に関する実務指針」第178項③から⑤の条件を満たしているかどうかの判断にあたって、ヘッジ対象及びヘッジ手段の参照する金利指標は既存の金利指標から変更されないとみなすことができるとしている。

 

(2)外貨建会計処理基準等における振当処理(本実務対応報告第12項)

本実務対応報告の適用範囲に含まれる金融商品をヘッジ対象又はヘッジ手段として振当処理を適用するに際し、円貨でのキャッシュ・フローが固定されているかどうかの判断にあたって、ヘッジ対象及びヘッジ手段の参照する金利指標は既存の金利指標から変更されないとみなすことができるとしている。

 

■金利指標置換時の会計処理

●ヘッジ会計の原則的処理方法(繰延ヘッジ)(本実務対応報告第13項)

金利指標置換前において本実務対応報告の適用範囲に含まれる金融商品をヘッジ対象又はヘッジ手段としてヘッジ会計を適用していた場合については、金利指標置換時において、ヘッジ会計開始時にヘッジ文書で記載したヘッジ取引日(開始日)、識別したヘッジ対象、選択したヘッジ手段等を変更したとしても、ヘッジ会計の適用を継続することができるとしている。

 

■金利指標置換後の会計処理

●ヘッジ会計の原則的処理方法(繰延ヘッジ)(本実務対応報告第14項、第17項及び第53項)
  • 金利指標置換前において本実務対応報告の適用範囲に含まれる金融商品をヘッジ対象又はヘッジ手段としてヘッジ会計を適用していた場合、金利指標置換時以後において、本実務対応報告第8項の取扱いを適用し、ヘッジ会計の適用を2023年3月31日以前に終了する事業年度まで継続することができるとしている。これは、LIBORの公表停止が予定されている2021年12月末から概ね1年間を想定したものである。
  • 当該取扱いを継続している間、再度金利指標を置き換えたとしても、ヘッジ会計の適用を継続することができるとしている。
  • 金利指標改革とは関係なくヘッジ会計が中止となった場合で、本実務対応報告の適用範囲に含まれる金融商品をヘッジ対象としている場合、当該ヘッジ対象の契約の切替が行われたときであっても、契約の切替後のヘッジ対象に係る損益が認識されるまで、ヘッジ手段に係る損益又は評価差額を繰り延べることとしている。

 

●包括ヘッジ(本実務対応報告第18項)
  • 金利指標置換前において本実務対応報告の適用範囲に含まれる金融商品を含むグループをヘッジ対象として包括ヘッジを適用していた場合、金利指標置換時以後において、本実務対応報告第9項の取扱いを適用し、包括ヘッジの適用を2023年3月31日以前に終了する事業年度まで継続することができるとしている。
  • 当該取扱いを継続している間、再度金利指標を置き換えたとしても、包括ヘッジの適用を継続することができるとしている。

 

●金利スワップの特例処理等(本実務対応報告第19項)
  • 金利スワップの特例処理及び振当処理についても原則的処理方法に関する特例的な取扱いと同様の特例的な取扱いをすることができるとしている。
  • 本実務対応報告公表時には、金利指標の選択に関する実務や企業のヘッジ行動について不確実な点が多いため、本実務対応報告の公表から約1年後に、金利指標置換後の取扱いについて再度確認する予定とされている。

 

■注記事項(本実務対応報告第20項及び第61項)

  • 報告日時点において本実務対応報告を適用することを選択した企業は、本実務対応報告を適用しているヘッジ関係について、次の内容を注記することとしている。

(1)ヘッジ会計の方法(繰延ヘッジか時価ヘッジか)並びに金利スワップの特例処理及び振当処理を採用している場合にはその旨

(2)ヘッジ手段である金融商品の種類

(3)ヘッジ対象である金融商品の種類

(4)ヘッジ取引の種類(相場変動を相殺するものか、キャッシュ・フローを固定するものか)

  • 本実務対応報告を一部のヘッジ関係にのみ適用する場合には、その理由を注記することとしている。ただし、連結財務諸表において上述の内容を注記している場合には、個別財務諸表において記載することを要しないこととしている。

 

■適用時期等(本実務対応報告第22項及び第23項)

  • 本実務対応報告は、公表日以後適用することができるとしている。ただし、公表日より前にヘッジ会計の中止又は終了が行われたヘッジ関係には、本実務対応報告第17項を除き適用することができないとしている。
  • 本実務対応報告を適用するにあたっては、ヘッジ関係ごとにその適用を選択することができるとしている。

 

詳細については、ASBJのウェブページ(https://www.asb.or.jp/jp/accounting_standards/practical_solution/y2020/2020-0929.html)を参照いただきたい。

以上

本記事に関する留意事項

本記事は皆様への情報提供として一般的な情報を掲載するのみであり、その性質上、特定の個人や事業体に具体的に適用される個別の事情に対応するものではありません。また、本記事の作成または発行後に、関連する制度その他の適用の前提となる状況について、変動を生じる可能性もあります。個別の事案に適用するためには、当該時点で有効とされる内容により結論等を異にする可能性があることをご留意いただき、本記事の記載のみに依拠して意思決定・行動をされることなく、適用に関する具体的事案をもとに適切な専門家にご相談ください。

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