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Closing out 2021

IFRS in Focus|月刊誌『会計情報』2022年3月号

注:本資料はDeloitteの IFRS Global Officeが作成し、有限責任監査法人トーマツが翻訳したものです。この日本語版は、読者のご理解の参考までに作成したものであり、原文については英語版ニュースレターをご参照下さい。

トーマツIFRSセンター・オブ・エクセレンス

本特別版IFRS in Focusでは、規制上の焦点の分野、現在の経済環境又は会計基準の変更の結果として、2021年12月31日以後に終了する事業年度に関連性がある財務報告の論点を示している。

 

不確実性は、気候変動の影響、進行中のCOVID-19パンデミック又はその他の要因によって生じるかどうかに関わらず、世界中の産業及び経済において引き続き重大な要因である。この不確実性は、コーポレート・レポーティングに多くの方法で影響を与え、投資者及び規制上の焦点を生じさせ、報告の要求事項の動向に影響を与える可能性がある。

790KB, PDF ※PDFダウンロード時には「本記事に関する留意事項」をご確認ください。

気候変動とコーポレート・レポーティング

気候変動及び低炭素経済への移行は、引き続き、企業、貸手、政府、規制当局及び投資者にとって重要なビジネス上の問題である。ビジネス関係者は、気候変動の影響と及び炭素経済への移行を重要な会計上の判断及び見積りにどのように組み込んでいるかを企業に質問している。

その結果、IFRS基準の既存の要求事項に気候関連の問題がどのように反映されているかに焦点を当てるとともに、企業の持続可能性及び二酸化炭素排出量を含む環境への影響をよりよく反映するために、コーポレート・レポーティングを強化するための多くのイニシアチブがある。

このような開示が財務諸表の外(現地の規制の要求等に基づく、気候関連財務情報開示に関するタスクフォース(TCFD)の提言のような確立されたフレームワークの下で提供される、又はそれ以外のいずれも)、財務諸表の作成及び財務諸表の開示を裏付ける際に使用されるデータ及び判断と一貫することが重要である。特に、

  • 財務諸表を支える判断及び見積りは、年次報告書の記述情報の部分で議論されている気候コミットメント及び戦略と一貫していなければならない。
  • 財務報告の目的で使用される予測は、報告日現在の最善の見積りに基づいて、報告日現在の企業の戦略的計画及びコミットした行動を反映しなければならない。
  • 投資者は、これらの予測がパリ協定の目標と一致しているかどうかを理解したいと考えている。異なる気候変動の軌道の下で、複数のシナリオと可能のある結果の範囲が存在する。企業は、使用する仮定を明確にし、感応度分析をより使用することが重要である。
TCFDの提言

金融安定理事会(FSB)は、より多くの情報に基づいた投資、信用供与及び保険引受の決定を促進し、利害関係者が金融セクターにおける炭素関連資産の集中及び金融システムの気候関連リスクへのエクスポージャーをよりよく理解することを可能にする、より効果的な気候関連の開示のための提言を開発するためにTCFDを設立した。

TCFDの提言は、組織の運営方法(ガバナンス、戦略、リスク管理、指標と目標)の4つの中核的な要素を中心に構成されている。これらの4つの要素は、セクター及び法域を越えて組織に普遍的に適用され、相互に連携し、気候関連の問題に対応するための効果的なアプローチを提供するように設計されている。また、推奨される開示の構造も提供する。

これは、気候変動に対する戦略的対応及びその潜在的な財政上の影響を、組織が説明するための一般的に認められたフレームワークとなっている。TCFDの提言に沿って、投資者はまた、主たる提出書類で当該開示を採用することを組織により求めており、多くの法域の規制当局はそれらを強制的な報告要求に組み込んでいるか、組み込むことを検討している。TCFDの提言を適用することは、組織が透明性を高め、ISSBにより公表されるグローバルなサステナビリティ基準に基づく強制的な気候関連の財務開示に対するより良い準備をするのに役立つ(下の囲みを参照)。

本提言及び追加のガイダンスは、TCFDのPublication Page*1で入手可能である。

 

国際サステナビリティ基準審議会

2021年11月、IFRS財団(IFRSF)は国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)の創設を発表した。ISSBは、国際会計基準審議会(IASB)と並んで、グローバルなサステナビリティ報告基準を設定する権限を有する。ISSBは、IASBが財務報告に対して行うものと同じ役割をサステナビリティ報告に対して果たすことを意図している。

ISSBの創設は、投資者及び他の利害関係者が、ビジネスが直面する気候及び持続可能性のリスク及び機会が企業価値及び財務業績にどのような影響を与えるかを理解する緊急の必要性に対応する重要なステップである。グローバルなサステナビリティ基準は、低炭素経済への移行における長期的で回復力のあるビジネスへの資本に向けることに役立つ、法域横断的に一貫した比較可能性のある報告を促進する。

デロイトのPurpose-driven Business Reporting in Focus「IFRS財団は、グローバルなサステナビリティ基準を設定するための新しい審議会を創設する」*2は、ISSBの動向を説明し、IFRSFが公表した気候と全般的な要求事項に関する2つのプロトタイプ基準を要約している。

 

デロイトのA Closer Look「気候変動に関するパリ協定に沿ったコーポレート・レポーティングに対する投資家の需要」*3は、気候に関する投資者の期待に関する背景とともに、どの要求事項がIFRS財団の公表物「In Brief: IFRS基準と気候関連開示」*4及びIASBの教育的資料「気候関連事項が財務諸表に及ぼす影響」*5により強調されているか、及びどのようにこれらを実務において適用するかもしれないかについて提供している。

 

COVID-19パンデミックの影響

COVID-19の最初の流行から2年後、パンデミックは依然として世界中で重要な要因であるが、感染率とワクチン接種率、及びCOVID-19の伝染を限定し、悪影響を受ける産業を支援するための政府の行動のレベルと内容に大きなばらつきがある。

そのため、デロイトのIFRS in Focus「新型コロナウイルス感染症に関連する会計上の検討事項」*6に詳細に記述されている検討事項には引き続き関連性があるが、報告企業が経験する特定の状況の文脈において慎重に検討しなければならない。

 

サプライ・チェーンの混乱、労働力不足、コモディティ価格及び全般的なインフレ圧力

COVID-19制限の解除、政府の刺激策、世界的な貿易の緊張の結果として、サプライ・チェーンの混乱、労働力不足、コモディティ価格の上昇、全般的なインフレ圧力が世界各地で生じている。

 

サプライ・チェーンの混乱

サプライ・チェーンの混乱は、多くの企業にとって生産及び流通コストを大幅に増加させる。この結果、棚卸資産の原価が高くなる場合、企業は、正味実現可能価額への評価減が要求されるかどうかを検討しなければならない。

原価の増加に加え、サプライ・チェーンの混乱により、完成品の生産にかかる時間が増加し、報告日の未完成の棚卸資産の量が増加する可能性がある。これにより、原材料及び仕掛品(そのうちのいくつかは物理的に第三者が保有している場合がある)を適切に認識し、測定することを確保するためにシステム及び統制の精度を高めることが、より重要となり得る。

既存の顧客との契約を充足するために財を生産する場合、原価の増加により契約の収益性が低下する又は損失が発生する可能性もある。企業が顧客との収益契約の下で価格を上げることができない場合は、収益契約の収益性の低下又はマイナスの影響(該当する場合は損失を記録する期間を含む)の潜在的な会計上の影響を検討しなければならない。

同様に、構成要素の受取の遅延又は代替的な構成要素の使用を可能にする製造プロセスの変更は、棚卸資産の原価計算に反映する必要がある。

 

労働力不足

労働力不足は、従業員の離職及び組織のすべてのレベルでのより高い賃金の要求の形で現れる可能性がある。

生産環境における労働者を維持するコストが増加するため、企業は、これらの増加した労務費が棚卸資産の原価にどのような影響を与えるか、また、これらの高いコストが価格上昇によって回収できるか、又は正味実現可能価額への評価減が必要かどうかを検討しなければならない。同様に、顧客との契約の会計における従業員のコストの増加の影響を慎重に検討しなければならない。

従業員の福利厚生パッケージ(賞与、追加の株式に基づく報酬制度又はその他に関係なく)の変更も慎重に評価し、IAS第19号「従業員給付」又はIFRS第2号「株式に基づく報酬」の要求事項に従って会計処理する必要もある。

離職の増加及び従業員の不足は、企業の内部統制環境にストレスを与える可能性もある。従業員の責任が変更されるのに伴い、企業は、適切なスキルを持ち訓練を受けた個人が、情報技術(IT)に関連する統制を含む統制を効果的に設計、整備、運用及び監視するために適切に配置されているかどうかを評価しなければならない。

 

コモディティ価格

コモディティ価格の上昇は、多くの企業が直面している現実のものでもあり、例えば卸売エネルギー価格が多くの産業に直接的又は間接的な影響を及ぼすなど、大幅な上昇している。これらは、企業の事業のコストに全般的な影響を与える可能性がある(減損又は正味実現可能価額の問題の可能性、又は極端な場合には、企業が引き続き継続企業であるかどうかに関する疑問)又は特定の契約への影響を与える。例えば、顧客に配送するコモディティのコストが増加し(又は顧客向けの製品の製造に使用され)、当該コストを顧客に移転することができない場合、不利な顧客契約の引当金の認識が必要になる場合がある。

 

全般的なインフレ

サプライ・チェーンの圧力及び労働力不足が企業の事業に直接影響を及ぼすことに加えて、全般的な価格の上昇は棚卸資産の原価又は顧客契約を履行するコストを増加させ、その結果、正味実現可能価額への評価減又は不利な顧客契約の認識が生じる可能性がある。

インフレは、リース又は長期供給契約のような長期契約の再交渉にも影響を及ぼし、会計上の潜在的な影響を及ぼす可能性がある。さらに、インフレは、金利の上昇及びそれに伴う固定金利金融資産の価値の下落につながる可能性がある。企業が最近のインフレを踏まえて投資戦略を見直す中で、企業は異なる種類の投資を行う又は保有する余剰の手元現金を移すことを検討するかもしれない。例えば、金、デジタル資産(暗号通貨のような)、インフレ連動債券に投資する。このような投資を検討している企業は、それらを保有することから生じる可能性のある複雑な会計及び財務報告を検討しなければならない。

さらに、特に割引率の一見小さな変化であっても、企業の年金負債に大きな影響を与える可能性があるため、年金関連の負債を測定するために使用する割引率の妥当性をモニターしなければならない。例えば、金利の上昇は、年金負債及び雇用主の拠出の必要性の減少につながる可能性がある。しかし、このような減少は、従業員の賃金の上昇によって相殺される可能性がある。

 

不確実性と財務報告

気候変動(長期的及び政府と企業の二酸化炭素排出量を削減する政府と企業の行動の短期的な影響の両方)の影響、及び、サプライ・チェーンの混乱、労働力不足、コモディティ価格の上昇、全般的なインフレの圧力を含む、COVID-19の継続的な影響は、企業の将来のキャッシュ・フロー及び事業の業績の予想に、変動性と不確実性をもたらすという意味でいくつかの共通点を有する。以下で説明するように、これは財務報告のいくつかの分野で要求される会計上の見積りに影響を与え、行った判断及び他の可能性のある結果についての感応度の適切な開示を特に重要なものにする。

 

減損と資産の耐用年数

企業は、例えば市場の不利な変化又は企業の資産の技術的陳腐化により、減損のトリガーが発生したかどうかを評価する必要がある。また、使用価値又は売却コスト控除後の公正価値(特に、IFRS第13号「公正価値測定」に記載されているインカム・アプローチを適用する場合)の算定は、将来の何年も延長する可能性がある、IAS第36号「資産の減損」の下での減損レビューの目的での企業のキャッシュ・フローの予測が必要である。

気候変動とCOVID-19の継続的な影響の双方は、このような兆候を生じさせる可能性があり、減損レビューで使用するキャッシュ・フローの予測に変動と不確実性を追加する可能性がある。例えば、グラスゴーでのCOP26サミットを受けた政府の行動は、炭素集約型資産を陳腐化することが予想されるかもしれないし、COVID-19に対抗するための公衆衛生措置の内容と程度は分からないかもしれない。不確実性の複数の次元は、予測を策定する際に複数の可能性のあるシナリオの検討を必要とする可能性がある。

減損の計算の裏付可能性及び合理性の観点から、キャッシュ・フロー予測、成長率、割引率を慎重に検討することが重要である。将来キャッシュ・フローを見積る際には、企業は、仮定が外部情報源、気候戦略、及びその点で行われた公約と一致していることを確認しなければならない。予測キャッシュ・フローは、報告日現在に存在していた条件の報告日に合理的に判明しているものに基づく必要がある(重要なのは、使用価値の計算の場合、企業が報告日にコミットしていないリストラチャリングの影響を除くことである)。減損テストの実施に使用される主要な仮定は、重要な見積りの不確実性の発生要因を表す可能性が高く、したがってIAS第36号により要求される情報は、のれん減損テストに関して要求されるもの以外の感応度分析など、IAS第1号「財務諸表の表示」の125-133項により要求される情報によって補足される必要がある場合がある。

使用される割引率は、市場参加者が同等のリスクの投資に期待するレートの見積りである。したがって、COVID-19パンデミックの継続的な影響及び/又は気候変動の影響又は低炭素経済への移行に関するリスクと不確実性が、テストの対象の資産又は資金生成単位の予想キャッシュ・フローに反映されない範囲で、適用される割引率に反映されなければならない。

少なくとも一部の法域では、COVID-19に関連する制限の緩和は、減損の潜在的な戻入れを生じさせる可能性がある(戻入れが禁止されているのれん、以外の資産)。最後に減損損失が認識されて以来、減損の戻入れにつながる可能性がある、資産の回収可能価額を算定するために使用する見積りに変更があったかどうかを、企業は評価する必要がある。特に、減損の戻入れは、割引の巻戻しのような単なる時間の経過から又は予想されるマイナスのキャッシュ・フローが発生するからではなく(その結果、将来予測の計算に表われない)、予測キャッシュ・フローのプラスの変化によってのみ発生することが可能であることに注意することが重要である。

気候又はCOVID関連のリスクは、耐用年数又は残存価値の変化を通じて、資産の減価償却又は償却に影響する可能性がある。例えば、

  • より良い技術が市場で利用可能になるにつれて、よりエネルギー効率の低い機械の見積り耐用年数又は残存価値が減少する可能性がある。
  • 既存の製品に関連する顧客関係の耐用年数又は資産化された開発費は、企業(又は市場)がより環境に優しい代替手段を開発する際に減額する必要がある。

このような要因は、資産の耐用年数及び残存価値の再検討に組み込まれ、いかなる変更も適切な説明及び開示を伴う減価償却費又は償却の将来に向かっての変更として会計処理しなければならない。

 

予想信用損失

COVID-19パンデミックによる低迷は、とりわけ、借手がローン契約の下での約束を履行することに困難がある可能性がある。貸手又は金融債権の保有者は、予想信用損失(ECL)の評価にそれを反映する必要がある。IFRS第9号「金融商品」の下で、これらは次の内容を反映する方法で測定される。

  • 一定範囲の生じ得る結果を評価することにより算定される、偏りのない確率加重金額
  • 貨幣の時間価値
  • 過去の事象、現在の状況及び将来の経済状況の予測についての、報告日において過大なコストや労力を掛けずに利用可能な合理的で裏付け可能な情報

銀行及び他の貸付ビジネスは、ECLに関する最大の課題(長期的には気候変動が信用リスクに及ぼす影響を含む)に直面し続けているが、その影響は企業にとっても大きな影響を及ぼす可能性がある。規制当局(例えば、欧州証券市場監督局)(ESMA)の2021 Common Enforcement Priorities(2021年の共通の執行の優先事項)*7)は、金融機関が検討する以下の点を強調しているが、ECLの変化形について重要性のあるエクスポージャーを有する事業会社にも関連性があるかもしれない。

  • 経営者による上書き:ECLの測定で使用される重要性のある修正により、IFRS第7号「金融商品:開示」の開示目的を満たすために強化された開示が要求される。これらの修正は、多くの場合、モデルのインプットの更新を含むECLモデルの改訂の形式をとるか、又は主要なモデルの外で適用される。それぞれの重要性のある修正について、ECLの見積りへの影響、修正の根拠、及び適用する方法に関する詳細かつ具体的な情報を企業が提供することが期待されている。方法論の記述には、重要なインプットと仮定を含めなければならない。また、修正が特定の減損のステージに関連するかどうか、基礎となる金融商品のステージングにどのような影響を与えるかについても開示しなければならない。また、財務諸表に対する注記におけるECLの感応度の開示が、重要性のある経営者による上書きをどのように組み込むことができるかを考慮することも勧告されている。過去の報告期間からの方法論と仮定の大幅な変更は、当該変更の理由と共に説明しなければならない。利用者は、変動の程度、その性質及び修正の開発の理由を確認できなければならない。
  • 信用リスクの著しい変化:企業は、当初認識以降に金融商品に対して信用リスクの大幅な増加が発生したかどうか、又は金融資産が信用現存しているかどうかを判断するために使用されるインプットと仮定の基礎及び見積り技法を開示することが、IFRS第7号35F項-G項により要求される。当該開示には、適用される定量的及び定性的要因、及びポートフォリオ横断的な要因の適用における重要性のある差異を含めなければならない。借手がローンの認識の中止につながらない大幅な救済措置を提供される場合、貸手はこれらのローンの信用リスクが著しく増大したかどうか、又は減損しているかどうかをどのように判断しているかを説明しなければならない。さらに、企業が「低信用リスク」の便法を適用している場合、企業は、「低信用リスク」を定義するために使用する定性的及び定量的要件を含む、これらの便法の影響を受ける主なタイプの取引又はポートフォリオを記述しなければならない。企業がグルーピングした金融商品を信用リスクが著しく増大しているかどうかを判断する場合、グルーピングの主要リスク特性及び集合的評価がどのように実施したかを説明することが期待される。
  • 将来予測的情報:規制当局は、企業がECLの算定に使用するマクロ経済シナリオにおけるパンデミックの影響をどのように考慮したかについて、企業が引き続き詳細な説明を行うことを期待している。企業は、シナリオとそのウェート付けを定義する際に考慮した不確実性に関連する主要な判断及び見積りに関する具体的な開示を提供しなければならない。これには、各シナリオ及び主要な地理的領域及び/又はセクターについて考慮したマクロ経済変数に関する定量的情報が含まれる。感応度分析に関する詳細な開示を提供することは、ECL及び該当する場合にはステージングについての当該分析の定量的影響を含め重要である。
  • 損失引当金の変動:企業は、期首残高から期末残高までの損失引当金(減損金額)の表形式の調整表は、金融商品のクラス別に分解しなければならず、オフ・バランス・シートのコミットメントに対する損失引当金の変動に関する情報を別個に提供しなければならないことに留意する。表形式に加えて、期間中の損失手当の変更理由の分析を含む、叙述的な説明を行う必要がある。調整表は、企業レベル及び信用リスク特性を共有する重要なポートフォリオの両方で開示しなければならない。さらに、企業は、期間中の帳簿価額の総額の著しい変動が損失引当金の変動にどのように寄与したかを説明しなければならない。
  • 信用リスク・エクスポージャーの変動:信用リスク・エクスポージャーに関する定量的な情報を提供する場合、重要な信用リスク濃度を透明にするために、適切なレベルの分解を提供しなければならない。規制当局は、すべてのレベルの分解について、ステージ別の内訳を提供することが有用であると考えている。財務諸表又は経営者報告書の異なる部分で提供される定量的開示及び叙述的な記述は、互いに明確にリンクする必要がある。信用補完に関する開示は、利用者が信用リスクの重要性のある集中を理解できるように十分に細分化しなければならない。適切である場合、融資比率(LTV比率)の範囲によるエクスポージャーの分解を提供することができる。

 

継続企業

財務諸表の個々の残高の測定及び認識に影響を与えるだけでなく、気候変動又はCOVID-19パンデミックの継続的な影響によって生じる不確実性は、一部のビジネスの実行可能性を脅かす可能性がある。このような企業については、継続企業の前提により財務諸表を作成することが適切であるかどうか、及び当該検討を説明するためにどのような開示レベルが要求されるかを決定するために、通常よりも重大な判断を伴う可能性がある。

IAS第1号では、財務諸表を作成する際に、年次又は期中のいずれであっても、経営者に継続企業として存続する企業の能力を評価することを要求する。本基準は、経営者が企業を清算もしくは営業停止の意図がある場合、又はそうする以外に現実的な代替案がない場合を除いて、財務諸表が継続企業に基づいて作成されることを説明することにより、継続企業を定義している。この評価を行う際、IAS第1号は、報告期間の末日から少なくとも12か月間を検討することを要求するが、この見通しは12か月に限定されないことを強調している。これは、財務諸表が発行の承認を受けた日から12か月間の継続企業の検討が要求される一部の国の規制と矛盾していない。

2021年1月IFRS財団は、教育的資料「継続企業-開示に焦点を当てる」*8を公表した。本教育的資料は、経営者が企業の現在及び将来の収益性、既存の借入れの返済時期、借換えをする場合の潜在的な借入先に関連する要因を考慮する必要があり、現在のストレスがかかっている経済環境において、企業は過去と比べてより広い範囲の要因の影響を受ける可能性があることを指摘している。例えば、COVID-19パンデミックは、企業活動の一時的な中止又は停止、政府によって将来が課される可能性のある活動に対する潜在的な制約、政府による支援の継続的な利用可能性、及び(顧客の行動様式の変化など)市場の長期的な構造上の変化の影響などの要因を生じさせる可能性がある。

本教育的資料はまた、IAS第10号「後発事象」は継続企業の前提により作成することの経営者の評価は、財務諸表の発行の承認日までに生じた事象の影響を反映する必要があることを説明している。財務諸表の発行が承認される前に、状況が悪化し、経営者が営業停止する以外に現実的な代替案がなくなった場合、財務諸表を継続企業の前提により作成してはならない。

財務諸表を継続企業の前提により作成するかどうかは二者択一の意思決定であるが、当該前提を使用する状況は、大きく異なることになる。その状況は、企業に収益性があり、流動性について懸念がない場合から、経営者が計画する緩和のための行動を考慮しても、「間一髪」で企業が継続企業の前提により作成する場合まであることがある。引き続きストレスがかかっている経済環境において、企業がその範囲のどこに位置しているのか、及び経営者の評価の一環として行われた仮定と判断の明確な開示は、財務諸表の利用者にとって焦点となる可能性が高い。

デロイトのIFRS in Focus「IFRS財団は、継続企業の評価に関連するIFRS基準の要求事項に関する教育的資料を公表」*9はIASBの教育的資料をさらに詳細に説明し、異なる状況で適用される可能性のある開示要求を解説している。

 

法人所得税

繰延税金資産(DTA)を認識すべきかどうかの決定は、将来の業績の予測が要求される点で減損レビューに類似している(ただし、キャッシュ・フローではなく将来の課税所得について)。そのため、当該評価は、気候、COVID-19又は他の要因によって生じる不確実性にも同様に敏感である。

したがって、損失が生じている企業による繰延税金資産の認識を裏付ける証拠の内容は、同様に精査の対象となる。不確実性にもかかわらず重要性のあるDTAが認識されている場合、特に企業が損失を生じており、DTAの利用が将来の所得に依存している場合には、この認識を裏付ける証拠を開示しなければならない。また、重要な会計上の判断(例えば、繰延税金資産の回収可能性をどのように決定したか)及び重要な見積りの不確実性の発生要因(影響を受ける帳簿価額及びDTAの回収についての主要な仮定の重大な変更の影響の説明を含む)の開示が、しばしば要求される。

より役に立つ開示は、課税主体の名称、その所在地、適用される税の規則、及び考慮した否定的及び肯定的な証拠を記述することである。また、DTAが回収されることが予想される期間も含まれる。

さらに、すべての企業は以下を開示することが要求される。

  • 繰延税金資産を認識していない将来減算一時差異、税務上の繰越欠損金又は繰越税額控除の額(及び、もしあれば失効日)
  • 各タイプの一時差異及び各タイプの税務上の繰越欠損金について、認識したDTAの金額及び純損益における関連する変動額

DTAの基礎となる項目のインプライド税率と、企業によって報告される税金の標準又は実効税率との間に重大な差異がある場合は、当該差異を説明しなければならない。

さらに企業は、法人所得税費用と会計上の利益に適用税率を乗じて得られた金額との関係に影響する重大な調整項目(特に、多額の1回限りの項目)に関する説明を行わなければならないことに留意する。

IAS第12号「法人所得税」に関する2019年のESMAの公表文書*10は、IFRS財務諸表における税務上の繰越欠損金により生じるDTAの認識、測定及び開示に関する要求事項の適用に関して、何が期待されているかをより詳細に提供している。

 

引当金及び偶発負債

引当金が企業の財政状態計算書に関して定量的に多額であるかどうかに関わらず、引当金が関連する状況は、例えば、企業の事業によって引き起こされる環境被害を修復する企業の義務に光を当てる投資者にとって大きな意味を持つ可能性がある。規制当局は、引き続き、引当金に関連するいくつかの分野における改善の余地を識別している。

財務諸表における引当金及び偶発事象の説明は、明確かつ簡潔でなければならない。これらの説明についての詳細さのレベルは、引当金の複雑さと、企業の財政状態、財務業績又はキャッシュ・フローについての潜在的な影響により導かなければならない。特に、リストラクチャリング、不動産の損耗又は自家保険のような、このような事象が発生したかどうかに重要な判断が要求される場合には、その基礎となる義務発生事象を記述することが重要である。引当金のクラスは、具体的であり、情報価値を伝達するために名称を付けなければならない。

また、引当金の最良の見積りに到達するための方法も十分に説明しなければならない。特に、企業が当該見積りに到達するために「期待値」又は「最も可能性の高い金額」アプローチのいずれを適用したかどうかを、利用者に明確にしなければならない。企業が可能性の高い又は生じ得る経済的流出の金額を見積ることができない場合は、不可能である理由を説明し、潜在的な影響の大きさに関する情報を提供することが推奨される。

また、特に引当金が長期的な性質の場合は、引当金に関連するキャッシュ・アウトフローの予想時期に関する情報を提供することも期待される。引当金の割引の影響に重要性がある場合、使用する割引率を割引率の算定に使用する方法の記述とともに説明する必要がある。割引率とキャッシュ・フローの予測は、見積りの不確実性の主要な発生要因を表し、IAS第1号の要求事項が適用される可能性がある(下記参照)。特に、割引率及び/又はキャッシュ・フロー予測に対する、引当金の重要性のある感応度を説明することが期待される。

 

政府援助

政府がCOVID-19パンデミックの影響を受ける事業を支援するための措置を実施したため、政府援助は2020年に多くの法域で重要さが高まっていることが想定された。これらのプログラムの多くは2021年も引き続き運営されており、さまざまな形での政府援助は、さまざまな産業の特徴であり続けると予想されるかもしれない(COVID-19への対応と他の目的の両方で、例えば低炭素経済への移行を奨励する)。

このような支援の説明は、各スキームの正確な特徴に依存するが、どのIFRS基準を適用すべきかの決定は、多くの場合、重要な判断となる。例えば、政府の支援は次の形式で行われる場合がある。

  • IAS第20号「政府補助金の会計処理及び政府援助の開示」の範囲に含まれる政府補助金
  • IAS第12号の範囲に含まれる税額控除
  • 市場金利より低い金利で延長されたローン。IAS第20号10A項において政府の支援による便益の適切な認識の算定が必要となる。

適用される基準が識別されたら、その基準に従って政府の支援の便益の適切な認識を決定する際に注意が必要である。

政府の支援の開示(適格性、条件及び結果に関する政府援助措置の実際の影響、及びそれをどのように会計処理すべきかを決定する際に行われた重要な判断の両方の観点から)も、引き続き重要である。

 

判断及び見積り

多かれ少なかれ、これまでに解説した領域はすべて、項目又は取引を特徴付ける際に判断の適用及びその測定において見積りの適用が要求される。IFRS基準は、利用者が判断と見積りに割り当てる重要さを認識し、IAS第1号の一般的な要求事項と共に、以下を開示する特定の開示要求を含めている。

  • 見積りを伴う判断とは別に、会計方針を適用する過程で行った判断のうち、財務諸表に認識されている金額に最も重大な影響を与えているもの。
  • 報告期間の末日における、将来に関して行う仮定及び見積りの不確実性の他の主要な発生要因のうち、翌事業年度中に資産及び負債の帳簿価額に重要性がある修正を生じる重大なリスクがあるものに関する情報(必要に応じて、感応度分析を含む)。

これらの開示は数年前から規制上の焦点の対象となっており、以下の点が強調されている。

  • 見積りの不確実性の主要な発生要因を開示する要求事項は、翌事業年度中に重要性がある修正を生じる重大なリスクがある場合に適用される。長期的に起こりうる変更の自発的な開示は有用であるが、利用者が近い将来における見積りの不確実性の最も重要な領域を識別することに役立てるために明確に区別しなければならない。
  • 重要な会計上の判断に関しては、企業は、なぜ判断が必要であったのか、判断を適用する際に考慮した要因を説明しなければならない。重要な判断の会計上の結果は、十分に説明しなければならない。

規制当局及び投資者はまた、重要な判断又は見積りの不確実性と、年次報告書の他の場所で提供されている情報との比較を増やしている。判断及び見積りと、例えば、企業が直面するリスクの開示との間の矛盾は精査される可能性が高い。

デロイトのIFRS in Focus「主要な判断と見積りの開示にスポットライトを当てる」*11は、重要な判断及びと見積りの不確実性の発生要因の開示のより詳細について提供している。

 

気候変動又は低炭素経済への移行の影響に関連する仮定は、例えば、減損を評価する資産及び負債の帳簿価額に翌事業年度中に重要性のある修正を生じる重大なリスクを有する可能性がある。これは、翌事業年度中の予想キャッシュ・フローの変化又は翌事業年度中の重大な改訂のリスクがある長期的な仮定により生じる可能性がある。これらの開示は、財務諸表の利用者が将来に関する判断を理解するのに役立つ方法で表示しなければならない。開示される情報の内容及び範囲は、仮定の性質によって異なる。

上記の要求事項に加えて、IAS第8号「会計方針、会計上の見積りの変更及び誤謬」の39項は、当期に影響を及ぼすか、又は将来の期間に影響を及ぼすと予想される会計上の見積りの変更の内容と金額の開示を要求している。気候関連の要因により見積りの変更が発生する可能性がある領域は多数ある。

低炭素経済への移行は、会計方針の策定において重要な判断が要求される可能性のある新たな取引を生み出す可能性もある。例えば、「グリーン」債、カーボン・オフセット又は排出量取引スキームがある。

 

非財務諸表及び代替的業績指標

パンデミックは、企業の経済活動に大きな影響を与え続けている。規制当局は、これは、短期的及び中期的に事前に決定されたサステナビリティ関連の目標を達成する企業の能力を損なう可能性があることに留意している。したがって、企業は、これらの目標がどのように影響を受け、パンデミックに対応してどのように修正されたかを説明することを推奨している。また、企業は、事業モデル及び非財務の主要業績評価指標(KPI)に対するパンデミックの影響を説明することも推奨されている。

代替的業績指標(APM)は、COVID-19が企業の業績に与える影響を示すためだけに修正され又は新たに導入された場合、規制当局によって特に精査される。パンデミックは、もはや1回限りの事象とみなすことができない世界市場における劇的な変化を生じさせた。したがって、パンデミック影響の別個の表示は適切ではない可能性がある。修正又は新しいAPMを導入するよりも、これらの変更を叙述的報告で説明する方が良い。

規制当局は、「EBITDA」などの一般的に認められている財務上の集計値との混同につながる可能性のあるAPMの名称を使用することを明示的にやめさせている。開示されたAPMには、利用者に誤解を招くメッセージを伝えないように、その内容及び計算の基礎を反映した意味のある名称を付けなければならない。例えば、利息、税金、減価償却費、及び償却費以外の項目がネットの業績から調整される場合は、「EBITDA」という用語は使用してはならない。

さらに、APMは中立でなければならない。1回限りの損失(例えば、減損損失)のみを除外するように調整されるが、同じ性質の1回限りの利得(例えば、減損の戻入れ又は補助金)を含む偏りのあるAPMを表示することは、ビジネスの進展と業績及び企業の状態の公正なレビューを構成するものではない。

APMを選択し、表示する場合、企業は、まだ関連性のある非GAAP財務指標に関するIOSCO声明*12そして代替的業績指標についてのESMAのガイドライン(2020年に更新)*13を参照しなければならない。

 

通貨と超インフレ

世界経済の不確実性の別の症状は、一部の経済において超インフレの水準に達し、各国政府が現地通貨と国際取引通貨間の交換に制限を課す可能性のあるインフレ水準の上昇である。これらの問題は、以下のような財務報告の課題を示す。

  • 経済が超インフレであるかどうかの判断(この用語はIAS第29号「超インフレ経済下における財務報告」で定義されている。3年間の累積インフレ率が100%に近づいているか又は超えることを含む、超インフレのいくつかの特徴が含まれている)その場合には、財務諸表における金額には一般物価指数を適用しなければならない。
  • 現地通貨と国際通貨の両方が一般的に使用されている状況での企業の機能通貨の決定。IAS第29号は、(その経済で事業を行う企業ではなく)機能通貨が超インフレ経済の通貨である企業にのみ適用されるため、現地通貨が超インフレである場合、特に重要である。
  • 単体財務諸表の貨幣性項目を換算する、及び親会社の報告通貨に在外営業活動体の財務諸表を再換算するための適切な為替レートを特定する。

インフレ又は為替の問題が重大な判断につながる、又は見積りの不確実性の発生要因となる場合は、IAS第1号122項及び125項が要求する開示を提供しなければならない。

国際通貨基金(IMF)のインフレ予測やIAS第29号で定められた指標を含む執筆時点における入手可能なデータに基づいて、以下の法域は2021年12月31日終了事業年度の財務諸表について、IAS第29号を適用する目的及びIAS第21号「外国為替レート変動の影響」に従った在外営業活動体の再換算を行う超インフレ経済にあると考えなければならない。

  • アルゼンチン
  • イラン・イスラム共和国
  • レバノン
  • 南スーダン
  • スーダン
  • スリナム
  • シリア・アラブ共和国
  • ベネズエラ
  • ジンバブエ

 

IFRS解釈指針委員会の重要なアジェンダ決定

本ニュースレターの付録で詳述されているように、IFRS解釈指針委員会は、特定の取引に対する適切な会計処理に関するガイダンスを提供する多くのアジェンダ決定を公表した。より広範に適用される可能性のある取り扱われた問題のいくつかは、以下で説明する。

 

サービスとしてのソフトウェア契約

委員会は、クラウド技術の特定の部分であるサービスとしてのソフトウェア(SaaS)に関する契約を、どのように顧客が会計処理するかを明確にする2つのアジェンダ決定(2019年3月、2021年3月)を公表した。

2019年のアジェンダ決定は*14は、将来にサプライヤーのアプリケーション・ソフトウェアへのアクセスする権利のみを顧客に与えるSaaS契約は、(ソフトウェアのリース又はソフトウェア無形資産の取得ではなく)サービス契約であると結論付けている。

2021年のアジェンダ決定*15は、さらに、サービス契約と判断されたSaaS契約において、サプライヤーのアプリケーション・ソフトウェアのコンフィギュレーション又はカスタマイゼーションのコストを顧客がどのように会計処理すべきかについて取り扱っている。結論は以下のとおりである。

  • 多くの場合、コンフィギュレーション及びカスタマイゼーションのコストは、顧客の無形資産とはならない。代わりに、顧客は、コンフィギュレーション又はカスタマイゼーションのサービスを受け取った時点にコストを費用として認識する。顧客がこれらのサービスを受け取る前にサプライヤーに支払いを行う場合、当該前払額は資産として認識される。
  • 限られた状況では、SaaS契約を実施する際に行われる特定のコンフィギュレーション及びカスタマイゼーションの活動が、別個の資産を生じさせる可能性がある。これは、契約が、例えば、顧客が将来の経済的便益を獲得し当該便益への他者のアクセスを制限するパワーを有する追加のコードを生じさせる場合に当てはまる可能性がある。追加のコードが「識別可能」であり、IAS第38号「無形資産」の認識要件を満たしている場合、顧客は無形資産を認識する。
  • コンフィギュレーション及びカスタマイゼーションの活動が無形資産を生じさせない場合、アプリケーション・ソフトウェアのサプライヤー(又はその外注業者)によってコンフィギュレーション又はカスタマイゼーションのサービスが実行され、受け取ったサービスがサプライヤーのアプリケーション・ソフトウェアへのアクセスを受ける権利とは別個のものではない場合、顧客はSaaS契約の期間にわたり当該コストを費用として認識する。その代わりに、第三者のサプライヤーがコンフィギュレーション又はカスタマイゼーションのサービスを実行する場合、第三者のサプライヤーがアプリケーション・ソフトウェアをコンフィギュレーション又はカスタマイゼーションする時点で、顧客は当該コストを費用として認識する。

アジェンダ決定の結論は、クラウド・コンピューティング契約に関する現在の会計の実務を変える可能性がある。すべてのSaaS契約は固有のものである。SaaS契約を実施する際に発生するコンフィギュレーション及びカスタマイゼーションのコストの適切な会計処理の分析と決定は、重要な判断が要求され、多くの場合、契約の特定のテクニカルな側面を深く理解する必要がある。そのためには、例えば財務部門及びIT部門などの、さまざまな部門間で協力し、すべての情報が検討されるようにすることが要求されるかもしれない。

会計方針の変更が委員会の結論を適用するために要求される場合、企業は、IAS第8号を適用して当該変更を会計処理しなければならない。例えば、企業は、無形資産としてこれまで認識されていたコストの認識を中止し、比較対象期間を修正再表示することが要求される場合がある。

デロイトの A CloserLook「サービスとしてのソフトウェア契約-デジタル・トランスフォーメーション時代の結果として生じる会計処理の変更」*16は、SaaS契約の異なるバリエーション、会計処理、実務上の適用及び即時の会計処理を超えた考慮事項について詳しく解説している。

 

棚卸資産の販売に要するコスト

2021年6月、委員会は棚卸資産の正味実現可能価額を決定する際に、企業に「販売に要するコストの見積額」として含まれるコストについてのアジェンダ決定を公表した。特に、アジェンダ決定では、企業に販売に要するすべてのコストを含めるのか、又は販売に対して増分的コストのみを含めるのかを取り扱っている。

委員会は、販売に要するコストを見積るIAS第2号「棚卸資産」の要求事項は、そのようなコストを増分的なものに限定しないと結論付けた。IAS第2号を適用して、企業は、通常の過程で販売を行うために必要なコストを見積る。委員会は、企業は、どのコストが販売を行うために必要なのかを決定するために、棚卸資産の性質を含む具体的な事実と状況を考慮して、判断を使用すると考えた。

 

サプライヤー・ファイナンス契約

2020年12月委員会は、サプライヤー・ファイナンス(又は「リバース・ファクタリング」)契約と、財務状態計算書、キャッシュ・フロー計算書及び財務諸表の注記にこれらをどのように表示するかを取り扱うアジェンダ決定*17を公表した。

財政状態計算書において、企業はIAS第1号の要求事項を適用して、リバース・ファクタリング契約の一部である負債をどのように表示するかを決定する。負債が買掛金と類似した性質及び機能を有している場合(例えば、企業の正常営業循環期間において使用される運転資本の一部である場合)にのみ、企業は、そのような負債を買掛金として表示する。これらの負債の大きさ、性質又は機能により、区分表示が企業の財政状態の理解に目的適合性がある場合、企業はそのような負債を別個の表示科目として表示する。この決定のために、企業は、当該契約がなければ提供されないような追加の担保が当該契約の一部として提供されるかどうか、又は当該契約の一部である負債の契約条件が、当該契約の一部ではない企業の買掛金の契約条件とどの程度異なっているかなどの要因を含む、これらの負債の金額、性質及び時期を考慮する。

企業は、リバース・ファクタリング契約の一部である(又は一部となる)負債の認識の中止を行うべきかどうか及び認識の中止をいつ行うべきかを、IFRS第9号における認識の中止の要求事項を適用して評価する。サプライヤーに対する買掛金の認識の中止を行い、金融機関に対する新たな金融負債を認識する企業は、その新たな負債の財政状態計算書における表示方法を決定するにあたり、IAS第1号の上記のガイダンスを適用する。

IAS第7号「キャッシュ・フロー計算書」を適用して、企業は、リバース・ファクタリング契約からのキャッシュ・フローが、営業活動からのキャッシュ・フロー又は財務活動のキャッシュ・フローのいずれであるかを決定する。委員会は、関連する負債を企業の主たる収益獲得活動において使用される運転資金の一部である買掛金又はその他の未払金であると企業が考える場合には、企業はキャッシュ・フロー計算書において、当該負債を決済するためのキャッシュ・アウトフローを営業活動から生じたものとして表示すると考えた。これと対照的に、関連する負債が企業の借入を表すため買掛金又はその他の未払金ではないと企業が考える場合には、企業は、当該負債を決済するためのキャッシュ・アウトフローを財務活動から生じたものとして表示し、IAS第7号44A項により要求される財務活動から生じた負債の変動についての開示を提供する。

現金又は現金同等物の使用を必要としない投資取引及び財務取引は、企業のキャッシュ・フロー計算書から除外される。したがって、企業の財務取引において企業にとってのキャッシュ・インフロー又はキャッシュ・アウトフローが発生しない場合(例えば、新しい金融負債の認識を伴う買掛金の認識の中止)には、企業は当該財務活動に関する目的適合性のあるすべての情報を提供する方法で、当該取引を財務諸表の別の箇所で開示する。

IFRS第7号を適用して、企業は、晒されている金融商品から生じるリスクの内容及び程度を財務諸表の利用者が評価することができるような情報を提供することが要求される。委員会は、リバース・ファクタリング契約は流動性リスクを生じさせることが多いと考えた。企業は以下の情報を開示する。

  • 流動性リスクを含む、金融商品から生じるリスクに対するエクスポージャーがどのように生じるのか
  • リスクを管理するための企業の目的、方針及びプロセス
  • 報告期間の末日現在の企業の流動性リスクに対するエクスポージャーに関する要約定量データ(このデータが当該期間中の流動性リスクに対する企業のエクスポージャーを代表していない場合の追加的な情報を含む)
  • リスクの集中

さらに、企業は、財政状態、財務業績及びキャッシュ・フローに対するリバース・ファクタリング契約の影響に関して、追加的な開示を提供するかどうかを決定する際にIAS第1号を適用する。企業は、リバース・ファクタリング契約に関連する負債及びキャッシュ・フローをどのように表示すべきかを評価する際に経営者が行った判断が、財務諸表で認識した金額に対して最も重大な影響を与える判断の中に含まれる場合、当該判断を開示する。さらに、企業は、リバース・ファクタリング契約に関する情報が財務諸表の理解に目的適合性がある範囲で、当該情報を財務諸表において提供する。

 

勤務期間に対する給付の帰属

2021年4月委員会は、特定の確定給付制度に対して企業が給付を帰属させる勤務期間を取り扱うIAS第19号に関するアジェンダ決定*18を公表した。当該制度では、従業員は、所定の退職年齢への到達時に企業に雇用されていることを条件として、当該退職年齢への到達時に退職一時金を受け取る権利を得る。従業員が権利を得る退職給付の金額は、退職年齢前の従業員の企業での勤務の長さに応じて決まり、所定の継続勤務年数で上限となる。

委員会は、退職年齢が62歳で、退職給付の計算が16年間の勤続年数で上限となる例に基づいて、アジェンダ決定における検討を行った。この例では、従業員が46歳より前に入社した場合、46歳よりも前に従業員が提供する勤務は、制度の下での給付を生じさせない。したがって、退職給付を提供する企業の義務は、従業員が46歳に到達したときから提供される従業員の勤務に対してのみ発生する。従業員が46歳以後に企業に入社する場合には、従業員が提供するどの勤務も制度の下での給付を生じさせる。

委員会の検討は、IAS第19号の一部である設例で示されている結果と一致しているため、委員会は、IAS第19号の原則及び要求事項は、退職給付が帰属する期間を企業が決定するための適切な基礎を提供していると結論付けた。

 

その他の焦点となる領域

IBOR改革

2020年に、フェーズ1の修正「金利指標改革」(IFRS第9号、IAS第39号、IFRS第7号の修正)が発行した。本修正は、金利指標改革の結果としてヘッジ対象又はヘッジ手段が修正される前の不確実性のある期間中に、影響を受けるヘッジに対してヘッジ会計を継続できるように、特定のヘッジ会計の要求事項を変更した。

フェーズ2の修正「金利指標改革」(IFRS第9号、IAS第39号、IFRS第7号、IFRS第4号及びIFRS第16号の修正)(以下の付録で概説)は、2021年1月1日以後に開始する事業年度に適用することが強制される。本修正を適用することにより、企業は、財務諸表の利用者に有用な情報を提供しないことになる会計上の影響を生じることなく、銀行間金利(IBOR)から代替的な指標金利(「リスク・フリー・レート」又はRFRsとも呼ばれる)への移行の影響を反映することが可能になる。

デロイトのIFRS in Focus「IASBが金利指標改革-フェーズ2を公表:IFRS第9号、IAS第39号、IFRS第7号、IFRS第4号及びIFRS第16号の修正」*19は、フェーズ2の修正についての詳細を説明している。

デロイトのA Closer Look 「金利指標改革 フェーズ1(IFRS第9号及びIAS第39号の修正)及びフェーズ2(IFRS第9号、IAS第39号、IFRS第4号及びIFRS第16号の修正)を適用する際の金融商品の開示」*20は、金利指標改革の修正についての開示要求について解説している。

 

キャッシュ・フロー計算書

キャッシュ・フローの適切な報告は、投資者及び規制当局にとって引き続き焦点となる領域である。キャッシュ・フローの営業、投資又は財務としての分類に対する注意、及びキャッシュ・インフロー及びアウトフローの正しくないネッティングを避けることを含む、キャッシュ・フロー計算書の作成に適用される基本原則は引き続き重要である。しかし、おそらくより微妙な考慮事項も重要である。

 

「現金及び現金同等物」の定義の適用

基本的なレベルでは、キャッシュ・フローの計算書の機能は、「現金及び現金同等物」の期首残高と期末残高の間の変動を表示することである。したがって、どの商品が当該残高の一部を形成するかの決定は重要である。

特に、銀行借入金(当座貸越を含む)、短期投資(満期が取得日から3か月以内の投資のみが、通常は現金同等物として適格となるというIAS第7号の規定に留意)、又はマネー・マーケット・ファンドへの投資が、現金同等物の一部を形成していると言えるかどうかを判断する際には注意が必要である。

現金及び現金同等物の内訳も開示されており、利用者はこの重要な残高の構成を把握することができる。

 

財務活動から生じた負債の調整表

財務活動から生じた負債の変動(キャッシュ・フローから生じた変動と非資金変動の両方)を開示する要求事項は、特に、記載されている特定の要求事項を満たさない可能性があるこれまでの任意の開示が引き続き提供されている場合、引き続き精査の対象となる。

IFRS解釈指針委員会による2019年9月のアジェンダ決定は、この要求事項の適用に関する追加のガイダンスを提供し、特に「財務活動から生じた負債」と考えられる残高を明確に識別し、期首残高と期末残高との間の調整表を表示する際の不適切な集約を避ける必要性を示した。

 

開示と首尾一貫性

年次報告書の他の要素と同様に、明確な開示と首尾一貫性(キャッシュ・フロー計算書自体と他の場所で報告される情報の両方)は、キャッシュ・フロー計算書の重要な特徴である。例えば、キャッシュ・フロー計算書内の不整合(例えば、一部の支払利息は営業キャッシュ・フローに分類され、他は財務活動として分類される)は避け、使用するキャッシュ・フローの記述は、明確かつ財務諸表の他の場所の関連する用語と首尾一貫していなければならない。

経済状況の進展によって影響を受ける可能性のある特定の開示要求は、「企業グループが利用できない重大な現金及び現金同等物の残高の金額」(しばしば「制限付き現金」と呼ばれる)である。特定の目的のために「エスクロー」に保有する金額と同様に、これは、いくつかの法域で存在する交換の制限のために親会社に簡単に送金できない子会社が保有する現金にも関連性がある可能性がある。

 

IFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」

IFRS第15号は数年前から企業が適用しているが、規制当局は、この領域の執行活動において引き続き重大な発見事項を有している。これらの発見事項は、多くの場合、不十分な開示に関連している。

企業は、IFRS第15号の適用に際して行われた重要な会計上の判断を開示することが要求されることに留意が必要である。これには、次の決定に対する判断が含まれる。

  • 履行義務の充足の時期(例えば、一時点で充足される履行義務について、顧客が約束された財又はサービスの支配をいつ獲得するかを評価する際に行われる判断)
  • 取引価格及び履行義務への配分額

さらに、企業は、顧客契約に存在する変動対価の種類の明確な記述、及び変動対価の見積りに使用する方法の開示、及び変動対価の制限が見積金額にどのように適用されたかを提供しなければならない。

重大な履行義務からの収益に関する会計方針の開示は、明確かつ企業固有でなければならない。開示は、これが一時点で充足されるか又は一定の期間にわたり充足されるか、そして収益が「一時点で充足される」履行義務について認識される正確な時点を含む、収益認識の時期を説明しなければならない。開示には、「一定の期間にわたり充足される」履行義務がどの程度充足されたかを測定するために使用される方法、特に方法の記述、実務においてどのように適用されたか及びなぜこの方法が財又はサービスの移転を忠実な描写につながるのかを含めなければならない。重大な支払条件、約束された財及びサービスの内容、及び残存履行義務に関する情報も開示することが要求される。

企業は、顧客との取引時に本人又は代理人として行動していたかどうかどのように結論づけたかを記述することが要求される。関連する判断は、明確に説明する必要がある。

さらに、企業は、当該残高の会計方針、残高の内容の説明、残高の大幅な変動、履行義務の充足時期が支払いの通常の時期とどのように関連するのかを含む、重要性のある契約残高に関する開示を提供する必要がある。

契約の獲得又は履行のためのコストに関しては、企業は、特定のコストがIFRS第15号の範囲に含まれ、他の基準(例えばIAS第16号「有形固定資産」)ではないと結論付けるための基礎を説明し、資産化されたコストの期末残高の内訳をカテゴリ別に開示することが要求されることに留意する必要がある。

企業は、第三者から回収可能な請求の会計処理も記述しなければならない(例えば、IAS第37号「引当金、偶発負債及び偶発資産」が適用されるかどうか)。

分解された収益の開示は、年次報告書及び財務諸表の他の情報と整合していなければならない。

 

IFRS第16号「リース」

規制当局は、リースに関する会計方針は企業固有であり、セール・アンド・リースバック取引、リース・インセンティブ、IFRS第16号の対象外の項目及び非リース構成部分に関する会計方針を含めなければならないことを作成者にリマインドしている。貸手は、リースを営業又は財務として分類する基礎を説明することを忘れてはならない。

リース契約を有する企業は、以下の点を考慮しなければならない。

  • 重大な変動リース料の特徴(売上又はインフレに連動する特徴など)を有する借手は、それらの特徴の内容及び潜在的な会計上の影響を説明しなければならない。
  • リース契約の特徴及びリース期間を決定するために行使する判断を開示しなければならない。
  • リースの延長オプションを行使しない又は終了オプションを行使するという合理的な確実性が重要な判断として識別された場合、認識されていない潜在的な将来のキャッシュ・アウトフローに関して要求される定量的及び定性的な開示を提供しなければならない。
  • リース負債の満期分析は、リース期間の評価と一貫して十分に分解しなければならず、数年を構成する期間帯を含んではならない。
  • リース負債の変動は、キャッシュ・フロー計算書又は金融費用の開示と整合していなければならない。

 

税源浸食と利益移転に関するOECD/G20の包摂的枠組み

2021年10月、税源侵食と利益移転(BEPS)に関するOECD/G20包摂的枠組み(IF)は、経済のデジタル化により生じた税の課題に対処するための2本柱の解決策を提示する声明*21を公表した。2本柱の解決策は、多国籍企業が最低税率15%の対象となることを保証し、最大かつ最も収益性の高い多国籍企業の利益を世界の国々に再配分する。

第1の柱は、世界売上高が200億ユーロを超え利益率が10%を超える多国籍企業の課税を目的とし、参加国は、実施した可能性のあるデジタル・サービス税(DST)を廃止することが要求され、2022年と2023年に支払われるDSTの一部に対して(複雑な式の下で)税額控除する。第1の柱は、その予想される式のためIAS第12号の対象になる税金とは考えられていない。

第2の柱は、より広範な適用性(7億5,000万ユーロの売上高を有する企業を対象とする)を有することが期待されており、大規模な多国籍グループが事業を行う各国で最低レベルの税金(15%)を確実に支払うことを目的としている。第2の柱は、(i)所得合算ルール(IIR)と(ii)軽課税支払ルール(UPR)いう2つの部分で構成されている。大まかに言えば、IIRでは、特定の法域における多国籍企業の実効税率(ETR)が15%未満の場合、その差額を補うためのトップアップ税が、親会社の税務上の目的での所在国(ETRが低い法域と低い法域ではない場合がある)においてグループの親会社に課せられる。UPRは、バックストップ・ルールと呼ばれる。これは、IIRが適用されていない場合にのみ適用され、定型的なアプローチに基づいてグループ内の他の企業にトップアップを配分する。第2柱の金額は、(トップアップ税を計算する式に基づいて)グループ財務諸表の目的でIAS第12号の範囲に含まれると予想される。

2021年11月4日現在、137の加盟国が本声明に同意した。次のステップは、2021年後半又は2022年初めにおける、第2の柱を実施するためのモデル・ルールの公表である*22。第1の柱を実施する多国間条約は、2022年2月までに最終決定される予定である。本声明は、迅速な実施が国際税務構造を安定させ、貿易紛争の損害を回避するための鍵であることを示している。包摂的枠組みの参加国は、新しい国際税ルールを発効させる、2023年の野心的な期限を設定した。

IAS第10号は、一般的に開示が要求される修正を要しない後発事象の例として、「報告期間後に制定又は発表された税率又は税法の変更で、当期税金及び繰延税金の資産・負債に重大な影響を及ぼすもの」を挙げている。したがって、財務諸表の発行の承認日より前に第2の柱を実施するモデル・ルールが公表された場合、企業は、この公表物が、該当する政府が当該ルールを実施するというコミットメントのレベルを考慮して、企業が事業を行う法域の税法の変更の発表を構成するかどうかを評価する。この場合、当該ルールが当期税金及び繰延税金資産・負債に重大な影響を及ぼす可能性があると企業が結論付けた場合、その事実を財務諸表に開示し、その影響の見積り又はそのような見積りを行うことが不可能である旨の記述を開示する。

特別目的買収会社(SPAC)

多くの法域において、特別目的買収会社(SPAC)は、資本調達を目指す民間企業向けの伝統的な新規株式公開(IPO)の代替である。SPACの構造とSPACと民間企業との取引は異なっているが、通常は財務報告の問題を生じる多くの特徴を共有しており、慎重な検討が要求される。

SPACは、通常、IPOを介して現金を調達する唯一の目的のために、経営者チーム又はスポンサーによって形成された「シェル」企業である。調達した現金(及び/又はSPAC自身の株式)は、「ターゲット」企業の買収資金に使用される。

SPACの資本構造は異なる場合があるが、多くの場合、以下の項目が含まれる。

  • 会社の設立に関して経営者チーム又はスポンサーに発行された「クラスB」又は「創業者」株式。
  • 「クラスA」の株式及びワラントは、IPO時に一般株主に発行される追加の株式を購入する(通常、IPOの引受者は、株式とワラントの一部からなる「ユニット」を提供される)。「クラスA」の株式及びワラントは、公開市場(別々又は結合されたユニット)で取引される。
  • IPOとは別に、経営者チーム又はスポンサーが購入した「クラスA」株式を取得するワラント。

通常のSPACのライフサイクルは、「取得前フェーズ」、その後にターゲット企業を買収し(割り当てられた期間中に達成されると仮定)、その後にSPACが「通常」の公開の相場のあるグループの親会社となる取得後フェーズとなると要約されるであろう。財務報告の論点は、これらの各フェーズにまたがる可能性があるが、その多くは、これらの3つステージのいずれかに固有のものである。

 

取得前ステージ

取得前ステージでは、企業はクラスA株式、クラスB株式及びワラントの分類を決定する。これらすべてが、IAS第32号「金融商品:表示」を適用して、その特徴により、株式又は金融負債である可能性がある。クラスB株式について、企業は、それらがIAS第32号の範囲に含まれるか、IFRS第2号 が適用されるかどうかを判断する必要がある。

 

取得ステージ

このステージでの主な会計上の検討事項は、IFRS第3号「企業結合」を適用する取得企業を識別することにある。企業は、会計処理が取得の法的形態に従うかどうか、又は実質的に逆取得が発生したかどうかを判断しなければならない。取得企業が識別されると、企業は、取引が企業結合として会計処理するべきか資産取得として会計処理するべきかを検討する。

多くの場合、SPACは、この取引において会計上の被取得企業として識別され、その結果(SPAC自体が事業の定義を満たしていない場合)、本取引をターゲット企業による「資本再編」又は「逆資産取得」として会計処理する。

 

取得後ステージ

SPACが親会社となるグループは、多くの意味で「通常の」公開の相場のあるグループになる。しかし、SPACの過去から生じる論点は、取得後もグループの報告に影響を与え続ける可能性がある。

デロイトのA Closer Look「特別目的買収会社の財務報告に関する検討事項」*23は、SPACの会計上の影響について詳しく記述し、また、SPAC取引を検討している企業に関連性のあるその他の論点についても触れている。

 

付録

2021年12月31日に終了する事業年度に強制適用される新しい及び改訂されたIFRS基準及び解釈指針

IFRS第16号の修正 「2021年6月30日より後のCovid-19に関連した賃料減免」を含む「Covid-19に関連した賃料減免」

IFRS第16号の修正は、特定の要件を満たすCOVID-19に関連した賃料減免がリースの条件変更であるかどうかを借手が評価することを免除し、(例えば、リース料の免除を変動リース料として会計処理することにより)IFRS第16号に従ったリースの条件変更ではないかのように会計処理することを可能にする実務上の便法を借手に提供する。

当初に公表された修正は、当初の期限が2021年6月30日以前に到来するリース料に関連する賃料減免にのみ適用される。2021年3月、IASBは、期限が2022年6月30日以前に到来するリース料についての賃料減免をカバーするために救済措置を延長した。

デロイトのIFRS in Focus「IASBが金利指標改革 フェーズ2を公表:IFRS第9号、IAS第39号、IFRS第7号、IFRS第4号及びIFRS第16号の修正」は、IFRS第9号、IAS第39号、IFRS第7号、IFRS第4号、IFRS第16号の修正「金利指標改革(フェーズ2)」の詳細を提供している。

 

IFRS第9号、IAS第39号、IFRS第7号、IFRS第4号及びIFRS第16号の修正 「金利指標改革(フェーズ2)」

IFRS第9号、IAS第39号、IFRS第7号、IFRS第4号、IFRS第16号の修正は、財務諸表の利用者に有用な情報を提供しないことになる会計上の影響を生じることなく、銀行間金利(IBOR)から代替的な指標金利への移行の影響を反映することが可能になることを目的としている。

このために、本修正は以下のとおりである。

  • 金利指標改革の結果として、契約上のキャッシュ・フローを決定する基礎を変更する金融資産と金融負債をどのように会計処理するかについての具体的なガイダンスを提供している。これには、特定の状況において、このような変更が金融商品の実効金利の変更を通じて将来的に向かって会計処理することを要求する実務上の便法が含まれる。同様の実務上の便法が、借手の財務諸表のリース負債にも適用される。
  • IAS第39号「金融商品:認識及び測定」とIFRS第9号の双方の既存の要求事項に例外を導入し、金利指標改革によって要求される変更を反映するために必要となるヘッジ会計の関係の正式な指定及び文書化の変更がヘッジ会計の中止又は新しいヘッジ関係の指定とならないようにする。
  • 金利指標改革から生じるリスクの性質及び程度、企業がそれらのリスクをどのように管理しているか、金利指標から代替的な指標金利への移行の完了における進捗状況、及び当該移行をどのように管理しているかを、利用者が理解できるようにする開示を企業が提供することを要求している。

IAS第39号をまだ適用している保険会社が、IFRS第9号において今後要求される方法と整合的にIBOR改革の影響を会計処理することを確実にするために、結果的な修正がIFRS第4号「保険契約」に対して行われる。本修正は固定の終了日を有しておらず、その代わりに、金利指標改革の影響が金融システムを通じて機能するため、自然と目的適合性を失うように設計されている。

デロイトのIFRS in Focus「IASBが金利指標改革 フェーズ2を公表:IFRS第9号、IAS第39号、IFRS第7号、IFRS第4号及びIFRS第16号の修正」は、IFRS第9号、IAS第39号、IFRS第7号、IFRS第4号、IFRS第16号の修正「金利指標改革(フェーズ2)」の詳細を提供している。

 

2021年のIFRS解釈委員会のアジェンダ決定

IFRS基準の正式な解釈を開発し、IASBが基準を修正することを提案する活動を行うとともに、委員会は、アジェンダに追加しないことを決定した論点の要約を、多くの場合提出された会計上の論点の議論とともに、定期的に公表している。

2020年8月、IFRS財団の評議員会は、更新版IFRS財団デュー・プロセス・ハンドブックを公表し、IFRS解釈指針委員会が公表したアジェンダ決定の説明的資料が、IFRS基準自体から権限を得ており、したがって、アジェンダ決定が会計方針の変更をもたらす場合に適用される遡及適用について、IAS第8号の一般的な要求事項により適用が要求されることを確立した。

IFRS財団のデュー・プロセス・ハンドブック及び各IFRIC Updateはまた、企業がその決定を行い、必要な会計方針の変更を決定し実施するための十分な時間(例えば、新たな情報の入手又はそのシステムの適応)を与えられることが期待されることを指摘している。会計方針の変更を行うために十分な時間がどのぐらいなのであるかの決定は、企業の具体的な事実及び状況に応じて決まる判断の問題である。それでも、企業は、どのような変更も適時に実施し、重要性がある場合には、当該変更に関連した開示がIFRS基準で要求されるかどうかを検討することが期待される。

 

最近、以下のアジェンダ決定が委員会によって公表された。*26

2020年12月

IFRIC Update

サプライチェーン・ファイナンス契約 -リバース・ファクタリング

2021年3月

IFRIC Update

IAS第38号-クラウド・コンピューティング契約におけるコンフィギュレーション又はカスタマイゼーションのコスト

2021年4月

IFRIC Update

IAS第19号-給付の勤務期間への帰属

IFRS第9号-実質金利に起因するキャッシュ・フローの変動可能性のヘッジ

2021年6月

IFRIC Update

IAS第2号-棚卸資産の売却に要するコスト

IAS第10号-企業がもはや継続企業ではない場合の財務諸表の作成

2021年9月

IFRIC Update

IFRS第16号-リース料に対する還付されない付加価値税

IAS第32号-当初認識時に金融負債に分類されるワラントの会計処理

2021年11月

IFRIC Update

IFRS第16号-風力発電基地の使用から生じる経済的便益

 

2021年12月31日に終了する事業年度に早期適用可能な新しい及び改訂された基準

IAS第8号30項は、新しい及び改訂されたIFRS基準が公表されたが未発効の場合、その潜在的な影響を検討し、開示することを要求している。上記のように、これらの開示の十分性は、現在の規制上の焦点となっている領域である。以下のリストは、2021年12月31日時点のものを反映している。当該日以後、財務諸表が発行される前にIASBから公表された新しい及び改訂されたIFRS基準の適用による潜在的な影響についても検討し、開示しなければならない。下表に記載の新しい基準及び修正基準についての解説は、デロイトトーマツのウェブサイト「IFRS基準別の解説」を参照いただきたい。(https://www2.deloitte.com/jp/ja/pages/finance/articles/ifrs/ifrs-kaisetsu-1.html

IFRS 発効日-以下に開始する事業年度

新しい基準

「IFRS第17号の修正」及び「IFRS第17号とIFRS第9号の適用開始―比較情報」を含むIFRS第17号「保険契約」

2023年1月1日

修正基準

IFRS第10号「連結財務諸表」及び IAS第28号「関連会社及び共同支配企業に対する投資」の修正-「投資者とその関連会社又は共同支配企業間での資産の売却又は拠出」

IASBは2015年12月にこれらの修正の発効日の無期限延期を決定した。早期適用は認められる。

IFRS第3号の修正―「概念フレームワークへの参照」

2022年1月1日

IAS第16号の修正―「有形固定資産 ― 意図した使用の前の収入」

2022年1月1日

IAS第37号の修正―「不利な契約-契約履行のコスト」

2022年1月1日

IFRS第1号「国際財務報告基準の初度適用」、IFRS第9号、IFRS第16号及びIAS第41号「農業」の修正―「IFRS基準の年次改善2018-2020」

2022年1月1日、設例に関するものに限定されるため発効日が記載されていないIFRS第16号の修正を除く。

IAS第1号の修正―「負債の流動又は非流動への分類 - 発効日の延期」を含む「負債の流動又は非流動への分類」

2023年1月1日

IAS第12号の修正―「単一の取引から生じた資産及び負債に係る繰延税金」

2023年1月1日

IAS第1号及びIFRS実務記述書第2号 の修正 ―「会計方針の開示」

2023年1月1日

IAS第8号の修正―「会計上の見積りの定義」

2023年1月1日

 

以 上

 

*1 FSBのウェブサイトを参照いただきたい。(https://www.fsb-tcfd.org/publications/
*2 本誌2022年1月号 Purpose-driven Business Reporting in Focus「IFRS財団は、グローバルなサステナビリティ基準を設定するための新しい審議会を創設する」を参照いただきたい。
*3 本誌2021年2月号 A Closer Look「気候変動に関するパリ協定に沿ったコーポレート・レポーティングに対する投資家の需要」を参照いただきたい。
*4 IASBのウェブサイトを参照いただきたい。(https://cdn.ifrs.org/content/dam/ifrs/news/2019/november/in-brief-climate-change-nick-anderson.pdf
*5 IASBのウェブサイトを参照いただきたい。(https://cdn.ifrs.org/content/dam/ifrs/supporting-implementation/documents/effects-of-climate-related-matters-on-financial-statements.pdf
*6 内容については、デロイトトーマツのウェブサイトを参照いただきたい。(https://www2.deloitte.com/jp/ja/pages/finance/articles/ifrs/ifrs-covid19.html
*7 ESMAのウェブサイトを参照いただきたい。(https://www.esma.europa.eu/sites/default/files/library/esma32-63-1186_public_statement_on_the_european_common_enforcement_priorities_2021.pdf
*8 本教育的資料の日本語訳が、ASBJのウェブサイトで提供されている。(https://www.asb.or.jp/jp/ifrs/press_release/y2021/2021-0113.html
*9 本誌2021年4月号 IFRS in Focus「IFRS財団は、継続企業の評価に関連するIFRS基準の要求事項に関する教育的資料を公表」を参照いただきたい。
*10 ESMAのウェブサイトを参照いただきたい。(https://www.esma.europa.eu/press-news/esma-news/esma-sets-out-expectations-regarding-application-ias-12
*11 本誌2017年7月号 IFRS in Focus「主要な判断と見積りの開示にスポットライトを当てる」を参照いただきたい。
*12 IOSCOのウェブサイトを参照いただきたい。(https://www.iosco.org/library/pubdocs/pdf/IOSCOPD532.pdf
*13 ESMAのウェブサイトを参照いただきたい。(https://www.esma.europa.eu/sites/default/files/library/esma32-51-370_qas_on_esma_guidelines_on_apms.pdf
*14 このアジェンダ決定を含む2019年3月のIFRIC Updateの日本語訳が、ASBJのウェブサイトで提供されている。(https://www.asb.or.jp/jp/wp-content/uploads/ifric_201903.pdf
*15 このアジェンダ決定を含む2021年3月のIFRIC Updateの日本語訳が、ASBJのウェブサイトで提供されている。(https://www.asb.or.jp/jp/wp-content/uploads/ifric_202103.pdf
*16 本誌2021年9月号 A CloserLook「サービスとしてのソフトウェア契約-デジタル・トランスフォーメーション時代の結果として生じる会計処理の変更」を参照いただきたい。
*17 このアジェンダ決定を含む2020年12月のIFRIC Updateの日本語訳が、ASBJのウェブサイトで提供されている。(https://www.asb.or.jp/jp/wp-content/uploads/ifric_202012.pdf
*18 このアジェンダ決定を含む2021年4月のIFRIC Updateの日本語訳が、ASBJのウェブサイトで提供されている。(https://www.asb.or.jp/jp/wp-content/uploads/ifric_202104.pdf
*19 本誌2020年12月号 IFRS in Focus「IASBが金利指標改革-フェーズ2を公表:IFRS第9号、IAS第39号、IFRS第7号、IFRS第4号及びIFRS第16号の修正」を参照いただきたい。
*20 本誌2021年3月号 A Closer Look 「金利指標改革 フェーズ1(IFRS第9号及びIAS第39号の修正)及びフェーズ2(IFRS第9号、IAS第39号、IFRS第4号及びIFRS第16号の修正)を適用する際の金融商品の開示」を参照いただきたい。
*21 OECDのウェブサイトを参照いただきたい。(https://www.oecd.org/tax/beps/statement-on-a-two-pillar-solution-to-address-the-tax-challenges-arising-from-the-digitalisation-of-the-economy-october-2021.pdf
*22 (訳者注)2021年12月20日にOECDは第2の柱についてのモデル・ルールを公表した。(https://www.oecd.org/tax/beps/tax-challenges-arising-from-the-digitalisation-of-the-economy-global-anti-base-erosion-model-rules-pillar-two.htm
*23 本誌2021年8月号 A Closer Look「特別目的買収会社の財務報告に関する検討事項」を参照いただきたい。
*24 本誌2020年7月号 IFRS in Focus「IASBが、COVID-19に関連した賃料減免(rent concessions)について、IFRS第16号の修正を最終化」を参照いただきたい。
*25 本誌2021年5月号 IFRS in Focus「IASBは、COVID-19に関連した賃料減免に関する実務上の救済措置を延長するIFRS第16号の修正を公表」を参照いただきたい。
*26 一連のアジェンダ決定については、ASBJのウェブサイトの「IFRS関連情報」の「IFRS-IC会議」のページ(https://www.asb.or.jp/jp/ifrs/ifric.html)を参照いただきたい。

本記事に関する留意事項

本記事は皆様への情報提供として一般的な情報を掲載するのみであり、その性質上、特定の個人や事業体に具体的に適用される個別の事情に対応するものではありません。また、本記事の作成または発行後に、関連する制度その他の適用の前提となる状況について、変動を生じる可能性もあります。個別の事案に適用するためには、当該時点で有効とされる内容により結論等を異にする可能性があることをご留意いただき、本記事の記載のみに依拠して意思決定・行動をされることなく、適用に関する具体的事案をもとに適切な専門家にご相談ください。

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