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地域企業の経営者と地域企業へ転職する首都圏の経営人材に関する考察~アンケートから読み解く伴走型支援サービスの意義~

デロイト トーマツ人材機構シリーズ 第2回

地域企業が首都圏の経営人材を採用すること、また首都圏の経営人材が地域企業に転職することは、様々な理由から、容易なことではありません。したがって、両者に伴走し、転職を仲介することがデロイト トーマツのサービスであり、伴走型支援サービスと呼んでいます。本稿では、当社と同様の伴走型支援サービスを受けた経営者や転職者のアンケート結果を基に、それぞれの意識の変化、行動の変容について考察します。

I.はじめに

地域企業 が首都圏の経営人材2 を採用すること、また、首都圏の経営人材が地域企業に転職することは、様々な理由から、容易なことではない。したがって、両者に伴走し、転職を仲介することが当社のサービスであり、伴走型支援サービス と呼んでいる。その目的は、両者のWin-Winのマッチングを実現することであるが、真に目指していることは、首都圏の経営人材が、人材不足で悩む地域企業の中核的なポジションに転職し活躍することで、企業が変革し、生産性が向上し、付加価値が増大し、地方経済が活性化され、日本経済全体の底上げに資することである。ゆえに、当社の人材紹介事業は、経済活性化事業の一環という認識である。

私は、これまで数百名を超える経営人材の地域企業への転職に関わってきたが、転職者が着任した後、採用側の経営者と転職者について、それぞれに意識の変化は生まれたのか、行動の変容は起きたのか、そもそも満足しているのか、企業の生産性は向上しているのか、などと自問することが常である。本稿では、こうした事項に関連して、前職・株式会社日本人材機構(2020年6月30日で事業終了)で私が創生事業本部長として実施したアンケート を参考にしながら、当社と同様の伴走型支援サービスを受けた経営者や転職者の意識の変化、行動の変容について考察する。

当該アンケートは「とてもそう思う(5点)」から「まったくそう思わない(1点)」までの五件法 で、質問の数は、経営者が63問、転職者が80問、面談形式で実施した。面談形式とした理由は、回答後にヒアリングを行うことで両者から発せられるコメントが、アンケート結果の評価に役立つ、また、今後の伴走型支援サービスの向上につながる、と考えたからである。

II.アンケートから読み解く経営者や転職者の意識の変化・行動の変容

1.2つのデータセット

ここでは、回収された2つのデータセットについて参照し、考察する。1つ目は,経営者のデータ(N=54)であり、平均在職年数が10.4年、平均すると4代目の社長である。2つ目は、転職者のデータ(N=71)であり、平均年齢は50.0歳、平均年収は856万円、平均で、入社から約619.1日が経過していた。

 

2.経営者のデータ

伴走型支援サービスを受けた経営者は、転職者を好意的に受け入れ、転職者の採用を肯定的に評価している

経営者データの記述統計(紹介事例)
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経営者の記述統計 では、質問ごとの平均点が4点を超えた項目は以下の通りであった。「k_12自分の仕事を人に任せるようになった」(4.08)、「k_16外部人材を中途採用することも悪くないと考えるようになった」(4.02)、「k_26総じていえば、今回の中途採用は自分に良い影響を与えている」(4.37)、「k_63総じていえば、今回の中途採用は会社に良い影響を与えている」(4.42)。

こうした回答結果を踏まえると、経営者は、転職者を好意的に受け入れ、転職者の採用を肯定的に評価していると判断できる。また、転職者の存在が、会社だけではなく、経営者自身にも刺激「k_26」(4.37)となっていることは、両者の間にケミストリーが生まれ、企業の変革が芽吹きつつあるものと評価したい。なお、「k_63」(4.42)は経営者の回答データ中最大値である。続いて、63問中、企業情報等に関する一般的な質問項目を除外した60問の平均値3.49を上回った主な項目は以下の通りである。

「k_14転職者に経営の相談をするようになった」(3.92)、「k_20幹部人材の採用を検討するようになった」(3.83)。これらは先の「k_12」と合わせて、経営者の行動のポジティブな変容を示すものであるが、今まで、経営者が経営について社内の誰にも相談したことがなかったとすれば、劇的な変化である。

「k_11長期の計画を立てることが重要であると考えるようになった」(3.88)、「k_22財務体質を良くしようと考えた」(3.98)。これらは経営者の考えや意識に関する前向きな変化であり、「k_9経営のことを考える時間が増えた」(3.96)が示す通り、たとえば、目の前の事業運営に忙殺されていた経営者に、時間的、精神的余裕が生まれ、また、スキルと経験を備えた経営人材が身近にいることから、経営に向き合う機会が増えたことなどの好影響と評価できる。

「k_28社内に良い意味で緊張感が生まれた」(3.85)、「k_42停滞していた案件が前に進みだした」(3.88)。これらの項目は、外部人材採用による組織への良い影響を見るものであり、“よそ者”である転職者が組織にプラスのインパクトを与え、「k_42」については、転職者が直接担当しているプロジェクトのほか、周りの社員の行動を変えている実態もあるようだ。

 

3.転職者のデータ

伴走型支援サービスを受けた転職者は転職に満足し、やりがいを感じている

転職者データの記述統計(紹介事例)
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次に、転職者の記述統計では、満足度は「43_総じていえば、今回の転職に満足している」(4.14)、やりがいは「20_やりがいを感じている」(4.30)、会社に対する貢献は「80_総じていえば、自分の入社は会社に良い影響を与えている」(4.11)など、転職者が今回の転職に手ごたえを感じ、日々の業務に集中して取り組んでいる姿が目に浮かぶ。

今回のアンケートでは、転職時における転職者の自分の能力や強みに関する自己認識についても質問を行っている。自己認識は転職において、重要なトリガーになるからである。結果は、質問11項目中9項目で4点を超え、「1_大きなビジョンを描く力がある」(4.86)、「10_変革マインドがある」(4.46)、「3_困難な状況で決断する力がある」(4.33)、「7_組織を背負う責任感がある」(4.33)、などが上位となった。地域企業の中核的なポジションに転職することは、首都圏の人材にとっては間違いなくチャレンジであり、転職に際し、最終的な意思決定のドライブになるのが、こうした自己認識である。企業は常に変革し、困難に立ち向かわなければならず、一般に、こうしたマインドセットは経営人材に必須である。

転職者の考えや行動にどのような変容が起きたのかに関する項目について、「25_自分が事業をけん引する必要があると考えるようになった」(4.14)、「26_既存事業のサポートも自分の役割であると考えるようになった」(4.06)などが目を引く。25では自分の役割と責任を自覚し、26では自分のスキルや経験を周囲に提供すること、自分に対して複数の役割を求められていることなど、より高い視座で、気づき始めていると評価できるだろう。

このほか、「15_社長に直接発言して仕事の話ができるようになった」(4.03)、「33_入社前に予想していたよりも仕組みが未整備であった」(4.21)、「35_今の会社でのキーマンが誰かすぐに分かった」(4.28)、が高い傾向を示している。15は社長との距離が近くなり、仕事の醍醐味、やりがいを感じているポジティブな変化である一方、33はネガティブな項目であり、転職者のモチベーションが下がらないよう、フォローアップが必要である。また、35に関しても、社内のキーマンと良いリレーションを構築できているか、継続してウォッチする必要がある。

III.まとめ

今回のアンケートでは、経営者も転職者も総じて、伴走型支援サービスによる、外部人材の採用、地域企業への転職に肯定的であり、それぞれが、時間の経過とともに、前向きな変化を示している、と総括できるだろう。

人材紹介では、求人側と求職者側のミスマッチが生じないよう努めることが肝要である。例えば、当社では、伴走型支援サービスの特徴である採用前の経営者との面談を大切にしている。面談では、経営者が直面する課題を整理し、そのソリューションとして外部人材を採用することを経営者に確認し、人材のスペックを決めていく。一方、転職者に対しては、経営者と議論をした課題や仮説、その結果、転職者に求めることになったソリューション(=ミッション)を伝えることにしている。しかしながら、事前の想定と実際にギャップが生じることはたびたび起こることである。項目「33_入社前に予想していたよりも仕組みが未整備であった」(4.21)はそのことを示している。大切なことは、転職者が、その事実に対して改善思考で向き合うことができるかどうか。伴走型支援サービスによるサポートが重要になる。

最後に、項目「34_入社前に予想していたよりも権限がなかった」(2.52)に触れておきたい。転職者の全回答の平均は3.48なので、項目34(2.52)は平均を下回り、ネガティブな質問に対して、該当しない傾向である。これは、伴走型支援サービスでは、転職者の職務内容と権限や責任等について、事実を伝えること、言いにくいことを曖昧にしないこと、を徹底しており、その結果と評価している。職務権限は経営人材の重要な裁量であり、モチベーションに大きな影響を及ぼす。転職後の早期離職を避けるためにも、注意が必要である。

*1 首都圏の大手企業に対し、地域に根差した中堅・中小企業を意味している。

*2 例えば、企業の中核的ポジションで、経営の意思決定を行う、あるいは意思決定に加わり、組織運営を執行することができる人材。

*3 当社の転職支援サービスは、採用前のプロセスと、転職者が着任した後のフォローアップを特徴としており、伴走型支援サービスと呼んでいる。

*4 2019年12月~20年3月にかけて、東京都立大学・西村孝史准教授監修のもと、株式会社日本人材機構 創生事業本部で実施。

*5 本アンケートは五件法で『5とてもそう思う、4少しそう思う、3どちらともいえない、2あまりそう思わない、1まったくそう思わない』まで5つの選択肢を用意して実施した。

*6 収集したデータの平均や分散、標準偏差などを計算して分布を明らかにし、データの示す傾向や性質を把握する方法

(2021.2.18)

※上記の社名・役職・内容等は、掲載日時点のものとなります。

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