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伴走型支援サービスの事例 後編

デロイト トーマツ人材機構シリーズ 第5回

今回も前回に引き続き、伴走型支援サービスの事例をご紹介します。企業ごとの経営人材獲得に対する考え方・手法等は様々ですが、当社では「企業側および候補者側に伴走する」という視点のもと、「企業支援+経営人材紹介」について一貫したサービス提供を目指しています。

I.はじめに

伴走型支援サービスでは、企業側に関する客観的事実を可能な限り収集・認識し、時として事業性評価に準じた分析を行い、案件端緒から、各局面、以後の方向性について仮説を準備し、企業側および候補者を含む関係者との対話を繰り返しながら、案件を進めることを重視している。「その企業における経営課題は何か?」、「その経営課題解決を人材獲得で実現しようとする際にはどのような人材が必要となるのか?」この視点を常に意識している。

II.伴走型支援サービスの事例

ここで当社の代表的な事例を2事例紹介したい。

事例1.金属リサイクルメーカーにおける経営者の右腕CFO人材の採用

~自身のスキルを社会性の高い事業に発揮~ 

会社属性:近年、重視されているSDGsの理念を、早い段階から経営方針の一つに取り入れながら事業を展開している金属系リサイクル企業。人材のダイバーシティも重視しており、女性の活用にも積極的であり、多様な人材が活躍している。大手電子機器メーカー等の顧客基盤を有し、顧客からの信頼も厚く、堅実に事業を展開中である。地域に根差し、地元でも高く評価される企業である。

経営課題:近年、金属リサイクル業においても環境意識、コンプライアンス遵守の風潮が一層高まる中、社会の環境変化に的確に対応し続けてきた同社は、顧客から圧倒的な信頼を獲得しており、近年、その事業は拡大傾向にある。一方で、この事業拡大の基礎となる経営管理体制の強化が急務となっていた。

経緯:同社は社会の持続的成長において必要不可欠な業種であり、同社の事業拡大は社会にとっても重要であることを意識し続けながら、事業を展開してきた。着実に顧客からの信頼を獲得し、受注が増えていくことにより事業は拡大傾向にあるものの、今後さらに持続的な成長を実現するためには、組織・人材面の強化を図ることが大きな課題となっていた。特に上述の通り、経営者の右腕となる人材が不足していた。現時点において社内には将来の経営を担うに相応しいレベルまでに成長している人材はまだ存在せず、外部から経営人材を招へいすることを検討していた。その際、経営人材の獲得には、その前提となる中期・長期的な経営の在り方・方向性を明確にする必要もあり、当社は経営陣と経営の方向性整理、議論をしながら、必要となる経営人材の人材像を明確化していった。

人材ミッション:社長の右腕として活躍するCFO人材

決定人材:
ポジション:管理部長兼CFO
年収:前職年収水準より20%アップ
プロフィール:40歳代前半男性。金融機関・ベンチャー企業でのCFO等の経験を有する。

決定要因:

【企業側】
今後の企業成長を実現するためには、特に財務領域の経営人材獲得が必須であると考えられる。この点において決定人材は金融機関およびベンチャー企業(小規模企業)等でのCFO経験を有しており、人間性についても、今後の事業拡大・組織強化を図るうえで中核となる人材として相応しいとの判断から採用を決意。

【決定人材側】
自身の力を社会性の高い事業において発揮していくことを希望しており、同社の事業内容はこの点において合致すること、前職では同社から遠隔地域にて勤務をしていたが、社長自ら足を運び、今後の企業経営に係る方向性等について丁寧な説明を受けられたことから入社を決意。

【案件担当者コメント】 

  • 決定人材に対して:決定人材は非常に経験・実績も豊富であり、他社からの勧誘等も多くある中、同社所在地である遠隔地への転居を伴う転職を決定いただいた。事前の十分な対話を通じて認識・理解した経営者・事業内容の魅力等と、これらから導かれる人材要件等を的確に決定人材に伝えることが出来たのではないかと考えている。決定人材が大企業のみならずベンチャー企業での経験を十分に有している点から、中小企業においてもスムーズに戦力として活躍いただくことが可能であると判断されたため、この点も訴求させていただいた。
  • 企業に対して:経験・人間性ともに非常に素晴らしい人材であり、今後の同社の成長においてはなくてはならない人材として高い評価をしていただいた。社長の強いリーダーシップにより、自社内において軋轢が生じる恐れもある中、役員と同レベルの報酬水準でオファーを実施し、スムーズに当該人材の招へいがなされた。社長の強い決断力、リーダーシップが本件において重要な要素であったことは間違いない。

【フォロー・現在】 

  • 社長の右腕として、当初のミッションである財務・経理部門のけん引だけでなく、人事・総務領域も含め管理面全般において活躍されている。同社は組織強化を図る観点から、さらなる人材の獲得・強化等に努めている。

 

事例2.地域を代表する医療機器メーカーによる海外展開責任者人材の獲得

~高い潜在的成長力を持つ企業で自身の経験を活かす~

会社属性:各種医療機器メーカー

経営課題:同社はこれまで大手企業等のOEMメーカーとして医療機器製造等を行っており、その製品の多くが海外に販売されていた。かねてより売上・利益率向上を目指し、自社製品の海外市場への直接販売を実現させたいとの思いを強く持っていたが、海外に直接販売していくための組織・人材が脆弱であった。

経緯:これまで、海外展開人材として語学堪能な若手人材等を採用し、海外展開の促進を図ろうとしたが、いずれも頓挫していた。理由としては組織的活動ができておらず、属人的なプロジェクトになっていたことが挙げられる。今回、当社から1)海外展開プロジェクトの組織化、2)海外展開をけん引できる経営人材の獲得の両者を同時に進行する必要があることを提案し、経営陣とともに上記2点を推進することとなった。 

人材ミッション:同社医療機器製品の海外展開責任者

決定人材:
ポジション :海外展開担当部長
年収 :前職年収より10%アップ
プロフィール :40歳代後半男性。医療機器メーカーにおける海外展開部門の責任者を務める。
中小医療機器メーカーでの勤務経験が長く、マネジメントから各種手続き等含め、幅広い業務に従事できることが強み。

決定要因:

【企業側】
決定人材は、中小医療機器メーカーにおける勤務経験が長く、業務領域も柔軟かつ広く担当いただくことが可能であると判断され、この点を特に高く評価。さらに人物的にも誠実かつ真面目であり、新規に立ち上げる海外展開部門のトップとして相応しい人材であるとの判断から、採用を決意。

【決定人材側】
自身の今までの経験を存分に活かせるポジションであることに加え、同社製品には競争力があると考えられる製品が多く、今後の高い潜在的成長力を認識することが出来たため入社を決意。

【案件担当者コメント】 

  • 決定人材に対して:中小企業については一般的に公開されている情報等も少ないため、候補者に事業内容・魅力等が伝わりにくい側面がある。そのため、本件でも経営陣から今後の経営戦略・海外展開の方針等について可能な限りヒアリングを行い、この内容を丁寧に説明させていただいた。併せて新規部門立上げとなるため、経営陣と候補人材の間に入り、当該部門の展開方針等に関する各種意見交換の場を積極的に持つことに努めた。 
  • 企業側に対して:本件は海外展開戦略とこれを実行する人材要件とが直接かつ密接に結びつく案件であり、特に海外展開戦略の方針・組織作りの方向性等に関しては、積極的かつ十分に会社側と意見交換を実施した。これにより、求める人材要件が明確となったことで、人材探索、選考はスムーズに実施され、比較的スピーディに人材決定・組織立上までを進めることに成功した。

【フォロー・現在】

  • 現在も海外展開プロジェクトの部門長として活躍しており、新規のマーケティング活動から具体的な販売に至るまでを全般的に対応いただいている。海外展開に関してはコロナ禍の影響を一部受けているが、組織も立ち上がり本格的な展開の芽も出つつある状況にある。

 

III.まとめ

前回・今回と計4件の事例を紹介したが、案件ごとに状況・課題・人材要件は様々である。特に経営の中核を担う人材の採用においては、自社の経営の方向性と密接に関係することから、「課題の発見力」と「必要なソリューション策」の双方を考え、そのうえで経営陣と議論していくことが極めて重要になる。経営陣との対話こそが目的実現に寄与する経営人材の採用に繋がるものと考えられる。当社では、この経営陣との対話に基づく伴走型支援サービスを、より多くの地域企業の皆様、そして地域企業での活躍を希望される潜在的な経営人材の方々への提供を通じて、企業の成長・生産性向上・自己実現に貢献したい所存である。

執筆者

デロイト トーマツ人材機構株式会社
アソシエイトディレクター 湯田誠二郎

中小企業支援機関、政府系人材紹介会社を経て現職。主に中堅・中小企業に対する経営診断、コンサルティング、経営人材紹介の経験を有する。全国各地の中小企業経営者との直接面談・対話を数多く経験し、顧客における最適なソリューションの提供を目指す。

 

(2021.5.10)

※上記の社名・役職・内容等は、掲載日時点のものとなります。

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