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地方創生を実現する外部人材活用
デロイト トーマツ人材機構シリーズ 第9回
前回は、後継者不在企業における後継者育成についてお伝えしました。今回、政府が進める地方創生における外部人材の活用について概観し、有効に外部人材を活用するためのポイントについて解説します。本シリーズ第7回で定義した「受援力」とも密接に関連する内容となります。
I.はじめに
地方創生において外部人材の活用は解決策の一つである。しかし、単に外部人材を招へいし、課題解決を任せ、成果物を待つだけでは地方創生は実現しない。本稿では、政府が進める地方創生における外部人材の活用について概観するとともに、地方創生の実現に向けて有効に外部人材を活用するために必要なポイントについて解説する。
II. 地方創生と外部人材
1.地方創生における外部人材活用
(1) 政府の重要施策・地方創生とは
政府の重要施策である地方創生は、第2期「まち・ひと・しごと創生総合戦略」(2020 改訂版)の中で「出生率の低下によって引き起こされる人口の減少に歯止めをかけるとともに、東京圏への人口の過度の集中を是正し、それぞれの地域で住みよい環境を確保して、将来にわたって活力ある日本社会を維持することを目的」としているように、人口減少を地域の盛衰に関する根本要因と捉えている。
さらに、地方創生の推進に当たっては大きく3つの視点、すなわち、まち・ひと・しごとの視点から施策が立案・実施されている。これら3つの視点は概括すると、魅力的な「しごと」が従業員やその家族などの「ひと」を引き付け、「ひと」が集まればサービス業の集積や税収増を通じた行政サービスの充実により「まち」が活性化し、活性化する「まち」には魅力的な「しごと」が集積するという好循環によって人口減少の解決を意図した関係にある。
一方、この好循環の実現にあたっては、これまでの地域振興施策に対する反省も踏まえ、公共事業の投下等によって官製で全てをまかなうという発想は取られていない。当初のインパクトは小さくとも一定の助走期間後は補助金等の資金支援がなくとも自律的に活動が継続する、いわゆる「自走性」のある取り組みに対して政府はヒト・モノ・カネ(あるいは情報)の支援を行っている。そのため、地方創生の主体は自治体に限られず、企業・NPO・自治組織等のあらゆる地域コミュニティがその主体となりうる。
(2) 地方創生における外部人材
地方創生の目的とその解決モデルは前述の通りであるが、もちろん言うは易しであり、全国約1,700の自治体それぞれに異なる解決策が必要なはずである。また、地域活性化自体数十年近く叫ばれ続けていることからもその困難さは明らかである。
こうした地方創生において、外部人材活用について述べるにあたり、地方創生に必要なものとしてよく使用されるフレーズである「よそもの・わかもの・ばかもの」を紹介したい。
それぞれ、
「よそもの」:これまで地域コミュニティに属していなかった人物
「わかもの」:地域コミュニティにおいて多数派を占める年齢層よりも若い年齢層の人物
「ばかもの」:地域コミュニティにおいて異質に見られる人物
と表現できる。これらに共通するのは地域コミュニティにおけるマジョリティとは異なる考え方や行動様式を有している(あるいはそういったものがあることを認識している)ことである。こうした外部人材が地方創生の中で重要視されるのは、自走性ある地域活性化という前例のない課題に対する解決策を検討・実施するために、地域コミュニティで常識とされる発想に囚われずに地域の魅力や課題を再認識し、果敢に取り組むことが求められるためである。
(3) 外部人材活用に向けた政府の施策
上述の「よそもの」「わかもの」「ばかもの」のように地方創生に取り組むことのできる人材が地域コミュニティの中で自然と生まれ、地方創生を成功に導く事例も当然に存在する。一方で、特に地域コミュニティが小規模になればなるほどそのような可能性は母数となる人口の少なさから自ずと小さくならざるをえないし、人材を育成するにも時間が必要である。したがって、人口減少が止まらない中で待ったなしの地方創生においては外部人材を活用することは有効な対応策となる。
そのため、政府においては、外部人材活用について各種施策を展開しており、例えば、地方自治体の地域活性化担当として首都圏の民間人材や若手の国家公務員を派遣する「地方創生人材支援制度」や「企業人材派遣制度」、都市部から過疎地域に移住して各種地域おこし支援等に従事する人材について財政支援を行う「地域おこし協力隊」、地域企業の変革を後押しする人材をマッチングする「プロフェッショナル人材事業」などが挙げられる。
2.有効に外部人材を活用するために
これまで述べてきたように、政府は外部人材活用に向けた施策を展開し、地域コミュニティを形作る各主体は、こうした各種施策も活用しながら地方創生に取り組んでいる。一方で、地方創生の成果は必ずしも同様のものではなく期待した成果を収める地域があれば思うように取り組みが進まない地域があるのもまた事実である。
外部人材活用にあたっては、主体は誰なのか(自治体なのか企業なのか)、外部人材の地域への関与の程度(無期限なのか期間限定なのか)など、様々な類型がありうるが、これまで繋がりのなかった(あるいは薄かった)地域コミュニティに外部人材が参画し、地方創生に向けて活動するという関係性は同様である。
したがって、有効に外部人材を活用するためには地域コミュニティと外部人材との初期のコミュニケーションにおいて以下のポイントを共通して押さえておく必要がある。
① ビジョンの明確化:地方創生のために自前で確保することが難しい機能を整理し、外部人材に求める役割を明確にする。また、求められる役割を果たすことのできる人材要件を明確化する。
② ギャップの解消:あらかじめ定めた人材要件と招へい可能な外部人材のスキルにギャップがある場合にはギャップを埋める調整を行う。その際、外部人材にギャップを埋めるための対応を求めるだけでなく、地域コミュニティ側でもギャップを埋めるための対応を検討する。
③ 継続的なアフターフォロー:外部人材の参画後、外部人材との間で密にコミュニケーションを取り、地域コミュニティ側と外部人材双方が抱いた様々なギャップ(実績面、環境面等)についてすり合わせを行う。
これらのポイントは受け入れ側で100%求められるということではなく、有効に外部人材を活用するために重要なことは、外部人材は万能の救世主ではなく、地域コミュニティの当事者意識が欠かせないことを認識したうえで外部人材との様々なコミュニケーションを行うことである。
なお、こうしたビジョンの明確化からアフターフォローまでの外部人材との初期のコミュニケーションについては、これまでにシリーズで解説してきた伴走支援サービスに通ずるものがあり、知見のある第三者の手を借りることも有効である。
III.まとめ
政府は地方創生に取り組む中で令和3年度も引き続き外部人材活用のための施策を展開しており、こうした流れが直ちに止まることは考えにくく、外部人材の活用は引き続き各主体が検討すべきテーマである。有効な外部人材の活用に当たっては、外部人材が果たせる役割に一定の範囲があることを前提に地域コミュニティと外部人材が共に課題解決に取り組む関係の構築が必要である。
参考文献
第2期「まち・ひと・しごと創生総合戦略」(2020 改訂版)
執筆者
デロイト トーマツ人材機構株式会社
シニアアソシエイト 小泉亮輔
金融庁入庁後、地方公共団体の政策担当参事、政府系人材紹介会社への出向等を経て、2021年8月より現職。地域ビジネスにおける行政面からの支援(各種施策・補助金等)および地域中堅・中小企業に対する経営人材紹介の経験を有する。中小企業診断士。
(2021.8.27)
※上記の社名・役職・内容等は、掲載日時点のものとなります。