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Global HR Journey ~ 日本企業のグローバル人事を考える

第一回:日本企業の人事のグローバル化を加速化させる秘訣

日本企業のグローバル化が益々進展しつつある状況の中、その経営管理のあり方は事業のグローバル化のスピードに追いついていないように見受けられる。特にヒトの領域におけるグローバルでの管理体制は旧来のままで、なかなか前に進めていない企業が多い。多くの日系企業がこの「グローバル人事」というテーマに大きな課題意識を抱き始めて久しいにも関わらず、実態として停滞しがちとなっているのはいかなる背景によるものなのか。また、状況を打開できるカギはどのようなものだろうか。

事業のグローバル化のスピードに追いついていない経営管理のグローバル化

中村 事業のグローバル化という点では、私のクライアントを見ても、多くの日本企業が益々グローバル化を加速させているように感じます。

嶋田 多くの企業で海外売上比率が高まっているだけでなく、海外でのM&A資金も増えており、これらの点を見れば、日本企業の経営のグローバル化は進んでいるように見えます。つい最近も所得収支、すなわち日本企業が海外の株式や債券などに投資して稼ぐ収益、その中でも、日本企業が海外企業に経営参画したり支配するために保有する株式といった直接投資から得る収益は、ここ10年で2倍に増加しているという報道がありました。

古澤 この収益を海外で再投資することによる「地産地消」の収益も過去最高になっているようです。また、貿易黒字も減少しているようですが、これは日本の国内景気が良くなって輸入が増えたのではなく、むしろ企業が生産拠点を海外に移したことが一因となっていると思われます。超長期的には円高基調にあるわけですし、人口減による国内経済の縮小という背景を考えれば、ビジネスの主戦場が新興国をはじめとする海外にシフトするのは至極当然のことです。この状況にふさわしいグローバル経営管理の体制を整備することはきわめて重要な課題です。

中村 一方で、経営管理の中身は、あまりグローバル化していないのが実状でしょうか。

嶋田 そうですね。グローバルでの経営管理とは、ヒト・モノ・カネの資源管理やリスク管理をグローバルレベルで確立するということです。今の日本企業の多くは、「ビジネスが先にグローバル化してしまい、資源とリスクのコントロールが効いていない」というリスキーかつ非効率な状態にあるといえます。

 

なぜグローバル化は進まないのか

中村 特にヒトの領域におけるグローバル管理体制の整備は進捗が芳しくないように見えます。DTCでもここ10年ほどこのテーマでセミナーを開催すると、毎回追加開催が必要になるほど多くのお客様に関心を持っていただいているものの、実態としての進捗に乏しいように感じます。素朴な疑問として、なぜ進まないのでしょうか?

古澤 まずグローバル人事が未知なるテーマである、という如何ともしがたい理由があるのでしょう。グローバル人事は、国内の人事の延長ではありません。国内にはない要素の考慮が必要です。例えば、人ベースでなく職務ベースで考える、終身雇用ではなく放っておくと人材が流出してしまう、という日本人にとって想像しづらい海外の常識に対する理解が必要です。また、報酬制度でいえば、日本では馴染みの薄い長期インセンティブが、米国をはじめとする海外市場では非常に大きな論点になります。日本と重要度が異なるテクニカルな面での理解も不可欠です。

嶋田 未知のテーマを教えてくれたり、具体的な指示をする上司も存在せず、とっつきにくいのは無理もないでしょう。もちろん、日本企業の人材は優秀ですから基本はご存知です。ただ、それだけでは実際に進めることは簡単ではありません。また、テーマがテーマだけに、経営層をはじめとして多くのステークホルダーによる腹落ちも不可欠です。ややもすれば抵抗勢力にもなりうるステークホルダーたちの教育・啓蒙には、相当のエネルギーと時間が必要となりえます。

中村 グローバル人事の知識に加えてグローバルプロジェクトというか、グローバルで物事を作り上げて落とし込んでいく、という経験の不足も、ネックとなっているように思います。

古澤 多国籍のチームで円滑にプロジェクトを進められる経験・力量を持つ人材はまだ国内では希少です。グローバル人事改革とは、グローバルゲームのルールを変えることです。これを外国人と議論し、時に交渉しながら合意点に落とし込んでいくのは、非常に大きなエネルギーが必要ですし、まして未知のテーマとなると、その苦労は相当なものになります。これは国内の組合交渉とは別次元の苦しい取り組みです。

嶋田 苦労は導入時だけではなく運用時も続きます。これまで個社個別でバラバラであった人事の仕組みや体制を程度の差こそあれ本社のゲームルールに統合するわけですから、ゲームのオーナーとしてのリーダシップとともに、きちんと説明したり説得する責務を日常的に負うことになります。

中村 また、根本的な危機感が必ずしも強くないケースも多く見受けられます。人事部門と事業部門がうまくアラインしておらず、事業側の危機感が人事にダイレクトに伝わっていないケースも散見されます。

古澤 日本から多数の人材を海外に派遣することによるマネジメントの会社は、海外の企業を買収して事業を成長させている会社とは少し危機感が違いますね。前者の場合、この状態の変革の必要性を理解しつつも、足元では、気心知れた日本人派遣者により海外拠点のマネジメントができてしまっているわけで、少なくとも一定のガバナンスは実現できている状態です。後者はそうはいきません。買収した会社の場合、特に買収後も旧経営陣に続投させている場合、阿吽の呼吸では通じませんから、本社のゲームルール、すなわちガバナンスする仕組みの整備は急務です。

 

人事のグローバル化を進展させるには何が必要か

中村 グローバル人事の知識・知見が必ずしも豊富にあるわけでなく、またグローバルプロジェクトにもどちらかというと不慣れな日本企業にとって、どのような秘訣がありえますか。

古澤 まずプロジェクトチームの組成について考えるべきです。人事だけで進めることは問題です。なぜかというと、私が見る限り人事部門はグローバル化が最も遅れている部門の一つだからです。一般的に、事業部門にはグローバル人材がいますが、コーポレート部門は財務を除き、グローバル人材が少ないです。なぜグローバル化が必要なのかという腹落ち感、思いがある人がメンバーに入っていないと上手くいきません。グローバル化をスムーズに進めている会社の人事トップはしばしば事業部門出身者だったりします。

嶋田 グローバル人事の知識・知見がなく不慣れなのであれば、そうでない人材の積極的な活用を考えるべきです。例えば、現地法人や買収した会社の人事マネジャーなど。また、これらの人材をチームの一員として迎えるだけでなく、プロジェクをリードさせるくらいのことは考えるべきでしょう。異分子との協働を積極的に検討すべきです。難しい面もあるかと思いますが、それすらできなくて、グローバル人事などできるはずはない、と腹を括ってほしいところです。実際そのような事例も出てきています。

古澤 そうですね。構想・計画といった検討の段階から多国籍のチームを立ち上げて進めるのは、企業によっては一見チャレンジのように見えるかもしれませんが、リスクの割に得られる学びは大きいといえます。また、いずれにしても取組みが実行段階になれば嫌でも真正面から外国人と対峙することになります。

中村 クロスボーダーのM&Aを経験した人材を活用することも有効ではないでしょうか。クロスボーダーM&Aを経験すると、異なる考え方の人たちとガチンコで渡り合い、どうマネジメントするか、ということを深く考えさせられ、グローバル人材として大きく成長します。また、緊張感をもって一定期間内で結果を出す意識もかなり高いように感じます。これらはグローバル化をスピーディに進める上で重要です。

古澤 展開のアプローチもポイントです。例えば、ある大手企業はグローバルグレードや評価制度といった制度系のインフラや、人材データベースといったグローバルの人事インフラを国内外のグループ会社数百社に一気呵成に導入しました。もちろんその結果、運用段階ではノイズが出ているわけですが、様々な課題を解決しながら、実態としてのグローバル化は現在進行形で確実に進んでいます。関係者の理解を丁寧に得ることは大切かもしれませんが、そのために段階的な導入を検討した会社は、結局、理解を得ることに足を取られてなかなか進んでいないように見えます。このケースのように意図的に後戻りできないところまで一気に進めて、そこから実態としての変革につなげるアプローチは、多くの企業にとって一考に値します。

嶋田 ケースバイケースですが、例えばグローバル化が特に進んでいる事業領域に絞ってグローバル化を進めて上手くいっている事例もあります。ただ、対象とする範囲に関わらず、先の総合電機会社のように、検討や調整に時間をかけ過ぎず、一気呵成に進める、ある程度実験的に進める、という姿勢は大切なポイントです。

中村 多くの日本企業は海外企業に比べて周回遅れなどといわれますが、海外の企業も最初は大変な苦労をして変革を進めたと聞いています。

嶋田 海外企業は苦労なく進めていると思ったら大間違いです。本社によるイニシアティブに対して地域の抵抗が激しく、頓挫した、一部地域は先送りされたといった例はよく耳にします。経営破たんのような「有事」があって初めて大ナタを振るうことができた例もあります。また、ごく一部の先進的な海外企業を除き、多くの海外企業もグローバルのプラットフォームを整えて運用がこなれてきたのは、近年ではないでしょうか。日本企業には言語・文化や独特な労働慣行といったハンディはあるかもしれませんが、彼我の差は多くの日本企業の想像よりは小さいと思います。ただ、多くの海外企業は、このままでは危機は必ず来るという意識のもと、困難にぶつかって、チャレンジし続けています。

古澤 概して学習能力の高い日本企業ですが、海外の競合たちのプラクティスへの精通はこれからと感じます。海外に出ても意識するのは日本企業ばかりだったりします。どのようなグローバル経営課題を抱え、そのためにどのようなグローバル人材マネジメントを志向し、どのような制度インフラ・システムインフラを整備しているか、グローバルでどのような人事機能・組織の体制を築いているか、さらにはグローバルプロジェクトをどのように進めているかという側面について、教科書的でなく実務的に理解している方はそれほど多くありません。

嶋田 そうですね。これらの情報はグループ内のネットワークであったり、我々のようなグローバルのコンサルティング会社などを活用すれば集められます。現に、海外事例収集の依頼は増えてきました。人事部門のグローバル担当の方だけでなく、事業部門や経営陣皆さんとも合同の勉強会を開催させていただくケースも増えてきました。このような勉強会では、海外事例を参考としながら基本的な知識を学習しつつ、自社の方向性をブレストします。結果として、個々人が漠然とした課題感を抱いているフェーズから、課題を共有したり具体的に物事を進める貴重なきっかけになりえます。

古澤 今後のグローバル人事を構想・計画するというと、最上位のグローバル経営戦略から落とし込みたくなりますが、勉強会のようなもので、クイックに方針を決めて実験的に進めながら細かいところを精緻化してくアプローチはお勧めです。例えば、DTCでは20の観点で企業のグローバル人事の成熟度をアセスメントするツールを使い、自社の現状、競合との差異、自社として進むべき方向性をクイックに明らかにして、具体的な着手へのきっかけづくりのお手伝いをすることがあります。

中村 これまでの議論を総括すると、グローバル人事を進めるにはどのような点が大切といえるでしょうか。

古澤 様々なポイントが出てきましたが、結局人事部門の人材をいかに変えるかという点に集約されると感じます。異分子も含め様々な人を活用する、多少実験的であってもスピード感をもって進める必要がある、と言いましたが、それらも含め、どのように進めるかを決めるのはやはり企画・実行の主体を担う人事部門に他なりません。テクニカルな部分というより根本的なアナログ部分での変化が欠かせないのです。これはすでにグローバル人事に一日の長のある企業含め、ほぼ全ての日本企業にいえるのではないでしょうか。

古澤 哲也
古澤 哲也

執行役員 古澤 哲也
組織・人材コンサルティング歴15年以上。国内外の企業の様々な経営課題を組織・人事面から解決する業務に従事。特に、経営・事業戦略をグローバルに推進するためのグローバル人事戦略の立案、各種人事基盤の設計から組織風土改革までをトータルに支援する経験が豊富。
主な著書に、『MOTリーダー育成法』(中央経済社)、『変革を先取りする技術経営』(共著・企業研究会)等。

嶋田 聰
嶋田 聰

シニアマネジャー 嶋田 聰
グローバル人材マネジメント、グローバル共通人事制度、国際人事異動制度の設計・導入支援などに加え、クロスボーダーM&A・PMIや、学習・人材開発等、日系企業のグローバル化の人事領域における支援に数多く携わる。海外におけるプロジェクト経験は北米・南米・欧州・アジア・アフリカ含む約20ヵ国。多国籍チームのプロジェクト・マネジメント経験も豊富。

中村 哲也
中村 哲也

シニアコンサルタント 中村 哲也
大手建設会社を経て現職。グローバル人材マネジメント、グローバル共通人事制度、国際人事異動制度の設計・導入支援に加え、昨今はクロスボーダーM&A等の経営の合理化を組織・人事面で支援。前職在職中に一級建築士及び英国ランカスター大学にて経営学修士号(MBA)取得。MBA 在学中は欧系企業の新規事業、新規市場参入の計画立案のコンサルティングに参画。

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