最新動向/市場予測

地域医療構想を踏まえた戦略検討のポイント

新型コロナの影響により、今夏に予定されていた「新公立病院改革ガイドライン(改訂版)」の公表次期は不透明な状況となりました。一方で、高齢化の進展や人口減少など、2025年や2040年を見据えて考えると、自治体病院の更なる経営の効率化や再編・ネットワーク化等の推進は避けて通ることは出来ません。逆に新型コロナの影響により、それらの検討の必要性がさらに高まっているとも考えられます。どのような点に着目しながら整理・検討を進めるべきか、主なポイントをご紹介いたします。

今後公表予定の改革ガイドラインについて

平成27年3月に「新公立病院改革ガイドライン」が公表され、各自治体病院は、地域医療構想等を踏まえながら、更なる経営の効率化や再編・ネットワーク化等を推進するための計画として「新公立病院改革プラン」の作成が求められました。当該プランは、令和2年度を最終年度として策定されているため、2025年を最終年度とした「新公立病院改革ガイドライン」の改訂版(以下「新公立病院改革ガイドライン(改訂版)」)がとりまとめられ、各自治体病院は、「新公立病院改革プラン」の改訂版(以下「新公立病院改革プラン(改訂版)」の作成が求められる予定となっています。しかしながら、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響により、当初、今夏に予定されていた「新公立病院改革ガイドライン(改訂版)」の公表が遅れており、具体的な公表の時期は不透明な状況です。

「新公立病院改革ガイドライン(改訂版)」の公表時期は不透明であるものの、高齢化の進展や人口減少など、2025年や2040年を見据えて考えると、自治体病院の更なる経営の効率化や再編・ネットワーク化等の推進は避けて通ることが出来ません。むしろ、COVID-19の影響により、それらの検討の必要性がさらに高まっているとも考えられます。各自治体病院は、制度対応という観点からではなく、本質的に、3年~5年先を見据えた「新公立病院改革プラン(改訂版)」の策定が求められていると考えられます。

次期プランの柱は「地域で果たすべき役割の明確化」「再編・ネットワーク化」

平成27年3月に公表された「新公立病院改革ガイドライン」では、以下4つの視点に立った取組の明記が求められていました。

  1. 地域医療構想を踏まえた役割の明確化
    病床機能、地域包括ケアシステム構築等を明確化
  2. 経営の効率化
    経常収支比率等の数値目標の設定
  3. 再編・ネットワーク化
    経営主体の統合、病院機能の再編を推進
  4. 経営形態の見直し
    地方独立行政法人化等を推進

今後公表が予定される「新公立病院改革プラン(改訂版)」においても、上記4つの視点については、大きく変更されることは無いと想定されます。一方で、人口減少や高齢化が進展する我が国において、特に「地域医療構想を踏まえた役割の明確化」「再編・ネットワーク化」については、今まで以上に重要性と検討の必要性が高まってくると考えられます。

病院経営は地域性が強く、一概に画一的なパターンで議論することは困難ですが、「地域医療構想を踏まえた役割の明確化」「再編・ネットワーク化」の2つをキーワードに、どのようなタイプの病院において、どのような検討が必要になってくるか整理したいと思います。
 

地域基幹病院における高度・専門医療の追求と再編・ネットワーク化

県庁所在地や都市部における地域の基幹病院では、これまで以上に、高度・専門医療の追求や医療の効率化(在院日数の短縮等)、それを可能にするための地域連携の強化(後方施設の確保等)が求められると考えられます。一方で、人口減少による急性期医療需要の減少や医療の効率化(在院日数の短縮等)を求める政策の継続により、これまでと同規模での病床運営は不要かつ非効率となる可能性があります。また、医療従事者の働き方改革の推進などにより、広く薄くといった非効率な人員配置ではなく、一か所に集中させ効率化を目指すような、集約化の動きも加速する可能性があります。

このような状況において、1病院単位で考えると、まずは高度・専門性の追求と、高度・専門領域における新規入院患者の確保が課題となりますが、地域性に応じて、同時並行的に、近隣の急性期病院などと「再編・ネットワーク化」について検討に迫られる可能性も出てくると考えられます。

地域包括ケアシステムの中心としての役割の発揮

一方で、人口減少や高齢化の速度が速い地方においては、医療と介護の垣根がますます低くなり、医療・介護を一体として考えることが必要不可欠になっていきます。このような地域に立地する中・小自治体病院では、今まで以上に地域包括ケアシステムの中心として、急性期病院からの受入れ、在宅復帰に向けたリハビリ・退院支援、在宅診療の支援、医療・介護の橋渡し役の発揮、などが求められと考えられます。

地域包括ケアシステムの中心として、地域の急性期病院から診療所、そして介護施設との協力関係の構築まで、地域住民が安心して当該地域で医療・介護サービスが受けられるよう、医療・介護の総合的な司令塔としての役割を期待されるケースが増加していく可能性があると考えられます。

 

まとめ

今後公表予定の「新公立病院改革ガイドライン(改訂版)」では、これまで通り、各自治体病院単位で作成することが求められると想定されます。一方でここまで整理してきた通り、各自治体病院単体の枠組みを超えて、地域全体最適をどのように築くか、地域課題の解決のために何をすべきか、といった、一つの自治体病院の枠組みを超えた検討が求められる地域が増加するものと考えられます。

地域全体目線での検討には、多くの利害関係者が複雑に関与し、一朝一夕に議論が進むものではありません。一方で、人口減少や高齢化が進む日本において、それらの検討を避けて通れないことも事実です。今から少しずつ時間をかけながら、「地域全体最適」「地域課題の解決」をキーワードに、各自治体病院の皆様におかれては「新公立病院改革プラン(改訂版)」の骨子について、早めに検討を開始してはいかがでしょうか。

 

執筆

有限責任監査法人トーマツ
リスクアドバイザリー事業本部  ヘルスケア 

※上記の部署・内容は掲載時点のものとなります。2020/08

関連サービス

ライフサイエンス・ヘルスケアに関する最新情報、解説記事、ナレッジ、サービス紹介は以下からお進みください。

ライフサイエンス・ヘルスケア:トップページ

■ ライフサイエンス

■ ヘルスケア

ヘルスケアメールマガジン

ヘルスケア関連のトピックに関するコラムや最新事例の報告、各種調査結果など、コンサルタントの視点を通した生の情報をお届けします。医療機関や自治体の健康福祉医療政策に関わる職員様、ヘルスケア関連事業に関心のある企業の皆様の課題解決に是非ご活用ください。(原則、毎月発行)

記事一覧

メールマガジン配信、配信メールマガジンの変更をご希望の方は、下記よりお申し込みください。

配信のお申し込み、配信メールマガジンの変更

お申し込みの際はメールマガジン利用規約、プライバシーポリシーをご一読ください。

>メールマガジン利用規約
>プライバシーポリシー

お役に立ちましたか?