最新動向/市場予測

地域医療構想実現に向けた取組み事例の紹介

地域医療構想の概要と実現に向けた国・地方公共団体の取組み

地域医療構想は、2025年における医療需要を推計し、それに対応できる医療体制構築に向けて、地域で協力し医療機関の役割分担・連携の体制構築に取り組むものです。各都道府県では、地域医療計画に位置づけて、地域医療構想の実現を推進しています。このような中、地方公共団体における取組み事例のうち、特徴的なものをご紹介します。

地域医療構想とは

地域医療構想は、2025年における医療需要を推計し、それに対応できる医療体制構築に向けて、地域で協力し医療機関の役割分担・連携の体制構築に取り組むものです。各都道府県では、地域医療計画に位置づけて、地域医療構想の実現を推進しています。地域医療構想実現に向けたプロセスとしては、基本的に以下の通りです。

(1) 医療機関が「地域医療構想調整会議」で協議を行い、機能分化・連携を進める。都道府県は、地域医療介護総合確保基金を活用。

(2) 地域医療構想調整会議での協議を踏まえた自主的な取組だけでは、機能分化・連携が進まない場合には、医療法に定められた都道府県知事の役割を適切に発揮。

医療法では、都道府県の権限として、「地域で既に過剰になっている医療機能に転換しようとする医療機関に対して、転換の中止の要請・勧告(民間医療機関)及び命令(公的医療機関)」、「医療機関に対して、不足している医療機能を担うよう、要請・勧告(民間医療機関)及び指示(公的医療機関)」、「新規開設の医療機関に対して、地域医療構想の達成に資する条件を付けて許可」、「稼働していない病床の削減を要請・勧告(民間医療機関)及び命令(公的医療機関)」が定められていますが、基本的には、これらの権限を行使するのではなく、医療機関間での協議・調整により地域医療構想を実現していくことを目指す都道府県が多いと考えられます。

 

地域医療構想を踏まえた取組みの方向性

1. 地域医療構想は、「病床過剰」や「回復期病床の不足」等を取り上げることが目的なのではなく、各医療機関が将来の環境変化(医療需要の変化)を認識したうえで、今後の医療提供体制について前向きに議論・検討していく取組みを促すことが目的です。

地域医療構想では、構想区域(二次医療圏を基本)ごとに、2015年度病床機能報告における病床数と、2025年度における病床の必要量(医療需要推計)とを比較し、将来に向けて整備すべき病床を示しています。しかし、病床機能報告制度と地域医療構想(医療需要推計、病床数の必要量)における急性期・回復期の定義が異なっていたことから、多くの医療圏では、想定以上に回復期不足とのメッセージが強く出すぎたとの声も聞かれます。

具体的には、国の医療需要推計(地域医療構想)では医療機能区分が医療資源量で定量的に定義されていた一方、病床機能報告制度では各医療機関が定性的な定義に基づいて報告していたことにより、2025年の医療需要推計と2015年の現状(病床機能報告)を並べたときに特に回復期病床の乖離(不足)が目立ったと言われています。

 

また、医療需要推計が患者数をベースに病床数を算出している一方、病床機能報告制度は本来様々な病期の患者が混在するはずの病棟であっても、一つの機能として報告しているなど、単純にこれらの値を比較するのは困難な状況となっています。そこで、各都道府県においては、定量的な基準を作成し、医療機能や医療供給量を把握するための目安としたうえで、地域医療構想調整会議等の議論で活用しています。

これらの動きを踏まえると、地域医療構想は、単にどの病床が過剰か不足かを明らかにしていくことだけを目的としたわけではなく、各医療機関が自身を取り巻く将来の環境変化、すなわち医療需要(患者ニーズ)の変化を理解し、それに合った医療提供体制について積極的に議論・検討することを期待したものと言えます。
 

2. 国では、「重点支援区域の設定」とそれを通じた助言や集中的な支援を通じて、各地域での自主的な議論をサポートしています。

重点支援区域の設定と支援について、厚生労働省によると、「経済財政運営と改革の基本方針2019(令和元年6月21日閣議決定)において、地域医療構想の実現に向け、全ての公立・公的医療機関等に係る具体的対応方針について診療実績データの分析を行い、具体的対応方針の内容が民間医療機関では担えない機能に重点化され、2025年において達成すべき医療機能の再編、病床数等の適正化に沿ったものとなるよう、重点支援区域の設定を通じて国による助言や集中的な支援を行うこととされた。」と発表されています。

支援内容としては「技術的支援」と「財政的支援」が想定されています。具体的には、技術的支援の内容は「地域の医療提供体制や、再編統合を検討する医療機関に関するデータ分析」や「関係者との意見調整の場の開催」等とされ、財政的支援の内容は「地域医療介護総合確保基金の令和2年度配分における優先配分」や「新たな病床ダウンサイジング支援を一層手厚く実施」とされています。

重点支援区域は、複数医療機関の再編統合事例を対象に選定することとされており、ここで言う再編統合には、医療効率化の観点からのダウンサイジング、及び、機能の分化・連携・集約化、並びに、不足ない医療提供の観点からの機能転換・連携等が含まれるとされています。

3. 地方公共団体では、地域の実情に合わせた事業を展開し、将来必要とされる医療機能検討への積極的な参画の気運醸成に取り組んでいます。

国による地域医療構想実現に向けた支援だけでなく、各都道府県でも独自の支援施策を展開している例が目立つようになってきました。先進的な事例として、奈良県では2020年7月20日現在、令和2年度医療機能再編支援事業の公募が行われています。これは、奈良県地域医療構想の実現に向け、県内病院の医療機能分化や連携を促進することを目的として、「県内病院の経営傾向分析」、「機能再編を行う病院への個別支援」、「病院間連携促進の支援」を実施する事業(予定)です。

もともと奈良県では、独自の医療機能区分として、急性期を重症急性期と軽症急性期に細分化して議論しています。具体的には、地域医療構想における医療区分である「高度急性期、急性期、回復期、慢性期」と関連付けて議論できるよう、病床機能報告での区分を細分化し、「高度急性期、重症急性期、軽症急性期、回復期、慢性期」と整理しています。この奈良県方式における「軽症急性期と回復期」が、地域医療構想における「回復期」と概ね近いイメージとなっています。これに加えて、軽症急性期、回復期、慢性期に該当する病院を「面倒見のいい病院」、高度急性期、重症急性期に該当する病院を「断らない病院」とコンセプト化し、それぞれの役割を明確化することで、県内病院の議論を促進しています。

これらの前提を踏まえて、上記の医療機能再編支援事業では、県内病院から財務データの提供を受け、医療提供状況と財務内容の相関分析を実施するなど、県内病院が少子高齢化を見据えた機能再編の必要性についての理解を深めていくため、様々な角度から「断らない病院」と「面倒見のいい病院」に期待される役割を提示しています。
奈良県においては、地域医療構想の議論が開始された当初から、県内病院との議論を重ね、医療機関に対してわかりやすいメッセージの発信を続けてきたことが、県と県内病院の信頼関係を構築につながり、財務データの提供等にもつながっていると考えられます。また、県職員が積極的に病院関係者と意見交換する姿勢を持っていることも、県内での議論が活性化されている一因と考えられます。

各都道府県の実情によるものの、これらの取組みは他の都道府県にとっても参考とするべき点があると考えられます。

 

まとめ

各医療機関においては、地域医療構想をマーケティング戦略のための材料と捉えたうえで、マーケット(患者数等)の変化・縮小に見合った医療機能再編への取組みを検討することが肝要です。また、都道府県においては、医療圏全体での議論だけでなく、個別病院レベルでの議論を支援するなど、想定される課題が多いことから、現場職員だけで対応するには限界が生じる可能性があります。

デロイト トーマツ グループでは、医療政策に関する知見に加えて、公立・公的病院を中心とした機能再編や統合を支援してきた豊富な知見を有しており、都道府県や各医療機関と連携のうえ、地域医療構想の実現に貢献しています。

執筆

有限責任監査法人トーマツ
リスクアドバイザリー事業本部  ヘルスケア 

※上記の部署・内容は掲載時点のものとなります。2020/08

関連サービス

ライフサイエンス・ヘルスケアに関する最新情報、解説記事、ナレッジ、サービス紹介は以下からお進みください。

ライフサイエンス・ヘルスケア:トップページ

■ ライフサイエンス

■ ヘルスケア

ヘルスケアメールマガジン

ヘルスケア関連のトピックに関するコラムや最新事例の報告、各種調査結果など、コンサルタントの視点を通した生の情報をお届けします。医療機関や自治体の健康福祉医療政策に関わる職員様、ヘルスケア関連事業に関心のある企業の皆様の課題解決に是非ご活用ください。(原則、毎月発行)

記事一覧

メールマガジン配信、配信メールマガジンの変更をご希望の方は、下記よりお申し込みください。

配信のお申し込み、配信メールマガジンの変更

お申し込みの際はメールマガジン利用規約、プライバシーポリシーをご一読ください。

>メールマガジン利用規約
>プライバシーポリシー

お役に立ちましたか?