最新動向/市場予測
診療データの利活用を上手に補助してくれるシステムとは
日々増え続ける診療データから、必要な情報を見落とさず効果的に利活用するために
電子カルテの普及に伴い、医療機関内での診療データの利活用を効率的に行うためのシステムに注目が集まっています。画像を始めとする検査データを統合的に管理・閲覧できるシステムや、異なるシステム間のデータを横断的に検索・集計できるようにすることで診療機能向上・経営改善に資するシステム等、現在導入検討が可能なシステムの概要・特徴と将来性について検証します。
求められる情報集約基盤
電子カルテの普及が進む中で、昨今ではシステムに蓄積された診療データの利活用について医療機関の内外を問わず様々なところで議論されるようになっています。
診療データの利活用と言えば、大学病院を始めとする大規模医療機関でのビッグデータを利用した研究等を想像されるかも知れません。例えば、このメールマガジンでも過去に取り上げた通り、次世代医療基盤法等の整備が進む中、医療機関の内外において、研究・産業創造のためのデータ基盤整備が進んでいます。
医療機関のビッグデータやAIへの関わり方へのポイント
一方で、大規模医療機関に限らず、最近では中小規模の医療機関においても様々な統計情報の提出要件などが相まって、診療データを診療や経営の向上に活かすことが日常的になってきていることはご存じのとおりです。
紙・フィルムといった媒体から電子データへの移行により、診療データを容易に集計・分析することが可能になったことが、このような医療機関内でデータを分析・活用するという新たな変化を生み出しました。
しかしながら、大量のデータを上手に利用するためには複数のシステムを確認する必要に迫られることから、「見落としを防ぐのに新たな注意が増える」「システムを横断して扱いにくい」といった、深刻な課題も生み始めています。
このように、電子カルテを導入している医療機関において、施設内で発生した、膨大な診療データを容易にかつ、十分に利活用するための仕掛けづくりは、まだまだ十分とは言えない状況かも知れません。
本稿では、このような課題の解決の一助となるよう、医療機関が自施設内で発生する膨大なデータを上手に活用するための情報集約基盤の構築や利用の現状について考察します。
1次・1.5次と2次利用の違い
診療情報の利用は、一般的に1次利用と2次利用に分けられます。1次利用は、患者の診療・治療行為のために直接的に利用する場合を指し、2次利用は、研究など患者の診療・治療と直接的に関係の無い目的で利用する場合を指します。
また、2次利用の範疇ではあるものの、医療機関の診療機能の向上や経営改善のために、自施設の患者の情報を利用する場合は、1.5次利用と呼ぶことがあります。今回の記事ではその辺りを踏まえて、(図表1)のように定義の上、進めていくこととします。
1次利用、1.5次利用は、電子カルテ・オーダーリングシステム・医事会計システム、および各種の部門専用システムで構築されている医療情報システムに保存されているデータを利用することになります。
そして、実際にそのデータを利用するためには、電子カルテや医事会計システムがそれぞれ持っている閲覧機能・検索機能や集計機能を前提とすることが一般的です。
この事実は、会計情報やレセプト情報は、医事会計システムで処理できるものの、例えば、診療記事記録などを交えた集計検索ができないことを意味します。あるいは、放射線画像や生理検査結果・血液検査結果など、各種の検査画像・数値情報をそれぞれのシステムを起動して確認せざるを得ない状況を示しています。
最近では部門業務を支援するシステムも増えており、これらは電子カルテや医事会計システムとすべての情報をやり取りしているわけではないため、日々発生する、これらの情報を診療や経営の向上に十分に活かすことができていない状況は、宝の持ち腐れと言えるかも知れません。
院内で進み始めた情報集約基盤の導入
医療機関の経営環境が厳しさを増す中、医療機関内のシステムが増え、発生するデータの量が日々増加している現状において、診療データの1次利用・1.5次利用を容易に行える仕組みに対するニーズは増大する一方です。これらの解決手段として、昨今医療機関では、すべての検査結果を一元管理するシステム(以下、「統合診療システム」と表現します)や「医療データウェアハウス(Data Ware House 以下、DWH)」(図表2)の導入検討事例が増えています。
それぞれ、次に記載するような特徴を持っています。
診療統合システム
PACSが放射線画像を中心に整理・閲覧を可能にするシステムなのに対し、診療統合プラットフォームは、放射線画像に加えて、各種検査のレポートデータ、同意書などの紙媒体を電子化したデータ、検査結果値など数値データ等も整理・閲覧の対象とします。
診療統合システムに集まるデータは、種類別・発生時間順の表形式で一覧表示する形で整理・構成されます。また、これらのデータに加え、電子カルテの記事・サマリ、紹介状や計画文書等も取り込んで表示することが可能なシステムも出てきており、「患者に対して何ができているのか、何ができていないのか」、といった医療提供状況の進捗判断を補助するツールとしても導入検討が広まりつつあります。(図表3)
医療DWH
登場初期のDWHでは患者数や検査データ、病名など、数値や定型的な用語の検索や簡易統計が中心的な機能でしたが、近頃のシステムでは、自然言語による全文検索や、同義語・略語も含めた医療用語で検索条件を自動補正するシステム等も存在しています。また、集計結果を更に深堀り(ドリルダウン)分析できるシステムなども出現していることから、医療従事者が膨大な診療データから目的とする情報を探したり集計したりすることが容易になってきている状況です。
これらのシステムは、「電子カルテや部門システムとのデータ連携のためのシステム間接続費用が掛かる」「医療機関の特性や目的に合わせて医療従事者が使いやすいユーザーインターフェースを構築するのに十分な検討が必要となる」といった課題を内包しているものの、医療従事者が自己の医療機関のデータを利活用する仕組みとして、実用的なシステムになってきていると言えるでしょう。
情報集約基盤の将来像
診療統合システム、DWH以外にも、診療データの発生タイミングを捕まえてデータを収集することで、医療機関内での新たなデータ活用の方向性を目指す仕組み(以下、「診療データ整理基盤」と表現します)も現れ始めています。
診療統合システムやDWHは、各システムに結果として保存されているデータを後から収集し、一つの入れ物に格納する、という考え方です。(図表4の1)
一方で、診療データ整理基盤は、システム間でやり取りされるデータを直接格納するため、より多くのデータを発生タイミングで収集・処理することが可能になります。(図表4の2)
一つのシステム上だけで完結している記事情報などは、別途取り込む必要はありますが、システム構築段階で必要となる「システム間接続」作業が、そのまま医療データプラットフォームの構築につながることは、新しいメリットも生み出します。
例えば、データの取り込み・蓄積がリアルタイムになることで、「電子カルテに返す検査結果値にパニックデータが含まれる場合、依頼医の内線にも情報を流す」といったことの実現が可能になります。
こういった機能自体は、これまでも個別のシステム開発を通して実現できていましたが、Aという部門システムの結果と、Bという部門システムの結果について通知したい場合は、A,Bそれぞれのシステム開発が必要となるため、費用的にも効率の良いものではありませんでした。
診療データ整理基盤に蓄積されるデータを活用すれば、部門システム個別の対応が不要となり、A、B以外のシステムも含めたアラート機能を容易に構築できる可能性が高まり、1次~1.5次利用での有効性・費用対効果を高められる可能性があります。
また、途中経過のデータを保持できていることは、診療統合システム・DWHを補完する仕組みとして、これまでは確認できなかったデータを医療従事者に提供できる可能性があるとも言えます。
このように、情報集約基盤となるシステムは普及の過渡期であり、今後さらなる機能・利便性の向上が見込まれる分野です。
一方で、今後広まるであろうクラウドサービスの利用や、次世代医療基盤法等による外部データの活用などに対して、医療機関内外のデータの橋渡し的な役割を担うことも想定されることから、導入を検討される場合には、将来性や費用対効果も含めた、十分な検討が必要となることに留意されることをお勧めします。
執筆
有限責任監査法人トーマツ
リスクアドバイザリー事業本部 ヘルスケア
※上記の部署・内容は掲載時点のものとなります。2020/06
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