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医療機関に必要なICT人材の育成・確保について

医療機関でICTを上手く利活用するためのシステム管理人材・運用体制の在り方

診療報酬改定や新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の影響などにより、医療機関においてもICT利用範囲の拡大検討が急速に進んでいます。本記事においては、昨今の医療機関において、ICTを利用して業務を効率化し、働き方改革を実現することが求められる中、必要となる人材の確保や運用管理体制について考えてみます。

医療機関におけるICT利活用の拡大

近年、電子カルテを中心に、医療機関において業務へのInformation and Communication Technology(以下、ICTと記載します)の利活用が急速に拡大しつつあります。

例えば、令和2年4月の診療報酬改定においても、重要な改定ポイントの一つである「医療従事者の働き方改革の推進」(出所:厚生労働省 令和2年度診療報酬改定の基本方針)への対応として、医療業務の効率化に資するICT利活用の推進が示されました。

さらに、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の問題によって、ICTを用いた遠隔医療やオンライン診療の可能性、あるいは、職員のテレワークへの対応や院内会議のWeb開催の必要性なども活発に議論されているのはご存じのとおりです。

このように、内外の様々な要因によって、医療機関は業務の変革という大きな転換期を迎えており、今後、医療機関におけるICTシステム(以下、病院情報システムと記載します)の利活用への取り組みが、さらに加速していくものと考えられます。

一方で、医療の高度化とICTの発展に伴う病院情報システムの複雑化は、これらの導入・運用・管理に、医学・医療や病院運営業務だけでなく、ICTに関する様々な知識の必要性を高めています。実際、導入・運用・管理に、それらすべての知識が要求される電子カルテの普及率は、年々増加の一途をたどっており(図1:電子カルテ普及状況の推移)、すでに多くの医療機関において電子カルテは必要不可欠なものとなっています。そのため、今後の医療機関の在り方を考える上では、電子カルテを含めた病院情報システムの利活用を検討していく必要があると言えるでしょう。

 

図1)電子カルテ普及状況の推移
図1)電子カルテ普及状況の推移

一般的にICTの利活用というと、たちまち新しいシステムや機器の導入を想像される方が多いかもしれませんが、本記事では、その前提として、医療機関がICTを上手に利活用していくために必要となる、人材や運用・管理体制の在り方について考えてみたいと思います。

 

医療機関でのICT利活用業務と必要な人材

病院情報システムは、医療機関という限定的な状況下で利用されるため、それらの管理者・運用担当者には、ICTの知識だけではなく、医学・医療や病院運営業務といった広範囲の知識も求められることは先にも述べました。

実際に、医療機関で必要とされる、ICT利活用を推進するための能力を持った具体的な人材像とはどのようなものか。その整理のために、医療機関でどのような業務が発生しているのかを、電子カルテシステムのライフサイクルを例に考えてみたいと思います。

一般的に、電子カルテはおおよそ5~7年の周期で、プログラム及びハードウエアの更新が行われ、その期間中には、次に挙げるような多くの局面が存在します。

 

図2)システム選定・運用の各局面
図2)システム選定・運用の各局面

ご存じの通り、病院情報システムは、電子カルテやオーダリングシステムを中心に多数の部門システムが複雑に連携することで構築されています(図3:システム構成図例)。同じシステムベンダーのシステムであっても、医療機関ごとにオプション機能やマスタ設定、運用方法が異なることに加え、ネットワーク設計やPCの環境なども違うために、最適なシステム管理のための知識・体制も医療機関ごとに異なっているのが実情です。そのため、医療機関は自施設にとって最適な病院情報システムの実現に向けて、システム導入・更新の全体像を理解した上で様々な作業を進めていかなければなりません。

 

図3)システム構成図例
図3)システム構成図例

その中心となる、病院情報システムの担当者・組織には、各局面で医療機関内外の関係者と様々な検討、および作業を行うことになります。そして、これらの業務は同一局面の他の検討・作業や、次の局面にも影響を与えるという点で極めて重要と言えます。さらには、環境・事情の変化とともに各局面での検討ポイントも変化していくことから、ICT利活用のための担当者・組織には、ICTの知識はもちろん、広く医療機関内の運用や部門業務への理解が必要と言えるでしょう。

加えて、図2に示したとおり,システムのライフサイクルの各フェーズで必要な管理作業が異なることや、その業務が複雑かつ専門性に富んでいることから、より適切な運用検討や部門業務理解のためには、各部門の担当者と正確・緊密な連携をとりながら業務を遂行するマネジメント能力も必要となります。

もちろん、これらの知識・能力を発揮するためには、診療現場の職員は時には幹部に対しても、適切で分かりやすい説明・相談を行えるだけのコミュニケーション能力が必要となることは言うまでもないでしょう。

しかしながら、ICTに精通した技術者は全国的に不足しており(出所:経済産業省 IT 人材需給に関する調査報告書)、医療機関で必要とされる人材においては、さらに上記のような要素能力も必要となることから、良い人材を確保することは至難の業ともいえるのが実情です。

 

ICT人材の育成・確保の手段

それでは、ICTの利活用が必要不可欠となっている現在において、実際に医療機関では、どのように人材や組織を育成、あるいは確保すればよいのでしょうか。
職員の中でコンピューターに明るい者を配置すればよいのではないか、という議論をよく目にしますが、ここまでの説明で、それだけでは不十分であることを理解して頂けているかと思います。
ここまでの課題確認を踏まえて、ICTの知識はもちろん、医療現場の課題に対して真摯に取り組める知見と、しっかりしたコミュニケーション能力を持った人材・組織を育成、確保するために、考えられる具体的な手段の例をいくつか紹介します。

(1) 自施設職員の医療情報技師資格取得

一般社団法人日本医療情報学会が、「保健医療福祉専門職の一員として、医療の特質をふまえ、最適な情報処理技術にもとづき、 医療情報を安全かつ有効に活用・提供することができる知識・技術および資質を有する者」として規定し、認定試験を行っている資格で、2020年現在、累計認定者数は2万名を超えています。

医療情報技師育成部会のHP(https://www.jami.jp/jadite/new/first/toutatsu-f.html)には、各科目に対する到達目標も示されているため、それらを参考に必要な人材像を考えるのも良いでしょう。

(2) 近隣の医療機関とのリレーションによる情報共有

自施設だけでは人材の確保に限界がある場合には、近隣の医療機関や関連施設と積極的に情報交換・人材交流を行うことで、課題解決を図ることも考えられます。地域連携システムや患者の相互紹介などで関連している医療機関や運営事務局などがあれば、相談してみることをお勧めします。

(3) システムベンダーへの協力依頼・委託

多数の施設にシステムを提供しているシステムベンダー担当者に、他の医療機関の事例や、新しいシステム機能などを日常的に相談し、提案してもらうことで、最新の情報・良い情報を得ることはシステムの改善のために有用です。また、システム保守契約のオプションとして、システムベンダーSEの常駐・半常駐によるシステム運用管理サービスが提供されている場合もありますので、自施設だけでの検討が難しい場合には相談されてみて下さい。

(4) 人材派遣会社からの派遣

運用管理の局面において、自施設で人員を確保するのが難しい場合には、専門家を派遣してもらうことも考えられます。人材派遣会社の中には、病院情報システムの運用管理に特化したサービスを提供しているところもあります。さまざまな医療機関での運用管理を経験している技術者を紹介してもらえることから、必要に応じて検討されるとよいでしょう。

(5) コンサルティング会社への相談

システムの企画・導入検討等、大きな投資の意思決定を伴う段階において、自施設での人員確保が難しい場合には、コンサルティング会社に助言を依頼することも考えられます。なお、コンサルティング会社によっては、自施設の職員に対し、情報システムの運用管理人材の育成支援サービスを提供する会社もあるため、長期的な目線でのICT人材の育成も含めて検討されることも一手です。

(6) 大学等の教育機関での育成

システムの企画や利活用など、より上流の工程になりますが、近年では病院情報システムの設計や管理を教育機関で学ぶことも可能です。
医学部や附属病院を持つ大学はもちろん、専門の学部・学科を持つ大学や専修学校など、病院情報に関する教育・研究を行う教育機関が全国に多数あるため、それらの教育機関への職員の派遣や、卒業生の採用なども一考に値するかもしれません。

 

ICT利活用が医療機関運営のカギ

冒頭でも述べましたが、令和2年4月の診療報酬改定でも示されたように、医療従事者、および医療機関で働く職員の働き方改革においては、ICTの利活用が大きなカギとなっています。しかしながら、良い組織をつくるのはICTそのものではなく、それを利用する職員の皆様です。業務の専門分化が進む医療機関において、ICTに関する専門的知識・ノウハウを持つ人材・組織を育成・確保し、より良いICTの導入や運用管理の方策を検討できる体制を持つことは、医療機関の運営にとって必要不可欠となりつつあります。
医療機関全体で、それらの方策の実現に取り組める体制を整備することこそが、今後のICTの利活用にとって大切なポイントであることに留意していただくとともに、ICT利活用のための人材・組織の育成・確保や、ICTの利活用そのものについてのご相談がありましたら、気軽に当法人まで、ご連絡いただければと思います。

執筆

有限責任監査法人トーマツ
リスクアドバイザリー事業本部  ヘルスケア 

※上記の部署・内容は掲載時点のものとなります。2020/06

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