医療機関におけるデータ利活用

医療機関におけるデータ利活用

医療機関におけるデータ利活用は、従来レセプト等のデータを活用した経営分析や研究を目的とした学会等へのデータの提供といったことが主流でしたが、近年は、次世代医療基盤法や製薬企業におけるリアルワールドデータの活用、医療機器ベンダーにおけるAI開発に伴う診断支援システム・ツール開発への活用といった様々な取組を通じ、医療データを活用する機会が増えています。

こうした取組による医療データの第三者提供は、医療機関にとっての新たな収入源として期待されるとともに、創薬やAIによる診断支援等の研究開発が進むことで、医療の質の向上や医療従事者の業務負担の低下等の新たなメリットを生み出すことが期待されています。

製薬企業における取組を例に挙げると、医療機関の病院情報システム（電子カルテデータ、DPCデータなど）やレセプト（診療報酬明細書）、疾患登録データ等の医療情報を活用することで、製薬企業における研究・開発等に係る費用削減や業務効率化に加えて、エビデンス収集の困難な希少疾病、難病、小児等の領域での研究開発の促進や生産性の向上などが期待されています。一方、データ活用促進のためには、データの利用者となる製薬企業がどのような領域（研究開発や市販後調査等）でどのような医療データを活用できるかユースケースを整理していく必要があります。
また、データ収集にあたっては、医療情報システムの構造や集積データの実情を理解した上で、データの提供者となる医療機関のデータ収集を簡略化でき、医療現場の業務負荷に考慮したデータ収集の仕組みを検討していく必要があります。

医療機関のデータ利活用により、製薬企業で想定されるメリットは次の通りです。

1.  開発戦略への活用：データ結合、プロセシングを経て販促につながる情報、ナレッジの取得
2.  臨床研究、治験への活用：ローデータの有効活用により、治験・臨床研究における解析・分析の精緻化
3.  業務効率化：開発戦略や治験・臨床研究、PMS（市販後調査）等の手間とコストの削減
    

医療機関のデータ提供に係る課題

医療情報の活用の促進に伴い、データを提供する医療現場ではデータ抽出等に係る業務負担が想定されます。医療機関内でデータ管理を担う情報システム部門または担当者は、医療情報システムからのデータ抽出や匿名化等のデータ処理、セキュリティ対策の強化などの対応が生じることが想定されます。また、根幹となるデータ抽出において、医療機関ではテキスト形式等の標準化されていないデータも多く存在しています。
医療機関のデータ提供に係る課題を次の図表１に示します。

こうした医療機関のデータ提供に係る課題に対して、政府の次世代医療基盤法による認定事業者を介した医療情報の収集や、製薬企業による電子カルテと臨床試験EDCシステム連携の取組、医療ITベンダーによるデータの暗号化技術（秘密計算・秘密分散等）等の開発等が盛んに取り組まれており、今後医療機関側の負担は軽減し、よりデータ利活用は活発化していくことが想定されます。

まとめ

医療データの第三者提供が推進することで、診療精度の向上や製薬企業等のデータ収集に係る業務負担の軽減等の様々なメリットを生み出すことが期待されています。

今後のデータ利活用促進のためには、データ提供を行う医療現場の負担軽減に考慮したデータ収集の仕組みを検討していく必要があります。

これから進展が予測される医療機関のデータ利活用は、医療の質が向上することでサービスを受ける患者にとっても有益な取組となるため、今後、更なる医療機関、製薬企業、医療ITベンダー等の連携が強く望まれます。