ナレッジ
医師の働き方改革に向けた実効性のある取組み
医師の労働時間削減に向けた実効性のある具体的取組みの推進に向けて
2018年6月、働き方改革関連法が成立しました。医師の働き方改革については応召義務等の特殊性、長時間労働等の勤務実態と共に、地域における医療提供体制全体の在り方、医師一人一人の健康確保に関する視点を十分考慮して検討を進めることとされています。医師に対する時間外労働規制の適用は2024年4月からですが、個々の医療機関には、適用猶予期間においても時間外労働時間の削減に向けた実効性ある取組みを推し進めることが期待されています。
医師の働き方の現状
国内には約30万人の医師が存在しますが、働き方改革の直接の対象となるのは勤務医となっており、その人数は約24万人になります。
総務省が1週間の労働時間について、週60時間を超える雇用者がどの程度存在するかを業種ごとに調査した結果によると最も多いのが医師となっています。
男女別でみると、常勤病院勤務医の労働時間(診療時間+診療外時間+当直の待機時間)は、男性41%、女性28%が週60時間以上、男性11%、女性7%が週80時間以上となっています。
又、年齢別でみると、男性は年代が上がるにつれて労働時間が減少する一方、女性は40代で一旦短くなり、50代以上で再び長くなる傾向にあります。
「働き方改革関連法案」の改正により企業の残業時間上限は年間720時間となりましたが、2019年1月の 第16回 医師の働き方改革に関する検討会資料「時間外労働規制のあり方について③(議論のための参考資料)」によると、勤務医の約4割は年間残業時間が960時間以上であり、約1割の勤務医の年間残業時間は2000時間を超えています。この調査結果はコロナ禍以前のものであり、現状はより過酷な状況にあることが推察されます。
働き方改革に向けた制度的枠組
時間外労働規制の適用
2019年7月に設立された厚生労働省の「医師の働き方改革の推進に関する検討会」では、2020年12月の中間報告において、勤務医には以下に挙げる水準に沿って時間外労働規制が適用されるとしています。
- A水準:2024年4月から医師の時間外労働上限を適用し、原則として年間960時間以下とする。
- B水準:救急医療など地域医療に欠かせない医療機関の場合、時間外労働を年間1860時間以下とする。
- 連携B水準:地域の医療提供体制を確保する為に医師を派遣する医療機関の場合、個々の医療機関での時間外労働を年間960時間以下とするが、全医療機関の通算は年間1860時間以下とする。
- C水準:研修医など短期間で集中的に多くの症例を経験する必要がある場合、時間外労働を年間1860時間以下とする。
なお、B水準・連携B水準については2035年度で廃止することが検討されていますが、この点については、医師の働き方改革や地域医療の確保状況を踏まえ、現実的に2035年度にB水準・連携B水準を廃止できるかという議論が続くものと考えられます。
計画的な労働時間短縮に向けた取組み
医療機関がB、C水準となるためには厳格な基準が設けられ、B水準であれば「年間の救急車受入台数1000台以上の2次救急」等の要件を満たすことに加え、医療機関が「医師労働時間短縮計画」を作成し、都道府県の指定を受けることが必要となります。
B、C水準は、医療機関内のマネジメント改革を進めてもなお、地域に必要な医療提供体制の確保のためにA水準を超えざるを得ない場合に適用される水準であることに留意する必要があります。
各医療機関では、勤務医の労働時間短縮に取組み、時間外労働時間を年間960時間以下とすることを目指したうえで、労働時間短縮計画を実行しても時間外労働時間が年間960時間を超える勤務医がいる場合に、B水準指定等を受けることになります。
このため、医療機関は今から計画的に労働時間短縮に取り組まなければなりません。労務管理を徹底する、タスク・シフティングを推進する等、実効性のある取組みが求められます。
医師の労働時間短縮に向けた緊急的な取組み
時間外労働規制の適用に先立ち、「医師の働き方改革に関する検討会」では、医師の労働時間の短縮策についての検討を進めた結果、「医師の労働時間短縮に向けた緊急的な取組み」をまとめており、時間外労働規制が適用される2024年4月までの猶予期間において、各医療機関が自主的に以下の取組みを進めてもらえるよう周知を図っています。
- 医師の労働時間管理の適正化に向けた取組み
- 36協定等の自己点検
- 既存の産業保健の仕組みの活用
- タスク・シフティング(業務の移管)の推進
- 女性医師等に対する支援
- 医療機関の状況に応じた医師の労働時間短縮に向けた取組み
働き方改革を実現していくためには、個々の医療機関が勤務環境の改善を通じ、医療従事者が健康で安心して働くことができる環境整備を促進することが重要です。2014年には医療機関の勤務環境改善に関する改正医療法の規定が施行され、医療機関が計画的に勤務環境改善に取り組む仕組みである「勤務環境改善マネジメントシステム」が導入されました。
厚生労働省は勤務環境改善支援センターを各都道府県に設置し、社会保険労務士や医業経営コンサルタントが個々の医療機関の取組みを支援する態勢が整備されています。
実効性のある取組み事例
医師の労働時間削減につながるタスクシフティング
先述した通り、医療機関は罰則付き時間外労働時間が適用される2024年4月に向けて具体的な取組みを始めることになります。医師の労働時間短縮計画は遅くとも2021年度からスタートする必要があり、医療機関には実効性のある取組みが早急に求められています。
厚生労働省が2013年に実施した「病院勤務医の負担の軽減及び処遇の改善についての状況調査」において「今後、勤務医の負担軽減のため必要と考える対策として増員が必要な職種」を調査したところ、医師に次いで多いのが「医師事務作業補助者」という結果になりました。また、勤務医の負担の軽減策について、医師が「効果があった」と評価した取組みは、常勤医師の増員に次いで「医師事務作業補助者の配置」という結果となりました。
厚生労働省 医療専門職支援人材確保支援事業
厚生労働省では、医師の労働時間削減につながるタスクシフトを実現する取組みとして、令和2年度に「医療専門職支援人材確保支援事業」を展開しています。医療専門職支援人材とは、医師事務業補助者に加え看護補助者も含まれます。看護師が行っている業務の一部を看護補助者が担うことにより、看護師の業務負担を緩和し、医師のサポートを行えるようになり、医師が入院患者一人当たりに費やす時間を削減する等の効果が期待されています。
以下に同事業において公開されている医療専門職支援人材のPR動画をご紹介します。
【医師事務作業補助者編】あなたにでもきる!病院は、医師や看護師を支援する人材を求めています
https://www.youtube.com/watch?v=1b2zQ5rdBj0
【看護補助者編】あなたにでもきる!病院は、医師や看護師を支援する人材を求めています。
https://www.youtube.com/watch?v=HlFFTJVsrkA
医療機関に期待されること
医師に対する罰則付き時間外労働規制の適用は2024年まで先送りされていますが、各医療機関においては、先述したように今の段階から緊急的に取り組むべきことが整理されています。自らの状況を踏まえ、できることから自主的な取組みを進めることが重要であり、各医療機関の状況に応じ、医療専門職支援人材の活用をはじめ、具体的な取組みについて積極的な検討・導入に努めることが期待されています。
執筆
有限責任監査法人トーマツ
リスクアドバイザリー事業本部 ヘルスケア
※上記の部署・内容は掲載時点のものとなります。2021/1
関連サービス
ライフサイエンス・ヘルスケアに関する最新情報、解説記事、ナレッジ、サービス紹介は以下からお進みください。
ライフサイエンス・ヘルスケア:トップページ
■ ライフサイエンス
■ ヘルスケア
ヘルスケアメールマガジン
ヘルスケア関連のトピックに関するコラムや最新事例の報告、各種調査結果など、コンサルタントの視点を通した生の情報をお届けします。医療機関や自治体の健康福祉医療政策に関わる職員様、ヘルスケア関連事業に関心のある企業の皆様の課題解決に是非ご活用ください。(原則、毎月発行)
>記事一覧
メールマガジン配信、配信メールマガジンの変更をご希望の方は、下記よりお申し込みください。
>配信のお申し込み、配信メールマガジンの変更
お申し込みの際はメールマガジン利用規約、プライバシーポリシーをご一読ください。