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コロナ禍こそ病床ダウンサイジングの検討を
新型コロナウイルス感染症の影響によって、専用病床は埋まっているが、それ以外の病床に空きが生まれている。その中で、病床数のダウンサイジングに活用できる補助金がある。人口減少により患者数の減少が必然であるならば、地域医療構想を実現していく中で補助金を活用しながら、適切な病床数にダウンサイジングすることを、経営戦略の一つとして検討する。
コロナ対応用以外の病床は空いている
新型コロナウイルス感染症の影響により、医療がひっ迫しているとのニュースが世間を騒がしている。たしかに新型コロナウイルス感染症に対応できる病床数はひっ迫しており、職員が疲弊しているのは事実であろう。一方で、感染症に対応する病床以外の病床については稼働率の低下が懸念されている。
日本病院会、全日本病院会協会、医療法人協会が行った調査によると、2020年5月の病床利用率は前年同月に比べ9.1%低くなっており、最新の調査結果である9月においても前年同月に比べ4.4%低い結果であった。5月は緊急事態宣言が出ており、予定手術の入院など急を要しない診療を先送りすることにより、利用率が下がっていたことが要因と考えられる。感染者数が減ってきた夏以降、徐々に患者数が戻ってきたものの、それでも前年の水準には届いていない状況であった。
一般的に、病院は冬に病床利用率が上昇する。季節性の感染症による発熱、脱水等の入院が増加するためだ。厚生労働省の発表によると、12月7日から13日のインフルエンザの報告数は、前年同期の77,425件に対し、わずか57件である。これは日本全国の件数である。前年対比0.07%まで減少しているのだ(出所:厚生労働省 インフルエンザの発生状況について(令和 2 年 12 月 18 日))。新型コロナウイルス対策の効果なのかは不明だが、この様相が続くならば冬の病床稼働率増加は見込めない。
全国の病床利用率 2019年、2020年比較(%)
病床のダウンサイジングに補助金が付く
新型コロナウイルス感染症が流行する前から決まっていたことだが、地域医療構想の実現に向けて、「病床機能再編支援補助金」として、病床のダウンサイジングを行うことに交付される補助金がある。削減した病床数に応じて補助金が給付される仕組みである。
注目すべきは平成30年度病床機能報告の稼働病床数からの削減に対して支給する点だ。病床機能報告の稼働病床数とは、平成30年7月1日現在で過去1年間、 患者の収容を行っていない病床数を除いた実稼働病床数としている。平成30年度病床機能報告はコロナ禍になる以前の稼働状況からの削減が評価されるため、感染拡大後にはすでに患者数が減少している病院も多いだろう。無理に患者数を減少させるのではなく、新型コロナウイルス感染症の影響によって自然に稼働が下がった病床をダウンサイジングすることで補助金が得られるならば、病院経営者にとっては、是非とも活用したい補助金との考え方もあるであろう。現在はすでに申請期間は終わっているが、予算の執行状況によっては追加募集がある可能性がある。
病床削減支援給付金 支給対象
病床削減支援給付金 支給要件
病床削減支援給付金 支給額の算定方法
コロナ後に入院患者は戻ってくるのか
ダウンサイジングを決定してしまえば、病床を増やして元に戻すことは容易ではない。このコロナ禍にて減少した患者数は、果たして、感染が終息すれば戻ってくるのか、戻ってこないのか。それぞれの病院で、入院患者数が減少した理由を分析し、判断していかなくてはならない。感染予防のために、入院を遅らせているケースの患者は、感染が終息すれば戻ってくるだろう。一方、コロナ禍において入院しなかったケースの中には、必要性が問われる入院もあったのではないか。
全国的に高齢化が進むとは言え、人口は減少の一途を辿っている。新型コロナウイルス感染症の影響がなくとも入院患者数は減少傾向にあったのかもしれないが、新型コロナウイルス感染症の影響によって、減少傾向が加速したとも考えられる。患者数の減少が必然であるならば、、地域医療構想を実現していく中で、補助金を活用しながら、適切な病床数にダウンサイジングすることを、経営戦略の一つとして検討する意義は大いにあると思われる。
執筆
有限責任監査法人トーマツ
リスクアドバイザリー事業本部 ヘルスケア
※上記の部署・内容は掲載時点のものとなります。2021/1
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