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【連載企画】医師の働き方改革の進め方

第5回:労働時間制度の見直しを通じて、医師の業務量を大きく変えずに時間外労働を短縮する

2024年に向けて医師の働き方改革は医療機関において避けて通れないテーマです。連載企画第2回では医師個人及び医療機関にとって働き方改革の重要性について触れ、第3回では具体的な医師の働き方改革の概要とポイント、第4回では病院経営の観点から見た医師の働き方改革と令和4年度診療報酬改定動向について紹介しました。本稿では、診療科に応じた労働時間制度のあり方について解説します。

業務量を大きく変えずに、時間外労働を短縮する

医師の時間外労働の上限規制が2024年4月1日から適用開始されます。先行して取り組んでいた医療機関を除き、2022年4月から本格的に取組みを開始される高度急性期・急性期病院などは多いかと思いますが、検討状況はいかがでしょうか。恐らく、医師数が増えない限り無理だ、と決めて議論が停止しているケースが少なからずあるのではないかと推察します。大学医局人事の方針で医師の確保が進んでいないといった現状や自院の医師給与を上げたくても上げられない人件費上の課題などをよく伺いますが、これらの問題は恐らく2024年の法適用までに解消するのは困難であろうと思料します。ただ、現時点で月100時間や年960時間(B・C水準は年1,860時間)の時間外労働上限の譲歩や延期が国から表明される気配はなく、国の歩み寄りを待っているだけの対応は危険です。

では、何から取り組めば良いか。

デロイト トーマツ ヘルスケアでは、医療機関における医師の働き方改革を一歩前に進めるため、「第1ステップとして医師数や医師1人あたりの業務量をなるべく変えずに、法対応していく(時間外労働を短縮していく)」という考え方でこの課題にあたっていくべきだと考えています。要するに、変形労働時間制をはじめとする労働時間制度の活用です。仮に朝から翌朝まで医師が働いていたとしても、時間外労働となる時間帯を何時から何時にするかというルール次第で時間外労働時間は変わります。しかし、変えるのはあくまで労働時間制度であるため、実際の医師の業務量自体は大きく変わらないということになります。

 

取り得る労働時間制度のパターンとは?

どのような労働時間制度が有り得るかをご説明します。以下は、あくまでも我々が過去に支援した事例の一部です。

自己裁量で勤務時刻を決められるフレックスタイム制は患者を抱える勤務医には現実的ではなく、1年間の変形労働時間制は手続や運用上で制約が多いため、一旦除外します。また、多くの医療機関で悩むのは、日当直のある診療科の扱いだろうと推察しますので、いずれも日当直を行っている診療科の例でご紹介します。

 

【勤務制度のパターン例】

現行:日勤制/1日8時間/土日休

 

日勤制/1日8時間/週休2日(曜日固定なし)
1ヵ月変形労働時間制(夜勤無)/1日4・8・10時間/週休2日(曜日固定なし)
1ヵ月変形労働時間制(夜勤有)/1日8時間/週休2日(曜日固定なし)

【前提】

日当直を行う診療科の労働時間制度を議論する際、最初にポイントとなるのは当該診療科の勤務状況で宿日直許可が得られるか否かです。宿日直許可は労働基準法上、労働基準監督署長の許可を受けた場合に労働時間規制を適用除外できるというもので、要件として、

■ 通常勤務との非継続性、軽度・短時間であること

■ 断続的労働であること(常態としてほとんど労働することがない勤務であり、かつ夜間に十分な睡眠がとり得ること)

■ 宿直業務は週1回、日直業務は月1回を限度とすること

などが宿日直許可基準通達で示されています。

 

 

宿日直がない診療科又は宿日直許可が得られる診療科の場合

【改善例①】

・宿日直がない診療科で、土日(週休日)の出勤が常態化しているケース

・週休日を平日に移動し、土日を休日勤務でなく所定勤務日とした

この診療科では、宿日直当番は行っていませんでしたが、時間外労働が多い傾向にありました。実際にタイムスタディ調査を行うと、平日はカンファレンスや研究・論文執筆業務などで多少の院内居残りはあるものの、時間外労働の大半は土日(週休日)の病棟回診等による休日出勤の常態化が影響していることが確認できました。そのため、土日を時間外労働ではなく通常の所定勤務日とし、その分、週休日を平日の比較的業務の少ない日に特定して休んでもらう方法を選択しました。ただし、業務が少ない日といっても必要であればイレギュラーな出勤は想定されるとのことでしたので、当日が勤務日の医師と休日の医師との間での業務分担や申送りの方法が今後の課題です。

【事例②】

・宿日直がある診療科で、平日の時間外労働が多く、土日(週休日)も午前中のみ常態的に出勤しているケース

・ロング日勤と土曜の半ドンを設けて時間外労働を減らした

この診療科では、宿日直当番を担うものの大半は寝当直であると確認できました。そこで、病院長判断にて宿直明けは週休日とすることにしました(宿日直許可が得られた場合、当直帯は労働時間規制から除外されます)。とはいえ、宿直明けが平日の場合、外来や通常日勤業務が発生します。そのため、病院長方針で少なくとも専攻医については、宿直明けに外来・検査等の実務は行わないものと決めました(申送り業務で昼間まで残る場合を除く)。

また、宿日直以外の勤務において、カンファレンスなどがある特定の曜日は時間外勤務が多く、土日の休日も病棟回診などで日直当番以外も常に半日程度出勤している状態でした。そこで診療科部長と協議し、1ヵ月の変形労働時間制を採用し、平日にロング日勤を設けて、土曜は半ドンという変則的な勤務にしました。もちろん、そのままでは単に労働時間が増えてしまいます。しかし、前述の通り、平日の宿直(許可有)明けは終日週休日としたため、平均すると週40時間にすることができ、平日終業時刻後の時間外と土曜の半日の両方を時間外労働から外すことができました。

 

宿日直許可が得られない診療科の事例

【事例③】

・宿日直がある診療科で、宿日直許可基準に該当しないケース

・「夜勤」を設けて夜間の時間外労働を所定勤務時間とした

・夜勤明けが外来のある平日でも休めるよう、主治医制ではなくチーム制とした

次に宿日直許可を取得できない診療科についてです。主にICUや循環器系の診療科を対象に検討を行いました。宿日直許可が得られない場合、本来は夜間の業務はすべて時間外労働となります。しかし、変形労働時間制を適用して日勤帯の8時間を翌日早朝の深夜帯にずらして「夜勤」という枠にすることで、深夜帯を時間外労働から外すことができました。ただ、問題は夜勤明けの休息と夜勤明け翌日の休日確保でした。努力義務ではありますが、宿日直許可がないA水準の場合、連続勤務制限28時間及び夜勤明けは連続18時間のインターバルが今後法令上求められることになります。ICU系の場合は、もともと交代で患者を診る慣習がありましたので、少なくとも我々の支援した事例では、夜勤明けの申し送りが終われば午前中での退勤は可能でした。ただ、循環器系は患者によって診療の標準化が難しく、特に主治医制の体質が強いことが傾向としてあるかと思われます。そのため、夜勤明けの午前中に完全に退勤するためには、チーム制をどこまで取り入れられるかがポイントになりました。本稿ではチーム制事例の説明は割愛しますが、チーム制といっても画一的なものでなく、様々なパターンがありますので、実態に応じた形を検討いただければと思います。

 

時間外労働短縮=これからの時代に適用した患者中心の診療スタイルを考えること

上記で申し上げた内容はあくまで一例です。その他にも心臓外科や産科などでは上記以外の労働時間制度でさらに多様なパターンを設けていますし、拘束や休憩時間の取り方次第ではさらに労働時間制度に応用を効かせるケースもあります。

しかし、労働時間制度だけでは時間外労働がどうやっても法定の上限規制に収まらないケースもあろうかと思います。我々としても冒頭で「第1ステップとして業務量をなるべく変えずに時間外労働を短縮していく」という考えをお示ししましたが、もし、労働時間制度を見直しても効果が見られそうにない場合は、医師増員やタスクシフト・ICT化などにも投資していくべきと考えています。とはいえ、大きく業務を変えることになれば、患者家族や医師の学習機会等への影響は避けられません。一方で、時間外労働の上限規制適用という法対応も避けられません。ならば、法対応を受身的に行うのではなく、月100時間・年960時間の限られた時間を使って、「これからの時代に適用した先進的な患者中心の診療スタイルとは何か」を各病院・各診療・各医師で積極的に議論していくことが何よりも重要ではないかと考えています。

世間動向や時代の流れという波に抗うのは何かと大変です。少なくとも、この記事をご覧いただいた方には是非、この波を利用し、上手く乗りこなして頂きたいと思っています。

 

次回掲載予定

次回は、病院機能・戦略の点から見た医師の働き方改革の具体的な取組み事例についてご紹介する予定です。是非次回もご覧いただければ幸いです。

執筆

有限責任監査法人トーマツ
リスクアドバイザリー事業本部  ヘルスケア 

※上記の部署・内容は掲載時点のものとなります。2022/3

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