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介護保険の改正議論と第8期計画策定におけるデータ分析の重要性

介護予防・自立支援・重度化防止への取組と介護給付費適正化のための具体策

社会保障費の増大が問題となるなか、特に介護給付費の伸びが課題となっており、政府も介護予防に関する取組や保険者機能を強化推進するため、保険者機能推進交付金(インセンティブ交付金)を制度化し各保険者の取組を後押ししている。 保険者は第8期介護保険事業計画策定に向けた各種調査・地域分析を進めていく必要があり、地域包括ケア「見える化システム」や介護給付レセプトデータ等を活用したデータ分析の能力が強く求められている。

介護保険制度の次期改正の方向性

高齢化の進展に伴う社会保障費の増大が年々注目を集めています。平成30年5月に開催された経済財政諮問会議の報告によると、介護給付費は2040年には25.8兆円と、2004年の10.7兆円から約2.4倍にまで膨れ上がることが見込まれています。(図表1)

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平成12年から開始された介護保険制度ですが、平成30年4月時点では65歳以上被保険者数が約1.6倍に、サービス利用者数は約3.2倍に増加しており、急速に拡大しています。この間、地域密着型サービスの新設などサービスの種類を増やして地域住民のニーズに対応する一方で、訪問介護や通所介護などの予防給付の一部を保険者である市町村が実施する地域支援事業に移行して多様化を図ったり、一定以上の所得のある利用者の自己負担を段階的に引き上げたりするなど、近年は制度の拡大よりも持続性の確保に重きを置いた改正が続いています。

そうした中で、現在、第8期(令和3年度から令和5年度)の介護保険事業に向けた制度改正の議論が急ピッチで進められています。これまでは主に団塊の世代が75歳以上となる2025年を見据えた議論が中心となっていましたが、今回からはさらにその先の2040年への備えを見据えた改正が議論されており、市町村は動向を注視していく必要があります。

直近の、第85回社会保障審議会介護保険部会(令和元年11月14日)で改正の論点ごとの議論の状況がまとめられており、現時点での改革の目指す方向は、『地域共生社会の実現と2040年への備え』と位置づけられ、改革の3つの柱として、『介護予防・地域づくりの推進~健康寿命の延伸~/「共生」・「予防」を両輪とする認知症施策の総合的推進』、『地域包括ケアシステムの推進~地域特性等に応じた介護基盤整備・質の高いケアマネジメント~』、『介護現場の革新~人材確保・生産性の向上~』が掲げられています。そして、この3つの柱を下支えする改革として、『保険者機能の強化』、『データの利活用のためのICT基盤』、『制度の持続可能性の確保のための見直し』が位置づけられています。

議論の中で特に動向が注目される項目として、軽度介護者に対する生活援助サービスの地域支援事業への移行や、ケアプランの利用者負担の見直し等があります。どちらも賛否両論ある中での議論であるため、今後どういった方向に向かっていくのか、注視していく必要があります。

第8期介護保険事業計画のポイント

第8期介護保険事業計画の策定にあたっては、上述の改革の3つの柱に重点を置きながら検討を進めていくことが求められます。特に、地域の特性に応じた介護予防の在り方や生活支援の在り方などについては、今後の改正の方向性を踏まえて、検討を進めていく必要があります。そして、介護予防や生活支援の実施にあたっては、第5期の介護保険事業計画策定時から進められている介護予防・日常生活圏域ニーズ調査で、地域にどのような高齢者がいるのか、市町村がしっかりと地域分析を行い、的確に課題を把握しなければなりません。

この地域分析にあたっては、『地域包括ケア「見える化」システム』を活用して、地域間の介護給付の状況を比較し、被保険者の置かれている状況を把握することが求められます。『地域包括ケア「見える化」システム』は、介護保険事業に関する「現状分析」、「施策検討」、「将来推計」、「実行管理」を行えるツールとして厚生労働省が提供するシステムですが、計画策定にあたって、このツールを十分に活用することが肝要です。このシステムは、一義的には自治体職員等により活用されるものですが、一般の利用者も機能は限定的ではあるものの利用可能となっていますので、地域の介護の状況を把握するために活用することができます。

また、平成30年度より、保険者機能をより強化・推進すべく、保険者が地域の課題を分析して、自立支援・重度化防止に取り組むとともに、財政的インセンティブを付与すること(保険者機能強化推進交付金)が制度化されています。

予算額としては200億円でスタートしている保険者機能強化推進交付金ですが、直近の報道によると、令和2年度は予算額を倍増して400億円とする話も出ており、どのように保険者強化の取組を進めていくか、保険者にとっても重要な課題となっています。どの項目での取組が弱いかを把握して、第8期ではそこを重点的に取組の検討を進めるなど、ただ点数(交付金)の大小を考えるだけではなく、この制度をPDCAのツールとして活用していくことが重要です。

データ活用によるPDCAサイクルの実践

平成30年度より居宅介護支援事業所の指定権限が都道府県から市町村に移管されており、ケアマネジャーの指導・育成を各保険者がしっかりと取り組んでいく必要があります。これまでも、ケアプランチェックや自立支援型の地域ケア会議での検討など、質の高いケアマネジメント実現への取組は進められてきています。しかし、実態としては、制度の拡大が急速に進んだことにより、市町村側のマンパワーが足りずに十分なチェックができていなかったり、保険者(ファシリテーター)としての能力不足によって、効果的な地域ケア会議ができていなかったり、といったことが散見されるのも事実です。

 

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今後は、質の高いケアマネジャーとそうではないケアマネジャーを保険者がしっかりと把握し、随時状況を確認できる体制を整えることが非常に重要となってきます。

例えば、介護給付費適正化の視点として、介護給付限度額に対してどの程度利用したか(過剰なサービス提供をしていないか)を把握する指標として平均消化率(担当している利用者の介護保険限度額に占める利用額)をチェックします。また、自立支援・重度化防止の視点として担当利用者の要介護度が維持・改善しているかを把握する指標として要介護度の平均変化率(担当している利用者の要介護度変化/要介護度)をチェックします。この2つの指標を一つのグラフ内(図表2)でチェックすることで、ひと目で効果的・効率的なケアプランを作成できているか概況を把握することができます。もちろん、利用者の状態や環境により、必要なサービスや量は変わってきますので、絶対的な指標とはなり得ませんが、極端な数値となる方をピックアップして保険者としてその状況を確認・管理することができます。そのため、少ないマンパワーの中でも比較的手間をかけずにケアマネジメントのコントロールが効率的にできます。その中で、質の高いケアマネジャーの取り組み方を研修等で横展開していくことによって、地域で「質の高いケアマネジメント」を提供できる体制が構築されていきます。

改正の方向性でも触れましたが、現在は10割給付となっているケアプラン作成ですが、今後利用者負担が発生することも考えられます。利用者負担が発生すると、利用者の主張が強くなってしまい、ケアマネジャーの知見が生かされないケアプランとなってしまう可能性も言及されており、介護給付費のさらなる増加を招きかねません。そうならないためにも、今から質の高いケアマネジメントが実施できる体制を構築し、利用者の意識改革も併せて実施する必要があります。

 

質の高いケアマネジャーの確保

上記の通り、ケアマネジャーに求められる役割が年々大きくなっているのに対し、人材確保が難しくなっている現状があります。特に、昨年度はケアマネジャー試験の受験者が半減するなど、大変厳しい状況にあります。改正の議論の中でも、ケアマネジャーの処遇改善や負担軽減は議論されていますが、各保険者が我が事として育成・環境整備を図ることが重要です。保険者としてケアマネジャーの地位向上を図り、質の高い人材を確保していくことが必要となってくると考えられます。

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