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解説 地域医療構想 機能再編方針検討のススメ

新型コロナウイルスの終息の目途が立たない中、平時の議論であった地域医療構想は今後どのような展開が予想されるのかについて、厚生労働省が開催している地域医療構想に関するワーキンググループで議論が行われています。 今後の地域医療構想がどのように進んでいくのかを予測しながら、病床の機能再編の考え方について解説します。

新型コロナウイルス感染症対応の中での地域医療構想の議論

厚生労働省で開催されている地域医療構想に関するワーキンググループ第30回で委員に提示された資料において、既知のとおり、感染症への対応が続く中にあっても、人口減少・高齢化は進行し続けている中、医療ニーズの変化・マンパワーの制約が厳しくなっていく状況には変わりがないことが認識として示されており、今後も地域医療構想の中長期的な課題認識に変化はないとされている。

具体的な新興感染症への対応について、都道府県が策定する医療計画に織り込んでいき、感染症が拡大した際には機動的に対応ができる体制の整備が今後進んでいくこととなる。

こうした体制を整備していくために、新型コロナウイルス感染症の感染拡大前から進められてきた公立・公的医療機関の具体的対応方針の再検証を踏まえて、民間医療機関においても改めて対応方針の策定を進めて、地域医療構想調整会議の議論を活性化させながら、地域医療構想の実現に向かっていくことが提言されているところである。

また、国からは重点支援区域を設定し、技術的・財政的な積極的支援を継続させていくこと、病床機能再編支援のための財政支援を行うほか、再編統合の際の資産等取得における税制の在り方を検討していくことが提言されている。

ただし、一律な基準で議論を深めることは困難であるほか、感染拡大の状況下にある現時点において、工程を示すことが適切ではないといった指摘が上がっている。そこで、厚生労働省としては、自主的な検討・取組を進めている医療機関へは積極的な支援を行うこと、また、地域医療構想の今後の工程については新型コロナウイルス感染症への対応状況に配慮をしながら、国と都道府県が協議を行いながら工程を検討することが適当としている。

 

公立・公的医療機関等の具体的対応方針の再検証はどう進められるか

公立・公的医療機関等の具体的対応方針の再検証が過去に提示された際、424もの病院が今後の病床機能について再検証を行うことが求められていたが、新型コロナウイルス感染症への対応が急務の課題となっていることから、その後の議論はこれまであまり積極的には実施されていないところであった。

従来の議論では、A項目(診療実績が特に少ない)、B項目(類似かつ近接)の2点から分析を行い、具体的対応方針の再検証を求める医療機関を決定していた。当該資料の公表により、多くの医療機関から反論が続出したことは記憶に新しいが、一律な分析手法については今後修正が進むことが考えられる。

具体的な分析手法の方向性が、地域医療構想に関するワーキンググループ第31回の資料において示されている。人口100万人以上の構想区域(全国で25の構想区域がある)にあっては、B項目(類似かつ近接)の分析スキームによるのではなく、それぞれの公立・公的医療機関等において、地域の実情や診療実績に応じて具体的な対応方針の妥当性を再確認し、地域医療構想調整会議等で改めて議論することを求める方向性が示された。この点について、参加している委員からは賛成の意見があるところであり、より実態に即した公立・公的医療機関等が対応方針の妥当性を再確認していくこととなると考えられる。

 

人口規模別での医療資源の分布状況が示された

次の表に示されているとおり、100万人以上の人口規模のある構想区域では狭い面積の中に多くの医療機関が所在し、多くの病床数が整備されている。特に病院数では、人口50万人以上100万人未満の構想区域よりも小さい面積に約2倍の病院が所在することが指摘されている。

このような状況下で、100万人以上の規模の構想区域において近接する病院があるかどうか議論することに無理があると判断されるところであり、今後改めて個別に対応方針を検討していくことの重要性が高いことが議論されている。また、人口100万人以上の規模の構想区域においては、99パーセントの病院が同一構想区域内に車で20分以内の距離に他の病院が10を超えて立地していることが国土交通省の総合交通分析システムを活用して示されている。

 

出所:厚生労働省 地域医療構想ワーキンググループ第31回資料より作成

隣接状況については、100万人以上のいわゆる都市部とその他の構想区域では、指摘されているとおり相違がみられることが確認されている。さらに次の表に示すとおり、100万人以上の構想区域の半数以上で2025年までの人口が増加していくことが見込まれており、人口の増加に伴い今以上に患者数も増加していくとの見込みが示されている。

 

出所:厚生労働省 地域医療構想ワーキンググループ第31回資料より作成

都市部とそれ以外の地域での今後の対応方針をどう考えるべきか

人口100万人以上の構想区域に限らず、人口が密集している区域も含め、地域医療構想においてどのように具体的な対応方針を再確認するべきであろうか。

デロイト トーマツ グループで開催したセミナーでは、次の表のとおり機能調整の方向性を提案している。これまでに各都道府県において提示されている地域医療構想の策定に関する資料に含まれているが、構想区域内外での患者の流出入の状況も踏まえ、自院の方向性を検討することを提案したい。

高度急性期機能については地域における医療資源を集約化することが合理的と考えられる。一方で、急性期機能については過剰となっている構想区域が多いが、急性期機能の病床については、専門性を高めて高度急性期機能にシフトさせていくことができなければ、回復期機能を発揮できるよう病床機能の転換を図ることが適当であると考えられる。また、慢性期機能の病床については、回復期機能の発揮ができる病床機能への変更を検討するか、介護医療院をはじめとする介護施設への転換についても検討をすることが考えられる。

なお、人口の少ない構想区域においては、回復期機能への機能転換こそが最も求められるところであるものの、必要最低限の急性期医療が提供できる体制を確保できるよう方向性を検討することが肝要である。

公立・公的・民間それぞれがどのように機能再編を進めるべきか

新型コロナウイルス感染症への対応では、公立・公的医療機関等が重要な役割を果たしている状況である。民間の医療機関も重症疾患の受入を積極的に進めているところであるが、やはり新型コロナウイルス感染症への対応は引き続き公立・公的医療機関等が地域の感染症医療における後方支援病院として、重症疾患までの受入体制を整備するべきと考えられる。また、民間の医療機関は回復期医療や慢性期医療は得意としているところであり、公立・公的医療機関等が率先して回復期等の医療機能に転換することが機能再編に関する具体的方針として必ずしも適当ではないケースもあるため、民業圧迫とならないよう慎重に検討していくことが重要である。

 公立・公的医療機関等は、公的な組織体であることから、民業圧迫とならない範囲で、地域で必要と考えられる病床機能への経営資源の集約化を図る方針を中心として検討するべきであるが、公立・公的医療機関等が中心的な役割を担っている地域では、急性期医療から回復期医療まで幅広く対応していくことが求められると考えられる。今後の地域医療構想調整会議においても、客観的なデータを積み上げることで、幅広く対応が必要であることを示し、説明していくことが重要であると考えられる。

一方、民間の医療機関については、現段階では都道府県から強制的に機能再編を指示される状況にはないものの、地域における自院のポジショニングを確認し、疾患動向を予測することで、今後の対応方針を対外的に説明できるよう、準備していくことが求められるものと考えられる。

また、地域医療構想を実現させるための手法としては、急性期医療の集約のために経営統合ありきで進めて統合後の病院が巨大戦艦化することがないようにと、地域医療構想検討WGでも懸念のコメントがあるように、地域医療構想調整会議等において十分に議論を尽くすことがこれまで以上に重要であると考える。

以上のように、客観的に定量的なデータ分析から導出される自院が進むべき方向性について、地域医療構想調整会議において示していくことが重要であるが、同時に医師確保や地域住民の声など、単純にデータのみでは推し量ることのできない定性的な要素も納得感と現実的な議論に向かわせるために重要であるため、諸々の調整を図りながら進めていくことが肝要となる。

 

執筆

有限責任監査法人トーマツ
リスクアドバイザリー事業本部  ヘルスケア 

※上記の部署・内容は掲載時点のものとなります。2021/8

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