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デンマークの自治体改革と医療制度改革から学ぶ
経営コンサルタントも大注目、世界有数の社会福祉国家デンマークの進める一大改革をご紹介します
近年スーパーホスピタル建設や遠隔医療の国家プロジェクトを進める社会福祉国家デンマークの動向は世界から注目を集めています。背景には高齢化と医療費増加の問題や、首都への人口と産業の一局集中の問題が挙げられます。デンマークが自治体と医療圏を大胆に再編しながら社会課題の克服を目指しているアプローチは、我々日本が地域医療構想を掲げながら進む姿と同一とは言えませんが、学びはあります。
世界が注目! デンマークの国家的な病院再編プロジェクト
- 福祉国家として有名な北欧の国デンマークは、近年スーパーホスピタルの建設や遠隔医療等の様々な分野において先進的な国家プロジェクトを行っており、各国医療関係者、企業、コンサルタントから注目を集めています。
- こうした新しい取組みを積極的に推進してきた理由には、日本と同様に人口の高齢化による医療費増加の問題や、首都コペンハーゲン周辺地域への人口と産業の一局集中の問題に直面してきたことが挙げられます。
- デンマークは長い年月をかけて自治体を改革し、医療圏を5つに再編しながら医療制度改革を推進しており、超高齢化を迎えている日本が学べることは多いと思われることから、今回ご紹介したいと思います。
デンマークで進められる新病院建設イノベーションと日本への示唆|ヘルスケア|デロイト トーマツ グループ|Deloitte
デンマークは小さな国家
デンマークは小国です。我が国の面積、人口と比較してみても一目瞭然で、面積は九州地方、人口は兵庫県サイズです。福祉大国とはいっても日本の一地方並みの広さに一県並みの人口が住み、10人に1人は首都コペンハーゲンに住んでいることになります。こうした国の規模の違いから、GDP総額は日本の15分の1にも満たない水準です。
しかしながら、1人当たりGDPでは、日本を1.46倍と高い生産性を誇っています。
デンマークには世界的有名企業や風力発電など様々な産業があります。中でもデンマークの代名詞と呼べるのは「機能美」を追究したスカンジナビアデザインの北欧家具です。機能は合理的な考え方を元に緻密に設計され、実用性が具備されています。
つまり、今回のテーマである医療制度改革においても美意識の高いデンマーク人ならではの合理的な考え方から生まれた施策であり、アプローチ方法だったのではないかと思料します。
デンマークの自治体再編
過去2回の自治体改革により自治体の権限・機能、数が大再編されました。元々25あったアムトは現在は5つのレジオンに再編され、コムーネと呼ぶ最少単位の自治体は1,300から98まで統合されました。
第1回は1970年、第2回はほぼ10年前の2007年に実施され、ゆうに40年以上の歳月を要しています。
デンマークはこの自治体再編を行うとともに、病院運営に係る権限はレジオンに集約させました(他方、日本ではデンマークに比べると県・市町村・その他に権限が分散し機能が重複していることが課題です)。アムト時代にあった課税権をレジオンにはなくした結果、歳入は一般補助金が主となり、歳出も病院運営費に限定され役割が明確になりました。
デンマークの現在の医療システム
現在デンマークの保健・医療領域は5つのレジオンと呼ぶ広域行政機構が担っています。コペンハーゲンを中心とした「首都地域」と、「シェラン地域」「南デンマーク地域」「北ユラン地域」「中央ユラン地域」の医療圏が設定されています。そして病院数は33まで集約化されました。平均在院日数は2013年時点で4.4日まで短縮され、今日では既に3日まで短縮されています。
このように自治体改革と病院改革を進めてきたデンマークですが、最後に日本とデンマークの医療保険制度の違いを整理します。デンマークは税方式による公営保険医療サービスで、国が医療のほぼ全てを賄うため、日本のように患者が病院窓口で医療費を支払う場面はありません。また、家庭医制度を採用し病院や専門医へのアクセスを見直すことで医療費に歯止めをかけています。医療費支出の対GDP比は日本より低く、人口当たり病床数は日本より大幅に少なく済み、医師数は手厚い状態となっています。
最後に
国・経済規模は違いますが、自治体機構再編と病院数削減、機能再編を時間をかけて進めてきたプロセスは大いに学べます。
本件に関するお問合せ先
有限責任監査法人トーマツ
リスクアドバイザリー事業本部 ヘルスケア
柚木 大介|シニアマネジャー
髙林 由貴
E-mail : dthc_surveyinfo@tohmatsu.co.jp
※上記の社名・役職は、2020/09 時点のものとなります。