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アフターコロナに向け病院に求められる対応

アフターコロナに向けて病院の運営、管理の見直しを始めよう

新型コロナウィルス感染症(COVID-19)は、新規感染者の減少、治療や予防に対する知見の蓄積、クラスターの追跡等により少しずつ収束に向けた道筋が見えつつあります。その一方で、医療機関では、受診抑制、手術や検査の延期、職員の行動変容などにより、経営状況の悪化や労務管理、インフラ整備の遅れ等の問題が発生しています。アフターコロナを見据えて病院に求められる次の対策についてご紹介します。

新型コロナウイルス感染症で思いがけない影響を受けた医療機関の現状

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、2019年11月頃に中国武漢で確認され、その後世界中に感染が広がり、2020年3月にはWHOが世界的流行(いわゆる、パンデミック)を宣言しました。これを受けて日本国内でも4月に緊急事態宣言が出され、不要不急の外出の抑制、レジャーや飲食の制限、3密を防ぐライフスタイルの推奨など新しい生活様式が急速に広まりつつある状況です。テレワーク、マスクの着用やソーシャルディスタンスなどすでに定着しつつあるものもあります。新型コロナウイルスの発生により、人々の生活様式が再構築され、一変しつつあるのが現在の状況ではないでしょうか。そして、医療機関においては、生活様式の再構築や未知の感染症による不安から新たな課題やリスクが生まれつつあります。

新型コロナウイルス感染症によって顕在化した課題、リスク

一般的に既知の感染症(季節性インフルエンザやノロウイルス、疥癬など)においては、その感染性や対策が比較的明確になっており、安全管理、感染管理といった臨床の観点から医療機関の規模に応じた具体的な対応が迅速に行える体制が構築されています。また、必要な措置や対応する医療機関も明確となっており、医療機関の機能に応じた対応が可能でした。しかし、新型コロナウイルス感染症では、既知の感染症とは異なり、新たな課題やリスクが顕在化したと考えられます。その課題を見ていきます。

課題1:医療資器材の不足

医療機関が医療サービスを安定して提供するために必要とされる資器材が不足する状況が長く続きました。東日本大震災や熊本地震でも同様の医療資器材の不足は発生しましたが、地震や風水害と言った自然災害では、被害の大きい地域とそうでない地域があるため、被害の小さい地域からの輸送、共有体制が確保できれば比較的容易に資器材の不足を解消することが出来ました。しかし、全国的に患者が発生した今回のケースでは、患者の多寡に関わらず医療資器材の不足が継続する結果となったと考えられます。

参考文献:厚生労働省 N95マスクの例外的取り扱いについて(https://www.mhlw.go.jp/content/000621007.pdf
厚生労働省 サージカルマスク、長袖ガウン、ゴーグル及びフェイスシールドの例外的取り扱いについて(https://www.mhlw.go.jp/content/000622132.pdf

課題2:医療機関、職員のレピュテーション低下

新型コロナウイルス感染症においては、日々報道等で情報が更新され、社会生活への影響も極めて大きかったことから、医療機関やそこで働く職員に対して、リスクを持つ存在であるとの不安感が先行したと考えられます。これにより、保育施設で子供の受け入れが制限されるなど、結果として医療機関自体のレピュテーションの低下や職員の不安感が高まり、退職や休職を選択する状況が発生しました。

参考文献:厚生労働省 医療従事者等のこともに対する保育所等における新型コロナウイルスの対応について(https://www.mhlw.go.jp/content/000622822.pdf
総務省 新型ウイルス感染症に関連してー不当な差別や偏見をなくしましょうー(http://www.moj.go.jp/JINKEN/jinken02_00022.html

課題3:外来患者、手術、検査実施の延期、減少による医業収入の低下

不要不急の外出の自粛や医療機関への受診が感染のリスクを高めるのではないかと言った不安から外来患者が減少する、医療機関が感染リスクを考慮して不要不急の手術、検査を延期するなどの対応により、本来であれば得られたはずの医業収入が減少しており、その割合は通常時の10%~20%以上の減収となっている施設が少なくない状況です。

参考文献:公益社団法人全国自治体病院協議会 新型コロナウイルス感染症に関する緊急要望について(https://www.jmha.or.jp/jmha/news/info/11883
公益社団法人全国自治体病院協議会 新型コロナウイルス感染症に関する緊急要望について第2弾(https://www.jmha.or.jp/jmha/news/info/11988

課題4:医療機関への立ち入りが難しくなったことによるインフラ構築、改修の遅延

医療機関の多くでは感染リスクの軽減を図る目的で患者、職員を除く業者の立ち入りを厳しく制限しました。この制限は現在も継続している施設があります。また、サプライチェーンを海外に依存している部分においては、納品が遅延するケースが発生しました。
これにより、建物や設備の建築や改修、システムの導入における検討、業務実施が大きく遅延する状況が継続しています。

課題5:策定した業務継続計画(BCP)が活用が不十分

大規模医療機関の多くでは災害発生に備えて、業務継続計画(BCP)が策定されていましたが、その多くは地震や風水害といった自然災害を対象としていたことから、今回の様な新型の感染症においては十分な活用が出来なかったほか、職員の健康管理や状況の把握などの人的リソースの検討が十分でなかったために、計画上必要とされた人員が確保できなかったケースも見られました。

 

直面した課題対応の考え方

それでは、こうした課題をどのように整理し、対応していけばよいかを考えてみます。

まず、課題を整理する前提として

  • 次の流行に備える観点を持つこと
  • 職員、施設、経営と言った医療機関の構成要素を多角的に検討する観点を持つこと
  • 課題整理の重要度をトリアージする観点を持つこと
    が重要です。

例えば、医療資器材の不足に対応するために物品を多く持つ、発注頻度を上げるという観点は比較的容易に検討されますが、同時に物品の保管場所、納品先、利用頻度、利用期限、在庫管理と言った観点も検討し、対応の優先順位を決定していくことが必要と考えます。

また、十分な時間を検討に割くことが出来ればよいのですが、次の流行に備える観点では早急な検討が必要となるかもしれません。

今回は、経営の観点(一例)を中心に整理してみましょう。

検討の観点(一例)

病院経営
・現状の再把握を実施する。(課題1~5)

医療機関(医療グループ)全体でどの程度の減収が発生したかは、3月~5月期(状況により1月から比較してもよいかもしれません)を前年度比較することで大まかに把握している施設が多いと思います。これをさらに、診療科、処置、疾患といった要素や連携医療機関との紹介、逆紹介なども含めて変化を確認していきましょう。現状の把握は、課題を整理する第一歩であることは、新型コロナウイルス感染症の影響下でも同様であると考えます。

・リソースの再確認を実施する(課題1~3)

今回の状況で改めてどのようなリソースが必要であったのか、不足したのか、負荷がかかったのかを再確認していくことが大切です。例えばですが、今回は感染症ですので、感染管理に関連する特定の職員に負荷が高かったことは何となく理解できるかもしれません。同時に、この時期に休暇を多く取っている職員がいなかったかの確認も必要でしょう。休暇を取っている事情を確認し、例えば、お子さんの休園、休校であれば、次に同様の事態となった場合においても業務は難しいかもしれませんし、休暇を取得する際に上長や現場との間で良好な関係が崩れていれば離職の可能性を考えなくてはいけません。

・患者さんに受診を促す(課題3)

医療機関同士の連携が進んでいる現状では、いわゆる待ちの医療機関は少なくなってきていると思いますが、改めて、連携先の医療機関との情報収集や関係づくりは欠かせないと考えます。連携先を訪問しての関係づくりに加えてWEB会議を活用して定期的なミーティングを先生、地域連携室の皆様で行っていくこともよいのではないでしょうか。加えて、電子カルテや医事会計システムなど医療情報システムを活用して、診療や検査を延期した患者さんや慢性疾患など定期的な処方や処置が必要な患者さんが来院されているかを確認し、必要に応じて電話やメールマガジンなどを通じてピンポイントで働きかけることも効果的と考えます。

・契約条件の見直し(課題3~4)

感染症の院内拡大を防ぐ目的で医療機関への業者の立ち入りが制限され、すでに業務や納品に遅れが出ているケースが発生しています。このような場合には、業者との契約期間の延長や役務の見直し、新たな仕様のすり合わせなどが必要となる場合があります。特に、業務の完了日と支払いに関しては当初の契約通り履行できないのであれば医療機関、業者いずれが原因であっても変更契約や覚書の締結が必要でしょう。業者側も在宅勤務が推奨されている場合では、関連の手続きに時間を要することが想定されますので、早めの調整を図ることが必要です。

・保守契約の見直し(課題3~4)

すでに病院の経営に悪影響が出始めている状況を考えると、可能な限り支出を抑制することが求められるでしょう。その一方で、困難な環境下で勤務している職員への何らかのインセンティブや品薄状況による納入価格の上昇も考慮する必要があります。より一層厳しい経営状況に備えるために、定額で費用が発生する機器や医療情報システムの保守費の見直しは避けられない部分の1つと考えます。改めて保守契約の内容やその費用については精査を行い、状況によりスポット契約への切り替えや保守条件の見直しによる費用の圧縮を早期に検討することが求められます。

このように課題の検討を開始すると、数多くの検討ポイントが識別されます。そして、それぞれの項目は複数の課題と結びついており、単に1つの観点を重視しすぎると、他の観点の検討や実効性が損なわれる結果ともなります。
医療機関の経営層や経営企画に携わる皆様だけでなく、医療機関の職員全体が課題を認識し、その課題を次の感染拡大まで、あるいは、新たな感染症の発生までに解決するという強い意志を持って課題解決にあたることが大切であると考えます。

 

想定外の事態に対応できる業務継続計画(BCP)の必要性

いかに課題を解決したように見えても必ず想定外の事象が発生するのが災害対応の難しいところです。

特に新型感染症のパンデミック下では、個々の医療機関だけを考慮することでは十分でなく、社会情勢や職員の家庭環境、周辺の医療機関との機能、役割、行政施策などの数多くの要素において、日々、刻刻と変化する状況に応じた適切な判断と対応が求められることを今回のケースで実感されたのではないかと思います。

同時に、すでに業務継続計画(BCP)を策定した医療機関でも計画に基づいた対応では無く、いい意味で臨機応変、悪く言えば場当たり的な対応が見られた状況も散見されます。

いい意味での「臨機応変」なBCP(業務継続計画)とは何か。

BCP(業務継続計画)を策定、見直しにあたり最も重要な観点は、すでに経験した事象の正確な把握と改善策に基づいた実効性の判断です。例えば、外来患者数の抑制を行い、円滑な診療と感染対策が実施できた場合には、改めてこの運用についてヒアリングを行い、具体的な数字に落とし込みます。外来患者数を〇人から△人に減らしたことで、外来患者の混乱の防止と診察室内の消毒、衛生管理が十分にできたとすれば、この数字をベースに検討を進めます。その際には、単に減らすだけでなく、減らした患者の属性(予約患者、新規患者、紹介患者)や今回の事象に対応するために余計にかかった人員や器材、時間なども確認して反映させるとよいでしょう。

また、対応の粒度にも注意を図る必要があります。例えば、医療機関全体の方針はレベル分けを行い、それぞれのレベルに応じて先ほどご説明した把握事象と改善策をより具体的に当てはめていくといった考え方です。この方法であれば、医療機関のトップ層はレベルを判断することが最も重要な役割となり、それ以外の業務は各部署がレベルに合わせた対応を取れることから細かな指示をその都度行うと言った混乱を避けることができると考えます。

医療機関の経営層は想定外の事象発生時に「意思決定」に集中する

それでは、医療機関のトップ層は、レベル判断以外にどのような対応を行うのでしょうか。それが、想定外の事象に対して臨機応変な対応を行うための意思決定です。業務継続計画(BCP)では残念ながらどれだけ慎重かつ広範囲に検討を行っても、想定外の事象が発生する可能性があります。そのような事象が発生した場合には、それまでの知見に基づいた対応の範囲外になることから、医療機関全体に責任と業務が及ぶ経営層以外に判断を行える人材はいないことになります。

この際の判断は迅速かつ一定の方向性を持つものであることから、検討する要素や調整範囲も大きくなります。この判断を適切に実施するために医療機関のトップ層が意思決定に注力できる臨機応変な業務継続計画(BCP)を策定、修正することが求められます。

 

おわりに

私たちの生活は、新型コロナウイルスによって大きく変化しつつあります。この変化は、医療機関においても同様であると考えます。医療機関の皆様が抱える課題も今までは経営、人事・労務、建替え、医療情報システムとその時々に最も重要な要素1つに限られる状況が多く見られました。また、医療機関の皆様からも時間をかけてゆっくりと検討したい、そこまで急な体制の変更は望まないと言った声が聞かれたのも事実です。

アフターコロナを見据えつつ、医療機関の皆様と情報共有を行っていると、今後は今までよりもスピード感を持って、複数の分野に渡る課題の組み合わせを同時に整理、解決していく必要性がより一層高まることになると考えています。

コロナショックの記憶が残り、少しずつ業務が落ち着きを取り戻しつつある「今」こそ、今回の事象で明らかになった課題や問題点を整理し、次の流行や新たなリスクに対応できる強い医療機関を再構築していく時期としていただくことを強くお勧めいたします。

デロイト トーマツ グループでは、医療機関でのICT関連の課題相談を受け付けているほか、経営、人事、労務管理、インフラ等の各分野の専門家が連携を密にして皆様の課題解決を実施しております。加えて、医療政策や海外事例も含めた幅広い情報を常に更新し続けております。課題は分かっているが対応できる人員や時間が無い、手を付けてみたがうまくいかない、業者との交渉のノウハウが無い、具体的な対策や対応が描けないなどお悩みのことがありましたら、ぜひお気軽にご相談を頂ければ幸いです。

最後になりますが、医療機関の皆様の献身的なご努力に敬意を表しますとともに、一日も早い日常の回復を祈念しております。

執筆

有限責任監査法人トーマツ
リスクアドバイザリー事業本部  ヘルスケア 

※上記の部署・内容は掲載時点のものとなります。2020/06

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