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「Web会議」の活用で変わる?病院情報システム導入
「Web会議」を活用したオンラインWGのススメ
新型コロナウィルス感染症の拡大により緊急事態宣言が発令される中、全社員在宅勤務に踏み切る企業も少なくありません。医療機関においても、一部職員の通勤自粛による在宅業務へのシフトなど感染回避・抑制のための対策がとられ始めています。そのような状況下で、遠隔でのコミュニケーションツールとして活用が一気に進みそうなのが「Web会議」です。今回は特に病院情報システム導入における活用の可能性について解説します。
「Web会議」の特長とは?
新型コロナウィルス感染症拡大という状況下において、人と直接会わずにコミュニケーションを行うためのツールとして俄然注目度が上がっている「Web会議」ですが、これまでもICTを活用した「働き方改革」として、テレワーク/リモートワークの普及促進ツールの一つとして活用が進められてきました。
専用機器や専用回線を保有する必要がある従来の「テレビ会議」に対し、クラウドサービス型の「Web会議」では、パソコン、スマートフォン、タブレット端末があれば、社内や自宅のインターネット回線やWifiなどを用いてどこからでもアクセスできることから、導入のハードルが低く、簡単・手軽にサービスを導入し運用することが可能となり、利用が急速に進んできました。
「Web会議」の特長を理解する
コスト面や運用面など、「Web会議」にはたくさんのメリットがありますが、利用したけれど上手く活かしきれないといった声もあるようです。従来の会議と比較しながら、具体的にどのようなメリットやデメリットがあるのか、その特長を見ていきます。
- メリット1:移動に伴う時間やコストの削減ができる
その場にいながら遠隔地とやり取りができることが「Web会議」の特長なので、移動に伴う交通費・宿泊費といった経費や移動時間を削減できることは大きなメリットです。
- メリット2:会議資料の準備が容易になる
従来は会議の度に資料を印刷し配布するなどしており、印刷の手間や紙のコストがかかっていました。しかし、「Web会議」には資料共有機能があるため、画面に資料を表示しながら会議に参加できます。
- メリット3:災害時でも事業継続できる
災害時に拠点が被災して業務が行えない、交通マヒで出勤できないといったケースでも、在宅のまま「Web会議」を行うことで、事業継続性が確保できます。
緊急時の対応や今後の方針などを「Web会議」を利用して決めることで、災害後に素早い初動が可能となり、復旧を早めることにもつながります。
- デメリット1:インターネット環境に左右される
インターネット回線で、接続状況が悪ければ、会議が中断してしまう恐れがあります。また、回線状況によって音質や画質も落ちる可能性があります。これにより、重要な情報を聞き取れなかったり、伝わらなかったりといったトラブルにつながるリスクがあります。
- デメリット2:雰囲気が読み取りづらい
対面では、参加者の表情や態度から雰囲気を読み取れますが、小さなパソコン画面ごしのやり取りでは、どうしても臨場感が足りず、参加する人数が多いと誰が発言したかわからないケーズもあり、こうした雰囲気や状況に気づきにくいという課題があります。
- デメリット3:セキュリティリスクがある
「Web会議」の利用中に、第三者が不正にシステムにアクセスし、会話を盗み聞きしたり、画面上に映し出される画像や動画などを盗み見したり、会議に使用する重要な資料をダウンロードやアップロードする可能性があり、機密情報が流出するリスクがあります。
また、利用者側がカフェやシェアオフィスなどパブリックな場所で会議に参加した場合、内容を盗み聞きされたり、背後から重要情報を盗まれるリスクも考えられます。
このように、多くのメリットがある反面、デメリットや課題もある「Web会議」ですが、その特長を理解した上で、どのように活用できるか、具体的な活用シーンを想定していくことが、上手く活かしていくことにつながると考えます。
病院情報システム導入プロセスの整理と活用シーンの考察
では、その具体的な活用シーンとして、今回のテーマである「Web会議」がシステム導入においてどのように活用できるか考えていきます。
まずは前段として、病院情報システムの導入プロセスとプロセスごとの主な作業内容について整理し、「Web会議」がどこで活用できるかを考察していきます。
「システム導入」の作業プロセス
(1)システム導入計画・設計フェーズ
システム全体の計画を策定し、運用・機能検討を行うフェーズです。システムに反映させる要求項目など各種事項を漏れのないように検討していきます。
(2)システム構築・評価フェーズ
システムの「開発」→「テスト」→「導入」→「評価」を行うフェーズです。検討してきた内容が正しく反映されたシステムになっているかチェックしていきます。
(3)システム稼働準備・稼働フェーズ
システム切替えにより混乱が生じることがないよう各種準備状況をチェックし、システム切替えを行うフェーズです。
(4)システム稼働後フォローフェーズ
期待通りのシステムが完成したか、納品検収で機能確認し、システムを有効に機能させるための体制や引き継ぎを行うフェーズです。
このような作業プロセスの中で、特に「コミュニケーション」が重要となるのが、システム導入計画・設計フェーズです。
システム導入計画・設計フェーズはWGが肝となる
このフェーズの主な作業といえば、システム導入全体を通して礎ともなる機能・運用検討WGの開催です。検討を漏れなく行うため、WG数は数10個になるケースも少なくなく、各WGで3回から、多い場合は10回を超える打合せを行うこともあり、参加メンバーの職員は、通常業務と並行してそれらのWGに参加しなければなりません。また、部門を代表してWGに参加するので、事前に自部門の意見を集約しておくなど準備も必要となり、その負担はかなり大きなものとなります。
一方で、職員の意見が新しい病院情報システムに間違いなく反映されるためには、決定事項が正確にシステム会社側で認識されていることを各WG内で確認する必要があります。これは、システム会社の担当者も、打ち合わせを重ねる中で、勘違いをしたり言われたことを失念してしまう可能性もあり得るからです。
このような観点から、いかに職員の負荷を軽減し、システム会社側に決定事項が確実に伝わっているか確認するという、効率性と確実性を両立させることがWG遂行において重要なポイントになります。その両立にあたっては、システム会社にWGの効率的な進め方を意識させ、職員も医療機関側の立場に立った進捗管理を行うことが重要になります。
「Web会議」を活用したオンラインWGのススメ
とはいえ、多忙な職員にとって、このような管理を行うことはかなり大変な作業となります。その上、新型コロナウィルス感染症拡大という状況下においては、職員も多忙を極め、システム会社側は病院に訪問できない、訪問できても遠方からは訪問できず、限られたメンバーのみの訪問になるなど、WG開催そのものが危ぶまれる状況にもなっています。
「Web会議」を活用したオンラインWG
そこで、是非活用したいのが「Web会議」です。「Web会議」を活用したオンラインWGの実現は、この緊急事態の状況下でのWG開催・継続に加え、これまであった様々な課題の解消にもつながります。
オンラインWG開催でこれまでの課題も解消
WGのテーマによって、各職種の職員の参加が必要であり、システム会社側では機能ごとに担当者が別におり、WGに必要なメンバー全員の日程調整に手間取るといった、WGの開催日程の調整に苦労したという声は多く聞かれます。
結局、一部メンバーが調整できなかった場合には、不参加メンバーは後で時間をとって議事録を確認したり、他のメンバーから直接話を聞くなど、二度手間が発生し、システム会社側においては、職員側の質問に対して、不参加の担当者の領域の内容に及ぶと持ち帰りにせざるを得ず、こちらも二度手間で確認し、職員に報告する必要があるなど双方にとって余計な負担を増やすことになっていました。
「Web会議」の活用により、職員側では出張先や自宅からの参加も可能となり、システム会社側も場所にとらわれず必要な担当者の調整が可能となり、日程調整が格段に容易になることに加え、必要なメンバーの参加率が高くなるので、二度手間も少なくなり、効率的かつ「実のある」WGの推進が期待できます。
また、これまで大量に紙で印刷していた資料類も、「Web会議」の資料共有機能により、画面に資料を表示しながらWGを進めることができるので、システム会社は印刷など資料準備の手間が省け、職員もペーパーレス化が推進される上、置き忘れによる重要情報の流出リスクなどを削減できます。こういった手間の削減は、WG前に資料を作成し、双方で共有・確認する時間に回すことで、検討に必要な材料の不足や、WG内での余計な確認を避けることができ、WGの質を向上させるという点でも大きなメリットになると考えます。
システム導入コスト削減にもつながる
上記メリットの中で、システム会社側で想定される側面、特に場所にとらわれないという面は、システム導入費用の削減にもつながることが期待できます。
病院情報システムは、電子カルテだけでなく、多くの部門システムにより構成されているため、多くのシステム会社が関わります。各システム会社は全国各地に点在しているケースが多く、WG参加のために移動する出張費用だけでもそれなりの額になります。そういった諸経費はSE導入作業費用に含まれることが多いですが、オンラインWGによる諸経費の削減は、そのまま導入費用の削減にもつながります。費用交渉の一つの切り口として考慮する価値があると考えます。
解決すべき課題もスピード重視で
このように様々な活用のメリットがある反面、解決していくべき課題もあります。特に、インターネット環境やセキュリティリスクにおいては、回線などインフラ面の増強やセキュリティ対策の整備が必要になるケースもあると思われます。ただし、こういった緊急事態の状況下においては、無線ではなく比較的接続状況が安定している有線環境で利用するとか、有償であってもセキュリティ対策のしっかりした「Web会議」ツールを選定するなど、今出来る対策を講じながらトライアンドエラーを繰り返し、段階的にでも活用しつつ、抜本的な対応や対策も並行して行っていくことが肝要であると考えます。
なお、医療機関における全般的な情報セキュリティ対策については、3月に配信したヘルスケアメールマガジンに詳しく載っていますので、そちらもご参考にしてください。
おわりに
今現在病院情報システム導入の真っただ中である、もしくは、近々導入予定であるといった医療機関の中で、システム会社から導入スケジュールの延伸やシステム更新範囲の縮小など提案され、本来の導入計画から望まない変更を余儀なくされているところも多いのではないでしょうか。
人命を第一に考え、極力人と人との接触をさけ、システム導入するという観点だけでなく、システム会社側の都合なども加わり、スケジュールの延伸や導入規模の縮小を提案されているケースも多くあるようですが、このような「Web会議」を活用したオンラインWGの可能性を検討することで、当初計画からの変更を極力減らし、人と人との接触を抑えるプロジェクト推進の形を模索していくことは可能であると考えます。
オンラインWGは標準的なシステム導入手法になる
新型コロナウイルスの短期的な感染の終息は考えにくく、感染状況に応じて持続的な対策が必要になり、Withコロナ時代の新しい生活様式の提言もなされる中、システム導入におけるオンラインWGも例外なく今後の標準的な導入手法となっていく可能性は大きいと考えられます。
今現在導入を控えている医療機関においては、調達仕様にオンラインWGの要件を含めるなど、システム会社との協議を早めに行うことを強くお勧めします。
最後に、4月に配信したヘルスケアメールマガジン臨時号の中でもお伝えしておりますが、デロイト トーマツ グループでは、国・地方自治体での医療ICT施策の支援実績、医療機関における病院情報システム導入検討の支援実績、それらを通しての多くの病院情報システム会社との情報共有体制を有しています。それらのコネクション・実績をもって、システム会社との協議がうまくいかないなど、喫緊の課題に対するご相談を受けておりますので、お気軽にご利用下さい。
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執筆
有限責任監査法人トーマツ
リスクアドバイザリー事業本部 ヘルスケア
※上記の部署・内容は掲載時点のものとなります。2020/05
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