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ビジネスDDガイド:コマーシャルデューデリジェンスの実務ポイント 第7回
コマーシャルデューデリジェンスの重要性
コマーシャルデューデリジェンスは市場環境、競合環境、顧客動向、事業計画、シナジーの分析を対象としますが、それらを実施する重要性について解説します。
I.はじめに
コマーシャルデューデリジェンスは市場環境、競合環境、顧客動向、事業計画、シナジーの分析を対象とする。本稿では、コマーシャルデューデリジェンスを実施する重要性について解説する。
II.デューデリジェンスの目的
―全てのデューデリジェンスに共通するデューデリジェンスの目的
M&Aを実施するに際して買収会社にとってデューデリジェンスは非常に重要なプロセスとなる。デューデリジェンスでターゲット会社のリスクや課題点を洗い出し、重要な発見事項は買収価格の調整、買収ストラクチャーの修正、最終契約書への反映、買収後での対応などの方法を用いる。
【図表】デューデリジェンスでの発見事項の利用方法
利用方法 |
概要 |
---|---|
買収価格の調整 |
企業価値評価(マーケットアプローチ、インカムアプローチ、コストアプローチ)に発見事項を織り込んで買収価格を調整する |
買収ストラクチャーの修正 |
発見事項のリスクを買収ストラクチャーを変更することで回避を行う |
最終契約書*への反映 |
偶発債務や定量化が難しい発見事項は最終契約書の中で顕在化した場合に売り手側に責任が発生するように定める |
買収後での対応 |
M&Aプロセスの中で対処が出来ない項目は買収後のPMIで対応を実施する |
*最終契約書は株式譲渡契約書や事業譲渡契約書等がある。
出所:デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社作成
III.コマーシャルデューデリジェンスの重要性
―通常、デューデリジェンスはターゲット会社の内部環境分析が中心
M&Aプロセスにおけるデューデリジェンスは、買収会社側がターゲット会社の問題点やリスクを買収前に特定するために重要な役割を果たしている。デューデリジェンスの種類は多岐にわたる。一般的にデューデリジェンスは財務、税務、法務といったターゲット会社の内部環境を対象としている。当然のことながら、M&Aを行うターゲット会社自体のデューデリジェンスは最も重要であることは間違いない。
果たしてターゲット会社の内部環境分析だけを進めてM&Aを成功に導くことができるのであろうか。1つの見方として外部環境の影響を全く受けず、内部環境の強みだけで利益を継続的に生み出し続けられるのであれば、内部環境の分析だけでステークホルダーへの説明責任は果たせる。しかし、現実問題として市場動向、競合環境、顧客動向などの外部環境の影響を受けない企業は世の中にほとんどない。したがって、M&Aプロセスで外部環境分析を行い、買収後の戦略実現に結び付けることがM&Aを成功に導くうえで必要不可欠であるといえるだろう。
【図表】主なデューデリジェンスの種類
種別 |
備考 |
対象範囲 |
---|---|---|
・財務デューデリジェンス |
多くのM&Aで用いられる
|
内部環境 |
・ITデューデリジェンス |
ターゲット会社の特性によってケースバイケース |
|
・コマーシャルデューデリジェンス |
外部環境 |
|
・ビジネスデューデリジェンス |
内部環境/ |
出所:デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社作成
―外部環境の変化により、買収後にリスクが顕在化しているケースが多い
日本企業が手掛けたM&A実績は年々積み上がっており、企業内においても一般的なデューデリジェンスに関する知見が蓄積されている。現在のデューデリジェンスの問題点として、内部環境を対象にしたデューデリジェンスに注力しすぎており、外部環境分析が後回しにされているという現状がある。そのため、買収後に外部環境による想定外の業績悪化に見舞われるという企業が多い。デロイト トーマツ グループが発表した『日本企業の海外M&Aに関する意識・実態調査(2017年)』によれば、買収後に顕在化したリスクについて外部環境の激変による想定外の業績悪化(例:市場の落ち込み、競合からの攻勢)が37%で最も回答数が多い。
―買収後に外部環境の変化(市場・競合)を把握できていなかったと理解する企業が過半数を占める
「買収後に知り得た情報によって、買収先を経営するうえで、必要な経営実態をどの程度把握できていましたか?」という質問で「外部環境の変化(市場・競合)」が回答項目の中で最も把握できていなかった/一部、必要な情報を把握できていなかったという割合が多い結果が出ている。
―ターゲット会社の競争力は競合企業との比較で「相対的」に決まる
なぜ外部環境の影響をターゲット会社が受けるのかという問いに対しては、答えは簡単でターゲット会社も業界を構成する一部であるためである。研究開発、原材料調達、製造、営業、販売まで様々なプレイヤーが存在し、顧客動向によっても市場は影響を受けることになる。また、同じ業界内でも競合企業が存在しており、その企業群の動向によってターゲット会社は影響を受けることになる。
―市場環境、競合環境、顧客動向などの外部環境を分析対象とするデューデリジェンスである
コマーシャルデューデリジェンスは外部環境分析を構成する市場環境分析、競合環境分析、顧客動向分析の3つの構成要素で成り立っており、外部環境分析を活用して計画検証を行う事業計画分析とシナジー分析で構成されている。コマーシャルデューデリジェンスはターゲット会社を取り巻く外部環境に焦点を充てて分析を行うため、現在の内部環境偏重型のデューデリジェンスの問題点を解決するための1つの手段として有効である。
―コマーシャルデューデリジェンスの活用目的
M&Aプロセスにおいては事業計画に織り込まれている前提条件が外部環境を考慮して妥当なものかどうかチェックすることもできる。楽観的すぎる場合にはストレステストを行うことで買収価格の調整も可能になる場合がある。
買収後には、市場環境、競合環境、顧客動向の情報といったコマーシャルデューデリジェンスの成果を、買収後の戦略に組み入れることができる。企業の競争力は相対的に決まるものであり、自社のポジショニングを適切に理解して買収後に経営を行うことは M&Aを成功に導くためのPMI(Post Merger Integration)の過程で非常に重要となる。
IV.総括
コマーシャルデューデリジェンスは内部環境を中心としたデューデリジェンスで不足している部分を補っており、外部環境の変化で想定外の業績悪化に見舞われるという企業に対しての一助となる役割を持っている。次回はコマーシャルデューデリジェンスでのマネジメントインタビューや外部有識者インタビューの進め方を解説する。
※本文中の意見や見解に関わる部分は私見であることをお断りする。
執筆者
デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
コーポレートストラテジーサービス
ヴァイスプレジデント 中山 博喜
※2017年7月からタイのメンバーファームであるDeloitte Touche Tohmatsu Jaiyos Advisory Co., Ltd.に駐在中
コーポレートストラテジー部門にて、各業種のクライアントに対して主にビジネスDD、コマーシャルDD、オペレーショナルDDを提供。クロスボーダー案件の経験も数多く、現在は在タイの日系企業を中心にM&A案件に関するアドバイザリー業務を提供。
監修
デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
コーポレートストラテジーサービス統括
パートナー 初瀬 正晃
主にM&A戦略、統合型デューデリジェンス(ビジネスDDを含む)、事業計画策定支援、事業価値評価、交渉支援、PMI支援、Independent Business Review (IBR)、Corporate Business Review (CBR)、Performance Improvement (PI)に従事。大手商社の経営企画部に出向し、国内外の投融資案件を多数支援した経験を有する。
(2020.01.30)
※上記の社名・役職・内容等は、掲載日時点のものとなります。
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