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Industry Eye 第39回 消費財/小売・流通

ブランドポートフォリオ再編戦略のためのTo Do

消費財業界において、保有ブランドの取捨選択は、ともすれば事業規模縮小に繋がるものとして避けられますが、明確なビジョンを持った対応により事業拡大へと導くことも可能です。本稿では、食品やアパレル、化粧品といった消費財業界におけるブランドポートフォリオ再編のアプローチについて、成功事例を紹介しつつ取り上げます。

I.はじめに~消費財業界の概況

消費財業界において消費者のニーズは千差万別であり、その幅広い欲求に応えるべく、企業は日々ブランドやSKU(Stock Keeping Unit: 最小在庫管理単位)を拡充させていく。

しかし、そのような企業の努力に反し、多くのブランドは企業の利益拡大に結びついておらず、平均するとおよそ20%未満のSKUが全社利益の80~90%を生み出しているという統計がある。

 

図表1:SKUと限界利益の相関
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「ブランドポートフォリオマネジメント」の概念は古くから重要な企業戦略として位置付けられているものの、上記からは多くの企業では効果的なブランド戦略が実践出来ていない可能性が想定される。

ブランド戦略は、単純に幅広い種類を揃えることが望ましいものではなく、最適数に厳選し、経営資源の集中投下やサプライチェーンコストの抑制などを考慮しつつ立案されるべきである。

本稿では、ブランドポートフォリオ再編のアプローチを実際の成功事例を紹介しながら考察する。

II.グローバル企業におけるブランドポートフォリオ再編事例

消費財メーカーであるA社は、全世界で1,600のブランドを展開していたが、分析の結果、約90%の利益は全体の25%である400のブランドから構成され、その他の1,200のブランドは赤字もしくは利益率が低く、全社の利益に貢献していないことが判明した。

この結果を受け、A社は収益性の高い400のブランドをコアブランドと整理し、5年間のブランド再編プログラムを実行した。当プログラムの中でA社は、400のコアブランドとそれ以外を明確に区分したうえで、ブランド別の予算見直し、拠点の閉鎖・統合を含めた経営資源の再配分、コアブランドへの集中投資を実施した。また、400のコアブランドをさらに細分化し、特に収益性が高いブランドについてはより集中して販売活動を行った。

当プログラムにより、販促活動の最適化による売上増、効率的な流通網の再構築による費用削減によって、A社は自社の目標としていた売上高成長・営業利益率向上を達成している。

 

図表2:コアブランドの寄与度合い
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III.ブランドポートフォリオ再編のアプローチとポイント

以下では、A社の事例の背景にある、ブランドポートフォリオ再編に関するアプローチとポイントを一例として紹介する。

図表3: アプローチ全体像
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  1. 将来像のイメージおよび目標の設定:プロジェクト推進にあたり、将来目標の設定は欠かせないプロセスである。現状のブランド構成や収益力を理解し、将来的にどの程度の利益を稼ぎ、どのポジションに位置づけたいかをイメージしながら目標を設定する。なお、当初設定した目標は検討結果に応じて適宜更新される。
  2. すべての関係者を巻き込んだ分科会の設定:コーポレート部門のみでなく、購買・製造・営業・販売などの関係者をプロジェクトの初期段階から関与させた推進体制が必要である。適切な単位で分科会を設定し、全社およびブランド単位の将来目標・ブランドの優先順位付け・各ブランドの戦略などについて協議を進めていく。
  3. 市場分析を考慮した各ブランドの成長性・事業規模のマッピング:各ブランドにおける現在と将来の市場規模および市場シェアを整理し、各ブランドを(1)成長性、(2)事業規模の二軸でマッピングを行う。
  4. 成長シナリオの検討およびブランドの優先順位付け:現状の姿と目標を比較し、目標に達するまでの成長シナリオを検討する。その後、ブランドの競争力や魅力度といった観点から各ブランドを分析し、高・中・低の優先順位付けを行う。


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  5. ブランドごとの収益性分析:各ブランドの売上高の細分化、直接費の紐付けや固変分解によるコスト分析を実施し、ブランドの詳細な利益分析を行う。
  6. ブランドのカテゴライズ/方針策定:上記③~⑤の分析結果を基にブランドの収益性や商品としての魅力を総合的に勘案し、ブランドごとの運営方針を策定する(例:(1)優先度高/積極投資、(2)優先度中/現状維持、(3)優先度低/撤退 など)。
  7. ブランドカテゴライズ後のアクション例:各ブランドの対応方針を策定した後は、組織体制の見直し、予算の策定、拠点の統廃合といったアクションを取ることになる。扱う商材のSKUのボリュームに応じて取るべきアクションは異なると想定されるため、以下に例を示す。
     

食品メーカーの事例

食品メーカーのようなSKUが明確で比較的少数な業種の場合、SKUの最適化を目標にSKUごとに方針を策定することが可能である。具体的には、SKUごとの収益性を分析したうえで、収益性が低い商品については他のSKUとの重複や代替可能性を検討し、優先順位付けを行う。この検討は、サイズやフレーバーなど、SKUの特性に基づき行うことが合理的と考えられるが、それぞれの収益性に加えて、各販売チャネルにおける流通業者の役割・能力や特定地域における戦略的重要性などの定性的要素を考慮することも重要である。

こうして優先順位を付けたSKUに対して、(1)積極投資、(2)現状維持、(3)廃止といった方針を決定する。
 

アパレル/化粧品メーカーの事例

アパレルや化粧品メーカーといったSKUが多岐にわたり柔軟に更新される業種の場合、個別のSKU削減というアプローチは適切ではなく、ブランド単位での組織改革アプローチが取られることが多い。

ブランド単位で組織を統合・分社化することにより、SKUの統廃合については各ブランドのマネジメントが方針を決定することとなる。また、これにより、各マネジメントの経営責任の明確化や本社機能のスリム化を図ることが可能になると考えられる。

図表5:ブランドを軸とした組織改革
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IV.おわりに

企業として長期的な成長を達成するためには、ブランドを追加することが重要なポートフォリオ戦略であると直感的に捉えられがちだが、実際は必要以上にブランドを保有することがビジネスを複雑化させ、収益性を悪化させている事実がある。

適切な単位でブランドを絞ることが、ブランドの価値、消費者への訴求力、ひいては企業の価値を高めることに繋がる、在るべきブランドポートフォリオ戦略と言えよう。

執筆者

デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
消費財/小売・流通(コンシューマービジネス)担当
シニアヴァイスプレジデント 吉田 修平
ヴァイスプレジデント 野口 昌義
シニアアナリスト 志村 俊光
アナリスト 北村 由里

(2018.7.25)
※上記の社名・役職・内容等は、掲載日時点のものとなります。

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