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Industry Eye 第49回 銀行・証券セクター
フィンテック市場の概観
「フィンテック」が日本においても一般的に使われるようになり、今では珍しい言葉ではなくなっています。本稿では、フィンテック領域の資金調達状況やM&A動向を通じて、フィンテック市場の概況とその事例について平易に解説します。
I.はじめに
フィンテックを掲げる様々なサービスが日本でも出てきており、フィンテックが日本においても一般的に使われる用語となってから久しい。本稿を読んでいる読者は既に承知であると思うが、ここで一度「フィンテック」の定義をおさらいしたい。日本銀行によると、フィンテックの定義は下記の通りである。
「FinTech(フィンテック)とは、金融(Finance)と技術(Technology)を組み合わせた造語で、金融サービスと情報技術を結びつけたさまざまな革新的な動きを指します。身近な例では、スマートフォンなどを使った送金もその一つです。」
金融業界にフィンテックという技術革新の波が押し寄せ、世界を変えていくほどの発展を遂げるであろう。本稿では、資金調達状況やM&A動向を通じて、フィンテック市場の概況とその事例について考察する。
ここで、資金調達側から資金供給側であるフィンテック投資家に目を移すと、フィンテック投資家数が年々増加していることがわかる。また、投資家の内訳には変化が見られ、依然としてファイナンシャルインベスターが過半以上ではあるものの、ストラテジックインベスターである企業およびCVC(コーポレートベンチャーキャピタル)の割合が急速に高まっていることが特徴的である。フィンテック領域を新たな成長領域として認識し、本業の成長戦略の1つとして各企業が同領域への投資に動いていることは、近年、フィンテック企業を含む金融機関を対象としたM&A案件数が大きく伸びていることからも推測できよう。
2.国内市場概観とその傾向~伝統的金融機関とフィンテック企業の協業
日本国内における資金調達額は、グローバルと同様近年成長基調にあり、日本のフィンテック市場も徐々にではあるが活発化してきている。
また、国内での傾向として、伝統的金融機関とフィンテック企業(またはテック系企業)が提携やジョイントベンチャーを通じて協業するケースが見られる。例として、Polarifyが挙げられる。2017年5月、三井住友フィナンシャルグループ、NTTデータ、Daon, Inc.の3社が、本人認証プラットフォームのPolarifyを提供する株式会社ポラリファイを共同で設立した。また、併せて2017年7月より三井住友銀行アプリでのPolarifyサービスの利用を開始した。2020年3月時点では、SMBCだけでなく、日本生命やDMM Bitcoin等にもサービスを提供している。
Polarifyサービスの特徴は以下の通りである。
- 複数の生体情報を活用した本人認証プラットフォームを核として、ユーザーと事業者をシームレスに繋ぐ点
- 生体情報を非可逆的な数列に置き換え、スマートフォン端末内のセキュアな環境で保存・管理することにより、ユーザーが安心して使える点
- サービス開始時に利用可能だった生体認証の種類は指(読取センサーが付いた端末)、顔、声の3つであったが、掌紋が追加されており、さらに最先端の生体認証技術を継続的に追加していく点
- 多くの事業者が共通して利用するプラットフォーム型サービスのため、単独で生体認証を導入するよりはるかに経済的である点
- 犯罪収益移転防止法の改正に対応した「最新かつ安全な本人確認ソリューション」をユーザーに提供している点
III.おわりに
本稿では、2014年以降に公表されたフィンテック市場の資金調達(需要)動向について見てきた。フィンテック領域の発展に伴い金融ビジネスの競争環境の変化は予想以上のスピードで進む可能性がある。フィンテック市場が成長していく中で、今後も引き続きストラテジックインベスターである企業およびCVCの割合がより一層高まるであろう。伝統的金融機関が本業の成長戦略の1つとしてフィンテック企業(またはテック系企業)との提携やジョイントベンチャーを通じた協業というトレンドも出てきており、各企業が同領域でシナジー創出を描いたM&Aについて今後も注視していきたい。
※本文中の意見や見解に関わる部分は私見であることをお断りする。
執筆者
デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
銀行・証券セクター担当
シニアヴァイスプレジデント 德重 匠
アナリスト 船田 慶太
アナリスト 西井 秀太郎
(2020.03.18)
※上記の社名・役職・内容等は、掲載日時点のものとなります。
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