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Industry Eye 第48回 インベストメントマネジメント(IM)セクター

PEファンドに求められるバリューアップ機能

日本国内において、PEファンドの活動が認知されるようになり、PEファンドを活用した事業会社の変革も広く取り組まれるようになってきています。その一方で、昨今のPEファンドを取り巻く環境の変化に伴い、これまで以上にバリューアップ機能の重要性が高まってきています。 本稿では、PEファンドに求められるバリューアップ機能に関する視点、論点について解説します。

I.はじめに

日本国内において、PEファンドの活動が認知されるようになり、PEファンドを活用した事業会社の変革も広く取り組まれるようになってきている。その一方で、昨今のPEファンドを取り巻く環境の変化に伴い、これまで以上にバリューアップ機能の重要性が高まってきている。

本稿では、PEファンドに求められるバリューアップ機能に関する視点、論点について解説する。

II.PEファンドに求められるバリューアップ機能

1.日本のビジネスシーンにおけるPEファンド

日本国内において、かつては「ハゲタカ」とも呼ばれ、ややもするとネガティブにとらえられることもあったPEファンドだが、近年ではその活動への理解が深まり、企業が事業の構造改革を行う際の一つのオプションとして活用されるようになってきている。

実際、日本のビジネスシーンにおけるPEファンドのプレゼンスは高まり、昨今では、ベインキャピタルによるアサツーディ・ケイ、東芝メモリの案件や、KKRによるパナソニックヘルスケア、日立工機、日立国際電気の案件など、大規模な案件もみられるようになってきている。

 

2.PEファンドを取り巻く環境

これまでPEファンドは、投資先の経営陣を資本の論理でガバナンスし、投資先のコスト削減を中心とする採算性の向上を目指した取り組みや、本業とは関係の薄い不要資産の売却などを進めるとともに、成長に向けたストーリーを組み立てることで短期的なエグジットをしていくというのが基本スタイルであった。

しかしながら、ここにきて、PEファンドを取り巻く環境が変わり、厳しさを増している。

まず、有望な投資銘柄の案件数が限られていることがある。事業承継に関連する案件を中心に小型案件は依然増加傾向にあるものの、中型/大型案件の数は限られており、M&Aを仲介する会社の興隆も相まって、競争入札の案件が増加傾向にある。そのため案件の獲得に向けた競争は激化し、結果として案件自体が高値となっている傾向がある。

また、投資プレーヤーが増加していることがある。超低金利を背景に、資金調達そのもののハードルが下がったこともあり、PEファンドの基金規模が拡大し、結果としてPEファンドの担い手も増加傾向にある。

こうした有望な投資案件に対する獲得競争の激化による、投資額(落札価格)の高騰に対して、PEファンドとしては、投資後のゲームプラン(バリューアップの筋)をどのように見定め、実現していくかが投資の成否を左右することから、これまで以上にPEファンドにおけるバリューアップ機能の高度化が必要となってきている。

バリューアップ機能の巧拙により、PEファンドとして許容できるリスクに幅が生じるため、投資の検討段階から、創出できる可能性のある価値を探索し、されど、PEファンドとして決して高値づかみとはならないならない投資額(落札価格)をこれまで以上に見極めていく必要がある。

 

3.PEファンドに求められるバリューアップ機能の強化の難しさ

これまでも、PEファンドによっては、マネジメント経験のあるインダストリー知見を持つ人材(インダストリーエキスパート)とアドバイザー契約を締結するなどして、いわゆる事業面、経営面に関する組織的なスキルを獲得する取り組みをしているが、これらに加え、投資先のビジネスに対して、具体的な成果を創出する、即ちバリューアップ機能を強化していく必要がある。

ただ、こうした機能をPEファンドとしてどう具備していくかについては、社内外の制約から一筋縄ではいかないのが実情である。

まず、社内の制約としては、PEファンドにおいては金融バックグランドの人材が多く、事業をシビアに見定め、具体的な成果を創出するというバリューアップの取り組みに必要なスキル(能力)や経験を持つ者は限られているため、以下のような課題がよくみられる。

  1. バリューアップに長けたプロフェッショナルの必要性は理解するも、PEファンド内にこうした人材を抱える場合、固定費が増加し経営効率を悪化させる可能性があるため、採用には消極的になりやすい。
  2. 金融バックグランドの人材で対応しようとした場合、スキル(能力)的に、財務や内部管理のモニタリングくらいしかできず、投資先に口を出そうにも、的外れとなることも少なくなく、結果として投資先のマネジメントからの信頼を失うことになりかねない。
  3. 金融バックグランドの人材は、新規案件の開拓にリソースを配分する志向が強く、投資先の管理は消極的になりやすい。

 

また、社外の制約としては、投資先のマネジメントとして社外から経営者人材を採用しようにも、その採用の成功率は必ずしも高くはなく、以下のような課題がよくみられる。

  1. 投資のタイミングで適切な人材を採用できるかは運の要素が否めず、必ずしも好人材を採用できるわけではない。
  2. 投資先のビジネスと関連性の近い経験を有する人材を採用するも、特定の業界や領域、局面で成功した経験を他社での活動に応用できるかは未知数である。
  3. このようなリスクがありながら、国内においては、一般的に人材市場が未熟なこともあり、マネジメント人材は限られており、人件費はそれなりに高い。

 

4.バリューアップ機能の強化に向けた取り組み例

PEファンドにおいて、バリューアップ機能を強化していくためには、基本的には、社内にバリューアップのケイパビリティのある人材を確保する、社外から経営者人材を確保する、コンサルティング会社等の社外プロフェッショナルを適宜活用するということになる。

本稿の冒頭にもある、ベインキャピタルやKKRにおいては、戦略コンサルティング出身のプロフェッショナルやグローバル企業においてマネジメント経験のある人材を採用し、投資先のバリューアップに向けた取り組みを推進する体制を構築している。

ベインキャピタルでは、投資チームとは別にバリューアップのための専任チームを組成し、投資先企業の経営力向上に直接的に関与できる体制を構築している。

KKRでは、投資先企業の持続可能な経営改善を実現することで、KKRのすべてのステークホルダーのために価値を創造することをミッションとするKKRキャップストーンという系列会社を展開している。

また、PEファンドの中には、社外プロフェッショナルを活用する際の司令塔となる人材を社内に確保することで、社内人材をあまり抱えず(固定費を抑え)、かつ、社外プロフェショナルを有効に活用する(過度の依存は回避する)というような取り組みを行っているところも見られる。

 

III.おわりに

以上のようにPEファンドの置かれている事業環境の変化に伴い、当社に対してPEファンドから寄せられる相談も変わってきている。従来から見られた、ソーシング支援、デューデリジェンス、Day1に向けたプランニングや100日プランの策定などに加えて、投資先の経営実態の見える化、具体的な事業の底上げ(コンシューマービジネスにおけるデジタルの取り組みなど)、投資先の経営陣の着任までの時限的なCFOなどのマネジメントの代行など、投資先の事業を具体的にどのようにまわし、P/LやB/S、キャッシュフローの改善をどのように実現していくかに関連する相談が多くなってきている。

当社としては、このようなPEファンドの悩みの解決に尽力するべく、PEファンドおよびその投資先に対するサービス体制の強化を行っており、当該サービス提供を通じて日本企業の価値の向上、ひいては日本経済の活性化につながれば幸甚である。

 

※本文中の意見や見解に関わる部分は私見であることをお断りする。

執筆者

デロイト トーマツ アンカー マネジメント株式会社
ディレクター 八下田 恭一

(2019.12.12)
※上記の社名・役職・内容等は、掲載日時点のものとなります。

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