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Industry Eye 第60回 ライフサイエンスセクター

調剤薬局の環境変化と患者の意識調査~患者から必要とされる薬局とは~

我が国の調剤薬局の数はコンビニエンスストアより多い6万店近くまで達しており、さらにドラッグストアも2万店を超え、両者の垣根を超えて競争が激化してきています。また、厚生労働省は、“患者のためのかかりつけ薬剤師”としてのあり方を「患者のための薬局ビジョン」に示し、近年の調剤報酬改定はこの薬局ビジョンにあり、“患者のためのかかりつけ薬局”を目指すことが求められています。今回、デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社が薬局・ドラッグストアの利用者へのアンケートを実施し、患者が求めている薬局像について調査した結果と合わせてポイントをまとめています。

I.調剤薬局を取り巻く環境の変化

医薬分業の取り組みにより、薬剤師や薬局を取り巻く環境が変化してきています。医師と薬剤師が役割を分担することで患者の安全性を確保できるようになるなど、医薬分業による成果が上がる一方で、門前薬局の乱立といった、患者の負担が増大するなどの問題点も指摘されるようになりました。そのような問題解決を目的として、厚生労働省が2015年10月に策定したのが「患者のための薬局ビジョン」です。「患者のための薬局ビジョン」により、薬局に求められる役割は大きく変化してきています。地域連携薬局ではかかりつけ薬剤師・薬局機能や健康サポート機能が、専門医療機関連携薬局では高度薬学管理機能が、それぞれ求められるようになります。

患者のための薬局ビジョン
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II.患者アンケートの分析結果

(1)アンケートの概要

本調査は、調剤薬局併設型のドラッグストアが増加してきている中で、患者側が「調剤専門薬局(以下、専門薬局)」「調剤薬局併設型ドラッグストア(以下、ドラッグストア)」をどのような基準で選び、何を重視しているかを把握するために実施しました。全国の20歳以上の男女5,648人に「専門薬局」および「ドラッグストア」に対するアンケート調査を行いました。

調査手法:インターネット調査
調査対象:東京・愛知・大阪エリア在住者
調査期間:2021/6/24~2021/6/26

(2)店舗選択時に重視すること

患者が調剤薬局を利用する際に、ロケーション/サービス/店舗運営の各項目の重視度を把握したところ、重視項目として、専門薬局利用者の回答者は「受診医療機関から近い(83%)」「待ち時間が短い(75%)」「店員の説明のわかりやすさ(64%)」が上位となりました。一方、ドラッグストア利用者の回答者は「自宅から近い(81%)」「待ち時間が短い(68%)」「薬局内の清潔感」(64%)が上位となっています。

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(3)重視項目による顧客セグメント分類

調剤薬局利用における重視度に対する回答を用い、非階層クラスタ分析を実施し、「専門薬局派」、「ドラッグストア無関心派」、「ドラッグストア積極利用派」の3セグメントに分類することができました。

専門薬局派の特徴としては、月1回の通院に合わせて利用していること、行きつけの専門薬局は1店舗、かかりつけ薬剤師(薬に関する相談)の利用が多くなっています。また、専門薬局選択の決め手になるものとして、①受診医療機関からの近さ、②自宅からの近さ、③店員の接客態度の良さが挙げられます。

ドラッグストア無関心派の特徴として、男性が中心、行きつけのドラッグストアは1店舗、ドラッグストアの決め手になるものとして、①自宅からの近さ、②受診医療機関からの近さ、③ポイントサービスを利用できることが挙げられます。

ドラッグストア積極利用派の特徴として、女性が比較的多いこと、定期通院は無く月1~2回程度の複数店舗を利用している、購入商品種類数も多く、ポイントサービス・販促クーポン・アプリ・かかりつけ薬剤師を利用しています。また、ドラッグストア選択の決め手は、①自宅からの近さ、②ポイントサービスを利用できる、③キャッシュレス決済を利用できることが挙げられます。

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(4)利用する決め手の選択率

利用する決め手として、専門薬局派は「受診医療機関から近い(63%)」が突出しています。ドラッグストア無関心派は「自宅から近い(59%)」が多い傾向にあり、ドラッグストア積極利用派は「ポイントサービス(42%)」「キャッシュレス決済(28%)」も決め手になりやすくなっています。

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(5)推奨度に影響を与える項目

患者が利用している専門薬局、ドラッグストアを推奨するかどうかに影響を与える項目を分析したところ、セグメント別に以下の結果になりました。

専門薬局派:「店員の接客態度が良い」「駐車場が止めやすい」「店舗の数が多い」

ドラッグストア無関心派:「ポイントサービスが利用できる」「店員の説明がわかりやすい」「自宅から近い」

ドラッグストア積極利用派:「店員の説明がわかりやすい」「店員の接客態度が良い」「営業時間が長い

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(6)顧客ロイヤルティを高める上で必要なサービス

患者が利用している専門薬局、ドラッグストアを推奨する度合いと関係が強いサービスを分析したところ、各セグメントともにポイントサービスの利用促進が重要な項目となっています。調剤薬局・ドラッグストアが増加してきている中で、患者側も利便性だけでなく、「お得さ」を求めていることがうかがえます。また、スマートフォンの普及率が高まっている中で、アプリの利用も大きなポイントとなっていると考えられます。

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III.まとめ

薬局経営には、調剤報酬改定をはじめとする制度改正や、近隣のライバル店との差別化、地域性など様々な要素を考慮した戦略が求められます。そういった意味で、薬局経営に明確な答えはなく、経営判断に苦慮するケースも少なくありません。薬局に集客し調剤業務で利益をあげる経営から、地域医療に貢献する経営にシフトするには、今回の分析結果にあるように、患者側から求められている機能・サービスを強化していくことが必要となっていきます。調剤薬局は今後、業務効率を高めながら、集客できる立地や規模の経済にとらわれない薬局経営を目指すことが大切です。

 

※本文中の意見や見解に関わる部分は私見であることをお断りする。

 

執筆者

デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
ライフサイエンス・ヘルスケアセクター
シニアアナリスト 伊藤 建之

(2021.11.16)
※上記の社名・役職・内容等は、掲載日時点のものとなります。

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