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Industry Eye 第61回 建設・不動産セクター
5G時代における建設・不動産業界を取り巻く主要アジェンダ
経済活動のDX化やIoT活用に伴い、携帯電話事業者だけに留まらない5Gインフラ(ローカル5G)の整備が急務となっています。建造物や不動産の価値向上を考える際に、5Gインフラ整備およびそれらの利活用までを見据えた構想のあり方について説明します。
I.はじめに
「5G」は、様々な経済活動のDX化や今後のIoT市場に関する期待感の中で、ユースケースの実証試験や、大手携帯電話事業者(Docomo、KDDI、Softbank、楽天モバイル)によるインフラ整備が進められている。その一方、今後は移動通信携帯電話サービスのみならず、自動車分野・産業機器分野・ホームセキュリティ分野・スマートメータ分野等、5Gが使用される領域の拡大に伴い、ローカル5G(地域ニーズや個別ニーズに応じて様々な主体が導入できる5Gネットワーク)に非携帯電話事業者が関与する形態も見受けられる。そのような中で、建設・不動産業は、従来のような携帯電話事業者に物理的な場を提供(基地局の設置)する立場といった視座のみならず、5Gを活用した建設プロセスの変化や不動産の価値向上といった視点の重要性が増すと考えられる。
II.5Gおよび5Gに付随するビジネス
1. そもそも5Gとは
移動通信システムの歴史は1980年頃にさかのぼり、現代にいたるまで、最大通信速度はおよそ100,000倍となっている。5Gとは、国際規格の第5世代目を指しており、世界のあらゆる活動のDX化に伴うAI/IoT時代のICT基盤として、5Gは爆発的な普及が期待されている。
5Gとは既存の4Gと比して超高速、超低遅延、多数同時接続できることが特徴とされており、4Gまでの移動通信システムではなし得なかった様々な社会的インパクトが見込まれている。
一方で、5Gは4Gまでと比べて高い周波数帯を使用することから、サービス提供に際して、より多くの基地局設置が必要となる。この観点より、ローカル5Gといった整備手段や、5Gサービスの提供に必要となるICTインフラの早期全国展開および円滑導入の支援を目的とする5G投資促進税制の整備が行われた。
2. 5G普及に伴う関連ビジネスと想定される市場
総務省としては24年3月末までに280,000局の基地局整備を目標としている一方で、各携帯電話事業者は約90,000局の基地局の整備を検討している。(内訳としては、(株)NTT Docomo 20,000局(22年3月末)、KDDI(株) 50,000局(22年3月末)、ソフトバンク(株)20,000局(21年10月末)は各社プレスリリースなどで公表しているが、楽天モバイル(株)については公開情報無し)24年3月末の目標を達成するにはこれらの設置数の差し引き分が民間事業者の設置するローカル5G基地局によって達成される必要がある目算となっている。また、そのような状況の中、公有財産(信号機など)や私有不動産(商業ビルや工場、病院など)を活用したインフラシェアリングや、新たに5Gネットワークを導入するための非通信事業者向けのコンサルティングサービス、5G特有の困難(透過性など)を解決するようなものづくり、さらには5Gソリューションを活用した新たなサービス提供などビジネスチャンスも生まれている。
こうした新たなビジネスの種のうち、総務省では5Gの利活用例として9つの方向性(①スポーツ(フィットネスなど)、②エンターテイメント(ゲーム・観光など)、③オフィス/ワークプレイス、④医療(健康、介護)、⑤スマートハウス/ライフ(日用品、通信など)、⑥小売り(金融、決済)、⑦農林水産業、⑧スマートシティ/スマートエリア(施工管理・メンテナンスなど)、⑨交通(移動・物流など)を例示している。また、総務省の旗振りの元、2021年においては20もの実証実験が開始されている。
こういった市場における用途市場において、特に建設・不動産業に関連するところでは、製造業・エネルギー・ユーティリティといった分野でのリアルタイムオートメーションや状態監視といった将来的なコスト削減が見込まれている分野への期待感が大きい。また、土木工事・施工プロセスにおいても5G技術の応用は進んでおり、トンネル工事や危険地帯での安全確保や建設機械の自動運転などに実現に伴う建設現場の働き方改革にも期待が進んでいる。
III.5G時代の建設・不動産業に求められるケイパビリティとそれを実現するための方策
1. 5G時代の建設・不動産業に求められるケイパビリティ
このような状況から、5G時代の建設・不動産業においては、従来のハード面での設計・施工にとどまらず、5Gを活用した竣工後の運用・管理や、5Gを活用したソリューション開発・アプリケーション開発・運用保守まで視野を広げていくことで、新たなビジネスチャンスが得られるものと思料される。
前述の通り、現時点では中長期的にどのような5Gユースケースが不動産へ普及していくかは不明瞭ではあるものの、携帯電話事業者側からの屋内へのインフラ整備は限定的となるため、建設・不動産業の各社において必要とされるインフラを予め見極める能力が必要と思料される。たとえば、建設物に5Gインフラを導入する際には、「何のために5Gを導入するのか」「そのことによりどのようなベネフィットが期待されるか」といった長期的な観点より不動産の得られる潜在的な付加価値を見積もり、これらについて屋内基地局といったハードウェアをインフラシェアリングなどの手法を活用して効率的に整備していくことで、5Gインフラの設備仕様決定におけるQCD(品質・コスト・納期)の向上を図る取り組みが必要になると考えられる。
2. ケイパビリティ獲得に向けた取り組み素案
上記のようなケイパビリティ獲得に向けては、まず5G普及に伴い建設・不動産業界のビジネスモデル自体が変容する可能性があることを認識すべきである。そのうえで、5Gによるソリューションを活用した、競争力の源泉の創出および不動産の価値向上を実現する戦略的工夫を行うべきであろう。
例えば、自社だけでなく携帯電話事業者や各テナント企業と連携したソリューション開発およびそれに要する5Gインフラ整備、といったアイデアが考えられる。またこの際には、建築物の設計・施工に留まらず、5Gインフラのハード面の設計・施工からソフト面でのサービス開発・アプリケーション開発および全体感における企画や運用など、対応すべきビジネススコープが大きく広がるため、この中のどこまでを内製化し、どこから他社の力を借りるべきか、という線引きが今後の主要な論点になると思われる。
内製化のメリットとしては、自社でのソリューション関連のノウハウ獲得や設計仕様へのフィードバックによる低コスト化、あるいは自社案件での水平展開などが期待されるが、一方でノウハウ獲得のスピード低下や他事例のトレンド収集困難などの懸念事項も推察される。
IV.おわりに
スマートシティという言葉が耳にされるようになって久しいが、今後デジタル技術の活用は建造物単体ではなく街や地域全体に普及していくことは想像に難くなく、それを実現するためのインフラが5Gである。この普及に際しては携帯電話事業者だけでなく、建設・不動産業界による主体的なローカル5Gネットワークの構築も必要である。
そういった中で建設・不動産業はハード的なインフラ整備だけではなく、5Gを活用したアプリケーションベンダーなど、建設・不動産業に留まらない外部とのアライアンスを通じて発想を膨らませながら最適な空間をデザインし、不動産価値向上につなげていくことが期待される。そういった一連の流れの中で、まだ顕在化していないニーズをとらえるべく5Gを活用した、新たなビジネスモデル・ビジネスチャンスが誕生することも期待される。
※本文中の意見や見解に関わる部分は私見であることをお断りする。
執筆者
デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
資源・エネルギー・生産財
マネージングディレクター 松永 秀夫
ヴァイスプレジデント 羽場 俊輔
シニアアナリスト 五十嵐 貴裕
アナリスト 山口 雄大
(2021.12.1)
※上記の社名・役職・内容等は、掲載日時点のものとなります。
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