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Industry Eye 第62回 石油・化学/鉱業・金属セクター

脱炭素社会に向けたビジネスモデル再構築の必要性

各国が脱炭素に向けて目標を掲げており、日本も同様に脱炭素に向けた取り組みにコミットしています。世界全体で社会が変化する中、企業も事業変革を迫られており、「ESG経営」、「環境経営」、「脱炭素経営」等の様々な呼び方をされますが、各企業ともに脱炭素に向けて取り組みを強化しています。本稿では脱炭素の流れの中でビジネスモデルの再構築を進める必要性を中心に概説します。

はじめに

各国が脱炭素に向けて目標を掲げており、日本も同様に脱炭素に向けた取り組みにコミットしている。世界全体で社会が変化する中、企業も事業変革を迫られており、「ESG経営」、「環境経営」、「脱炭素経営」等の様々な呼び方をされるが、各企業ともに脱炭素に向けて取り組みを強化している。本稿では脱炭素の流れの中でビジネスモデルの再構築を進める必要性を中心に概説する。

 

脱炭素社会におけるマクロ環境の変化

昨今ではニュース、新聞や雑誌を見ると、SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)、ESG(Environment:環境、Social:社会、Governance:ガバナンス)、CSR(Corporate Social Responsibility:企業の社会的責任)という言葉を目にしない日はない。新しい分野のように認識されがちであるが、日本は資源が乏しく、製造業をはじめとする省資源の意識は連綿と続いている。企業における社会的責任も日本では60年以上前から議論されており、社会的責任に対応するという流れは昔から存在する 。近年、より注目を浴び始めている理由は世界的な環境リスク(例えば、異常気象や気候変動に関するリスク)の高まりから、各国が協調して脱炭素への取り組みを強化しており、社会的に大きな動きになっていることが背景にある。日本としては、2015年の温室効果ガス排出削減等の枠組みであるパリ協定、2020年に2050年までにカーボンニュートラルの実現を宣言したことで、脱炭素社会に向けて動きが加速している。社会全体が変わっていく中で企業もビジネスモデルの再構築が迫られるような状況になってきている。

 

SDGs、ESG、CSRの関係性

SDGs、ESG、CSRという用語は、混同して使われていることがあるが、それぞれ意味合いが異なっている。厳密な定義を行うのは難しいが、概念的にはSDGsが目標という位置付けであり、CSRが企業、ESGが金融機関や投資家を軸に活動を行っていると分類することが出来ると考えられる。ESG経営という言葉もあるが、これは外部の金融機関や投資家からESG観点で企業が評価されるという点を意識した経営という意味合いとして捉えることができる。

【図表】SDGs、ESG、CSRの関係性
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ステークホルダーからの要請の強まり

企業は投資家、金融機関、取引先企業、消費者、行政等から脱炭素の取り組みについて評価をされるようになってきている。事例を挙げると切りがないが、例えば銀行が環境面で優れた取り組みを行う企業への融資を優遇、機関投資家がESGを評価基準に織り込み始めていること、海外では行政機関が企業に対して要請を行う動きもみられる。環境、社会、ガバナンスの要素が含まれているサステイナブル投資額も年々増加しており、社会的な動きが実際の投資にも影響していることがうかがえる。

【図表】サステイナブル投資額
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脱炭素が自社には影響がないと思っていたとしても業界全体が変わっていく中では無視できない状態になってくる展開も想定される。業界によって影響度合いが異なるが、現時点では影響がほとんどないとしても、乗り遅れると企業として脱炭素に取り組むコストよりも対応が遅れて挽回するためのコストの方が大きくなることも想定されるため、自社への将来的な影響やどのように取り組んでいくのか方針を定めることが肝要である。

 

ESGが財務的に重要になってくる状況とは

SerafeimとSASB(Sustainability Accounting Standards Board:サステナビリティ会計基準審議会)の創設者で前CEOのJean Rogersが行った共同研究では次のような状況になると、ESGが財務上で重要になる可能性が高いとされている 。

① 経営陣や外部ステークホルダーが企業の環境や社会的インパクトを計測しやすくなるとき(技術革新によって原材料を追跡できるようになり、持続可能ではない採掘のされ方をしていることが認識できるような場合)

② メディアやNGO(Non-Governmental Organization:非政府組織)が更に力を持ち、かつ政治家がよりESG課題に関して対応を行うようになるとき

③ 企業が効果的に自己制限をできないとき(例えば、パームオイル業界においてはインセンティブが誤った形で設定されて、農家が森林破壊を行うことに繋がったケースがある)

④ 企業が差別化されたサービスを作ったとき、もしくは製品が「望ましくない方法*」や持続可能ではない方法で事業を行われているものが代替されるとき(テスラを考えてみるとガソリン車の市場を破壊する可能性がある)*原文では”Dirty”と表現

③は企業の選択がESG分野の課題に結び付いているように思えるが、①、②、④は外部環境の変化が自社の財務上のインパクトに繋がってくるものと考えられる。現在の日本の状況を踏まえると、様々な業界で①、②、④において動きがあり、ESGが財務上で与えるインパクトが強くなってきていると考えられる。

 

ビジネスモデルの再構築の必要性

企業が脱炭素化のみを追求すると財務面ではマイナス影響を受ける。例えば、CO2を削減するためには技術開発や設備投資等が必要になり、脱炭素社会への貢献にはなるものの、企業にとっては財務的なネガティブインパクトを伴う。国連環境計画(UNEP)が支援をする国際資源パネル(IRP)の報告では、気候変動対策のみに注力して取り組んだ場合には世界総生産(GWP)を3.7%押し下げることに繋がるとの試算もある。一方、資産効率の向上で経済的利益が生み出されるとの報告もあり、上手く資源循環(サーキュラーエコノミー)をできる仕組みを織り込むことがポイントとなってくる。

なお、誰が脱炭素のコストを負担するかは非常に重要な問題であるが、今回は割愛させて頂く。(デロイト トーマツ グループは、脱炭素が新たな不均衡と搾取に繋がらないことを願っている。)

サーキュラーエコノミーというコンセプトを掲げることは容易であるが、実際にはビジネスモデルの組み替えや、新たな投資等も必要になり、様々な検討が求められる。また、ビジネスモデルを変える際に供給側の取り組みだけでなく、需要側への訴求も重要となる。事例として、IKEAやUnileverが挙げられるが、消費者に環境貢献を理解してもらいブランドイメージ向上につなげるような取り組みである。環境的要素がビジネスモデル構築上の制約条件になることは従来からもあったが、昨今の動きとしては環境的要素が戦略の構成要素に組み込まれてきているようになっている。

また、自社で取り組む事例の他にも他社の動向によって対応が求められる事例もある。代表的な事例としてはApple社が2030年までにサプライチェーンのカーボンニュートラル達成を掲げた取り組みが挙げられる。この取り組みで様々な部品のサプライヤーに影響が波及することが想定される。

脱炭素社会という文脈とは異なるが社会変化が企業活動に多大な影響を与えたことは過去にもある。IT化社会が最もイメージがつきやすいが、事業環境の変化でCD販売やカメラフィルム製造販売を行うような企業が倒産した事例が挙げられる。このように社会変化が起こる際には適切に事業の行く末を見極めて企業として進むべき方向性を決める必要がある。

社会全体が脱炭素に進んでいるからという理由ではなく、まず始めに自社がなぜ脱炭素に取り組むべきなのかという点を明確に社内外に説明できるような意義を考え、その上でビジネスをどのようにしていくのか検討することが求められる。また、受動的に脱炭素に取り組むのではなく、後手に回らないように能動的に取り組む姿勢が重要となる。企業にとっての利益の源泉については様々な議論があるが、①利益の源泉を生み出すことのできる市場(生み出し続けることのできる市場)、②企業が保有するケーパビリティで優位性(利益の源泉)を確立できる市場、という条件が挙げられる。理想的には①のように新たな市場を生み出す、かつ他社に先駆けて行うことで企業に優位性を構築するということが求められる。

通常、ビジネスモデルを検討する際には外部環境、内部環境を整理し、将来的な動向も考慮しながら最適なビジネスモデルを組み上げていくプロセスを辿る。外部環境としては市場分析、競合分析、顧客分析が主になり、一方で内部環境分析は業績分析の他にバリューチェーン分析も行うことになる。この脱炭素という流れの中で新たに留意すべきものとして、気候関連リスクや機会が挙げられる。ビジネスモデル構築の手法自体は変わらないものの、新たに検討すべき要素が増えてきている状況にある。

【図表】気候関連リスク
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【図表】気候関連機会
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なお、ビジネスモデルの再検討の結果で最適な解が見つからないこともある。構想としては考えられるものの、技術革新が追い付いておらず、実際にビジネスプランを作成しようとすると現時点では八方塞がりになるということもあり得る(構想は描けるものの利益が生み出せないようなケース)。

 

M&Aによる事業転換

自社でビジネスモデルを再構築するというアイデアの他にM&AやJVという施策も有効になる。技術や資産を持った企業と組むことが自社単独で行うよりも合理的であれば検討を行うことが求められるだろう。この脱炭素の流れの中で価値が毀損してしまい、ステークホルダーからも許容されない座礁資産が増えることも想定されるため、企業としては早めに対応策を検討することが必要である。

【図表】GXにおけるM&A判断の流れ
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おわりに

本稿では「脱炭素社会に向けたビジネスモデル再構築の必要性」というテーマで全体感や最近の事例等を踏まえた上でビジネスモデル再構築の必要性について触れさせていただいた。コンセプトを提示させて頂いたものの、不足している検討フレームワークの解説は次の執筆テーマとさせて頂く。

 

※本文中の意見や見解に関わる部分は私見であることをお断りする。

 

執筆者

デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
石油・化学/鉱業・金属
マネージングディレクター 村岡 雄一郎
シニアヴァイスプレジデント 中山 博喜
シニアアナリスト 高田 翔平
ジュニアアナリスト 平田 壮輝 

(2021.12.28)
※上記の社名・役職・内容等は、掲載日時点のものとなります。

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