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Industry Eye 第70回 航空・運輸セクター

航空・運輸セクター:物流業界の2024年問題

物流業界における2024年問題とは、働き方改革関連法によって、2024年4月1日以降、「自動車運転の業務」に対し、年間の時間外労働時間の上限が、960時間に制限されることによって発生する諸問題に対する総称です。いくつか改正点がある中でも、「時間外労働の上限規制」がトラック運送業界にとって大きな影響を与えるといわれています。本稿ではトラック運送業界の市場環境および2024年問題による影響について考察します。

I.はじめに

物流業界における2024年問題とは、働き方改革関連法によって、2024年4月1日以降、「自動車運転の業務」に対し、年間の時間外労働時間の上限が、960時間に制限されることによって発生する諸問題に対する総称である。2018年6月に働き方改革関連法が成立、通常は2019年からの施行だが、トラック運転手などの労働時間の長い業種は、特例で2024年からの施行となっている。

働き方改革関連の施行スケジュール
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いくつか改正点がある働き方改革関連法の中でも、「時間外労働の上限規制」がトラック運送業界にとって大きな影響を与えるといわれている。本稿ではトラック運送業界の市場環境および2024年問題による影響について考察する。

II.トラック運送業界の概況

トラック運送業界は、全事業者数の内、資本金3億円以下が99.5%、従業員100名以下が96.5%を占めており、中小企業の占める割合が大きい。またトラック運送事業者数の推移をみると、平成2年にトラック運送事業の規制が緩和されたことにより新規参入事業者が急増したが、2006年以降は約62,000社とほぼ横ばいで推移している。なお、過当競争が激しい環境の中、荷主企業はより運賃の安い業者へ依頼するため、運送事業者は荷主と価格交渉しにくい現状がある。

トラック運送事業者数の推移(単位:社)
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また、トラック運送業界では若手ドライバーが減少し、ドライバーの平均年齢も全産業対比でも高まっており、将来的に深刻なドライバー不足に陥ることが懸念されている。さらには、「時間外労働の上限規制」によってドライバー1人当たりの走行距離が短くなるため収入が減少し、それに伴い離職が増加することで、労働力不足に拍車がかかる恐れもある。

トラック運転手の平均年齢(単位:都市)
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上記のような課題に直面する一方で、Eコマース市場の拡大により、物流量は増加の一途を辿っている。足下では、新型コロナウイルスの拡大による巣ごもり需要がひと段落したこともあり、物流量の増加は落ち着きを見せているが、長期的に見れば、今後も拡大していく可能性が高いだろう。物流業界は、こうした様々な外部環境の変化により、待ったなしの変革の必要性に迫られている状況である。

 

宅配便取扱個数の推移(単位:万個)
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III.今後の動向

1. トラック運送業界におけるM&A案件の増加

2024年問題への対応が迫られる中、中堅・中小のトラック運送事業者の経営は一段と厳しさを増すことが予想されるが、その解決策の一つとしてM&Aが注目されている。業界全体でドライバー不足と高齢化が進行する状況下、自社単独で人材獲得競争に打ち勝つことには限界もある。そこで、M&Aを通じて大手企業グループに合流すれば、採用力が強化され、ドライバー不足解消に繋がることが見込まれる。さらには、競争激化による運送単価の低下に対して、一定の歯止めをかけることも期待されるだろう。そのような背景もあり、近年、トラック運送業界におけるM&Aの件数は増加している。

加えて、トラック運送業界では後継者不足も経営課題となっており(東京商工リサーチの調査によると、2020年時点で「運輸業」の後継者不在率は53.7%で2019年の52.2%から1.5%上昇)、そうした状況からも、M&Aは今後さらに増加すると考えられる。

物流業界M&A件数(単位:件)
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2. 業務効率化に向けた対応 – 物流DX

2024年問題への対応を考える上では、DX(デジタル・トランスフォーメーション)の推進も不可欠である。DXとは、デジタル技術を活用して企業がビジネスモデルを変革することを指すが、「物流DX」により物流の仕組みを変え、生産性を向上させることで、ドライバー1人あたりの労働時間の減少を補うことも可能となるだろう。

例えば、配車・配送計画をデジタル化するため、輸配送管理システムを導入することが考えられる。これにより、属人的な配車計画立案から脱却することや、配送・配車計画の最適化を図ることが可能となり、業務の効率化が実現できる。その他にも、勤怠管理システムの導入によりドライバーの自由な働き方を可能とすることや、トラック予約システム導入によるドライバーの待機時間短縮化、伝票や受け渡しデータの標準化・統一化による業務効率の改善など、テクノロジーを活用した生産性向上への様々な取り組みが増えつつある。
 

3. SDGs対応

物流業界は、その業種の特性上、環境負荷の問題と常に向き合わなくてはならない。全国トラック協会は2030年度を目標にトラック運送業界全体でカーボンニュートラルを目指すため、「トラック運送業界の環境ビジョン2030」を策定している。その主要目標として、トラック運送業界全体の2030年のCO2排出量を2005年度比で31%削減することを掲げている。

最近では輸配送におけるCO2排出量の見える化サービス、低炭素型物流設計サービス、太陽光発電やEV車両の導入など、SDGsへの取り組みが活発化しており、今後もさらなる技術革新や新サービスの展開が期待される。

 

IV.おわりに

2024年問題が間近に迫り、トラック運送業界の事業環境は日に日に厳しさを増していくと考えられる。加えてSDGsへの対応も求められるなど、各事業者への負担が更に重くなっていくことはいうまでもない。特に中堅・中小のトラック運送事業者においては独自の経営資源のみでは対応力に限界があり、今後も業界再編の動きは加速していくだろう。また、デジタル化による業務効率化やSDGs対応に向けた新しいサービス・技術の開発においても、自社単独ではなく他社と協働するケースが増えていくのではないかと予測される。

当社では、M&A(企業買収・売却)の戦略策定から実行までの各種支援、アライアンス戦略の検討・実行支援、さらにIT・アナリティクスを活用したコンサルティングサービスまで、幅広い領域において豊富な経験を有しており、こうした知見を活用して物流業界の変革のご支援ができれば誠に幸いである。

 

※本文中の意見や見解に関わる部分は私見であることをお断りする。

 

執筆者

デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
航空運輸・ホスピタリティ・サービス
マネージングディレクター 池澤 友一
ヴァイスプレジデント 安田 尚史
ジュニアアナリスト 山崎 隼佑

(2022.12.5)
※上記の社名・役職・内容等は、掲載日時点のものとなります。

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