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Industry Eye 第71回 石油・化学/鉱業・金属セクター

化学業界におけるビジネスデューデリジェンスのポイント

ビジネスデューデリジェンス(BDD)はM&Aにおける重要なプロセスですが、通常はタイトなスケジュールの中で分析を行う必要があり、ポイントを絞りながら進めていくことが肝要となります。本稿では化学業界のM&AにおけるBDDのポイントについて解説します。

I.はじめに

ビジネスデューデリジェンス(以下、BDD)はM&Aにおける重要なプロセスである。BDDはM&Aプロセスの一環であることから、通常はタイトなスケジュールの中で分析を行う必要があるが、一般的にBDDは調査対象が幅広くなる傾向がある。そのため、満遍なく調査を行うのではなくポイントを絞りながら進めていくことが肝要となる。

一方、業種や対象会社の特徴によっても重要なポイントが変わってくるため、調査前の作業設計時に論点となる部分の見極めが重要である。本稿では化学業界のM&AにおけるBDDのポイントについて解説を行う。

※一般的な論点については「ビジネスDDガイド:コマーシャルデューデリジェンスの実務ポイント」参照

II.化学業界の特徴

化学業界は川上から川下まで多様な分野や製品が関連する。一言で化学製品といっても例えばナフサ等原料品から樹脂成型品等の最終化学品まで多岐にわたる。そのため化学業界のBDDのポイントを一概に語ることが困難を極めるが、対象会社のサプライチェーン上での立ち位置や扱う製品の特徴によって、ある程度はBDD実施上のポイントを類型化することができる。

【図表】化学業界の概観
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III.化学業界におけるBDDのポイント

ここからは化学業界のBDDの各プロセスにおける留意点や特徴について順を追って記述する。
 

市場環境分析

化学製品は様々な分野に使用され、エンドユーザー(エレクトロニクス、自動車、産業機械、等)の業界が多岐にわたるケースが多い。例えば、ポリイミド製品はスマホや自動車等のフレキシブルプリント基板(FPC)や、航空宇宙分野で人工衛星等の機器を覆う絶縁保護フィルム等で用いられている。

エンドユーザーはイノベーションを起こすために、化学企業間の開発競争を促すことから、化学業界において研究開発力は競争力を維持し、成長を続けていくために重要な要素になる。昨今ではLCPやポリイミドフィルムが、5G・自動運転等の技術革新に重要な役割を果たしている。なお、イノベーションが起こると代替品の脅威が高まることからエンドユーザー側の動向についてはウォッチする必要がある。
 

競合環境分析

化学会社の競争優位の源泉になっているのは研究開発、品質水準、生産能力、価格競争、技術サービス、立地というケースが多い。

化学製品を提供するために製品を開発できる研究開発力、顧客の要求水準を満たすだけの品質水準、および必要量を供給できるだけの生産能力は必須である。

価格競争力、技術サービス、立地がどの程度競争優位に繋がるかは業界によって異なる。例えば、価格競争力については新規性のある製品や生産できるプレイヤーが限られている場合にはあまり重視されないが、従来品や過当競争になっているようなものであれば価格競争力が競争力の源泉になっているケースが多い。価格での優位性を持っている会社の特徴として業界内シェアが大きく原料調達でのボリュームディスカウントを発揮している、原料生産能力を有している等のケース挙げられる。また、価格競争力に関しては中国企業の動向が論点になることも多い。立地に関しては安定供給が求められる業界や輸出制限のリスクの考え方によって異なる。

化学会社の競争優位を判断する際に技術的な評価を行うことが多い。BDDにおける技術的な評価は専門的な部分まで踏み込まず、購買の意思決定者がどのような技術水準を求めているのかという軸で評価することが多い。技術という言葉には様々な意味合いが含まれているが、BDDでは対象会社のビジネスが競争力を有しているか分析を行うことから、最終的に購入する顧客(意思決定者)の要求水準を基準に考えるアプローチも有効といえる。

また、化学業界はCO2を多く排出する業界であり、ESG観点の中でも環境(Environment)がBDDにおいても重要になることがある。例えば対象会社の顧客が環境負荷の小さい製品の調達に切り替えているような場合には対象会社の環境配慮への対応力もBDDの中で分析をしていくことになる。
 

顧客動向分析

化学製品は様々な目的で使用されるものも多く、販売先やその先のエンドユーザーについても幅広くなるケースも少なくない。顧客動向を分析する際に留意が必要なものとして、顧客の購買決定場所や特性を考える必要がある。本社一括で購買しているのか、もしくは工場で意思決定しているのかによって同一企業であったとしても顧客動向が異なることがある。また、化学業界に限らず他業界でも起こり得るが、販売先と意思決定者が違うケースに直面するケースが多くある。特徴として、当該製品のバリューチェーンの中でエンドユーザー側が優位なポジショニングを築いている、かつ製品に品質や技術力が求められるケースでエンドユーザー側が部品メーカーのみならず化学会社からの製品の購買決定にも関わってくるというものである。顧客動向分析ではM&A対象会社が顧客の購買決定要因をどの程度充足しているか分析を行うが、意思決定者に対して当分析を実施する必要があり、この点を留意しておかないと間違った結論を導き出すことになる。

また、顧客分析ではスイッチングリスクについても分析を行うが、技術の希少性や価格競争力も影響してくるため、デューデリジェンスの過程では包括的な検討が必要となる。単純な例を取り上げると、技術革新がなく、かつ特に性能上で問題が起こるようなエンド製品ではない場合には変えるとトラブルが起こる可能性を引き起こすからスイッチングに対しては消極的(物理的、心理的、金銭的コストが大きく、メリットが少ない)な会社が多い。一方、前述とは逆のケースではあるが、技術革新がある場合や、新しい製品を出すたびに新たな材料が必要になる分野はスイッチングリスクが非常に高くなる。
 

内部環境分析

以下、バリューチェーンに沿って内部環境分析のポイントについて解説を進める。

【図表】一般的なバリューチェーン
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① 研究開発(新規/改良)

研究開発を考える際には新規と改良に分けて考える必要がある。新規技術を研究して開発する段階、製品化まで繋げる、製品化されているものを顧客要求に基づいて改良していく能力という形で分解することが出来る。一括りで研究開発と呼ばれるが、どのような意味合いで使われているのか定義して分析を進めていくことが求められる。

特許戦略として、特許戦略は会社によって濃淡があり、特許網をしっかり構築しようとする会社もあれば、最低限の特許だけでやっていこうとする会社も存在する。特許が重要になる業種かの見極めと、対象会社の特許戦略が競争優位性の確立に繋がっているのかが分析のポイントとなる。

② 調達

原料調達が競争優位性になっているケースがある。例として、供給者が限定的である原料について、供給者との良好な関係や立地の近さ等により安定供給を得られている、自社が原料供給機能も有しており調達から製造までを一貫で実施できる、等のケースが考えられる。原料調達は製品の価格や供給安定性に直結するため、場合によっては成功要因の必須要件となりうる。分析の留意点としては競合が模倣できないという強みなのかどうかを検証することが重要となる。

③ 製造 

製造における競争優位性を比較する際は、製品が品質水準を満たせているか、高稼働を維持できているか、事業継続性の観点で調達、製造拠点の分散等が出来ているか、等の観点がポイントとなる。半導体関連材料のように製品サイクルの早い業界では、研究開発と連動した製造工程の確立スピードも重要となる。また、対象会社が製品の設計のみを行ないOEM等で製造をしている場合には、OEM先の企業との関係性や自社で製造機能を持たないことによるメリット・デメリットの分析も必要となる。

④ 技術サービス

客側で製品をめぐって何らかのトラブルが発生した際に、対応のスピードおよび品質が優れていると競争優位性につながる。優れた技術サービスを提供することは顧客との良好な関係を構築することにもつながるため、販売している製品に係る顧客側の開発状況や今後の開発計画について早くキャッチアップできることがあり、非常に重要なポイントである。顧客の拠点(研究開発、調達、製造等)の近くに技術サービスの機能を持ち強みにしている企業や、品質や価格競争力で優位性を持っていなくても技術サービスを上手く実施して成功をしている企業が存在する。

⑤ 営業・マーケティング

化学業界はB2Bのビジネスであり、B2Cの業界と比べるとマーケティング活動はやや優先度が下がるが、化学会社においても営業活動はバリューチェーンの中で重要な位置づけにある。営業活動は自社の営業部門で行う場合と代理店の活用という形に大きく分けられる。代理店の活用であれば、代理店との強固なリレーション(例:出資、長期にわたる取引実績、契約、等)が存在しているか、また化学業界では製品によっては取り扱いに際して許認可が必要なものであれば代理店が許認可を有しているか、その許認可の取得難易度がどのようになっているのかという観点も重要なポイントになる。

IV.おわりに

本稿では化学業界におけるBDDのポイントを解説した。化学業界といっても非常に幅が広く、本稿がBDDのポイントを全て網羅しているわけではないが、今後のご検討において何らかの参考になれば幸いである。

 

※本文中の意見や見解に関わる部分は私見であることをお断りする。

 

執筆者

デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
石油・化学/鉱業・金属
シニアヴァイスプレジデント 中山 博喜
シニアアナリスト 高田 翔平
アナリスト 平田 壮輝

(2023.1.19)
※上記の社名・役職・内容等は、掲載日時点のものとなります。

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