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Industry Eye 第89回 エネルギーセクター
増え続けるエネルギー産業の投資・事業機会
2050年のカーボンニュートラル目標達成に向け、エネルギー産業では供給側、消費側ともに未曽有の大転換が進んでいます。本稿では、GXに向けたエネルギーの転換、データセンターの電力需要増、エネルギーレジリエンスの強化など、増え続ける投資・事業機会を詳述します。
目次
- I. はじめに
- II. GXに向けたエネルギー大転換がもたらす多様な投資・事業機会
- III. 生成AIの利用拡大によるデータセンター電力需要増がもたらす投資・事業機会
- IV. 激甚化する災害への対応(エネルギーレジリエンス)やエネルギー安全保障がもたらす投資・事業機会
- V. おわりに
I. はじめに
2050年のカーボンニュートラル(温室効果ガスの排出量と吸収量を差し引きゼロにすること)の実現に向けた取り組みを支援するために発行する国債であるGX経済移行債が、2024年2月に初めて発行された。このGX経済移行債については、10年間で150兆円を超えるとされる官民のGX投資に向けて先行投資を支援するものと位置付けられており、10年間で20兆円規模が見込まれている。この①GXに向けた未曽有のエネルギー大転換に加え、②生成AIの利用拡大によるデータセンター電力需要の急増、③激甚化する災害への対応(エネルギーレジリエンス)やエネルギー安全保障の強化など、エネルギー産業における投資・事業機会は増加する一方である。
本稿では、これらの投資・事業機会をいくつか紹介するとともに、それらの機会を活かすための要点を述べてみたい。
II. GXに向けたエネルギー大転換がもたらす多様な投資・事業機会
エネルギー産業における重要な投資・事業機会としてまず挙げられるのは、①GXに向けたエネルギー源の転換、すわなち、①-1 化石燃料による発電から再エネ発電への転換や、①-2 CCSによる化石燃料発電の脱炭素化、①-3 さらには自動車・航空・製造業などでより踏み込んだ脱炭素化を進めるための次世代エネルギー(水素、アンモニア、合成燃料、バイオ燃料など)の製造・供給などである。
これら再エネ発電事業や次世代エネルギー供給事業は、設備投資のための大規模な資金調達が必要であり、また投資回収に長期間を有する。このため、これらを投資・事業機会として生かせるかどうかは、いかに事業収支の予見性や収益性を高めるための方策を打てるかがカギとなる。具体的には、コーポレートPPAによる売電収入の安定化、長期脱炭素電源オークションや値差支援制度の活用、それらに依拠したプロジェクトファイナンスによるレバレッジ効果の追及、オペレーション全体でのコスト削減などである。
長期脱炭素電源オークションについては、2024年1月に初回オークションが開催され、石炭火力のアンモニア混焼への改修(77.0万kW)や蓄電所の開設(109.2万kW)が落札に至った。第2回入札に向けた検討も既に資源エネルギー庁により始められており、第1回と同様に火力発電の水素・アンモニア混焼への改修や蓄電所に対する応札が想定される。また、第2回入札ではまだ対象外になるとみられる合成メタンを燃料とする火力発電やCCS付火力発電についても将来的に対象になるとみられ、投資・事業機会として今後も注目していきたい。
当社では、このニーズに応えるべく、洋上風力発電の海域利用公募や長期脱炭素電源オークション、値差支援制度への入札から事業開始に至るまでの全フェーズを対象に、様々なメニューを提供している(支援対象:コンソーシアム組成、入札図書作成、財務モデリング、資金調達・レンダー対応、SPC設立、会計・税務、調達コスト削減、コーポレートPPA締結、O&M構築など)。
また、①エネルギー源の転換にあたっては、①-4 変動性の再エネに対応するための送配電インフラの強化、①-5 再エネ電気を広く活用できるようにするための需要側の電化(代表例としてEVやヒートポンプ)、①-6 次世代エネルギーを供給するためのインフラの構築なども、大きな投資・事業機会となろう。例えば①-5のうち商用車(トラック、バス)のEV化は、運輸部門が排出するCO2を削減するための有力な打ち手である一方で、走行距離に対するバッテリー容量不足を解決する必要がある。これを踏まえ、世界中で走行中給電インフラの実証が盛んに行われており、わが国でもGX投資領域の一つに挙げられている。また、①-6については、日本各地で水素・アンモニアサプライチェーン構築に向けた調査が電力会社や商社、化学会社などを中心としたコンソーシアムによりまさに開始されようとしている状況である。
III. 生成AIの利用拡大によるデータセンター電力需要増がもたらす投資・事業機会
2021年に閣議決定された第6次エネルギー基本計画(3年ごとの検討が義務付けられており、今年見直しがおこなわれる予定)では、2030年度の電力需要について、経済成長を織り込みつつも野心的な省エネを織り込むことにより 2022年度とほぼ同水準の8,640億kWhと見込んでいる。しかしながら、この電力需要予測には野心的な省エネの未達による上振れリスクがあるだけでなく、先述した需要側の電化による上振れリスク、さらには生成AIの利用拡大によるデータセンターの電力需要の増加による上振れリスクが内在している。
データセンターの電力需要増加の程度については諸説あるが、国際エネルギー機関(IEA)によれば2026年のデータセンター電力需要は対2022年で最大2.3倍になるとの試算を示しており、株式市場も、半導体工場の新設と合わせて電力需要を大きく増加させる要因としてとらえており、電力会社の株価が大きく上昇する結果となっている。
このような電力需要の増加は、カーボンニュートラルのトレンドとあいまって、クリーン電源開発やエネルギーインフラ強化などエネルギー産業に大きな投資を呼び込むことになろう。
IV. 激甚化する災害への対応(エネルギーレジリエンス)やエネルギー安全保障がもたらす投資・事業機会
電力エネルギーインフラである送配電網に求められるのは、新たな電源(変動性の再エネの大量導入)への対応や、容量の増強だけではない。災害が激甚化する我が国においては、エネルギーレジリエンスの強化も送配電網に求められる重要なテーマである。レジリエンス強化に向けて、一般送配電事業者の送配電網を活用して、新たな事業者がAI・IoT等の技術も活用しながら自ら面的な運用を行う(例えば、自治体や地元企業が高度な技術を持つIT企業と組んだうえで配電事業を行い、災害時には特定区域の配電網を切り離して、独立運用するなど)ニーズが高まっている。これを可能にするため、安定供給が確保できることを前提に、配電事業者をライセンス制としており、配電事業への新規参入が期待されている。当社は一般送配電事業者側、新規参入者側のいずれに対しても配電事業参入または参入受け入れを支援できる知見、経験を有しており、実現に向けて課題も多いテーマではあるがレジリエンス強化および投資・事業機会の創出という目的に向けて引き続き支援をしていきたい。
V. おわりに
本稿で述べたように、エネルギー産業には膨大な投資・事業機会が見込まれるが、それを活かすためには制度面の理解・活用、競争力のあるコンソーシアムの組成、事業リスクの理解と潰しこみ、プロジェクトファイナンスによるレバレッジの追及などの方策を抜け目なく打っていく必要がある。当社は、エネルギー産業の投資・事業機会に挑む企業を引き続き支援していくことで、我が国のエネルギー産業の発展に貢献したいと考える。
※本文中の意見や見解に関わる部分は私見であることをお断りする。
執筆者
デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
エネルギーリード
稲垣 健一
(2024.7.17)
※上記の社名・役職・内容等は、掲載日時点のものとなります。
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