洞察

世界のM&A事情 ~中国~

中国M&A・インバウンド投資市場動向

景気減速によるリスク増加、米中貿易戦争、急速に進むITテクノロジーの進化など、近年話題を事欠かない中国市場ですが、足元では対中投資額は増加傾向にあり、また中国政府も外資への一層の市場開放に進むなど、市場の変化はこれまで以上にそのスピードを速めています。近年の市場傾向および国内の状況から、2019年の中国M&A・日本企業による買収・対中投資市場を考察します。

I.市場動向の全体感

2014年以降、国内業界再編や投資環境促進のための規制緩和、一帯一路政策の推進により、国内M&A市場は3年連続での成長を見せたが、2016年をピークに減少に転じており、取引件数・総額は2017年が1,511件・3,069億米ドル、2018年は1,263件・2,589億米ドルと減少を続けている。特にアウトバウンドM&Aの減少は顕著であり、2016年の取引件数394件・取引総額1,977億米ドルから2018年は122件・351億米ドルまで減少している。この背景には、2016年より矢継ぎ早に打ち出された対外投資規制政策、および足元の米中関係悪化による中国投資の締め出しの影響が見て取れる。急激な外貨流出を防ぎ投資リスクの過剰な増大を回避するため、投資の種類を選別したうえで不動産や娯楽産業といった一定の分野での海外投資を規制する一連の措置を打ち出した影響で、2017年から対外投資は大きく減少することとなった。また米中貿易戦争により対米投資の審査が厳格化された影響で対米投資額が大きく減少していることも要因となっている。

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出所:MergermarketデータよりDeloitte中国が集計

II.対中国直接投資の状況

外資系企業の対中国直接投資実際利用総額は2016年に0.2%減少し1,260億米ドルとなったものの、2017年には1,310億米ドル、2018年には1,349億米ドルと微増している。業種別では非製造業が全体の6~7割を占めており、情報通信サービスをはじめ不動産、金融・リース業などが投資を牽引するなか、ヘルスケアや文化・スポーツなども前年比で高い伸びを示しており、今後の投資増加が見込まれる。

日本の対中直接投資は2012年をピークに2016年まで大幅な減少を続けていたが、2017年から増加に転じており、日中間M&Aの件数・金額についても2017年は27件・1兆1,093億円、2018年は35件・6,181億円と推移している。主要な案件としては2017年のソフトバンクグループによる滴滴出行(タクシー配車プラットフォームを中心としたサービスを提供)への出資が5,500億円にのぼっているほか、2018年のオリックスによるAvolon Holdingsへの資本参加約2,500億円などがある。また2017年~2018年の10億円以上のディールでは生保、証券その他金融業など非製造業への投資が大半を占めている。

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出所:中国国家統計局、商務部統計、レコフ M&A データベースより、Deloitte中国およびデロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社が集計

 

III.日本企業による対中国投資を考えるうえでのキーワード

「転換期を迎える中国経済」と言われて久しいが、実際に中国の市場環境は短期間のうちに大きく変化しており、近年この傾向が顕著である。このような変化のなかで、2019年以降の対中国投資やM&Aに影響するであろうキーワードについて取り上げたい。
 

①外資に対するより一層の市場開放
米中貿易戦争や中国マクロ経済の減速に対応するため、中国政府は国内産業の競争力強化や消費拡大、外交面でのイメージアップ等を企図した外資への市場開放の動きを加速させている。2017年4月に自動車完成車メーカーの外資規制は2025年を目途に撤廃することが発表されたことは大きな注目を集めたが、その後同年11月には金融業に関する外資規制の緩和も発表された。2018年には外資規制項目が規定されている「外商投資参入ネガティブリスト」の2018年版が公表・施行され、証券・基金管理・生命保険・先物等で51%までの出資が可能となり、2021年にはすべての記入分野での出資比率制限が撤廃される見通しとなった。また商用車は2020年、乗用車は2022年に外資出資比率制限が廃止され、完成車製造会社の2社までの上限規制も取り払われる見通しである。これまでマイノリティ投資しか認められていなかった規制業種に属する外資企業にとっては、中国でのM&A戦略・中国地域事業体の資本構成やガバナンスの在り方などに大きく影響を与える方針転換といえるであろう。

また外資への規制緩和は出資比率だけでなく、制度手続面でも従来からの手続き負担が緩和される方向で改正が続いている。2016年10月には外資企業の設立・変更等が従来の商務局認可制から届出制に変更され、ネガティブリスト記載以外の業種においては商務局への届け出で足りることとなったが、2018年5月の李克強総理が主宰する国務院常務会議において、外資企業設立の商務届出と工商登記がオンラインで一括処理する方針が決定され、6月末より運用が開始されている。対中投資においてはこれまで規制と併せて手続面の不透明さや煩雑さが問題とされてきたが、規制緩和の一連の流れによって手続面の負担のより一層の軽減も期待される。
 

②ITテクノロジーと結びついた巨大EC消費市場
長引く米中貿易摩擦や人件費の上昇等により、生産拠点としての中国はより一層厳しい立場に立たされている。先述の規制緩和により自動車や金融といった一部の分野では新たな動きが出始めているが、一方では減税打ち切りによる自動車販売数の減少など、中国が抱える巨大市場においてもモノの消費に翳りが見えている。

そのようななか、これまでのモノの消費に代わり電子商取引を媒介としたサービス消費の拡大が注目されている。中国ではBAT(Baidu、Aribaba、Taobao)と呼ばれる巨大IT企業がそれぞれのECプラットフォームを展開しているほか、タクシーや公共交通の予約販売、旅行、教育、フードデリバリーといったさまざまなサービスが成長しており、中国国内の消費を牽引している。数多くのスタートアップ企業やユニコーン企業もこのようなサービスから生まれてきており、かつてない速度で成長を続けている。また今後は医療や健康・介護といったヘルスケア領域でも、ITとの結びつきによりさまざまな新しいサービスが生まれる期待もある。これらサービスには日本の環境下では展開が難しそうなものや、成熟し一大市場を形成しているものまで玉石混交であるが、今後の中国マーケットの取り込みのみならず、これらのプラットフォームを利用した日本国内やそれ以外の地域での事業展開も視野に入れた対中投資・M&Aが有力な検討対象となっている。

IV.終わりに

2019年は、製造業においては折からの人件費の高騰に加えて米中貿易戦争の影響もあり、短期的に非常に厳しい状況になることが想定されるが、一方で中長期的な視点では中国における直接投資・M&Aの市場環境は規制緩和により整備・改善されつつあり、日系企業が巨大市場の恩恵を享受する機会も引き続き存在している。加速度的に変化する足元の環境を読みつつも、中長期的な視点を持ち続けることが対中投資・M&Aにおいては非常に重要であろう。

執筆者

デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
北京駐在
三好 高志

(2019.2.18)
※上記の社名・役職・内容等は、掲載日時点のものとなります。

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