ナレッジ

世界のM&A事情 ~インドネシア~

M&A動向とスタートアップの状況

かねてよりインドネシアの巨大な国内市場が注目されていますが、様々な要因により経済成長の速度は当初想定していた水準には至っていません。本稿では、インドネシアの経済環境、M&A動向に加え、近年活発化しているスタートアップの状況について解説します。

I.インドネシアにおける直近のマクロ経済環境

インドネシアは300以上の民族グループからなる多様性に富んだ列島国であり、約2.6億人の世界第4位の人口を有する東南アジアで最も大きな経済国家の1つである。

インドネシア中央統計庁公表データによれば、2010年以降GDP成長率は5-6%程度で推移し、2019年においてもGDP成長率は約5.0%であった。比較的堅調に推移しているとも見える一方、人口ボーナス期を向えている中で当初期待していたほどの成長とはなっていないという一面もある。インドネシアの経済成長は内需主導型である点が特徴であり、国内需要の伸びが成長を牽引しているといえるが、一方で外需としては規制面の難しさ、労務リスクや税務リスク等の高さ等が外国投資家の参入の妨げとなっていると考えられる。

現在、2019年に再選したジョコ・ウィドト(通称ジョコウィ)大統領の第二期政権のもと、投資先としてより魅力的な国となるよう、投資環境の改善と経済成長の促進のための政策改革・規制緩和が進められている。政策の目玉の一つとして雇用創出オムニバス法が挙げられる。雇用創出オムニバス法は投資促進により国内雇用の創出を図ることを目的として、外資規制緩和、事業ライセンス等の手続き簡略化、税制優遇、さらに人事労務関連法規など70を超える現行の法律を包括的に改正するものである。2020年10月5日に国会にて可決されたものの、利害関係者との調整含め詳細については今後細則を制定する中で決定していくものとされている。

図表1:インドネシアの名目GDPと成長率推移
※クリックして画像を拡大表示できます

2020年はCOVID19に伴う大規模社会制限の影響により第1四半期は3.0%、第2四半期はマイナス5.3%成長となった。インドネシア政府においても様々な景気刺激策を検討しているものの、COVID19の新規感染者数は2020年10月時点で依然収束の目途が立っていないこともあり、通期でもマイナス1.7からマイナス0.6%成長となる見込みで、足元では先行き不透明な状況である。

 

II.インドネシアにおけるM&Aマーケットの動向

インドネシアのM&A案件数は概ね年間60-80件程度で推移しているが、従来から牽引していたインフラ・エネルギー分野に加え、近年は内需獲得を目的としたコンシューマー、金融分野のM&Aが増加傾向にある点が特徴である。また医療分野については人口当たりの医療従事者の少なさ等に見られるように改善余地が大きく、また中所得者層の増加による健康意識の高まりへの期待もあり注目されている領域の一つである。現在は主に規制面が同分野の新規参入における課題となっているが、今後雇用創出オムニバス法の成立により外資規制(ネガティブリスト)を含む規制緩和が見込まれている。

個別案件の特徴として取引規模1億ドル未満かつ非上場の案件が多数を占めている点が挙げられる。また外国企業による買収案件の占める割合が大きく、特に大型案件ほどその傾向が強くなっている。

図表2:インドネシアのM&A件数と取引総額
※クリックして画像を拡大表示できます

日系M&Aは年間5-10件程度で推移し、件数ベースでは全体の10数%程度を占め、シンガポールと並び重要な投資国となっている。特に近年は大型案件が金融セクターに集中している点が特徴である。これはインドネシア政府として国内の金融機関の健全性を高める目的で経営統合を推進しており、その一環で合併を伴う海外投資については例外的に100%の外国資本比率とすることを認めているといった政策が背景にある。しかしながら、2020年においては9月末時点の公表ベースでの取引件数が全体で24件(図表2)なのに対して日系M&A件数は0件(図表3)となっており、COVID-19による先行き不透明感に対して特に日系企業が慎重な対応を取っていることがうかがえる。

図表3:インドネシアの日系M&A件数と取引総額
※クリックして画像を拡大表示できます

III.インドネシアにおけるスタートアップの状況

インドネシアはスタートアップ総数、評価額1億ドル以上のスタートアップ数ともにASEANトップであり、近年も5社のユニコーン企業が誕生しているように、シンガポールと並びASEAN諸国の中でも際立った存在となっている。特に巨大な国内マーケットに注目したeコマース・フィンテック・配車物流関係等のB to Cのオンラインビジネスが多いことが特徴だが、現時点での成功例としては革新的な技術・ビジネスモデルというよりは他国の成功事例をインドネシア向けにローカライズしたものが中心となっている。農業・インフラ・医療・教育といった分野において、インドネシア特有の社会課題解決を目的としたスタートアップ企業が増えてきている点にも注目である。

今後のさらなる発展を進めるうえでの課題としては、エンジニア人材の慢性的な不足や質の高いアクセラレータの不足、産学連携の不足等、エコシステムとしての未成熟さが挙げられる。インドネシア政府は2018年に「インダストリー4.0」を導入するためのロードマップである「Making Indonesia 4.0」を掲げ、産業のデジタル化を推進する目標を立てているものの、現時点では政府主導での支援は限定的である。制約となっている外資企業に課されている最低資本金規制等の規制緩和も含め、政府としての働きかけも重要な鍵となってくるであろう。

インドネシアの経済環境、M&A動向に加え、近年活発化しているスタートアップの状況について解説したが、皆さまの理解の一助になれば幸いである。

 

※本文中の意見や見解に関わる部分は私見であることをお断りする。

執筆者

デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
インドネシア駐在員 柴田 茂宣

(2020.11.16)

※上記の社名・役職・内容等は、掲載日時点のものとなります。

 

関連サービス

M&A:トップページ
 ・ M&Aアドバイザリー
 ・ 海外ビジネス支援
 ・ インドネシアでの日系企業向けサービス


シリーズ記事一覧

デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社の駐在員が、現地のM&Aの状況・トレンド、M&A交渉の際の留意点などをご紹介します。

 ・ 世界のM&A事情

記事、サービスに関するお問合せ

>> 問い合わせはこちら(オンラインフォーム)から

※ 担当者よりメールにて順次回答致しますので、お待ち頂けますようお願い申し上げます。

お役に立ちましたか?