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世界のM&A事情 ~イスラエル~

スタートアップ大国イスラエルの最新M&A動向

建国、若干74年で、世界屈指の「技術大国」や「第2のシリコンバレー」と呼ばれるようになったイスラエル。コロナ禍においても同国へ流入する投資は増加し続けています。本稿ではイスラエルがスタートアップ大国となった背景を紐解き、最新のM&Aの動向、ホットセクターに触れながら、日本企業がM&A戦略を検討するための示唆を提供します。

I.イスラエルのマクロ経済環境

イスラエルは、コロナ禍において諸外国に先駆けワクチン接種を開始し、世界の注目を集めてきた。本稿を執筆している2022年1月現在、オミクロン株の影響を受け一日当たり数万人以上の新規感染が報告される中、4回目のワクチン接種が進められている。IMFによると、2020年におけるイスラエルの経済成長率(GDP)は-2.2%とマイナス成長であるものの諸外国と比較してもその影響は軽微であった。また、ベネット首相による経済活動と教育の継続を優先するという政策が功を奏し、2021年は経済成長率7.1%とコロナ禍においても成長傾向である。とりわけ注目すべきは、ハイテク産業におけるスタートアップ企業へ投資である。パンデミック以降、イスラエルのスタートアップに対する国内外からの投資額は急増しており、IVC-Meitar Israeli Tech Review 2021によると発表によると、2021年1年間でハイテク企業が行った資金調達は773ラウンドに及び、調達金額は、昨年比150%の成長の256億米ドルに到達。これは過去最高金額である。

 

II.M&Aを含むイスラエルへの投資状況

1. イスラエルの海外直接投資(FDI)と日系企業による投資

先述の通り、コロナ禍においてもイスラエルのスタートアップへの投資額は減速することなく、むしろ加速し続けている。Harel-Hertz Investmentによると、2021年におけるFDIは件数、金額ともに過去最高を記録しており、FDIの内、日本の比率に焦点を当てると2016年には1.8%であった比率が、昨年2021年には12%と、この5年で急増しており、日本企業からのイスラエルスタートアップへの関心度が高まっていることが数字に表れている。また、スタートアップへの投資をラウンド別に見てみると、下図の通り、イスラエル国内企業はシードラウンドへの投資比率が多く、FDIはラウンドC以降のレイターステージの投資比率が多い。

ラウンド別にみるイスラエルハイテクセクターにおける海外企業の投資傾向
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2. 昨今のM&Aトレンド

IVC-Meitar Israeli Tech Review 2021によるとイスラエルでは過去数年間、年間100件から120件のM&Aが実施され、IPOが10件程度というのがトレンドであった。下図の通り、このトレンドにも変化があり、2021年はIPO件数が75件と急増し、案件総額ベースではM&AとIPOがほぼ同額の約100億ドルと均衡する形となり、新たなトレンドが見受けられる(なお、ナスダックにおける上場企業数はアメリカ、中国に次ぎ多いのがイスラエルである)。また、昨今新たな上場方法として注目を浴びるSPAC(特別買収目的会社)による上場も13件と増加傾向である。

イスラエルのハイテクセクターにおけるExitトレンド
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3. ホットセクター

USBドライブや、ファイヤーウォール、Zip圧縮技術、検索の際によくある検索候補を表示するGoogleサジェスト機能、インスタントメッセンジャーなどもイスラエルで生まれたイノベーションだといわれており、Start-Up Nation Finderによると、現在、約7,000社以上のスタートアップが存在するとされている。軍事技術の民間移転により成長したサイバーセキュリティ領域や半導体領域、モビリティ領域、フィンテック領域は引き続きイスラエルのスタートアップエコシステムを牽引するセクターである。近年、イスラエルのスタートアップが分布するセクターは広範囲にわたっており、ライフサイエンス領域、フードテック領域、水素関連やカーボンニュートラルのようなエナジーテック領域、IoTやAI、航空宇宙関連、アグリテック領域、Industry4.0等々、ほぼ全ての領域にスタートアップが存在している。本稿を執筆している2022年1月現在、セクター別の資金調達金額は、やはりサイバーセキュリティ―がトップであるが、企業数を見るとライフサイエンス・ヘルスケアセクターがトップであり、イスラエルのスタートアップは新型コロナウイルスという未曽有の危機下にあっても時代や社会的ニーズに柔軟に対応してイノベーションを起こし続けているのである。

III.イスラエルのスタートアップエコシステムが構築された背景

なぜイスラエルが建国若干74年、日本の四国程の国土しかない小国で「第二のシリコンバレー」と呼ばれるまでになったのか。昨今この問いに答えるべく多くの書籍や記事が出版されており、その解は多種多様である。敵国に囲まれるという地政学的な背景により発達した世界最高峰の軍事技術や、ここから生まれる軍事技術の民間転用、社会経験や精神を鍛える場としても機能する男女共国民皆兵、政府による大胆なスタートアップへの支援・優遇政策、ヘブライ語でフツパと呼ばれる大胆かつ失敗を恐れない精神、これらすべての産学官民が一体となって作り上げられたのがイスラエルのスタートアップエコシステムである。こういったエコシステムから生まれた技術やそれを支えるエンジニアはグローバル企業を魅了しIBMやグーグル、マイクロソフト、アップルをはじめとするグローバル企業が約400社イスラエルに進出し、またエコシステムを強固にするという循環が出来上がっている。

 

IV.最後に

2022年、イスラエルと日本は国交樹立70周年という節目を迎え、日本・イスラエル2国間の関係は政治面、経済面において更に強化されることが見込まれる。日本企業からイスラエルのハイテク産業への投資は引き続き旺盛であり目が離せない。デロイト トーマツは予てからイスラエルのスタートアップエコシステムの過熱と日本・イスラエルコリドーの可能性に着目し、いち早く日本人を現地に派遣したファームである。Deloitte Israelに配置されている各セクターの専門家を通し、日本から遠く離れた中東の地で起きているイノベーションを身近に感じてもらえるよう情報を発信していくと共に、日本企業へ全方位から支援を継続していく所存である。

イスラエルの経済環境、M&A動向に加え、近年活発化しているスタートアップの状況について解説したが、皆様の理解の一助になれば幸いである。

 

※本文中の意見や見解に関わる部分は私見であることをお断りする。

執筆者

デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
テルアビブ(イスラエル)駐在 池田 秀斗

(2022.1.31)

※上記の社名・役職・内容等は、掲載日時点のものとなります。

 

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