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世界のM&A事情 ~台湾~
台湾におけるM&Aの動向と今後の展望
日本から地理的に近く、相互に交流の深い台湾。新型コロナウイルス感染症の優れた感染対策や、最近では半導体業界で世界でも重要な位置づけにあり、日本による積極的な工場誘致など話題性も高くなっております。本稿ではM&Aの近年の動向、および台湾経済の発展方向性について触れながら、日台M&Aの今後の展開について考察していきます。
I.台湾の経済マクロ環境およびM&Aマーケットの動向
台湾の統計局(National Statistics)の発表によると、2011年から2019年の実質GDP成長率は平均2.9%であり、2020年は3.1%、2021年は5.9%に達するとの予測である。2020年第2四半期(4-6月期)に0.4%へ落ち込むなど、一時的にはCOVID-19による影響が見られるものの、台湾の感染対策が功を奏し、国内経済は比較的安定していること、特に世界的な半導体需要の増加にも後押しされ、輸出や設備投資が好調であること等により堅調な経済成長を見せている。
Mergermarketによると、台湾の企業を買収対象とするM&Aの状況は、2012年以降取引件数が増加傾向を示しており、2018年に64件に達し、2019年にいったん減少したものの、2020年は再度同水準へ戻している。一方で2021年は10月までのため単純比較はできないものの減少傾向にある。2021年におけるM&Aは国内、クロスボーダー案件共に減速しており、新型コロナウイルス感染症の経済に与える影響や、台湾に対する中国リスクの高まり等による将来への不透明なリスクからM&Aに対する慎重な姿勢がうかがい知れる。
日本企業による台湾企業のM&Aは2012年から2017年まで3,4件で推移しており、2018年は日系大手商社による台湾の大型不動産案件や、医薬品開発企業案件を含む8件のディールが成立している。その後2年間は年間5、6件のM&Aが成立している。業種別にみると、2017年以降、それ以前と異なり、エネルギーおよび素材の分野でのM&Aが毎年含まれている点が特徴的である。特に太陽光発電や洋上風力発電といった再生可能エネルギーのプロジェクトへの参画が増加している。これは、後に詳述するが、経済部を中心に台湾行政が伝統的なエネルギーから再生可能エネルギーへの電源構成の転換を図って再生可能エネルギーへの投資を推進している状況にあり、これを投資機会と捉えて関心を持つ日系企業が増えていると考えられる。
II.国家発展計画(2021-2024)と今後の投資機会の考察
2021年7月に国家発展委員会から国家発展計画(2021-2024)が公表された。その中では、投資という側面から、2つの点が重視されている。
1つ目はグローバルにおける急速なデジタル変革や米中間の貿易摩擦、新型コロナウイルス感染症の影響によるサプライチェーンの変化に対応するために、AI、5G、ビッグデータなどのデジタルテクノロジーを活用したデジタル経済を発展させ、もって台湾の世界への認知度と影響力を高めることとしている。
2つ目は、世界が直面している最も深刻な経済的および社会的課題である気候変動、二酸化炭素排出の削減である。この対応の1つとして、2012年に策定された、洋上風力発電の設置を奨励するための開発戦略の引き続きの推進と、それをもってグリーンエネルギー事業者、開発企業、システム企業間で戦略的提携を結んでサプライチェーンエコシステムを構築し、輸出信用保証機関と協力してアジア太平洋風力発電市場へ参入することを目標としている。この開発戦略は第1段階(実証)、第2段階(地域ごとの計画)、第3段階(各区域での実行)の3段構造であり、2022年以降、第3段階の政府主導による事業者選定オークションが行われる予定である。2019年4月の経済部エネルギー局の発表によると、2025年には、国内外の投資は1兆台湾ドル(約4兆円)を超えると想定されている。これは上記での第2段階(設備容量5.5GW)にあたり、第3段階の2026年から2035年にかけては設備容量計15GWの設備建設が予定されており、これを超える更なる投資が期待される。
III.最後に
上記で述べたようなデジタル分野や再生可能エネルギー事業は成長が期待できる分野である一方、台湾特有の法的な規制や煩雑な手続き、またビジネス慣習の違いが障害となり、外国である日本からの単独での参入や投資は容易ではないかもしれない。しかし、台湾における日本企業の技術、品質や日本ブランドへの信頼は依然として高く、台湾企業の持つノウハウとの相互の強みを活かした共同投資がリスクコントロールの観点からも最適な手段の一つとなるであろう。
実際に本稿中盤で紹介した最近の日本企業のM&A案件も100%の取得ではなく部分的な投資が多くを占めている。
台湾における中国リスクや新型コロナウイルス感染症による世界経済へのマイナス影響といった注視すべきリスクがあるものの、アフターコロナも見据えた新しい分野で、かつ成長が期待できる台湾企業に対する日本企業の投資は今後も継続、拡大していくことが期待される。
※本文中の意見や見解に関わる部分は私見であることをお断りする。
執筆者
デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
台湾駐在 辻村 英樹
(2021.11.29)
※上記の社名・役職・内容等は、掲載日時点のものとなります。
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