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世界のM&A事情 ~中国~

中国共産党大会解読

中国共産党大会の開催は新時代の幕開けとなります。大会は国家人事や政治、外交などの施策だけではなく、今後の中国経済活動にも大いに影響を与えています。中国の今後の発展方向性として「中国式現代化」という新たな概念が強調され、社会主義発展モデルへの転換を目指しています。今後具体的な施策および中国経済の行方が世界に注目されています。

I.中国共産党大会の開催は新時代の幕開けとなる

中国共産党全国代表大会は党の中央人事を決定する、事実上の中国の最高機関であり、2022年10月16日~22日に第20回大会(二十大)が開催された。そして全国両会(中国第14届全国人民代表大会と中国人民政治協商会議第14届全国委員会)が2023年3月4日~3月13日に開催された。習近平氏は大会の選挙を経て、共産党総書記と中央軍事委員会主席と国家主席の最高指導者として就任し、韓正副主席や李強国務院総理などの新しい政府人事が決定された。
大会のテーマは、中国の特色ある社会主義の偉大な旗を高く掲げ、新時代の中国の特色ある社会主義思想を全面的に実施し、偉大な党精神を前進させ、自信と自己強化、革新を堅持し、社会主義現代国家を全面的に建設し、中華民族の偉大な若返りを総合的に推進するために団結することである。

大会では中国の今後の発展方向性として「中国式現代化」という新たな概念が強調され、社会主義発展モデルへの転換を目指している。
2023年中国政府工作報告では、様々なチャレンジに直面し、経済発展を安定させることを目標としている。

II.中国共産党大会が経済活動に与える影響について

大会は以下の15のセッションで構成され、政治、外交だけではなく、今後の中国経済活動にも大いに影響を与えている。

  • 過去5年間の振返りと新時代の10年間の大きな変化
  • マルクス主義の中国化時代における新たなフロンティアを開く
  • 新時代における中国共産党の使命
  • 新しい発展局面を加速し、質の高い開発を促進する
  • 科学と教育を国を活性化する戦略を実施し、近代化建設の人材支援を強化する
  • 国民民主主義の発展と国民の所有権の確保
  • 法律に基づく立法中国を推進する
  • 文化的自信と自己強化を促進し、社会主義文化の栄光を確保
  • 国民生活の幸福を促進し、人々の生活の質を向上させる
  • グリーン開発を促進し、人間と自然の調和のとれた共生を促進する
  • 国家安全保障システム及び能力の近代化を促進し国家の安全および社会の安定を断固として守る
  • 人民解放軍創立100年との目標を達成し、国防と軍隊の近代化を実現
  • 「一国二制度」を維持、改善し、祖国の統一を促進する
  • 世界の平和と発展を促進し、人類の運命共同体の構築を促進する
  • 共産党体制を厳重に管理し、新時代の党建設の新たな偉大なプロジェクトを強化させる

二十大で新たに進言された「中国式現代化」、つまり製造業中心の産業構造を堅持しつつ資本主義の課題を回避するいう方向性は前例のないものであると言える。

III.中国経済の行方と中国リスクの考察

1.中国経済の発展に伴う事業成長を期待する一方で、競争環境の激化、技術移転に関する考慮の必要性やサイバーリスクの高まりが想定される

日系企業にとっては、デジタル化が急速に進む中国マーケットにおいて、イノベーション投資や先端技術の開発・活用が進まないことで中国市場における競争力低下というリスクが想定される。逆に、積極的な投資を行い、中国市場で磨いた製品・サービスを他地域へ積極展開する等の発想も今後は重要になってくると考える。
 

2.中国経済および社会の変革に伴い、法令の複雑性や国民の志向にも変化が生じている

業種ごとの規制、輸出管理、サイバーセキュリティ法のような国家安全・情報活用に向けた法規制等が整備されていく中で複雑さは増しており、日系企業においても法規制等の遵法性は引き続き重要となる。ファッション、美容、自動車等、日系を含む外国ブランドは中国においても依然人気が高いが、 技術力や品質向上もあり、例えばEV(電気自動車)は中国ブランドを街中で多く見るようになっている。国産品に対する誇りの高まりや対日感情の変化等がブランド価値に対する影響を及ぼす可能性がある。
 

3.グリーン発展の推進に伴い、エネルギーミックスの変化、環境規制や消費者の意識変化など、今後も様々な影響は加速していくことが想定される

従前から大気汚染・水質汚染等の環境負荷軽減に向けて環境保護法や税制が整備されているが、今後も温室効果ガス削減目標の達成に向けた施策は促進される中、中国環境規制の対応は引き続き重要である。
 

4.共同富裕を掲げる中、人材マーケットにも変化が生じ、日系企業による人材確保の難易度は高まる可能性がある

給与水準の向上やキャリア志向の変化に伴い、相対的に日系企業における人材確保は難しくなっており、生産現場の高離職率に悩む企業は多い。高度な専門性を持った人材確保は特に困難になる可能性があり、給与体系見直しやキャリアパス整備等の重要性が高まることが想定される。
 

5.経済安全保障への関心は高まっており、サプライチェーンにおける不確実性への考慮や中国内に保有するデータの取り扱いには引き続き注視が必要となる

安定的な調達、生産体制の構築や物流網の整備等、グローバルな変動要素が複雑に絡み合う中で中国事業をどのように位置付けるかも含めて検討の必要性は今後も高まっていくものと考えられる。日系企業においても中国事業の成長のためにはデータ活用の重要性は高まっている中、中国においてもサイバーセキュリティ法に続き、データ安全法、個人情報保護法が施行されており、事業戦略を考えるうえでもコンプライアンスにおいても注視すべきリスクとなっている。

IV.まとめ

グローバルなビジネス環境の変化が激しくなる中、中国の政治経済の動向およびリスクを把握するうえで中国共産党大会では、以下のような重点改革方向性を示した:
・国有経済の配置調整と構造調整
・国有企業混合所有制度改革
・産業チェーンサプライチェーンの支持と牽引能力の向上
・国有資産の監督管理

コロナ沈静化後の中国経済が回復基調である一方、政府施策方針が中国における外資系企業の経済活動に不利な影響を与える可能性がある。一部の外国企業はすでにコロナが収束したタイミングを見計らって、明らかになった経営課題に対して迅速な対応を開始している。日本企業においては、中国国家戦略を理解したうえで、事業計画策定・実行に先立つオプション分析を実施し、事業再編に伴うコストやリスクを把握して、最良の選択肢の見極めを行う必要がある。
 

 

※本文中の意見や見解に関わる部分は私見であることをお断りする。

執筆者

デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
北京駐在員 陳 真

(2023.4.10)

※上記の社名・役職・内容等は、掲載日時点のものとなります。

 

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