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世界のM&A事情 ~台湾~

近年の投資動向および今後の見通し、投資の留意点

COVID-19の世界的流行を発端とし、現在台湾では主力産業である半導体ファウンドリーの工場稼働率低下や観光ホテルの稼働低迷、加えて昨年から中台関係が緊張の高まりを見せ、日本からの視点では投資に対する懸念をお持ちの方も多いかと思料します。今回は、日本から台湾への近年の投資動向および今後の見通し、また台湾への投資の際の留意点について解説します。

I.日本から台湾への直接投資の動向

外国から台湾へ投資される金額のうち、日本は直近5か年において毎年概ね10%以上を占めており、台湾にとって重要なパートナーといえる。日本からの投資は「製造業」を中心に、長期視点では金額ベースで増加傾向にある一方、投資件数は2013年以降減少しており、近年大規模な投資案件が増加していることがうかがえる。

以下に2000年からの投資動向を記載する。

【2000年-2009年】
日本からの投資金額は、2000年以降安定して横ばい/増加の傾向が続いていたが、リーマンショックにより2008-09年にかけて投資金額、件数ともに減少。

【2010年】
「製造業」「卸売・小売業」を中心に、投資件数ベースで金融危機以前の水準を取り戻したものの、投資サイズは従来の規模までには戻らず小規模投資にとどまる。

【2011年-2017年】
化学材料、機械・装置製造、電子部品などを中心に「製造業」が全投資金額の半分弱を占める形で概ね横ばいの傾向が継続。

【2018年-2019年】
総合商社による大型投資が起こり前年比で投資額が倍増、翌年も「製造業」で大規模投資があり高水準を維持。

【2020年-2021年】
COVID-19の影響により投資金額、件数ともに再び減少。

【2022年】
COVID-19収束の兆しが見え始め、また「製造業」で2019年に続く大型投資が起こり、投資金額は過去最高を記録。

【図表1】日本から台湾への直接投資推移
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【図表2】日本から台湾への直接投資推移(業種別)
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【図表3】過去5年における日本から台湾への大型投資案件(例示)
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【今後について】
今後の日本から台湾への投資については、前述の台中関係の動向が少なからず影響することが思料される。昨年8月の米下院議長による台湾訪問以降、中国による台湾への圧力は高まり、連日中国軍機が台湾周辺へ飛来あるいは防空識別圏へ侵入し、また台湾と外交関係のある国に対し資金援助を行うことで外交断絶を促すような働きかけを行っている。

今後日本企業が新たに台湾への投資を検討する際、事業継続や従業員の安全確保の観点から、中国による侵攻懸念は当然にリスクとなる。実際、昨年後半から日本企業が台湾駐在員の有事対策について頭を悩ます声をよく耳にする(一方、当の台湾人は、過去同様の懸念が度々起きていることより今回の事案に対しても日本ほど不安を抱えていない印象である)。

台湾政府の動きとしては二分しており、与党である民進党(独立派)は4月に米国や外交関係のある国を訪問、最大野党である国民党(統一派)は同タイミングで中国を訪問し、それぞれ関係性を強めている。

台湾では来年1月、4年に一度の総統選挙を迎える。対中、また対日へのスタンスの異なる両政党どちらが台湾の舵を取るか、今後日本からの投資を検討するうえで大きな焦点となるだろう。

II.台湾への投資を行う際の留意点

台湾は過去日本の統治下であった時代があり、また世界でも有数の親日国であるため、生活のなかで日本文化に触れる機会は大変多く、日本にいると錯覚してしまうこともある。しかし当然ながら別の国であり、価値観や商慣習、法律などにおいても随所に日本と異なる点が隠れており、日本の常識だけで物事を進めて失敗するケースも多々起こる。そこで、今回はM&A(買い手:日本、売り手:台湾)を前提に、台湾企業に対する投資を行う際の留意点を4つ紹介する。
 

【交渉時の留意点】

● 台湾企業にはFA(ファイナンシャル・アドバイザー)がつかない場合が多い

台湾人は具体的な「モノ」を伴わない取引に対しあまり価値を見出さない傾向がある。M&Aの場面でも同様で、ディールにおける自陣の支援者という「サービス」を提供するFAの起用に対しても消極的である。従って、台湾への投資の際には売り手企業がFAを採用せず、ディール全般のコーディネートやDD(デューデリジェンス:契約前に行う対象会社の価値やリスクの調査)フェーズの各種イベントの日程調整、売り手側への諸々のコンタクトなどは、買い手企業とそのFAが主導しなければならない、というケースが度々起こる。また、売り手は各種意思決定やDD対応(買い手依頼資料の開示など)についても自社単独で行うため時間がかかったり、対応のための社内リソースを確保できずディールが円滑に進まなくなる、といった事態が起こり得る点にも予め留意が必要である。
 

●二重帳簿の存在

台湾では二重帳簿(自社の実態をあらわす内部帳簿と、財務数値を意図的に調整した外部帳簿)を作成する企業が珍しくない。中小企業だけでなく、会計監査を受けている会社であっても二重帳簿を作成していることがある。台湾では前述の通りM&A時にFAを採用しないケースが多いため、二重帳簿の存在の打ち明けが遅れる、あるいは隠し通そうとすることもある。二重帳簿の存在を把握しないままディールを進めると以下のような事態が起こりかねないので、売り手と信頼関係を構築したうえ、二重帳簿の有無をよく確認する必要がある。

  • ディールの後半で二重帳簿の存在が発覚し、正しい帳簿を対象として財務、税務DDなどを再度実施しなければならない
  • 売上や利益が過大に計上された決算内容をもとに価値評価を行った結果、対象会社の価値を不当に高く評価してしまう
  • 買収後に二重帳簿が発覚し、正しい決算内容をもとに税金の修正申告をしなければならない

なお、契約完了後の発覚により想定外の損失を負わないよう、SPA(株式譲渡契約書)で売り手側の表明保証を定めることが一般的である。


【投資時の留意点】

●台湾の管轄機関への事前申請が必要

台湾企業への投資を行う際には、投資先企業の状況に合わせて以下いずれかの申請が必要となる。これらの取得手続きは、直接の出資者が日本法人か現地法人かで異なる点、また申請から取得までには一定の期間が必要となる点、留意が必要である。

  • FIA(Foreign Investment Approval):外国人投資許可
    非公開会社の株式を取得する際に取得が必要。経済部投資審議委員会へ申請を行う。
  • FINI(Foreign Institutional Investor):外国人投資家資格
    公開市場で上場会社や店頭公開会社の株式を取得する際に取得が必要。台湾証券取引所へ申請を行う。
     

●会社法の相違点

台湾の会社法は日本と似ている点が多いが、まったく同じではない。投資完了後に投資先の株主総会で決議を行う際、必要な議決権要件を満たせなかった、とならないよう、自社が求める支配の度合いに対して、台湾の会社法上どの程度の議決権が必要なのか、事前に確認しておく必要がある。

■例示:自社の事業を譲渡する際に必要となる株主総会決議

会社法

株主総会決議要件

株主出席要件

株主賛成要件

台湾

185条1項

発行済株式総数の三分の二以上

出席した株主の議決権の過半数以上

日本

309条2項

議決権を行使できる株主の過半数

出席した株主の議決権の三分の二以上

※台湾は非公開会社の場合

III.最後に

台湾は現在、台中関係以外にも、少子高齢化や経済成長の鈍化など様々な問題を抱えている。しかし世界に視野を広げてみれば、どの国でも同様に何らかの課題に直面、あるいは今後課題が生まれる因子を抱えている。台湾に限らず、海外への投資において重要な点は、「リスクがあるなら投資をしない」ではなく、「目に見える/見えていないリスクを可能な限り把握し、評価したうえで、投資する価値があるかを慎重に見極める」ことであり、また「見えていないリスク」については日本の常識だけでは見落としがちになることをあらかじめ認識し、対策を立てることが必要と考える。

 

※本文中の意見や見解に関わる部分は私見であることをお断りする。

執筆者

デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
台湾駐在員 関戸 立紀

(2023.5.18)

※上記の社名・役職・内容等は、掲載日時点のものとなります。

 

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