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変わり続ける時代に必要な「サステナブルオペレーションモデル」

オペレーションを変革し続け、社会や人に求められ続ける企業であるためにはどうすればよいか

人や社会の急速な変化に合わせ、日本企業も変わり続けることが求められています。変化に対応し企業が変わり続けるためには、企業のオペレーションを変化に強く柔軟なものにすることが肝要です。「サステナブルオペレーションモデル」は、企業が変わり続けることができるための新しいオペレーションの在り方を定めるものであり、日本企業は「サステナブルオペレーションモデル」を早急に整備・強化することが喫緊の課題です。

なぜ「サステナブルオペレーションモデル」が必要なのか

企業の存在感が大きくなったのはここ数百年の出来事だ。株式会社という仕組みが本格化したのは17世紀初頭。産業革命を経た19世紀以降は更に存在感が拡大した。時代の進展と共に社会の複雑性が増す中、企業は姿や形を変えつつ進化し、今や地球の行く末をも左右する重要プレイヤーとなっている。

企業が発展する以前の人々は、個人やコミュニティで生産・生活することがほとんどであったと言われている。現在、企業は伝統的に 家庭や地域・国家が果たしてきた役割の一部を担うようになった。ここ100年で経営管理理論が成熟する中で働く人の権利や環境が整備されたが、企業・業界単位での労働や行動の画一化も進んだ。一方で2020年代に入り、個々人の意見や希望を取り入れる柔軟さに改めて価値が見出され、「自分らしく」あるいは「自分ならでは」に働ける環境が求められ始めている。
人・社会の変化が加速した現代において、企業は自らの在り方をますます速く変えていく必要がある。 しかしながら、人と社会に価値を提供することで収益を生み出し、成長を遂げられる存在であることは、これからも変わることはないだろう。

その上で、企業が人と社会の間で価値を生み出すために重要となるのが、「オペレーション」である。企業の構造や仕組みを動かすオペレーションが強い企業は、人と社会に対し高い付加価値を提供できる。生み出す付加価値は、結果として収益を創出すると同時に、ひいては人や社会を豊かにすることに貢献していく。

 

サステナブルオペレーションモデルの社会背景

企業を取り巻く社会環境は大きく変化し、GAFAM等の大企業の肥大化が進む。一方でフィジカル・デジタルな連携範囲の拡大、生産領域の最適な分業も進み、生産→生活(生産過程で得た知識や関係性等の資本を生活に生かせる)、生活→生産(生活で得た知識や関係性などの資本を生産に生かせる)の好影響を及ぼしあう関係が生まれてきた。コミュニティの在り方が再編され、企業活動も小規模かつ自律的な集団の活動の比重が高まり、在り方が変容し始めている。

人と社会に価値を提供する存在である企業は、社会環境の変化に伴い、自らも変化することが求められることは自明だろう。社会の複雑性が増す中、多様な社会課題の解決に臨機応変に取り組むことができる企業は、その存在感をますます高めていく。また、価値観の多様性が認知され、個人の働き方や活躍の形態も多様化していく中、様々なワークスタイルを柔軟に提供できる企業が社会に求められるようになる。

これからの企業は、人や社会の変化を前提に企業運営を考え、オペレーションをすばやく変えていくことが必要となる。

「サステナブルオペレーションモデル」を構成する要素

「サステナブルオペレーション」とは、「人や社会の変化に合わせて企業が変わり続けるための、新しいオペレーションの在り方」である。企業の有するすべてのリソースを適切に変化させ、企業の構造や仕組みを環境に合わせ動かしていくことで、サステナブルオペレーションモデルは機能し、人と社会に価値を生み出し続けていくことができる。

サステナブルオペレーションモデルを構成する主な要素は、企業全体を掌る「業務・組織・機能」の3点である。これらの在り方を改めて定義し、最適化し、常に変化できる仕組みを整えることで、企業は適切に変わりつつけることができる。

 

これまでのオペレーションと何が違うのか

とはいえ、企業はこれまでもオペレーションの改革・見直しに熱心に取り組んできた。BPR(ビジネスプロセスリエンジニアリング)を定期的に進め、強いオペレーションモデルを構築している企業も多いだろう。これまでのオペレーションモデルをことさら否定する必要はないが、これからの時代に必要となるサステナブルオペレーションモデルは、以下3つの点でこれまでとは異なる基本概念・思想を持っている。

1:「内部の変革をもたらすオペレーション」から、「外部に変革をもたらすオペレーション」へ

企業の構造や仕組みを動かす際、内部の変革に重点が置かれてきたことは、自然かつ必然であった。オペレーションを効率化/高度化し価値提供するため、業務・組織・機能といった内部の仕組みを変えていくことはこれからも当然必要である。しかし「企業内部」の意味合いは、人や社会の変化とともに変わってきている。オペレーションの外部化(業務委託)を通じ、自社以外のステークホルダーがオペレーションを担う機会は年々増している。またビジネスモデルやバリューチェーンの複雑化により、オペレーションに携わる外部プレイヤーも増加・多様化している。さらに言えば、SNSが進化する中、社内の重要なオペレーション/プロセスに、外部のユーザーが直接参加することも珍しくない状況だ。企業を動かすオペレーションに対する外部の関わりは大きくかつ重要となっており、これからは外部の変革も踏まえたオペレーションの在り方が求められてくる。

2:「効率化と標準化を突き詰めるオペレーション」から、「枠組みに基づき個性を活かすオペレーション」へ

これまでのオペレーションは、収益性を高めることを目的に効率化や標準化を進めることが重視されていた。その背景には、個に依存したオペレーションを推進した結果、業務の属人化が進み、企業内で無駄や非効率が数多く生み出されたことがある。オペレーションの効率化や標準化は企業運営においてプラスの効果をもたらす半面、その過程で個の独自性を諦めざるを得ない場面も発生した。しかしこれからは、人の豊かさの実現がますます重要な社会となる。これからは、効率化・標準化を進めつつも、個性を活かせるオペレーションを築いていくことが不可欠となる。一定の枠組みを設け、その中で個性を活かすオペレーションを構築することで、効率化と個性を両立させることが重要になるのだ。

3:「作り変える/生まれ変わるオペレーション」から、「変わり続けるオペレーション」へ

大きな環境変化に対しては抜本的なオペレーションの変革が必要となるが、その際は「作り変える」という発想が重要であった。これまで良かったものも環境変化に合わせてあえて一新し「生まれ変わらせる」ことで、オペレーションの競争力を維持することが、企業運営においては求められてきた。こうした抜本的な変革は今後も当然必要となるが、変革のたびにオペレーションを一から作り変えることは、無駄も多く労力も時間もかかる。それであれば、変わり続けることを前提としたオペレーションを構築し、すべてを作り変えるのではなく、変わり続けることを通じ変化ができるようにする発想が重要となる。
 

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サステナブルオペレーションモデルが目指す状態

こうしたサステナブルオペレーションモデルの3つの新しい基本概念・思想に基づくと、これから企業が業務・組織・機能の在り方を定義する際、下記5つの状態を組織や個人が強く意識し、企業のオペレーションに組み込んでいくことが不可欠となる。

(1) まじわる:
変化が激しい社会の中で、新しいステークホルダーやトレンド・要求を敏感に察知し、そうしたものと何らかの関係を築き、お互いに影響を及ぼしあう関係を保持している。

(2) おうじる:
自社の事業の在り方そのものを、社会や顧客の変化に合わせ柔軟に変化させていくことを前提に、業務・組織・機能の在り方を常に検討・設計している。

(3) みとめる:
多様な異なる立場・スキルを持ったメンバーが縦横斜めにお互いの価値を理解し、それぞれが好影響を及ぼしあっている。

(4) らしくある:
自社の価値や個人の価値としての「らしさ」が明示され共有された上で、それが優位性や利点として企業活動に活かされている。

(5) のびる:
従業員やステークホルダーが、挑戦し学習して成長を続けられ、その価値の増加が企業や社会の価値にも直接・間接的につながっている。
 

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どのような場面でサステナブルオペレーションモデルが有効か

これまで述べてきたように、サステナブルオペレーションモデルは、これからの企業運営を進める上での共通的な基本概念・思想であり、企業全体に共通するものである。すなわち、特定の業務や組織にのみ関係するものではなく、すべての業務や組織を下支えするものとなる。とはいえ、サステナブルオペレーションモデルを構築し活用する際は、何らかのきっかけやトリガーが必要になるだろう。具体的な活用場面として、例えば以下のようなことをきっかけにサステナブルオペレーションモデルを検討することが効果的だろう。

A: 事業部・カンパニー全体で、新しい事業運営や事業立ち上げを行う時

B: グループ全体でコーポレート組織・機能を再編する時

C: 新規事業・全社改革推進に向けて、全社横断で組織やPJを立ち上げる時

D: 全社ビジョンや中期計画を新たに策定・実行する時


もちろん、個別部門の業務改善的な取り組みの際に活用することも可能である。しかしサステナブルオペレーションモデルは、変わり続けるための仕組みである。全社的で組織横断的な取り組みとつなげることが効果的であり、期待される成果も大きくすることができる。

「サステナブルオペレーションモデル」をどのように整備するか

サステナブルオペレーションモデルを導入し企業のオペレーションを変革していくため、具体的には企業が掲げる新たなビジョンやビジネスモデルを中核に据え、業務・組織・機能を再設計し、変革を進めていくこととなる。実現に向けては、以下のステップで検討・実行を進めていく。

Step① 現状オペレーションの把握・評価
現状のオペレーションを可視化するとともに、オペレーションのレベル・実力値を評価し明確化する

Step➁ 目指すサステナブルオペレーションモデルの具体化
上述したサステナブルオペレーションモデルの基本思想を踏まえ、企業が具体的に目指す姿や大切にすべき価値観を定義し共有する

Step③ 変革プランの設計
業務・組織・機能をどのように変えていくのか、具体的に何を達成するかを詳細検討し、変革の道筋と施策を明らかにする

Step④ 変革の実行
変革に向けた施策を実行に移すとともに、今後の継続的な変革を促進する仕組み・仕掛けを同時に設計する

Step⑤ サステナブルオペレーションモデルの運用
オペレーションの定着化を進めつつ、組織全体の風土改革に取り組み、常にオペレーションを進化させ続けられるマインドセット・カルチャーを醸成する
 

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サステナブルオペレーションモデル構築のポイント

サステナブルオペレーションモデルの検討・構築を進める際は、オペレーション変革の重点ポイントを踏まえた設計~導入が重要となる。
 

<オペレーションの目指す姿を多面的にとらえる>

業務・組織・機能やそれを支えるシステム、制度、人材スキルといったものは、当然ながら密接に関連し相互に依存しあっている。目指す姿・あるべき姿を考える際は、各々のオペレーション構成要素の目指す姿を描くとともに、それぞれの関連性や依存関係、変革のトリガーがどこにあるのか等を多面的にとらえ、全体を俯瞰し検討することが重要だ。しかし多くのケースで、各々の検討が社内でバラバラに行われており、連携も共有もされていない。

<阻害要因を徹底的に掘り下げる>

目指す姿を実現するために、現状課題を特定し、構造化し、解決すべき本質的な課題を明らかにすることが必要なことは言うまでもないだろう。加えて、施策/変革実行に向けた阻害要因が何かを明らかにすることも重要となる。企業で変革が進まない要因の多くは、変革施策が定まらないことではなく、変革施策を実行に移せない/移しても効果につながらないことにある。阻害要因の特定と阻害要因をどう取り除くかを徹底的に掘り下げることが必要となる。

<仕掛け・仕組みに落とす>

オペレーションを継続的に進化させていくためには、仕掛けを作り仕組みに落とし込むことが不可欠である。仕掛け・仕組みには、規定・ツール・文書整備といったハード面の整備と、ネットワーク/コミュニケーション促進やトレーニング・自己啓発などソフト面の取り組みを適切に組み合わせて設定していくことが不可欠である。阻害要因を乗り越え継続的な活動につなげるため、ハード面・ソフト面の仕掛け・仕組みとして何が有効なのか。仕掛け・仕組みをどういう順序で取り入れていけば効果的か。こうした点に真正面から向き合っていくことが重要となる。

 

デロイト トーマツ グループはオペレーション変革全体を構想策定から実行・定着化まで伴走し、成果・効果につながる各種支援を行っている。サステナブルオペレーションモデルの構築についても、現状オペレーションの成熟度診断ツール等の方法論を用い、伴走支援を行っている。サステナブルオペレーションモデルの検討は、当然ながら成果・効果につなげていくことが重要だ。しかし同時に、サステナブルオペレーションモデルの検討自体が、企業の在り方や人や社会に対する存在意義を見直すきっかけとなり、企業風土や個人のマインドセットの変革にもつながることを忘れてはならない。変わり続けるためには、一人ひとりがまずは考え行動に移す姿勢を表すことが大切なのだ。

執筆者紹介

デロイト トーマツ コンサルティング合同会社
パートナー 高砂 哲男
シニアマネジャー 橋本 寛
マネジャー 柳川 理紗

※上記の役職は、執筆時点のものとなります。
 

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