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ナレッジ
サービスパーツ需要の予測アプローチ
サービスパーツのカテゴリに応じた需要予測
製品販売後にパーツが必要になるということは、ユーザーが製品使用上で何らかの問題を抱え、困っている状態です。つまり、サービスパーツは「必要になってから」用意するのではなく、「予め構えて」おき、要求に対して即座に供給する必要性が高いものとなります。場合によっては「待てる」製品の供給に比べて、サービスパーツは待たせることが許されず、いかに需要を先読みして確実に構えておくことができるかがカギとなります。
目次
- サービスパーツ需要予測の重要性と難しさ
- 需要予測を「当てられないパーツ」と「当てにいくパーツ」
- 間欠需要品の需要予測アプローチ
- 予測精度向上の近道は本体稼動状況の把握と活用
- 本体稼動情報の取得アプローチ
サービスパーツ需要予測の重要性と難しさ
製品とサービスパーツの大きな違いはその品目点数と品目により性質が大きく異なるという点です。サービスパーツは製品を各部品に分解した単位で需要予測~在庫・供給コントロール~出荷する必要があり、また、予測の対象となる部品は物によって特性が大きく異なります。こうしたサービスパーツならではの特徴を踏まえると、「カテゴライズ」と「カテゴリーに応じたサプライチェーンマネジメント運用」が、サービスパーツSCMのポイントと言えます。
今回フォーカスする「需要予測」も当然のことながらこのポイントをしっかりと押さえてアプローチすべきプロセスになります。「需要予測」は、「必要なものを、必要なときに、必要なだけ」供給するための最初のステップであり、需要を読み誤ることはすなわち自社製品やサービスに対するお客様のロイヤリティを失わせるとともに、一方では過剰在庫による資金面での負担、さらには在庫廃棄によるロスコスト発生につながります。顧客満足度と自社の効率性を両立するサービスパーツサプライチェーンマネージメントを実現する上で、この最初のステップがいかに重要か、おわかりいただけると思います。
しかし、サービスパーツの需要予測が重要である一方で、実施上には大きな困難が伴います。まずは品目点数が膨大であることから、どれだけ人手を割いても品別に需要を正確に読むことには限界があります。また、パーツにより特性が大きく異なることから、それら全てに一律の予測モデルを適用して高い予測精度を実現できるほど、サービスパーツの需要予測は単純なものではありません。
需要予測を「当てられないパーツ」と「当てにいくパーツ」
サービスパーツの需要予測アプローチを検討するにあたり、まず最初に大切なことは、需要予測が「当てられない」パーツがあることを認識することです。こうしたパーツについて需要予測をどのように当てるのか、試行錯誤したとしても、努力に対する見返りは少ないと言わざるを得ません。それでは需要予測が「当てられない」パーツとは何でしょうか。それは、いわゆる「間欠需要品」と呼ばれるものです。つまり、必要になるケースが稀であり、また、過去の出荷からは必要になるタイミングに傾向が認められないものです。たとえば装飾が主目的のカバーなどがこれに該当します。本体製品を一定期間使用すると必ず壊れるといったことを想定したものでもありませんし、壊れること自体が稀です(さらには壊れたからと言って必ず交換するとは限らない)。こうした品目は本体製品出荷ボリューム以外に需要を読む手がかりがなく、たとえば本体製品販売からの経過期間といった要素も予測精度を上げる決め手にはなりません。
一方で、需要予測を「当てにいく」サービスパーツとはどういうものでしょうか。こちらは、一定ボリュームの出荷実績があり、今後も見込まれるもの、及び、出荷ボリューム以外にも需要を読むことに役立つ特徴を有するものと考えることができます。間欠需要品のように4ヶ月前に1個、3ヶ月前に5個、今月1個・・・・といった出荷ではなく、毎月常に100個ずつ出荷依頼が来るといったサービスパーツを指します。また、製品販売直後に比較的多く出荷依頼があるが、3ヶ月後には落ちついて、1年後に出荷依頼のピークが訪れる・・・・といった傾向がある品目も需要予測に適したサービスパーツといえるでしょう。
以上、サービスパーツには、いわゆる間欠需要品のように、そもそも需要予測に適さないものと、過去の出荷トレンド、製品販売状況を手がかりにして高い精度で予測が可能なものがあることをご理解いただけたと思います。続きまして、それぞれに適した需要予測アプローチをご説明します。
間欠需要品の需要予測アプローチ
いわゆる間欠需要品は、需要予測が「当てられない」ことは上述の通りです。それではこうした品目はどのように先を読み、エンドユーザーからの要求に迅速に応えるのか。その答えは、品目をカテゴライズして、メリハリをつけて在庫を持つことです。例えば、出荷ボリュームの多寡で品目をカテゴリ分けして、出荷ボリュームが比較的多い品目は、常に一定数量の在庫を構えておき、減った分だけを補充する補充方式で対応し、出荷ボリュームが極めて少ない品目は在庫を持たずに、一時的に量産品在庫を流用することや、受注後に調達する品目として割り切りる対応とし、一定のサービスレベルの維持と在庫圧縮の両立を目指すべきです。補充方式において一旦設定した在庫数量の妥当性については、継続して検証し、必要に応じて減らす/増やすといったアクションをとると良いでしょう。また、本体製品の販売傾向が変わる見込みがある場合には、その情報も確実に加味して同様に減らす/増やすといった対応を先回りしてとっていく必要があります。
また、品目の特性によっては、在庫を一切持たずに3Dプリンターによるパーツ生産を行うことも、遠い未来の話ではないでしょう。
以上のように間欠需要品については、特性を踏まえて敢えて「需要を予測しない」アプローチを採用することをお薦めします。力を注いでも効果の見込めないところについては割り切り、ここで浮いた力をこの後説明する、「当てに行く」べきサービスパーツの需要予測の精度向上に注ぐことができるのです。
予測精度向上の近道は本体稼動状況の把握と活用
それでは、需要予測を「当てにいく」サービスパーツに関するあるべき予測アプローチとはどのようなものでしょうか。サービスパーツの需要予測精度を上げるために最も有効な情報は、「本体製品の稼動状況」になります。本体製品の稼動状況とは、いつ、どこで使用が開始され、その後どんな用途で、どれくらいの頻度で使用されているか、といったものです。一定回数・期間の使用を経て、確実に交換が必要になるサービスパーツ(例えば車のライトやブレーキパッドなど)などは、本体製品の使用状況が細かく把握できていれば高い精度でサービスパーツが必要になるタイミング、数量、地域を先読みすることができます。この領域で先進的な建設機器メーカーにおいては、自社の供給した本体製品の情報を通信ネットワークを介して収集し、これを顧客サービス向上(顧客に言われる前に提案)に活用するとともに、サービスパーツの需要予測に活用していることは非常に有名な話です。
こうした企業では、自社製品の使用開始タイミングだけではななく、どのような機能がどれくらいの頻度で使用されたか、また、使用された時の環境がどうであったかといった情報を手のひらに乗せることができており、同一・類似製品の使用実績とパーツの交換実績から、未来のサービスパーツ需要を先読みすることができるのです。
当然のことですが、本体製品以上にサービスパーツが必要になることはありません。
この例のように、本体製品の詳細な稼動情報とはまではいかなくても、本体製品がいつから何台使われているのか(いつ何台売れたのか)がわかるだけも、サービスパーツの必要数量を読む上で大変有効な情報であることはご理解いただけると思います。
本体稼動情報の取得アプローチ
本体稼動情報がサービスパーツの需要予測精度を劇的に向上させると分かれば、今すぐにでも本体稼動情報を収集して、需要予測へのインプットとすることで高精度の需要予測を実現したいと思うのが当然です。しかし、現実にはそう簡単なことではありません。比較的大規模、かつ、多機能な製品であればきめ細やかな本体稼動情報を収集、本部へ伝達する手段を構築することも可能ですが、一般的にはいわゆるこうした「システム」として網羅的に本体稼動情報を集める仕組みを実現するのが困難であるケースが多くあります。
そこで、本体稼動情報のうち、詳細な使用状況とはいかないまでも、少なくともいつからどの地域で自社製品が使われているか(いつ導入されたか)だけでも収集し、需要予測に活用するアプローチを検討することになります。しかしながら、ここにもボトルネックが存在します。販売形態の違いにより、こうした情報の入手が大きく制限されることがあるからです。自社からの直接販売であれば比較的容易にこうした情報を収集することは可能ですが、代理店や外部の小売店を介した販売モデルを採用しているケースでは情報の入手が困難になるケースがあります。日本国内、または欧米などの先進国では販売上のパートナーにおいても販売情報はシステムにより管理しているケースが多いため、あとは「いかにしてメリットを提供しつつその情報をもらうか」に集中することができます。しかしながらいわゆる新興国ではいわゆる「パパママショップ」と呼ばれる個人商店での販売が主流といったケースもあり、そもそも販売データがデジタル化されて管理されていないといったケースもあります。こうしたケースでは人海戦術で自社製品の販売状況をかき集めるといった非常に泥臭い、地道な努力で不足分を補うなどのアプローチが採用されています。
また、使用時に必ずインターネットに接続する必要のある製品については販売形態を問わず、少なくともどこでいつから自社製品が使用されたか(と見なせるか)を把握することができるため、こうしたデータをサービスパーツの需要予測に活用することが可能となっています。
今後IoTの進展により、これまで以上に様々なものがインターネットを介して情報のやり取りに加わることになります。サービスパーツの需要予測に必要な本体製品稼動に関するデジタルデータを収集することが劇的に容易になることが予想されるため、これまでのように「データが取れる」だけではサービスパーツSCMにおける競争力にはなり得なくなると想定されます。今後は「データが取れる」ことを前提とした精度の高い自社製品とサービスパーツに適合する「統計予測モデル」をいかに構築できるかが必須要件になると考えられます。