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ナレッジ
ものづくりの未来 2020年
最新テクノロジーがものづくりのあり方を変える
現在、IoT(Internet of Things:モノのインターネット)をベースにした未来のものづくりの概念であるインダストリー4.0という言葉が大流行している。本稿では、IoTとインダストリー4.0の概略を説明したうえで、今、日本企業がすべきことについて<ビジョンの明確化>と<自前主義からの脱却>という2つの観点から提言している。
はじめに
ある家具メーカーは顧客から注文が入るとその家具の3D CADデータを顧客の家にある3Dプリンタに送信しプリントアウトするため、顧客は購入した家具を即手にすることができる。
またある事務機器メーカーは、過去に販売した自社製品の稼働状況をリアルタイムに管理しているため、消耗品が無くなりそうになると無人工場で自動的に代替品の生産を始め、代替品が完成するとドローンが顧客のところまで届けてくれる。
今、こうした最新テクノロジーがものづくりのあり方を大きく変えようとしている。IoTや3Dプリンタ、ドロー以外にもロボティクス、デジタルモックアップ、クラウド・コンピューティング、ウェアラブル・デバイスなども今後のものづくりのあり方に大きな影響を与えるだろう。
通常のものづくりのプロセスにおいて人間が介在しない。夢物語のように聞こえるが、最新テクノロジーを活用し2020年頃には実現するかもしれない。
本稿では、今後のものづくりに大きな影響を与える可能性がある最新テクノロジーを紹介していく。第一回目の今回は、IoTとIoTをベースとしたインダストリー4.0を紹介した上で日本企業が今、何をすべきなのかを考察する。
IoTとインダストリー4.0
IoTはモノのインターネット(Internet of Things)と訳され、あらゆる機器がネットワークに接続されるようになることを意味する。機器に取り付けられたセンサーなどによって様々な情報が収集・解析され、離れた場所の状況をリアルタイムに把握できるようになる。生産設備の稼働状況をクラウドやサーバーに蓄積しデータを解析すれば生産設備の予防保全ができるようになる。また複数の生産設備がネットワークに接続され、最適な加工条件を見つけ出すことができるようになれば不良品が減り、検査工程が不要になる可能性もある。
現在、そのIoTをベースにした未来のものづくりの概念であるインダストリー4.0という言葉が大流行している。インダストリー4.0とは、ドイツが国を上げて取り組んでいる産業政策である。インダストリー4.0のワーキンググループには、ドイツ企業以外も参画しているが、ドイツの行政機関やドイツを代表する企業が中心となっている。少子高齢化による労働力不足や新興国の台頭による国内産業の空洞化など日本と同様の問題を抱えるドイツは、IoTとものづくりを融合させた生産効率の高い自律的な工場(スマート・ファクトリー)で高付加価値製品を生産・輸出し国内の製造業を保護しようとしている。また最先端の工作機械を世界に輸出し、世界の工場の生産技術を主導しようとしている。インダストリー4.0のワーキンググループは、こうした高付加価値製品の生産・輸出と生産技術の輸出を目指す戦略を「デュアル戦略」と呼んでいる。
インダストリー4.0とインダストリアル・インターネットが同義語と勘違いされることがあるが二つの言葉の意味は異なる。GEは、今後産業機器メーカーが生き残るためには従来の機器売りや依頼にもとづいたサービスの提供だけではなくソフトウエアを使って膨大なデータを解析し新たな価値を提供していくことが必要だと考えている。例えば、航空機のジェットエンジンから収集したデータと気象データ(飛行ルール、天候、風向きなど)を組み合わせたビッグデータを解析することにより、最も燃費効率がいい飛行ルートや運航速度などを割り出し、新たな価値を提供している。GEは、こうした「モノ」と「データ」を融合させ新たな価値を提供していくことをインダストリアル・インターネット*と呼んでいる。
インダストリアル・インターネットは航空、電力、医療、鉄道など幅広い産業を対象とし社会インフラを効率化し新たな価値を創造しようとしている。これまでの製造業の枠を超えた領域で事業を展開しているのである。
* 出所:GEのWebサイト
今、日本企業がすべきこと
<ビジョンの明確化>
一部の日本企業は、既にものづくりの現場でIoTを活用し始めている。またネットワークに接続できる製品の開発も進めている。しかし、IoTを活用し会社としてどのような方向性を目指すのかを明確に示すことができている企業は多くない。IoTの活用は社内の関係部門だけではなく、サプライヤ、顧客、競合他社といった社外のステークホルダーも関わってくる。そのためトップ自らが先頭に立ち、IoTの活用検討を加速させることが重要である。GEのイメルト会長は、社内外に対し「ハードウエアだけではなくソフトウエアを活用し膨大な情報を解析できる企業を目指す」という明確なビジョンを示し、ビジネスモデルそのもの大きく転換しようとしている。
<自前主義からの脱却>
またIoTを活用し新たなものづくりの体制を構築するためには、データサイエンティストなどの人材や、クラウドやデータ通信のためのインフラ整備が必須である。しかし、これらをすべて自前で揃えようとすると時間とお金が膨大に掛かってしまう。たとえ自前ですべてを揃えたとしても日進月歩で進化するテクノロジーに追従していくのは容易なことではない。そのため、IoTを含めた最新テクノロジーを活用するためには、これまで以上に社外のリソースを上手く使いこなす必要がある。
最新テクノロジーを活用した新たなものづくりのあり方に関する議論は始まったばかりである。2020年に日本企業が世界のものづくりをリードしている可能性はまだ十分にある。