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日本型グローバル営業改革は終わった

業務機能全体で営業を仕掛ける“立体的”な課題解決とは

脱日本市場を掲げる日系製造業にとってグローバル市場攻略、海外販売比率の向上は悲願である。世界経済復調の中、ビジネスの複雑性はより一層加速していく中で、従来の日本視点での標準化・最適化を掲げた営業改革やソリューション型営業への変革も限界を迎えつつある。そのような状況下で企業の営業機能が求められている組織能力は、世界をひとつの市場と捉えた新たなビジネスを創造する力なのかもしれない

日本の製造業は海外進出を果たしたか 1/2

日本の製造業のグローバル化が叫ばれて久しい。 今や、製造業の海外売上高比率、海外生産比率ともに過去最高水準に達し、今後も拡大方向にある。ビジネスの世界において、国境の意味はますます薄れていくと言っても過言ではない。

2009年のリーマン・ショック以降、日本の製造業は設備投資の抑制、経費削減、赤字事業からの撤退など、コスト面で大鉈を振るう改革を断行することで企業体力を保持してきた経緯がある。 世界経済の回復基調に伴い、今後、グローバル市場での販売拡大・成長を志向する企業が増大してくることは必然である。

日本の製造業におけるグローバル化とは何を意味するのだろうか。 戦後の経済復興から今にかけ、日本の製造業の多くは、いまだにプロダクト・アウト志向を引き継いでいる。特にB to Bの製造業においては、取引を有する日本企業の海外進出にあわせて生産拠点や販売拠点のグローバル化を行なうケースが多く存在し、海外拠点における主要な取引先はいまなお日系メーカーが大半を占める傾向にある。*1

当然のことながら、日系メーカー以外の顧客となる海外の先進企業をこれから新規顧客として獲得していかなければいけない。ただ、その多くは、一昔前の企業とは全く別物となっている。 1つは、意思決定のプロセスの複雑化が挙げられるだろう。グローバルでの機能再配置に伴う意思決定構造の変化や、GoogleやAmazonのように”ものづくり”に興味を持たず、設計行為自体を外注し、それに伴い意思決定までも外に出す企業が出現しており、もはや目の前の顧客だけを相手にできる時代ではなくなっている。 

日本の製造業は海外進出を果たしたか 2/2

また、顧客の意思決定の志向にも変化が起こっている。膨大な調達データを瞬時に分析するシステムを持ち、グローバル横断の購買チームを設置し、専属の購買コンサルタントを雇って日々サプライヤーの評価に余念がない。こういった企業では、顧客企業の中でソリューション選定が可能になり、もはやソリューション提案でさえも不要となり、案件の引き合い前にアプローチすることは極めて困難になっているのである。

そのような市場・顧客の変化がありつつ、企業は今後もグローバル市場における販売拡大・成長への改革が加速されることは間違いないだろう。 国境や企業の枠組みを超えて市場を捉え、前述したような顧客を新規顧客として獲得し、各国の企業からの需要を取り込む態勢を整えてこそ、本当の意味での「海外進出」といえるのではないだろうか。 

グローバル営業改革による弊害

しかしながら、その尖兵と言うべき「営業」を見てみると、 胸を張ってグローバル市場での自社の営業活動を話せる企業は少ないのではないだろうか。

  • 海外営業部隊の活動が見えておらず、日本のガバナンスは無いに等しい
  • 海外営業部隊の売上予測精度が悪く、販売機会の損失や在庫過剰になっている
  • 海外営業部隊と他部門との連携が悪く、企業活動全体としての最適化ができない
  • 海外営業部隊からの依頼対応で、日本本社営業は顧客への活動を実施する時間が創出できない
  • 営業活動自体が属人化しており、パフォーマンスに大きなばらつきがある

など、営業活動自体はもちろんのこと、 海外販社や営業部隊との連携に関連する課題は枚挙に暇がない。 めまぐるしく変わっていくビジネス環境の中で、昔からの課題が克服できてない上に、 グローバル化の波によってさらに課題を複雑化させてしまっているのが現状ではないだろうか。

これらの課題を一括で解決するために、企業はビジネス変化のスピードに対応するためM&A等による販路そのものの取り込みや、グローバルでのSFA(Sales Force Automation)ツールの導入などによる営業活動の可視化や営業力強化を急ぐ傾向にあるが、実際に効果を創出している企業はごくわずかである。 (※SFA導入では、実に85%の営業組織が、導入後に売上拡大できていないという驚くべき調査結果もある。*2) 

弊害の真因 1/2

これらの問題の根本原因の1つは、日本と海外において求められる営業の組織能力の違いが原因として挙げられるだろう。
長らく「良いものを作れば売れる」時代を謳歌してきた日本企業は、リソースの多くを製品開発に投資してきた。そのため、営業組織は如何に効率よく売るか、という点に注力して営業活動を行なってきた。 (図表 1. Product Seller)

しかし、顧客のニーズが多様化した世界においては、「良いもの」の定義自体が曖昧になり、一物だけでは売れない世界が到来した。そこで、顧客ニーズを理解した上で、それに沿ったソリューションを掲示し、何が競合他社より優れているかを説明する能力が営業組織に求められるようになった。いまなお、多くの日本の製造業の営業組織が、それこそが営業組織に求められる唯一の能力だと信じ、海外販社・海外営業部隊に対しても啓蒙しているのではないだろうか。(図表 1. Solution Provider)

しかしながら、現在のBtoBのグローバル先進企業は、もはやソリューション型の営業担当を必要としていない。 前述したように、自前でソリューションを選択し、構築できるようになった企業は、購買の意思決定のうち平均して実に60%近くを、サプライヤーと話をする前からすでに完了しているのである。

このような厳しい環境におかれた営業マンは、顧客自身が気づいていない未知のニーズを、挑戦的なアイデアを用いて顧客自身の考えを覆し、交渉をリードすることが求められる。 そのためには、既存の自社リソースに囚われずにビジネスケースを作成する能力が必要となる。更に言えば、営業行為に留まらない、顧客への価値を提供するまでのバリューチェーン全体を俯瞰した最適なオペレーション、
リソースのマネジメントをデザインする能力が求められているのである。

弊害の真因 2/2

顧客への提供価値に向き合わず、顧客が求める価値の変化やそれを実現する組織能力の違いを理解しないまま、大本営で議論した検討違いの営業管理指針と、おおまかな役割と責任範囲のみを定義し、後は現地責任者の管理に任せるという改革の進め方で、改革の効果を享受できるのだろうか。

そもそも、日本での、”業(なりわい)を営む”と書く「営業」と、”販売”という活動そのものを指す海外の「Sales」では、組織に属する人員が認識する役割、責任範囲が異なることは当然である。 かつ、日本には海外諸国にはない「阿吽の呼吸」があり、自分の評価に直接つながらない役割以外の仕事も必要に応じてカバーするという美徳があるが、海外のビジネスマンはそうではない。

また、相変わらず営業という業務機能・手段に限定した改革を『グローバル営業改革』と銘打ち、改革を推進しているが、結果として昔ながらの課題が残っているのが現状ではないだろうか。巨額の費用をかけたM&Aもシナジー効果を発揮できないまま別会社として機能し、グローバルで導入したSFAも、管理者は活用できず、現場には負荷を与えるだけの負の遺産になっていないだろうか。これからの営業改革は、営業という業務機能・手段の標準化や最適化といった“点”の課題解決でなく、企業が有するグローバルでの業務機能全体で営業を仕掛ける“立体的”な課題解決が求められているのではないだろうか。 

解決に向けた方向性

これまでの話をふまえた上で、複雑化した課題を解決するためには、 まずは今一度、「顧客への提供価値」をグローバルで再定義する必要がある。 地域や対峙している顧客によっては、提供価値は変わって然るべきだろう。
その上で、求められる組織能力を定義する。これからの営業組織には、顧客への価値提供につながる自社のバリューチェーンをデザインする能力が必須となり、顧客を納得させるビジネスケースを描く力が求められる。顧客が求めていることは、自社で実現できることなのか、できないとするとどこと手を組む必要があるのか、を考えることに自らの経験・スキル・時間を注がなければいけない。

次に、企業として、事業部門として海外販社や営業部隊をどこまで統制するべきか(ガバナンスモデル)を決定する。管理・統制強化に向けた戦略の実行や結果の数値にどのように責任を持たせるのか、機動力を生むための現場への権限委譲をどこまで行うのか。それらを支援するために日本側からどのようなサポートを行うべきか。 これらの議論なく、日本目線で作った押し着せの営業管理の枠に海外販社や営業部隊を当て込んでも、グローバルでの営業力強化にはなりえない。

最後に、各営業組織において定義した能力の実現に向けた手段を検討し、個々に創り上げて行く。 (多くの企業は、求められるビジネス変化のスピードに耐え切れず、これらの一番重要なプロセスを飛ばしてM&AやSFAなどの実現手段に走ってしまいがちである。そして前述したような課題を、さらに誘発する。) 

クロージング

このようにして創り上げた営業組織は、変化するビジネス環境への追随に留まることなく先回りをし、 顧客への提供価値の実現に向けて、社内、社外問わず有機的に連携・協業する組織体となるのである。

最も重要なことは、いつの時代も、顧客は変わる、という事実に目をそらさず、小手先の顧客志向ではなく、企業が有する機能を市場・顧客起点で自在に変化させ続けていくことである。

顧客と直接的に相対する営業改革を通じて、顧客への提供価値に真摯に向き合い、グローバル企業としての機能・バリューチェーンまでも見直していくことができて初めて、「海外進出」と呼べるのではないだろうか。 

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