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「教育」で達成するSDGs

~ESDのまち 岡山市の事例~

2017年12月、第1回「ジャパンSDGsアワード」が発表された。国立大学としては唯一、岡山大学が「SDGsパートナーシップ賞」を受賞した。今回の受賞の背景には、岡山市域で行われている活発なESD(Education for Sustainable Development)活動がある。デロイト トーマツの教育セクターでは、岡山市のこうしたSDGs / ESDの取り組みを応援していきたい。

1. ESDのまち 岡山市

2017年12月、第1回「ジャパンSDGsアワード」が発表された。国立大学としては唯一、岡山大学が「SDGsパートナーシップ賞」を受賞した。今回の受賞の背景には、岡山市域で行われている活発なESD(Education for Sustainable Development : ESD)活動がある。岡山市は、2017年1月にはユネスコ生涯学習研究所(The UNESCO Institute for Lifelong Learning : UIL)が実施する「ユネスコ学習都市賞2017」にも選ばれるなど、世界的に見てもESD活動の先進地域となっている。

岡山市は、2005年1月にスタートした「国連持続可能な開発のための教育の10年」をきっかけに、同年4月に「岡山ESDプロジェクト」を発足させた。本プロジェクトは、様々な機関と連携し、岡山の地域特性に応じたESDを推進することで「持続可能な社会づくり」を実現することを目指したものであり、このプロジェクトに取り組む地域として世界で初めて国連大学からRCE(Regional Centres of Experience on ESD : RCE)に認定されている。RCEとはESDの地域拠点であり、2014年には「ESDに関するユネスコ世界会議」の関連会議が岡山市で開催されるなど、積極的な取組みが行われている。

岡山市のESDの特徴は主に以下の3点にまとめられる。

  • ESD推進本部(本部長:市長、副市長および関係局の局長等で構成)が中心となり、まち全体が一丸となってESDを推進する体制があること
  • 大学が地域のESDの取組みに積極的に関与していること
  • 公民館やユネスコスクールが中心となり、地域を拠点としたESD活動を推進していること

まず、1点目について、市役所全体でESDを推進するための組織を公式に有するまちは現状では非常に稀有である。岡山市には、その他、地域の市民団体、大学、企業、NPO、自治体などの多様な組織が参画する「岡山ESD推進協議会」(事務局 : 岡山市)もあり、まさに、あらゆる主体が協力してESDを推進する環境が整備されていると言える。

 

2. 岡山大学での取組み

岡山大学は、前述の岡山におけるESD活動の推進において重要な役割を担っている。2007年よりユネスコチェアに認定され、ESDを普及するための活動や教育に取り組んでいる。表1に、岡山大学における主なESDの拠点を示している。岡山大学地域総合研究センター・AGORAは、岡山大学に在学する学生が中心となり、まちづくりに取り組む中心組織であり、ESD協働推進室は、教員を目指す学生や、地域の教育機関におけるESD研究や普及の中心組織となっている。

前者は岡山大学による自大学の学生を対象とした教育活動の一環であり、後者は、学生に限らず、広くESDに取り組む人たち(学校関係者など)に向けたESDを普及する活動である。いずれの取組みも、大学が中心となって、行政や地域社会とうまく連携していると言える。なお、2014年より、ユネスコスクール支援大学間ネットワーク(ASP UnivNet)の事務局大学となり、地域はもとより、国内外のユネスコスクールのネットワーク構築や連携促進などにも取り組んでいる。

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3. ユネスコスクールの取組み(藤田地区ESD地域連絡会の事例)

岡山市内には、約130校の小中学校があり、そのうち51校がユネスコスクールに登録されている。ユネスコスクールでの活動については市のホームページ²に記載があり、いずれも大変興味深い。以下では、特色ある藤田地区のESD地域連絡会の取組みを取り上げる。

藤田地区ESD地域連絡会は、地区の保育園、小学校、中学校、高校との連携を重視し、学校や教科を超えてESDに取り組んでいる。岡山市では、中学校区ごとに指導方針を一貫させ、継続的に指導を行う「岡山型一貫教育」の推進、および保護者や地域住民の学校運営への参画を促す「岡山市地域協働学校(コミュニティ・スクール)」 の推進に取り組んでいる。藤田地区ESD地域連絡会が属する中学校区の4校(藤田中学校、第一藤田小学校、第二藤田小学校、第三藤田小学校)は、ほぼ同時期にユネスコスクールおよび岡山市地域協働学校に認定され、「岡山型一貫教育」をESDで推進している。

藤田地区の取組みで特筆すべき点は、同じ中学校に進学する児童が通学する小学校3校が、それぞれの特色は残しつつも、ベースとなる共通テーマを設定し、子どもたちに「育てたい力」や「持たせたい思い」などテーマ設定の背景となる部分まで各小学校でしっかり共有された上でカリキュラムが作られていることである。図表2に、藤田地区ESD連絡会における小学校・中学校の総合的な学習の時間のカリキュラムを示す。

総合的な学習の時間を通じて、3つの小学校が共通の思いをもって育成した子どもたちが、同じ中学校に進学し、中学校ではさらに学びを深めることができるというカリキュラムになっている。図表2では、小学校での取組み例を挙げており、いずれも地域特性をうまく反映した内容になっている。例えば、「藤田に農業は必要か?」では、子どもたちが、地域の農家を訪問し、収穫体験をしたり、農家の方に農業の大変さを聞いたりする。こうした学習によって、地域の農産物について知り、食に対して興味を持つ子どもが増えるなどの効果も報告されている。また、藤田地区ESD地域連絡会では、毎年、各校の子どもたちが地域の方々の前で自分たちの学びの成果を発表する機会を設けるなど、地域の方々との交流や支援も積極的に行われており、子どもたちの学びに、地域の方々を巻き込み共に成長するきっかけとなっている。

このような取組みは、子どもや地域の方々のみならず、各学校の教員にとっても非常に有効である。校種や所属、教科を超えた教員同士のつながりが構築されるきっかけとなり、教材研究をはじめ情報の共有が活発に行われるようになるなどの成果が見られた。

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4. 結びにかえて

岡山市では、学校や公民館、市民団体、大学、自治体、企業等の多様な組織が連携してESDに取り組んでいる。本レポートでは、このうち主に大学とユネスコスクールの取組みを紹介した。岡山市が長年取り組んできたESDはまさにSDGsの取組みの1つである。岡山市でより一層ESDが推進され、より多くの市民がESD活動に参画することはもちろん、これまでのESDの取組みを通じて育成してきた地域人材を積極的に活用し、あらゆる人が生涯活躍する社会、持続可能な社会の先進事例となることを期待したい。

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