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平成28年度公益法人の会計に関する諸課題の検討の整理について

公益法人の会計に関する研究会から平成28年度の報告書が公表された

平成28年度の公益法人の会計に関する研究会の報告書「平成28年度公益法人の会計に関する諸課題の検討の整理について」が取りまとめられた。今回の報告書はこれまでの2回の報告とは異なり、公益法人会計基準等を補完するものとの位置づけではなく、パブリック・コメントは実施されていない。

平成28年度報告について

公益法人の会計に関する研究会(以下「研究会」という)は、公益法人の会計に関する実務上の課題、公益法人を取り巻く新たな環境変化に伴う会計事象等に的確に対応する観点から、公益法人の会計の諸課題について検討するため、平成25年8月以降、内閣府公益認定等委員会の下に開催されている。
平成28年度においては、法人にとって煩雑で分かりづらいとの指摘がある公益目的取得財産残額の算定方法や、定期提出書類上の剰余金発生理由・解消計画の記載方法など、法人実務上、改善や明示が求められる点については一定の結論を得ている。一方、当初の想定より論点が多岐にわたった特定費用準備資金の運用や遊休財産額算定上の控除対象財産の取扱いについては、より慎重かつ掘り下げた議論が必要との認識で一致し、今後も引き続き検討課題として残すこととされた。
以下、本報告書の内容を紹介する。

なお、本報告書は、公益法人infomationから入手可能である(外部サイトにリンクします)

1.公益目的取得財産残額の算定方法の見直し

公益法人は、公益認定の取り消しを受けた場合、公益目的取得財産残額に相当する額の財産を他の公益法人等に贈与しなければならない。定期提出書類の別表Hは、この公益目的取得財産残額を毎期算定し報告するものであるが、作成の仕方や財務諸表との関係が分かりづらい等の意見が多くあった。このため、別表Hと財務諸表の関係を整理するとともに、別表Hをもう少し簡便な方法で作成てきないかの検討が行われた。
公益目的取得財産残額は、基本的には、公益目的保有財産を含む公益目的事業財産の残額に相当し、公益目的事業会計に区分される財産の額に相当するものである。
別表Hの公益目的取得財産残額は、次のように計算される。

公益目的取得財産残額=前年度の公益目的取得財産残額+公益目的事業会計の当年度の正味財産増減額(一般+指定)±α(調整項目:別表Hで算出する場合との差)

±α(調整項目)として必要な項目は、①時価評価方式を採用している場合の投資有価証券の時価評価損益、②他の公益法人と合併した場合の財産受入額と当該他の公益法人の公益目的取得財産残額との差(正味財産増減計算書の公益目的事業会計に計上される場合)、③公益認定以前に取得した不可欠特定財産を改良した場合の当該改良に要した額、④他の公益法人に公益目的事業会計以外の会計から寄附を行った場合の当該寄附の額、⑤公益目的保有財産を公益目的保有財産以外の財産とした場合の当該財産の額、などである。

①以外の事例が生じるのは限定的と考えられるほか、±α(調整項目)による調整を要する場合にも、その場合にのみ必要な係数調整を行うこととすれば、別表Hの公益目的取得財産残額と相違しない。研究会としては、別表Hの代替として使用できる簡便な算出表(簡便版)の作成を目指して、具体案の策定の検討が早急に進められることを期待するとしている。

2.定期提出書類別表Aの記載内容の明確化

定期提出書類の別表Aは、収支相償に関する剰余金の発生原因や解消計画の記載を自由様式で求めているが、法人側からは、どの程度記載したらよいのか分からないとの意見が聞かれるため、法人の事務負担軽減等の観点もあり、記載要領や具体的な記載例の検討が行われた。
本報告書の別添2に、剰余金の発生原因や解消計画に関する記載上の留意事項や記載例が記載されている。

3.公益法人会計基準等の一覧性の向上・整合性の確保

(1)公益法人会計基準、公益法人会計基準注解及び公益法人会計基準の運用指針の一覧性の向上

公益法人会計基準(以下「会計基準」という)及び会計基準注解(以下「注解」という)並びに公益法人会計基準の運用指針(以下「運用指針」という)について、これらの関連性の明確化、体系化及び一覧性の向上を図り、もって公益法人関係者の理解を深めることを目的として、これらの統合版が作成された。本報告書の別添3に記載されている。

(2)FAQと公益法人会計基準等との整合性の確保

FAQのうち、会計に関する問Ⅴ及び問Ⅵについて、利用者の利便性を向上させるため、その根拠となる会計基準・注解・運用指針(以下「会計基準等」という)を明示し、会計基準等との記載の整合性を図ることが望ましいことから、FAQのポイントや各質問内容と会計基準等との関係が理解しやすくなるよう、質問ごとに根拠となる会計基準等及び公益認定等ガイドラインを明示した「FAQ早見表」が作成された。本報告書の別添4に記載されている。

 

4.異常値の発生への対応

特定の年度の公益目的事業費の大部分を特定費用準備資金の取崩しによって賄う場合に公益目的事業比率の公益認定基準を満たさなくなってしまうケースがあるということを踏まえ、これに対して何らかの対応が必要かどうかについて、検討が行われた。しかしながら、現時点ではこうした事案は極めて少なく、かつ、当該事例では法人固有の特殊な事情が影響している面もあることから、現段階において何らかの対応を行うとの結論には至らなかった。

5.特定費用準備資金等に関する課題

(1)将来の収支変動に備えて積み立てる資金

将来の収支の変動に備えて法人が積み立てる資金(基金)を特定費用準備資金として保有することについては、将来の支出の確実性を担保する観点から、従前と同様に、過去の実績や事業環境の見通しを踏まえて、活動見込みや限度額の見積もりが可能であるなどの要件を充たす限りで、認められている。この際に、どのような条件等が整えば当該要件に合致するかについて統一的なメルクマールを設定することや、特定費用準備資金を新たに定義し直し、その具体的要件を定めることは困難である。このため、これらの点については、事例の蓄積・提示に努めることとするとともに、後述する遊休財産に係る問題と併せ、特定費用準備資金のあり方として検討を深めるとされた。

(2)遊休財産額算定上の控除対象財産への繰入れの考え方

遊休財産に係る控除対象財産の処理に関し、いわゆる「6号財産」等に金融資産の運用益が積み上がり、公益目的事業に使われない又はそのおそれがある事例があるが、控除対象財産の趣旨を踏まえれば、そうした実態は是正されることが望ましい。
上記のような実態を是正するためには、まずは具体的な事例の提示や分かり易い表の作成等により、各控除対象財産の趣旨や内容を明確化し、法人の理解を醸成することから始めるべきである。加えて、特定費用準備資金をより活用することにより、資金が公益目的事業に使われることを担保することが考えられる。この場合の特定費用準備資金の活用に関し、その条件等がどのようなものであるべきかについては、更なる検討が必要である。このような控除対象財産に係る課題については、引き続き、検討を進める必要があるとされた。

 

まとめ

以上が、研究会の平成28年度報告の要旨である。
特定費用準備資金等に関する課題は今後の検討課題として残されたものの、定期提出書類の別表Hと財務諸表の関係など、分かりにくかった点が整理され、実務上の参考になると思われる。
公益法人の会計に関する研究会は、今後も、会計上の諸課題について検討・提言に取り組んでいくとされており、その動向が注目される。

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