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公益法人の会計に関する諸課題の検討状況について

公益法人の会計に関する研究会による検討結果報告。ただし次年度以降も検討が続く模様

公益認定等委員会は新公益法人制度への移行期間の終了も間近となった平成25年7月に、公益法人の会計に関する実務上の課題、公益法人を取り巻く新たな環境変化に伴う会計事象等に的確に対応するため、公益法人の会計の諸課題の検討を行うこととした。そして同委員会の下で公益法人の会計に関する研究会を開催し、平成27年3月に「公益法人の会計に関する諸課題の検討状況について」として報告書を取りまとめた。

公益法人の会計に関する諸課題の検討状況(1)

平成27年3月に公益認定等委員会の「公益法人の会計に関する研究会」から報告された「公益法人の会計に関する諸課題の検討状況について」の結論の要旨は以下のとおり。

Ⅰ 小規模法人の負担軽減策

小規模法人を定義することは難しく、たとえ小規模法人であっても、同じ公益法人として認定基準を満たし、社会的な位置づけを得ていることから、原則的な処理が必要である。

Ⅱ 公益法人会計基準の適用の在り方

1.会計基準の設定主体の在り方

公益認定等委員会の下に置かれている研究会において今後、非営利組織全体の会計基準の枠組みの構築がどのようになされていくかを見つつ、引き続き検討することが妥当

2.法人類型ごとの運用する会計基準の明確化

公益法人、移行法人、公益目的支出計画を完了した一般法人、公益認定申請を予定している一般法人、公益認定申請を予定していない一般法人といくつかの法人類型があるが、いずれも非営利法人であることを踏まえると、通常は公益法人会計基準を優先して適用することになる。
公益法人会計基準には平成16年会計基準や平成20年会計基準などがあるが、90%を超える法人が平成20年会計基準を適用しているものの今も平成16年会計基準を適用している法人もあり、両基準の違いを明らかにして平成20年基準に円滑に切り替えていくことが必要。これについては、日本公認会計士協会と連携し、両基準の違いを説明していく。なお、移行FAQは移行期間が終了したことをもって、その役割を終えたと思われるため整理することが必要。

3.公益法人会計基準に明示されていない新たな会計事象への対応

企業会計基準では既に導入されている「資産除去債務に関する会計基準」、「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」等について公益法人に適用するか否かにつき、公益法人会計基準では明示されていない。また平成20年会計基準の設定時以降に改正が行われた個別の企業会計基準はいくつかある。これらの改正された会計基準のうち、公益法人に適用することが適当な会計基準については、その具体的な適用方法について、ⅰ研究会が引き続き検討するもの、ⅱ日本公認会計士協会に研究会の結論・方向性を伝えて、具体的な適用方法について検討を依頼するものを分けて導入していくことが適当。

4.制度と会計基準の分離

貸借対照表内訳表の作成や財産目録における使用目的欄の記載の簡便化などは、制度との関連において運用上の負担軽減を図れないかという前提のもとに検討を行うこととした。

Ⅲ 正味財産増減計算書内訳表における法人会計区分の義務付けの緩和

公益目的事業のみを行う法人が、財務状況から法人会計区分を作成する必要がない場合には、同区分の作成を省略できることとした。

Ⅳ 財務諸表上の様式・勘定科目の改善

1.貸借対照表内訳表

国民に対して説明責任を果たすために現状どおり作成することとなった。

2.正味財産増減計算書内訳表

貸借対照表の単位ごと(貸借対照表内訳表を作成している場合には、会計区分単位ごと)に期首及び期末の正味財産残高を記載すれば足りる。

公益法人の会計に関する諸課題の検討状況(2)

Ⅴ 財務三基準の解釈・適用(1)

1.収支相償の剰余金解消計画の1年延長

①収支相償に関しては、翌事業年度との2年間で収支が相償するように発生した剰余金の使い道を説明する必要がある。

②事後的には解消計画に従って、剰余金が解消されたことについて説明することが求められる。

③剰余金が翌事業年度における解消計画で適切に費消することができないことについて特別な事情や合理的な理由がある場合には、一定の説明開示を前提に、収支相償の剰余金解消計画を1年延長する取扱いを認める。

2.剰余金の解消理由

(1)公益目的保有財産としての金融資産の取得

無制限に公益目的財産の取得として金融資産の取得を認めるのではなく、必要性と合理性についていくつかの項目を確認することが必要。

(2)特定費用準備資金の積立

地震、火災等災害時に備えて積み立てる資金を特定費用準備資金として積み立てるのは、災害救援等を事業として行うことを定款に位置づけている法人以外は難しい。ただし、それ以外の法人でも合理的に見積もった範囲で、公益目的事業に必要な活動の用に供する資産として、貸借対照表上の特定資産として経理する場合には、遊休財産額の対象から除外される。

(3)過去の赤字補てん

過去の事業年度で発生した赤字の補てんは剰余金の使途としては適当ではない。
なお、法人が備え得る財産としては、将来の収支の変動に備えて、法人が自主的に積み立てる資金として、活動の見込みや限度額の見積りが可能などの要件を満たす限りで特定費用準備資金として保有することも考えられる。

(4)公益目的保有財産を取り崩した場合の充当

前事業年度以前に公益目的保有財産を取り崩した場合に、当事業年度に発生した剰余金の使途として単に過去の取崩額の補てんの目的で公益目的保有財産に充当することは適当ではないこととなった。
 

公益法人の会計に関する諸課題の検討状況(3)

3.収支相償・遊休財産規制と指定正味財産の考え方

①と②指定正味財産の考え方と問題点

どの程度の制約が課されていれば指定正味財産として取り扱うのか明確な基準が示されていない。
制限の具体的範囲が明確にならないと、制約の解除とそれに伴う一般正味財産への振替といった会計処理にも影響する。
例えば、公益法人のための寄附として定められているだけで、具体的な使途は法人の判断に委ねられている場合や、特に使途の定めのない特定資産の運用益など、指定正味財産として処理されることが適当であるのか疑問となる事例も多くある。

③使途の制約

寄附者の意思により明確に使途に制約がかけられているものが指定正味財産として扱われるべきであると考えられ、寄附者の意思について、法人側で十分に確認することが望まれる。
使途の制約が十分に明確でない場合、改めて寄附者の意思を確認するか、寄附者が亡くなっている場合には当該寄附者の意思を関係者に聴くことによって使途を明確にできるときは、使途に制約がかけられているものと考えられる。
あるいは、法人内部の寄附金に関する規程等によって寄附者の意思の範囲内で具体的な事業を特定できるか、又は具体的な事業に配分することができるときも同様に考えることができる。
寄附額のうち一定割合を管理費に充当することについて寄附者に了承を得ることができれば、当該一定割合の寄附金の使途を管理費に充当することができる。
「公益法人のために使ってほしい」という寄附者の意思については、指定正味財産に区分されることは適当ではない。

④指定正味財産から一般正味財産への振替

本来の受託責任を果たすことができない状況となった場合は、寄附金は指定正味財産から一般正味財産へ振り替えることが適当。

⑤指定正味財産に関する平成20年会計基準と実務指針の関係

指定正味財産の今回の検討結果について、実務指針にも反映してもらうように日本公認会計士協会に要請するとともに、実務指針との関係を明確に整理することが必要。
 

公益法人の会計に関する諸課題の検討状況(4)

Ⅵ 定期提出書類
  1. 別表Hと財務諸表の関係

    赤字を補てんした財産は、認定法第18条号に基づく認定法施行規則第26条第8号で規定する、公益目的事業のために使用、又は処分する旨を定めた額に相当する財産に該当すると考えられる。

    公益目的事業会計に区分された財産は基本的には認定法第18条に規定する公益目的事業財産に該当し、それに該当しないものはごく例外的な場合と解すべきであり、認定法第30条第2項第3号の公益目的事業財産以外の財産について公益目的事業を行うために費消、譲渡した場合についても、限定的に解するのが適切。すなわち、当該補てんのための金額は、一度公益目的事業会計に移動されてから、支出されていると考えられる。

    そのため、当該補てんした金額は、公益目的取得財産残額の計算上影響を与えない。

    なお、赤字補てん額を公益目的取得財産残額から控除できるという考え方のもと赤字補てんが繰り返し行われると、公益目的事業会計に区分された財産が存在しているにもかかわらず、公益目的取得財産残額がマイナスとなるおそれがある。この場合、認定取消等で残された財産を自由に処分できることになるが適当であるか疑問が残る。
  2. 別表C(2)控除対象財産と財務諸表の関係

    控除対象財産と財務諸表の具体的な関係(勘定科目)が分かりにくいため、両者の関係を整理して、定期報告書類作成時において整合性を確認する必要がある。

※別表H、C・・移行後の法人定期提出書類 

3.実施事業資産と財務諸表の関係

①貸借対照表内訳表を作成した場合、実施事業等会計に区分された固定資産が実施事業資産に該当する。
②財務諸表に対する注記を選択した場合、以下の記載が考えられる。
 

 (記載例)
   財務諸表(貸借対照表)に対する注記
   ××.実施事業資産は以下のとおりである。

   基本財産

  投資有価証券

500

   その他固定資産

  土地

200

 

  建物

100

公益法人の会計に関する諸課題の検討状況(5)

Ⅶ 財務三基準以外

1.有価証券の評価方法等の考え方と表示方法

【その他有価証券を時価評価する場合の会計処理】
償却原価法を適用したうえで時価評価すること。

2.事業費・管理費科目の考え方と表示方法

事業費と管理費の定義が分かりにくい場合があるため、研究会では事業費と管理費について定義を解説することとした。
事業費は当該事業に跡付けることができる費用である。
管理費は当該事業に跡付けることができない経常的な費用であり、換言すれば、法人の事業活動にかかわらず、法人が存続していく上で、必要な経常費用である。

3.他会計振替の考え方

通常は、収益事業等から公益目的事業会計への利益の50%又は50%超の繰入れに用いられる場合と収益事業等から法人会計に宛てる場合に用いられる。
これに加えて、ⅰ法人会計から公益目的事業会計への振替、ⅱ収益事業等会計と法人会計間の振替も行うことができる。
なお、他会計振替の考え方、振替額の計算方法、計算事例等については、日本公認会計士協会から公表されている「非営利法人委員会研究資料第4号」に記載があるので参考にされたい。

4.財産目録の使用目的等欄の表示の必要性

引き続きガイドラインを参考に情報開示を行うこととなった。

5.資金収支の情報の記載

資金収支ベースでの収支予算書および収支計算書の情報については、財務諸表等に記載することは適当ではなく、財務諸表等と区分して適当な場所に任意に記載すること、法人の内部管理資料として作成することは問題ないという結論を得た。

公益法人の会計に関する諸課題の検討状況(6)

新公益法人制度への移行期間も終了し、会計に関する諸課題がいろいろと見えてきたところである。非営利法人の会計は公益法人会計の改正を始めとして、学校法人会計、地方公営企業会計、社会福祉法人会計、医療法人会計などの見直しが行われているところであるものの、公益法人会計以外の非営利法人会計についても諸課題が存在するものと推測される。今回のこのような整理が他の非営利法人会計の諸課題の整理につながり、おのおのの会計の持つ役割が十分果たされることとを願うものである。
 

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