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「平成27年度 公益法人の会計に関する諸課題の検討結果について」の公表

公益法人に対する企業会計基準の適用要否に係る検討結果の公表

内閣府公益認定等委員会 公益法人の会計に関する研究会(以下、「研究会」という。)は、企業会計基準の公益法人への適用の要否等について検討を行い、平成28年3月に「公益法人の会計に関する諸課題の検討結果について」(以下、「27年度報告」という。)を公表した。27年度報告は、平成27年3月に公表した「公益法人の会計に関する諸課題の検討状況について」と同様に、公益法人会計基準を補完するものとされた。

27年度報告の内容について

平成28年3月に公益法人の会計に関する研究会から報告された「公益法人の会計に関する諸課題の検討結果について」の結論の要旨は以下のとおり。なお、27年度報告は下記のハイパーリンクから入手可能である。(外部サイトにリンクします)

平成27年度公益法人の会計に関する諸課題の検討結果について 

公益法人の会計は「一般に公正妥当と認められる会計の慣行に従うものとする」(一般社団法人及び一般財団法人に関する法律第119条・第199条)と規定されており、企業会計基準もその拠りどころの一つとなり得る。企業会計基準は、公益法人会計基準(以下、「平成20年会計基準」という。)において既にその適用が前提とされているものがある一方、平成20年会計基準の設定後に定められ、又は改正されたものもあることから、これらの基準を公益法人に適用すべきか否かが論点となる。企業会計基準の公益法人への適用要否に関し、個別に検討した結果、以下のとおり結論を得た。

1.退職給付に関する会計基準

公益法人会計基準が平成16年に改正された(この改正後の基準を、以下「平成16年会計基準」という。)当時においては、同基準に記載のない新たな会計事象については企業会計基準を参考にするという会計慣行であったことから、その当時既に定めらていた本企業会計基準は、平成16年会計基準のみならず平成20年会計基準においても引き続き、その適用が前提とされている。本基準は、平成24年(5月17日)に、原則法による退職給付見込額の算定について、より実態を反映できる方法が採用されるなど、その内容の一部が改正されたが、この改正内容を含め、公益法人にも適用されるべきである。

2.金融商品に関する会計基準

平成20年会計基準の設定当時においては、本基準が公益法人にも適用されることが前提とされていたため、金融商品に関する会計処理や関連情報の注記による開示に関し、企業会計と公益法人会計の間に大きな相違は無かった。その後、本基準が改正され、下記(1)と(2)について注記することとされたが、これらが公益法人に適用されるか否かについては、平成20年会計基準では明らかにされていない。
(1)金融商品の状況に関する事項
本基準にいう「金融商品」のうち、「現金預金、受取手形、売掛金及び貸付金等の金銭債権、支払手形、買掛金、借入金及び社債等の金銭債務」を除く、法人の資産運用を図る手段として用いられる金融商品について、その運用次第では法人運営に相当のリスクをもたらすおそれがあると法人が判断した場合、その内容とリスク、リスク管理体制等に関する事項を注記することとすべきである。
(2)金融商品の時価等に関する事項
平成20年会計基準においては、満期保有目的の債券については時価を注記するとともに、満期保有目的の債券並びに子会社株式及び関連会社株式以外の有価証券については時価をもって貸借対照表価額とすることとされている(子会社株式及び関連会社株式については取得価額とされており、これは企業会計と同様である。)ことから、金融商品の時価等については現行のままとする。

3.リース取引に関する会計基準

平成16年会計基準への改正当時においては、同基準に記載のない新たな会計事象については企業会計基準を参考にするという会計慣行であったことから、その当時既に定められていた本企業会計基準は平成16年会計基準のみならず平成20年会計基準においても引き続き、その適用が前提とされている。公益法人のリース取引に関する会計処理及び注記を本基準によることに支障はなく、また、準拠すべき他の方法もみられないことから、本基準は、公益法人にも適用されるべきである。

4.棚卸資産の評価に関する会計基準

平成20年会計基準は、棚卸資産の時価が取得価額よりも下落した場合には時価をもって貸借対照表価額とすることとしており、本基準と実質的な相違はないことから、棚卸資産の評価については現行のままとする。

5.工事契約に関する会計基準

本基準は、工事契約による収益や原価を、工事の完成前でもその進捗度に応じて計上する「工事進行基準」を適用するための要件や、工事進捗度の見積方法などについて定めている。
公益法人の工事契約に関する会計処理及び注記を本基準によることに支障はなく、また、準拠すべき他の方法もみられないことから、本基準は、公益法人にも適用されるべきである。

6.資産除去債務に関する会計基準

資産除去債務とは、契約に基づく建造物の解体や修繕等の現状回復義務や、法令に基づくアスベストの除去義務など、有形固定資産の取得、建設、開発又は通常の使用によって生じ、当該資産を除去する際に、法令や契約により求められる法律上の義務(それに準ずるものを含む。)をいう。本基準は、この資産除去債務について、発生時に負債計上すべきことやその算定方法などを定めている。
公益法人の資産除去債務に関する会計処理及び注記を本基準によることに支障はなく、また、準拠すべき他の方法もみられないことから、本基準は、公益法人にも適用されるべきである。

7.賃貸等不動産の時価等の開示に関する会計基準

本基準は、賃貸収益又はキャピタル・ゲインの獲得を目的として保有されている「賃貸等不動産」について、その概要、時価の期中における主な変動、期末における時価の算定方法、損益等を注記することとしている。
公益法人の賃貸等不動産の時価等に関する注記を本基準によることに支障はなく、また、準拠すべき他の方法もみられないことから、本基準は公益法人にも適用されるべきである。

8.会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準

本基準は、会計方針が変更され、又は過去の財務諸表に誤謬が発見された場合、過去の財務諸表に遡及して、新たな会計方針を適用し、又は誤謬を訂正する処理について定めており、これにより財務諸表利用者への比較情報提供を担保している。
本基準は、期間比較可能性と法人間の比較可能性を向上し、関係者の意思決定に当たっての財務諸表の有用性を高める上で意義があり、このことは、営利法人、非営利法人のいずれにも当てはまることから、個別の公益法人がその会計処理にあたりこれを採用することは、有益である。
一方で、「中小企業の会計に関する指針」の適用対象とされる中小企業、学校法人など公益法人と同様に非営利法人である法人、独立行政法人にも、本基準は求められていないのが現状である。さらに、少人数の職員により運営されている法人が多い公益法人に、過去の財務諸表の修正まで求めるのは、その運営実務に大きな混乱をもたらす懸念がある。

以上のことから、本基準は「一般に公正妥当と認められる会計基準」であることについては異論はないが、本基準によらない会計処理も公正妥当と認められる会計慣行ということができる。
 

9.固定資産の減損に係る会計基準

平成20年会計基準は、この企業会計基準とは別に、公益法人等の特性を考慮して、固定資産の時価が帳簿価額から概ね50%を超えて下落している場合には時価(使用価値が時価を超える場合、取得価額から減価償却累計額を控除した価額を超えない限りにおいて使用価値)をもって貸借対照表価額とする「強制評価減」を採用している。
現在においても、この方法の改正を必要とする事情変更はみられないことから、固定資産の減損については現行のままとする。

まとめ

以上が、研究会の27年度報告の要旨である。
上記1~9の企業会計基準のうち、公益法人に新たに適用されるのは上記2、5、6、7、8の基準である。研究会の結論は、非営利法人においても、不特定多数の利害関係者への情報提供の重要性は高く、アカウンタビリティー充実等の要請は企業と変わらないことが背景にあると考えられる。
適用開始時期については、「以上の結論に基づく新たな措置は、平成28年4月1日以降開始される事業年度から講じられるべきである(ただし、それ以前の実施を妨げない)。」とされている。
また、「公益法人が会計監査を受けている場合の取扱いについては、別途、日本公認会計士協会において、ご検討いただきたい」とされており、日本公認会計士協会は公益法人が監査を受けている場合の監査上の取扱い等を公表する予定である。

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