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「企業の不正リスク調査白書 Japan Fraud Survey 2020-2022」を発表

クライシスマネジメントメールマガジン 第26号

この度、デロイト トーマツ グループは、「企業の不正リスク調査白書 Japan Fraud Survey 2020-2022」を発行いたしました。本白書は不正の実態に関するアンケート調査を2006年から隔年で実施しているもので、今回で7回目となります。

上場企業・非上場企業から無作為抽出で一定数の企業にアンケートを依頼し、427社から回答を得ています。

今回の調査白書では、前回好評を得た内容をさらに進化させるかたちで、不正に対するガバナンスの実像に迫る質問を設計しました。調査結果につきましては本編をお読みいただければと思いますが、海外子会社管理の脆弱性、危機意識の低下、デジタル化の遅れ、リソース配分の歪みを中心に、様々な課題があることが浮き彫りになっています。

また、本白書は、新型コロナウイルスによる影響も分析対象に含めています。リモートワークがもたらすガバナンスの脆さや、業績悪化が惹起する不正への誘因に対し警鐘を鳴らす内容を含んでいます。

日本企業の不正およびその対応の実態を多角的に分析した内容となっており、課題に向き合うために、是非ご活用いただければと存じます。本編は下記ダウンロードサイトよりご入手ください。

https://www2.deloitte.com/jp/ja/pages/risk/articles/frs/jp-fraud-survey.html

 

エグゼクティブサマリー

◆2018 年よりも不正が増加している一方で 危機意識は低下

前回調査に比べて、過去3年間で不正が発生したと回答した企業は46.5%から53.9%に増加しました。また、発生地域では、海外関係会社で不正が発生したと答えた企業が16.0%から24.0%に増加し、不正のタイプ別でみると、会計不正が31.2 %から40.0%に顕著に増加しています。一方、不正に対する危機意識は、69.6%から60.8%へ低下している点が危惧されます。

◆コロナへの対応で顕著に表れた 日本企業の人的ネットワーク依存

回答企業のうち68.3%の企業がリモート化に対応して急速に情報インフラ投資を実行している一方で、セキュリティ対応は49.8%にとどまり、昨今の情報漏洩の一因となっている可能性があります。また、コロナ禍で海外駐在・出張が制約されていると回答した企業が57.6%に達し、これまで人的ネットワークによる相対コミュニケーションに頼っていた日本企業の海外子会社ガバナンスが脆弱化している懸念があります。さらには、補助金・融資で運転資金を補てんしている企業が41.7%となっており、業績悪化に伴う粉飾決算やデータ偽装の再燃も懸念されます。

◆内部監査、内部通報、海外子会社のデジタル化に大きな課題

内部監査の人員を10人以下と回答した企業は72.4%、不正に関する内部通報の年間件数を5件以下と回答した企業は79.2%に達しました。内部監査と内部通報は不正検知の2大ルートであり、不正拡大が懸念されるコロナ禍において強化が急務です。さらに、管理業務の半分以上が紙依存となっていると回答した海外子会社が85%におよび、統制・モニタリングの前提となるデジタル化の遅れも懸念されます。

◆取締役の不正対応への責任に、欧米と認識差

不正が増加する一方で危機意識は低下。内部監査、内部通報、デジタル化などの組織的対応も後手に回っており、不正ガバナンス強化はトップダウンで進めるべき経営課題であることが示唆されます。一方、欧米で導入が進んでいるクローバック制度(不正発覚時に役員報酬を返還するもの)を導入済みもしくは導入を検討している企業は6.5%に過ぎず、取締役の不正対応への責任に関し、欧米と認識差があることがうかがえます。また、社外取締役に有事での主体的役割を期待するのは16.1%に過ぎず、社外取締役を含めた不正ガバナンスのあり方を再考する必要を示しています。

 

執筆者

デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
フォレンジック&クライシスマネジメントサービス
統括パートナー 中島 祐輔