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リモート不正調査の心得

クライシスマネジメントメールマガジン 第14号

新型コロナウイルス感染症(以下、COVID-19)の感染拡大防止のため、多くの企業が在宅勤務へ切り替えています。このような状況において、リモートで不正調査を行うためのポイントについて紹介します。

I. COVID-19感染拡大状況における不正調査

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大により、企業は事業運営や財政戦略上の困難に直面している。収益の減少に伴い、現在および近い将来にCOVID-19の影響で経営危機に陥った事業を対象に予算修正および資金の再配分を行わざるをえないだろう。

企業が対処すべき問題の中には、発覚してしまった不正の社内調査をどのように進めていくかという課題がある。調査対象となる不正類型によっては、重大な財務上の不正行為の疑惑や、主要役員や経営層のインテグリティへの疑い、また規制や法律違反の対象となるため、素早い対応が必要となる。

不正リスクの要因に加えて、COVID-19の感染拡大は、財務諸表不正、資産の不正流用、インサイダー取引などを含む不正や汚職行為の温床となり得る調査プロセスの複雑性に加えて、ソーシャルディスタンスの要請により、短期的に物理的な交流を困難あるいは不可能にしている。そのため、企業はこのような環境でどのように効率的に調査を開始あるいは継続できるかを検討する必要がある。

幸いにも現代では、データや情報の収集・分析を支援するテクノロジー主導のソリューションが利用可能であるとともに、バーチャルな通信環境を利用したインタビューや複数チームによる共同作業が実施可能である。

具体的なリモートによる調査プロセスは次のようなものが考えられる。
 

II. リモートでの不正調査のプロセス

A) 調査計画
すべてのエンゲージメントにおいて適切な計画の策定が必要であるが、リモートによる不正調査の場合は、円滑なキックオフを促進するために追加的な検討と考慮が必要になる。従来のスコープの検討に加えて、リモート調査を行う場合に発生する制限等、以下の事項についても考慮しておくべきである。
―インタビューを実施するための最善のアプローチは何か。
―自社のセキュリティ対策は電子文書を送受信するのに十分であるか。
―デスクトップや携帯端末上のデータ等をどのように入手するか。
―国、自治体、裁判所に保管されている企業や個人の情報を入手できるか。

B) トラッキングの一元管理
一元管理が可能なカストディアン(調査対象者)トラッキングシステムを活用することが調査の成功の鍵である。このシステムを活用することによって、国や大陸をまたいで編成された調査チームは、リアルタイムに情報を追跡、報告、共有をすることが可能になる。また、調査チームは、対面インタビューをオンラインの質問票調査に代替することができるようになる。質問票調査の回答は、自動インポート機能によってシステムに取り込まれ、マニュアルレビューを通さずに、すぐにインデックス化され検索が可能になる。さらに、システム利用者は、ダッシュボードやその他自動報告機能を活用し、リモートによるワークフロー管理やパフォーマンスモニタリングを強化することができる。

C) eDiscoveryのデータ収集とドキュメントレビュー
通常、電子メールなどのデータ収集はリモート作業で行われるため、リモート調査においても、データ収集は通常に近い形で実施される。物理的に受け渡しが必要なカストディアンの端末は、現状では物流が大きな課題ではあるが、解決可能である。ディスカバリーの専門家はITチームと連携して該当するデータソースを識別し、企業データやクラウドデータにアクセスおよびダウンロードすることができる。カストディアンの端末に関して企業がPCを保全する能力を持ち合わせている限り、インターネットのアップロード速度以外ではデータ収集に影響をほとんど与えることなくデータを取得できる。しかし、保全する能力を有していない場合、データの収集のためにカストディアンへ事前通知する必要が生じるため、PCを保全する前にデータを消去されたり破壊されたりするリスクが高まる。このような状況における典型的なアプローチとしては、カストディアンの端末に接続するために、簡単なプログラムが組み込まれていて、暗号化されたハードドライブをカストディアンへ送ることが必要である。このハードドライブをカストディアンのPCに接続することによって、調査者は端末にリモートでアクセスおよび制御することが可能となり、さらに自動で安全にデータを抽出および収集することができる。よって、RelativityのようなeDiscoveryのソフトウエアソリューションで、文書のデジタル化およびレビューやタグ付けが可能である。

D) 会計情報のフォレンジック分析
ERP(Enterprise Resource Planning/企業資源計画)のデータや証憑類への電子的アクセスはリモートでの会計情報のフォレンジック分析で利用されることが一般的である。データ分析の進歩により、大量の会計・財務データ取得を効率的にし、関連取引の識別にかかる時間を大幅に短縮できるようになった。さらに、安全性を確保できている情報共有の仕組みを用いることで調査チームとクライアントチームの連携を強化し、機密情報の共有や閲覧を可能にする。

E) バックグラウンド調査
バックグラウンド調査は、法廷保存文書やビジネス文書がデジタル化されていない場合を除き、ほとんどオンラインデータリサーチや電話インタビューで行われる。

F) 調査インタビュー
電話会議やビデオ会議の利用は、ほとんどのビジネスにおいて「新しい常識」となったが、弁護士や調査者は、調査インタビューをリモートで行うことのメリットとデメリットを慎重に判断するべきである。多くのソフトウェアプログラムには文書の共有やフェイストゥフェイスのコミュニケーション機能が備わっており、インタビュー実施者は対象者の反応を観察することで、その信憑性を見極めることができる。しかし、重要な目撃者や証人へのインタビューは、緊急を要さない場合に限り、インタビューの環境や文書へのアクセスのし易さを考慮し、現場でのインタビューが最善の方法の場合もあるだろう。

デロイト トーマツの特長

COVID-19感染拡大を受けて、企業が事業活動を継続するには、調査実施項目の優先順位を考慮し、デジタル技術を活用したリモートによる社内調査のコストとプロセスの効率化を検討する必要があります。

デロイト トーマツでは、緊急時における対応支援の実績と知見を有しています。適切な“人材”、“プロセス”、“テクノロジー”を構成し、このような危機的な状況下においてもクライアントが直面している重要な問題の解決を支援します。

―人材:デロイト トーマツの経験豊富な調査チームを必要に応じた規模で派遣し、クライアントをグローバルにサポートします。さらに、デジタルプラットフォームを効果的に活用してリモートによる社内調査を可能にします。

―テクノロジー:デロイト トーマツは、社内調査の計画と実行、カストディアンマネジメント、会計情報のフォレンジック分析、データ保全とレビューにおける再現性、拡張性、防御性を備えたメソッドを開発し、Brainspace(AIを活用したアナリティクスツール)等の高度なアナリティクス技術を利用したデータやドキュメントレビューに強みを持っています。さらに、クラウドテクノロジーを活用して、端末やデータの物理的な受け渡しを必要としないリモートによる社内調査を可能にします。

―プロセス:業界をリードするツールを活用する一方で、クライアントのニーズに最適なソリューションを提供することができます。また、クライアントと協力し、調査業務を円滑に行うために、最も効率的なワークフローを作成することも可能です。当社のアプリケーションをカスタマイズしたアプローチにより、調査における会計やディスカバリー関連の重要タスクの促進を可能にします。

 

※本稿は、デロイトが英文で公表した記事「Forensic Focus on COVID-19 Conducting investigations remotely during times of uncertainty」の翻訳です。

執筆者

デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
フォレンジック & クライシスマネジメント サービス
パートナー 中島 祐輔
ヴァイスプレジデント 扇原 洋一郎

(2020.5.20)
※上記の社名・内容等は、掲載日時点のものとなります。

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