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新しいテクノロジーの仕事を担う労働力

Future of Work:テクノロジーを活用した働き方の未来 第4回

進化するビジネス環境やテクノロジーによって、人々の働き方が変化する現在、テクノロジーが担う役割が変化しています。本連載ではこれまで、今後テクノロジーを活用すべき分野を踏まえて、Future of Workにおける新しい仕事(業務)、労働力、労働環境の観点で再定義することの重要性を述べました。今回はその中でも労働力について具体的な考え方を説明します。

Workforce:専門技術者から共同開発者まで

テクノロジーの発展に対応できるスキルや能力を備えた人材の需要が高まっています。新しいテクノロジーの仕事(業務)を担うために必要な従業員のスキルや能力、またその範囲は、これまでと大きく異なる可能性があります。

一方、労働力だけを変化させても、新たな仕事(業務)や成果が明確になっていなければ、非効率な結果を生んでしまうことが想定されます。

ビジネスおよびテクノロジーのリーダーはまず初めに、以下を考慮しながら、新しい仕事(業務)とその成果を定義することが求められます。

 

テクノロジー・アスリートが専門技術者に取って代わる

テクノロジーの仕事(業務)が変化するにつれて、仕事(業務)に必要なスキルやその成熟度も変化します。2019年にデロイトが発表したインダストリー4.0への対応状況に関するレポートでは、調査対象となったCIOの51%が、現在のスキルセットと将来のニーズとの間に大きなギャップがあると指摘しています。(1)

これまで、ITに関する仕事に従事する多くの人は特定の高いスキルセットを持っていました。アプリケーション開発スキルを持つ従業員は、キャリアのすべてを1つの専門分野に費やすこともありました。

しかし、テクノロジーが進化するにつれて、一部の専門的なスキルは廃れていく傾向にあります。技術は急速に変化しているため、今後はテクノロジーのトレンドを常に把握し、顧客へのサービス提供やコラボレーションの実現など、組織の戦略の推進に役立つ技術の理解が重要になる可能性があります。

 

技術と人間の組み合わせによる増強

仕事(業務)の成果が明確になることで、テクノロジーに関わるリーダーは役割と仕事(業務)を一致させることができるはずです。リーダーは、技術と人間の組み合わせによって最善の結果を出すことができるか検討することが必要です。

例えば、認知技術は確かに変革をもたらすものですが、それは労働者を置き換えるのではなく、むしろ補強しています。戦術、アルゴリズムなど構造化された仕事のほとんどは、時間の経過とともに自動化され、創造的で戦略的な仕事の多くは人間の才能のために残されることが予測されています。

 

永続的なヒューマンスキルは技術的専門知識を補完する

これまでは、コラボレーションやコミュニケーションのようなソフトスキルは、専門的なテクニカルスキルよりも後回しにされてきました。しかし現在ではソフトスキルが非常に注目されています。これらの永続的で本質的な人間のスキルは、テクノロジーでは複製できないこともあり、その価値が高まっています。

将来のテクノロジー関連の仕事(業務)は、よりテクノロジーを活用したデータドリブンとなるかもしれませんが、人材にはビジネスとテクノロジーの両分野にまたがる幅の広さが求められます。これには、以下のようなイノベーションとディスラプションを推進するための重要な特性が含まれる可能性があります。

 

  •  複雑なビジネス課題を理解し意思決定するためのビジネスと財務双方の洞察力
  • 人と技術との関わり、相互作用、コラボレーションを理解する能力
  • 共感、創造性、学習への熱意など、永続的で不可欠なヒューマンスキル
  • 変化と不確実性を受け入れる能力

 

テクノロジー人材は、専門知識を集約したサイロで働くのではなく、ビジネス部門とコラボレーションして価値を共創する必要があります。グローバルCIOサーベイに参加したCIOは、技術的専門知識をコラボレーションスキルで強化する必要性が高まっていると指摘しています。

 

 

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これは微細な変化ではなく、新しい役割や人材能力が必要になる可能性があります。IT業界における人材不足は今に始まったことではありません。グローバルCIO調査の参加者の60%が、適切なバランスのスキルを持つ従業員を見つけるのが難しいと回答しています。 しかし、イノベーション、成長、ビジネス変革のためのビジネス要件をサポートするために、専門的なスキル、隣接するスキル、永続的なヒューマンスキルを適切に組み合わせた人材が不足し続ける可能性があります。

 

 

オープンな人材プールが、労働力の選択肢を増やす

CIOが必要とするテクノロジー人材にアクセスするための選択肢は、以前よりも増えています。潜在的な技術労働者のオープンな人材プールには、従来のフルタイム従業員や独立請負業者、ギグワーカー、クラウドソーシングなどの代替労働者まで、オンバランスとオフバランスの両方を含む人材が拡大しています。 

 

 

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世界のCIOを対象とした調査によると、CIOはすでにオープンな人材を重視している。調査回答者の58%が、現在の人材を再訓練し、再構築していると回答しています。外部パートナーやサービスプロバイダーからの人材を活用しているという報告も同じ割合であり、別の調査では、技術幹部の73%が、ギグエコノミーワーカーをある程度または非常に広範囲に活用していく予定であると回答しています。(2)しかし、リーダーの3分の1は、ギグワーカー、フリーランサー、クラウドソーシングを活用する準備ができていないと感じています。これから克服する必要がある障壁です。(3)

テクノロジー企業はテクノロジーベンダーの管理に長けていますが、デロイトグローバル人的資本トレンド調査(2019)では、IT企業の半数近く (49%) が、オープンな人材の継続的な調達と管理方法に一貫性がない、または統合されていないことがわかりました。これにより、組織は必要な人材に最適なソースからタイムリーにアクセスできない可能性があります。ほぼすべての回答者が、人事部門はフルタイム従業員の雇用と育成を担当し、調達部門は外部エコシステムとの契約を処理し、組織全体のユーザーは請負業者、ギグワーカー、クラウドソーシングなどのオープンな人材ソースにアクセスすると回答しています。

 

 

職務記述書がジョブ・キャンバスになる

特にテクノロジー分野では、ジョブディスクリプション(以降職務記述書)と実際の仕事が一致することはほぼありません。将来のテクノロジーの仕事は、常に進化し、ダイナミックになります。技能の半減サイクルは5年程度で、その後も下がり続けます。期待された役割を果たすために必要なツール、スキル、コンピテンシーは常に変化します。

そのため、職務記述書は今後、「ジョブ・キャンバス」へと進化が必要になると考えます。「ジョブ・キャンバス」には自動化の結果である、拡張された責任、新しいスキル、再設計された仕事内容、再定義された仕事の成果について記載します。
 

  • その特定の職務の重要性が増加したり減少したりするスキル
  • 一連の職務における広範な責任
  • 仕事における個々の労働者のペルソナ
  • 役割を担う人物の 「人生の中の重要な一日」 の定義
     

具体的な例として、製品管理と製品の提供と運用に対するスキルの潜在的な変更が製品マネージャーとアジャイルポートフォリオマネージャーの役割にどのように影響するかについて検討し、ジョブ・キャンバスのサンプルを作成しました。

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プロダクトマネージャーにとって、重要性が低下する可能性の高いスキルには、プロジェクト管理、テクニカルライティングと編集、ユーザーインターフェイスの設計などがあります。一方で、スクラム、DevOps、デザイン思考、アジャイル製品ライフサイクル管理、継続的インテグレーションとデリバリがより重要なスキルになる可能性があります 。同様に、製品の提供と運用が進化するにつれて、アジャイルポートフォリオマネージャーは、製品テスト、スクラムとDevOps、データ分析、製品管理、顧客接点、製品改善、プロトタイピングの能力を磨く必要がある。彼らは、プロジェクト管理、プロセスエンジニアリング、システム統合、コンポーネント設計などのスキルの必要性が低くなる可能性があります。

 

 

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今回は、今後テクノロジーを活用すべき分野を踏まえて、新しいテクノロジーの仕事を担う労働力という観点から、必要となるスキルや能力・役割の変化を述べました。次回は、労働環境の変化についてご説明します。

 

脚注)
(1)CIO Journal, “Closing technology, talent gaps for Industry 4.0,” Wall
Street Journal, January 22, 2019. 
(2) Unpublished data from Renjen, How leaders are navigating the Fourth
Industrial Revolution. Deloitte Insights, January 20, 2019.
(3) Unpublished Future of Work in Technology survey data, collected February 2019.

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