キャッシュレス決済先進国、中国の決済ビジネス最前線(第2回) ブックマークが追加されました
ナレッジ
キャッシュレス決済先進国、中国の決済ビジネス最前線(第2回)
社会インフラとしてのキャッシュレス決済で、中国の店舗やサービスがどう変わったか
QRコード決済が国民の主要な決済インフラとなり、高いキャッシュレス決済比率を実現している中国の広州、深センでの、リスクアドバイザリー新規事業推進による現地視察レポートの第2回。2019年の消費増税以降、日本でも活用がさらに進むQRコード決済ですが、キャッシュレス決済先進国ではどのようなビジネスが進んでいるのでしょうか。日本の常識と離れてみることで、常識に縛られない未来の構想につながれば幸いです。
無人コンビニ
中国のQRコード決済は無人コンビニの普及に貢献しています。キャッシュレス決済の普及により、現金がなくなるだけでなく、レジもなくなります。レジがなくなると、そもそも現金の管理をする店員が必要なくなります。中国ではスマホでの決済基盤普及により、無人コンビニが一気に数を伸ばし、すでに淘汰の時期に入ったともいわれています。まずは、無人コンビニの仕組みについてみてみましょう。
無人コンビニと言っても、日本で見られるような商品の棚や冷蔵庫が並ぶ店舗型もあれば、限りなく自動販売機に近いものもあります。いずれの種類においても、QRコードが、身分証明、入退店の鍵、レジ、決済の機能を果たします。一般的に普及しているコンテナサイズの店舗では、入り口のQRコードリーダーに、消費者が自身のスマホで起動した決済アプリのQRコードをかざすことにより、ドアのロックが解除され、入店できるようになります。入店後、商品の棚から自身が購入したい商品を手に取りますが、その商品にはRFIDタグがついています。購入する商品を選び終わると、消費者はセルフレジの上に商品を置き、セルフレジが商品についたRFIDタグを読み取り、スクリーンに購入した商品の内容と値段が表示されます。合計額を確認して、決済ボタンにタッチするとスクリーン上に表示されるQRコードを、スマホの決済アプリで読み取ることで決済が完了します。すると出口のドアのロックが解除され外に出ることができるようになります。QRコードの表示がスマホであったり、セルフレジであったりといったバリエーションはありますが、おおむねこのような流れで消費者は無人コンビニで買い物をします。
無人コンビニは店舗面積が小さいため、定番商品や売れ筋商品に絞って品数を少なくする傾向にあります。RFIDのコストは相当低減されているようですが、依然として商品一つ一つにタグをシールで貼る必要があり、そのための人件費もかかります。現段階では、採算をとることは難しいと考えられていますが、災害時の食料供給のインフラとしても期待されており、オフィス街などを中心に珍しいものではなくなりました。
新小売(ニューリテール)
“ニューリテール”はアリババ(Alibaba: 阿里巴巴集団)が2016年から中核としている戦略の1つで、データテクノロジーでオンラインとオフラインを融合させた新しい消費体験を指します。そのニューリテール戦略の代表が「フーマ(Hema:盒馬鮮生)」というブランドで展開する、生鮮食料品を扱うリアル店舗です。フーマは2016年1月に上海で第一号店を出店、同年3月にアリババから出資を受けています。フーマは「オンラインでのサービスを前提に、オフラインの店舗やサービスを設計し展開していること」に特徴があります。リアル店舗は、オンラインショッピングの物流拠点と位置付けられ、店舗を中心に3キロ圏内の顧客に対して、オンライン注文から30分以内に配達を完了する即時物流を実現しています。このようなサービスは24時間営業を背景に夜食需要という新しいニーズも取り込み、売り上げを伸ばしています。
中国の生鮮食料品店では、量り売りや単品売りが一般的でしたが、商品を全てパッケージにして販売することにより、店舗でも、商品を手に取ることができないネットでも、同じ品質のものが購入できるように工夫されています。加えて、野菜など生鮮食料品のパッケージに販売の曜日を記載することで新鮮さをアピールするとともに、オンラインでの買い物に安心感を与えています。店舗にはオンライン対応専門の係員がおり、ネットでの注文が入るとスマホを見ながら、店舗の棚から商品を選択し、袋に入れ、天井を走るレールに引っ掛けます。注文品の入った袋は、店舗の天井のレールを伝って出口の配達員のところまで運ばれる仕組みです。
フーマの特徴は、オンライン顧客のニーズを満たすとともに、来店顧客に対しても楽しんでもらえる仕組みを導入しているところにもあります。リアル店舗への来店動機を高めるために、質の高いレストランを併設しており、グローサラント(グローサリー+レストラン)を実現しています。特に海鮮には力をいれており、自ら水族館と呼ぶとおり、生きた魚介類が水槽で陳列されており、その場で調理して食すことも可能です。決済は当然のことながら、セルフレジによるQRコード決済であり、有人レジのない店舗もあります。
そして誰もいなくなった?
キャッシュレス決済が普及すると現金がなくなりますが、有人レジもなくなります。レジに人が必要なくなると、コンビニの店員が必要なくなります。中国視察では、このような状況を目の当たりにしました。日本でもコンビニの24時間営業問題をはじめ、人手不足による社会への影響がみられるようになってきました。インターネットという安価なインフラを利用しながら、効率的な業務オペレーションを構築している点では、中国はキャッシュレス先進国と言えます。
一方で、リアル店舗に客がいなくなったかと言えば、そうではありません。グローサラントという新しい業態に見られるように、リアル店舗では人が体験できることを前面に出したサービスで集客もしています。効率化すべきところは、安価なインフラを活用し無人化する、高付加価値化するところには投資をし、人によるサービスを展開しています。言うのは簡単だ、と思った方は、ぜひ一度中国でのキャッシュレス決済を体験してみてください。
*QRコードは株式会社デンソーウェーブの登録商標です
リスクアドバイザリー 新規事業推進の関連情報
リスクアドバイザリー 新規事業推進に関するお問い合わせ
サービス内容等に関するお問い合わせは、下記のお問い合わせフォームにて受付いたします。お気軽にお問い合わせください。
※お問合せにつきましては、担当者よりメールにて順次回答しておりますのでお待ちくださいますよう、よろしくお願い申し上げます。
その他の記事
QRコード等キャッシュレス決済を起点としたデータ戦略立案アドバイザリー
業界展望を踏まえた個別企業のモバイルウォレット等キャッシュレス決済導入およびデータ戦略のビジョン構築支援