事例紹介

エンゲージメントの意義を常に考える

次のステージに向けて日本企業に何を期待するか

デロイト トーマツ グループでは、コーポレートガバナンスの観点から、持続的な成長及び中長期の企業価値向上に資する情報提供を目的として、事業会社、機関投資家の考えや取組みをインタビュー形式で紹介いたします。今回は、日本株投資に長い歴史を有するモントリオール銀行系列の資産運用会社で英国ロンドンに本部を置くBMO Global Asset ManagementのEMEAのDirectorであり、ガバナンス・サステナブル投資の責任者であるYo Takatsuki(高月 擁)氏に、投資家と企業とのエンゲージメントや日本企業に対する期待について伺いました。

過去のインタービュー記事についてはこちらをご覧ください

BMO Global Asset Managementは 日本株投資に長い歴史と実績を持つ

BMO Global Asset Management(以下、「BMO AM」という)とは、どのような投資運用会社なのか、概要を教えてください。

Takatsuki :BMO AMは、カナダ5大銀行のひとつであるモントリオール銀行の投資運用グループの子会社です。BMOのアセットマネジメント部門として北米を中心に活動していましたが、近年ではグローバルで大きな成長を遂げています。私が所属する欧州・ロンドンの拠点は2014年にF&CInvestments(以下、「F&C社」という)をBMO AMが買収・合併し、現在のBMO AMとなっています。F&C社は1850年代から活動していた英国でも最古のインベストメントマネジャーのひとつで、1984年に欧州最初のSRI (社会的責任投資)ファンドを開始するなど、知名度の高い資産運用会社でした。日本への投資の歴史も長く、日銀が創設される2年ほど前から日本政府が発行する債券を購入しており、それ以降、日本企業への投資も積極的に推進しています。

私は、サステナブル投資(SRI)チームのシニアメンバーの1人で、日本株のアナリストの責任者であり、投資先に対するエンゲージメントプログラムを実施しています。また、私たちは、BMOのアセットマネジメント部門としてのアセットだけではなく、エンゲージメント・オーバーレイ・サービスとして、私たちが資産運用を担当していないクライアントのためにエンゲージメントと議決権行使サービスを提供しており、私はそのグローバルの責任者も担当しています。主要なインベストメント・スタイルは、歴史的には、主にアクティブでしたが、この10年ほどでインデックスETFが主流になっており、クオンツ運用も大きくなっています。
 

BMO AM全体の投資規模、及び日本株のポジションについて教えてください。

Takatsuki :BMO AMは、現在、全世界で2,100億ユーロ(2018年6月末現在で概ね27兆円)の資産を運用しています。それ以外にエンゲージメント・オーバーレイ・サービスとして1,600億ユーロ(同21兆円)の投資に関わるエンゲージメントや議決権行使サービスを提供していますので、全体では4,000億ユーロ(同52兆円)に近い投資に対するエンゲージメントと議決権行使の影響力があります。そのうち日本の株式や債券に対するエンゲージメントや議決権行使は150億ポンド(同2兆円)ほどの規模になります。

日本株への投資は、直接、BMO AMが投資しているのは10億ポンド(同1,460億円)です。そのうち8億ポンドほどはTOPIXに上場している60~70社の大企業にアクティブファンドとして投資しています。それ以外の2億ポンドはJ-REIT(不動産投資法人)やインデックス運用を通して日本株に投資しています。

それ以外にエンゲージメント・オーバーレイ・サービスを含め、総額で150億ポンドほどの日本株と債券に対してエンゲージメントや議決権行使を行っています。

エンゲージメントは何のために行うのか、 投資家も企業もその意義を常に考える

エンゲージメントの対象とする企業はどのように絞り込んでいるのでしょうか?

Takatsuki :私たちの顧客と自社グループ全体の保有分を合わせると、世界で1万社ほどの企業の株式や債券に投資しています。エンゲージメント先や議決権行使を検討するにあたっては、対象企業の優先順位付けが必要であり、そのためのアプローチが必要です。

毎年8月くらいから対象企業の絞り込みを開始していますが、1万社のうちESGに関するリスクツールを使ってレーティング(格付け)している企業が8,000社ほどあります。このツールにより、投資先企業のESGに関しての強み・弱みを分析するのが最初のフィルターで、8,000社のうち1,000社ほどが何らかの問題を抱えている企業と推定できます。この1,000社から私たちの顧客の投資ポジションの強い企業や、私たち自身の投資のアクティブポジションが強い企業を中心に、さらに400社ほどに絞ります。

この400社に対して、ESGのチームがより深い分析を行い、また過去のエンゲージメントの内容も分析し、毎年60~80社をリスト化します。このように選出された企業に対して、チームとして深いエンゲージメントを行います。

このようなシステマティックな選出方法は、とても大切だと思います。なぜならエンゲージメントは事前の準備が大事だからです。議決権行使も同じで、問題があると思われる企業にこそ、エンゲージメントすることが大切だと考えています。英国のスチュワードシップ・コードでも、機関投資家の評価について重視されているのは、実際、どのようにエンゲージメントと議決権行使を行っているのかという点です。私たちは、世界の証券市場のうち60ほどのマーケットについてそれぞれの議決権行使ポリシーを定めており、その上位概念として世界共通のコーポレートガバナンス・ガイドラインを持っています。私たちはエンゲージメントと議決権行使に力を入れていますので、この点についてはとても重視しています。

 

エンゲージメントする企業を効果的に選出するためにはシステムを活用した絞り込みは重要だと思いますが、システムによる絞り込み以外で、エンゲージメント対象とする企業を検討することもあるのでしょうか?

Takatsuki :ESGのチームは15名で構成されており、セクターごとに担当が分かれています。例えば、私は主に製薬業を担当しています。セクターごとに担当者が責任をもって世界中の企業を対象にモニターしており、いま、どの企業がESGに関して強い、弱いといった知見がありますので、システムで対象とならなかった7,000社についても、この知見に基づいてエンゲージメントが必要な先はないかを検討しています。また、対象企業を絞り込むツールも、工夫して少しずつ変更を加えていますので、常に進化しています。

私がESGのチームに入って7年になりますが、エンゲージメントを行うチームメンバーの専門知識と経験を大事にしており、15名のうち9名は10年以上の経験を持っています。なぜ経験が大切かというと、エンゲージメントを通してCEOや取締役会議長とESGや戦略などについて対話をするには、相応の経験や知識がないと対応するのが難しいと実感しているからです。例えば、英国企業の取締役会議長などと対話する場合に、私たち投資家がいっていることは「間違っているのではないか」と指摘されることがよくありますが、実際は指摘が正しかった、ということも多いです。企業側は対話で指摘されたことに対して防御機能が働き「間違っている」とおっしゃられるのかもしれませんが、相応の専門知識があれば「いや間違っていません。なぜなら・・・」と理由を説明したり、他社の事例をあげたりして対話を深めることができます。このやり取りがエンゲージメントには大切なのです。


そのようなやり取りによって、お互いに牽制を効かせながら、相手に真剣に立ち向かい、意義のある対話を引き出しているのですね。

Takatsuki :はい。やはりエンゲージメントは何のためにやっているのか、ということを考えないといけないと思います。エンゲージメントをすることで、私たち投資家の影響力により企業が自律的に少しずつ変わっていく契機にしたいと考えています。

当社では、このようなエンゲージメントを18年ほど実施しているので、お互いをよく知り、良好な関係が築かれている企業が何社もあります。そのような企業とは、とてもオープンなエンゲージメントができています。何か問題が起こってからエンゲージメントするのではなく、何かが起こる前から潜在的なリスクについて考えていこう、そのために私たち投資家の考えを聞いておこうというコミュニケーションがエンゲージメントの肝だと思います。

何か悪いことが起きてからエンゲージメントするのでは遅すぎるというか、何かが起こる前に、フォワードルッキングなリスクマネジメントとしてエンゲージメントするのが非常に大切だと私たちは考えています。


どのくらいの頻度でエンゲージメントをしているのでしょうか。

Takatsuki :毎年、システマティックな分析とチームによるきる機会が多いわけです。また、経営トップだけでなく、現場を知る立場の方とのエンゲージメントも大切だと思います。なぜなら、CEOがいっていることについて、現場の従業員たちが全く別のことを考えているとすると、実は、そのことについて会社として真剣に考えていないのではないかと認識できることもあるからです。

そして最後に大事なことは、年金グループ、保険会社やアセットオーナーなどの、私たちのクライアントや社会に対するレポートです。四半期ごとに幅広く様々なエンゲージメントレポートを提供しています。

この3つが機関投資家として評価される点だと思います。

 

続きはPDF『エンゲージメントの意義を常に考える- 次のステージに向けて日本企業に何を期待するか -』をご覧ください。


※所属・役職はインタビュー当時のものを掲載しております

デロイト トーマツ コーポレートガバナンス ライブラリー

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