日本とアフリカをヘルスケアで繋ぐスタートアップ~Connect Afya × Deloitteの対談~

  • Digital Business Modeling
2022/7/26

Connect Afya 代表取締役 嶋田 庸一氏はアフリカのケニアにて医療検査ラボ分野で起業し、治療・予防・研究のマーケット獲得に向けた挑戦をされています。そんな嶋田氏にまだ規制やインフラ面が整っていないアフリカのケニアに着目して起業された背景、これまで取り組まれたこと、今後の構想についてお伺いしました。(聞き手はデロイト トーマツ コンサルティング合同会社 増井慶太)

—まずは、嶋田さんの自己紹介からお願いします。

嶋田:新卒で製薬企業や医療機器メーカーの営業マーケティング戦略を主にしたコンサルティングファームに入社しましたが、プロジェクトの合間に休暇を取り、ウガンダで起業しようとしている企業の立ち上げをお手伝いしました。この時の経験から自分でも起業したいと考えるようになり、Connect Afyaを立ち上げました。

Connect Afyaでは、いわゆる医療検査ラボと医療機器の卸に加え、クリニックを運営しています。アフリカの人口は増えていますが、医療インフラは追いついていません。このギャップを埋めるため、臨床検査が必要と考えて起業しました。

医療の発展の歴史を振り返ると、「疾患を発見できなかったら、それはなかったものとして扱われる」ということに気がつきました。つまり疾患を発見することが、マーケットの成長を促すドライバーということになります。そこで、医療検査ラボから参入することにしました。検査のマーケットができれば、自ずと治療や予防のマーケットもできていきます。将来的には、研究のマーケットもできるでしょう。そうしたマーケットを幅広く押さえていきたいと考えています。

物流領域にも参入しています。新興国は物流が悪く、ラボを立ち上げても試薬がないから検査できないというケースが少なくありません。海外に検体を送って検査しなければならないため、試薬があれば一日で結果がわかる検査が1ヶ月かかってしまいます。物流を手に入れることができれば、もう少し裾野の広い戦略が打てるようになると考えて、これらの事業を行っています。

増井:最近、起業される方は増えていますが、アフリカにフォーカスする人はそんなに多くないと思います。アフリカに焦点を当てたのはどのような理由があるのでしょうか。

嶋田:学生の頃から新興国に興味があり、いろいろな国を見て回りました。東南アジアに行ってみると発展の道筋ができていますが、それは先進国の想像の範囲内でした。しかしケニアの発展は、想像の範囲を大きく超えていました。たとえばIT関連では、モバイルマネーを使った送金サービスが急速に普及し、すでに生活のインフラになっていました。リープフロッグ現象のようなことが起きていたんです。この国であれば、先進国では想像できないようなイノベーションが起きるんじゃないかと思い、アフリカに興味を持ちました。

増井:新興国では東南アジアのマーケットが注目されていますが、嶋田さんからみた感想を聞かせて頂けますか。

嶋田:直近の買収案件などを見ていると、売上規模やそこから想像される営業利益と比較すると高値掴みの案件も少ないと感じています。しかし15~20年前のことを思い返すと、こうしたマーケットに注目していた人たちはかなり少なかったように思います。今のアフリカは、そのときの状況にとても似ています。医療分野ではリープフロッグが起きないとは言いませんが、規制やインフラ整備の側面は無視できないため、時間を掛けて変化する側面が強いと感じています。今からでも遅くないから、小さい規模の投資を始めれば、そこから最適なタイミングで市場機会を掴み、事業を伸ばしていくことは可能だと思っています。過去のマーケットや他の地域のアナロジーからそういった感覚を持てるかどうかが、重要なポイントになると思います。

増井:アフリカの製造業については遅れているイメージを持っている人が多い印象がありますが、実際は異なる様相を呈している印象を持っています。実際、現地で働いておられる生々しい感覚をお伺いしたいのですが、アフリカの医療やヘルスケアの現状はどんな状況ですか。

嶋田:アフリカ全土では、人口が11億から12億人いるといわれています。この数字は、年間約2.5%ずつ増えています。一方、平均寿命は60歳前後。日本と比べると短命のように感じますが、飲料水の品質が改善された結果、乳幼児死亡率が下がったり、HIVの治療薬へのアクセスなどが劇的に改善されたりしたことで過去20年の間にかなり改善されました。

国連やNGOといった公的機関だけでなく、民間企業なども相次いで進出しています。大手の製薬会社が南アフリカ以外でオフィスを置いているケースも珍しくありません。しかし、そもそも製造拠点があるわけでもなく、研究・開発はおろか、営業などでも投入されているリソースは少なく、何ができるのかを模索しているのが現状でしょう。

増井:もちろん、欠くことはできない薬の提供は課題だとは思います。一方で、富裕層のセグメントでは新薬を使っているという話を聞いたこともあります。実際にご覧になって、マーケットの状況はどのようになっていると思われましたか。

嶋田:確かに新薬などを使っているケースはだんだんと増えています。アフリカで流行っている新薬は日本や欧米で15年〜20年前に使われていたものが多く、欧米系のファーマの方のなかには「マーケットは小さいけれども、成長率は高い」と言う人もいます。平均寿命が延びる中、裕福な人たちの健康の意識が上がりつつあるのでしょう。

一方、グローバル経済の中で考えると、アフリカはとても脆弱です。たとえば、新型コロナウイルスの感染拡大はグローバル規模で起きていますが、欧州で感染が広がると検査用の試薬がアフリカに入ってこないといったことが起きています。こういったケースは日常茶飯事ですね。

増井:先ほどITは最先端と言ったお話しがありましたが、医療現場でのシステムの活用は進んでいますか。

嶋田:先進国では、医療現場でも電子カルテを始めとする様々なシステムが使われ、生産性を向上しています。一方、アフリカではネットインフラが脆弱だったり、停電が起きたりしてインターネットに接続できないというケースがあるため、電気やインターネットの状況に依存しない「紙」のほうがインフラとして利用しやすいという事情があります。

増井:欧米や日本ではデジタルトランスフォーメーションの必要性が叫ばれていますが、それとは全く異なることが起きているんですね。インフラが整っていない状況下だと、紙と鉛筆の方が、生産性が上がるというお話は、示唆に富んでいますね。

嶋田:紙と鉛筆がなくならない理由として、「雇用」や「現場からの反対」といった理由もあります。省人化すると雇用が減るという理由もありますが、管理が徹底されてしまうと横領ができなくなるため、相当の拒否反応があるようです。特に地方では、その傾向が顕著です。これらの問題は、スタートアップだけ解決できる課題ではありませんし、投資をしたところで目に見える成果もでない。そこでConnect Afyaは、都市部からサービス提供を始めています。都市部などエリアを絞り、近代化したオペレーションや医療資源を提供し、そこから拡大しようとしています。

広げていくには、それらをつなげる「ハブ」が重要になります。ハブは、これまで以上に重要になっていくと考えています。新型コロナウイルスの感染拡大により、メディカルツーリズムができなくなると、富裕層に対して国内で高度な医療を受けられるようにする必要がある。Connect Afyaは、そのようなニーズに応えられるハブを構築しようとしています。

増井:アフリカへの投資や進出をしようと考えているビジネスパーソンに対して、こういったコラボレーションがあるといいといったアドバイスはありますか?

嶋田:アフリカ進出を考えている企業はいくつかあります。ただ、マーケットリサーチのようなことをしても、その情報だけではよくわからないことが多いのではないかと思います。実際のビジネスに投資し、そこをのぞき窓として活用しつつ、アフリカでのビジネスを理解していくのがいいかもしれません。PoCのアプローチが有効でしょう。

医薬品でいえば、他社と組むことは難しくても、商社と組んでみるとおもしろいかもしれません。新興国の場合、先に市場を押さえればシェアを獲得することができますからね。また、インフラを作っている会社とコラボするのもおもしろいかもしれません。日本でもヘルスケアで活用されているLINEですが、登場した当時、そういったことになると想像できた人はいないでしょう。そういったアナロジーは、アフリカでも適用できると思っています。

増井:国内外で異業種・他産業とのコラボレーションの重要性は高まっていますね。また、R&Dの場所としてのアフリカはありえるのかもしれないと感じました。顧みられない感染症など、新興国で発生する疾患もあります。そういったことをいち早く察知し、対策を打てる環境を用意することが重要ですね。日本の企業も、新興国でアジリティをもってR&Dを実施する余地があるのかもしれません。

嶋田:「発想」の問題もありますね。日本には国民皆保険がありますが、その功罪もあると思っています。日本を出て、初めて知ったのですが、「誰が支払うのか」という議論はとても重要です。しかし、日本の製薬メーカーはこの感覚が薄い。国民皆保険制度が前提となっていることに気がつかない人は、発想の転換はできないでしょう。国民皆保険制度についても、将来大きな転換期を迎えるのは目に見えています。そういった中で、全く違う国の医療制度を多面的に理解しておけば、それが有利に働く可能性は高くなるはず。そういった思考実験の場としても、アフリカは非常に適しています。

増井:最後に、嶋田さんがDeloitteに期待することがあれば教えてください。

嶋田:今後、ますますデジタルは必要不可欠になっていきます。One Size Fits Allではなく、いろいろな場所のいろいろな知見が必要になります。通信インフラが強くない僻地で使われているソリューションは、他の地域にうまく当てはめられるかもしれません。違う地域の事例をどうやってローカルに適応していくのかといった思考が重要になります。引き出しが多ければ多いほど、新興国の事業でサバイバルし、スケールしていける。そういった知恵が集められるファームの重要性は、これから高まっていくと思っています。

増井:いろいろなアナロジーがありましたが、Deloitteは、コンサルティングに加えて、会計、税務・法務、リスクアドバイザリー、フィナンシャル・アドバイザリーなど多様なプロフェッショナルサービスをグローバルで提供しています。そういった知見をうまく組み合わせて提供することで、社会問題を解決できると考えています。コンサルティング産業においても、レポーティングワークだけではインパクトを出せなくなってきており、踏み込んだ社会実装のご支援が増えてきている印象があります。嶋田さんのお話しを聞いて、我々がどういった価値を提供していくことができるのかも改めて考えることができました。本日は、ありがとうございました。

PROFESSIONAL

  • 増井 慶太

    デロイト トーマツ コンサルティング合同会社
    Monitor Deloitte | Life Sciences & Health Care
    執行役員

    ライフサイエンス及びヘルスケア産業におけるコンサルティングに従事。イノベーションをキーワードにバリューチェーンを通貫して戦略立案から実行支援まで携わる。講演活動や各種メディアに対する寄稿を多数実施。

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