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2018年度 連邦予算案 ハイライト

Canadian tax alert

2018年2月27日

 2月27日午後、モルノー財務大臣は下院にて2018年度予算を提示した。経済成長、男女平等、イノベーションを主題としている。予算案では具体的な手段は述べられなかったものの、近年のアメリカの税制改正およびNAFTA交渉の重要性も認識している。

 昨年の予算で示されていた通り、今期の予算では非公開企業の受動的所得の対処方法について定めており、一定金額を超える受動的所得がある企業は、優遇税率が適用がされる上限金額が低減される。また、配当金を支払った際に企業が還付請求できる場合があるが、一定の制限が課される。詳細については後述する。

 また、予算では、男女平等の見地から、「使わなければ無駄になる」優遇として、雇用保険による育児休暇を両親が共有できるようにした。育児休暇を共有する場合、しない場合に比べて5週間多く取得ができるようになっている。また、政府は女性起業家への更なる支援を示唆し、前期予算で述べられた手頃な保育園費用の実現に向けて投資を行う意向を示した。

 政府はカナダのイノベーションを支援するために大幅な投資を行う。今後5年間に、カナダの助成機関や研究所を通して既存・将来の研究員に対し17億ドルの投資を行う予定である。基礎研究を支援するために、研究室、施設、インフラに対しては今後5年で13億円の投資を約束している。

 また、政府は他人を犠牲にして不正利益を得る税制の落とし穴を是正するための手段を引き続き講じて行く予定である。さらには、CRAに対して、前回の投資に加え90.6百万ドルを今後5年で投資し、脱税防止や税法順守の改善に取り組むとしている。予算案で、OECDのBEPSプロジェクト、特に、利子控除とハイブリッド防止措置について更なる策が講じられていないことは注目に値する。

以下、財政見通しと予算の内容を要約する。

 

I. 財政見通し

 2017年度の財政赤字は194億ドルと見込んでおり、2018年度は181億ドルと予想されている。財政赤字は徐々に減少し、2022年度までには123億ドルになると見込まれている。
 2018年度の連邦債務対GDP比は、およそ30.1%になると予想されている。2022年度にはこの比率を28.4%まで引き下げる計画である。
 GDPは2018年に1.9%成長し、2019年に1.6%成長することが見込まれている。
 消費者物価指数上昇率は2018年に1.9%まで上がるが、その後数年は安定した状態が継続すると見込まれている。
 2018年の失業率は6.0%と見込まれており、その後数年間は安定して推移すると予想されている。


II. 法人税の改正

1. 非公開企業に関する税制

税率

  • 従来の発表の通り、連邦政府は小規模事業に対する税率を、2018年には10.5%から10%に、2019年以降には9%に引き下げる予定である。

受動的投資所得

  • カナダ人支配非公開企業(CCPC)は一定の所得金額(ビジネスリミット)までは優遇税率が適用される。今回の改正により2018年以降に開始する課税年度から、CCPC及びその関係会社の調整後総投資所得(AAII)が50,000ドルを超えると、ビジネスリミットが減少していく。 改正の重要な事項は以下の通り。
    • CCPC又は関係会社の調整後総投資所得(AAII)が150,000ドルを超えると、ビジネリリミットがゼロとなる。
    • この減少規定は、課税対象資本が1,000万ドルを超える場合に適用される既存の規定と同時に適用される。2つの規定による計算結果のうち、より低い額がビジネスリミットとして使用される。
  • 予算は、CCPCの還付可能な納税債務の計算に現在使用されているコンセプトである総投資所得(AII)を基礎として計算する調整後総投資所得(AAII)という新しいコンセプトを導入した。 予算ではAAIIについて以下の点を提案している。
    • 免除保険契約ではない貯蓄性の生命保険契約からのカナダポートフォリオ配当及び収入を含める(AIIに別途含まれていない場合に限る)。
    • 次の場合に生じる課税対象キャピタル・ゲインおよびキャピタル・ロスを除外する。
      ①主にカナダで行っているアクティブな事業で使用している資産を処分した場合。
      ②他のCCPCの株式を処分した場合で、当該CCPCの資産の公正価値の全て又は実質的に全てが、 主にカナダで行っているアクティブな事業で使われている資産によるものである場合。
    • 過年度から繰り越されたネットのキャピタルロスは除外する。

投資所得に対する還付可能税

  • 会社は還付可能配当税(RDTOH)の勘定残高の還付を申請できるが、予算には、それを制限するように設計された新しい措置が含まれており、2018年以降に始まる課税年度に適用される。非公開企業は受取配当金に関して支払った税金を累積的にRDTOH勘定として計算上でプールしており、他社へ配当を支払った場合に、金額に応じて当該税金の還付を受けることができる。
    • 会社の還付可能配当税(RDTOH)は、非適格RDTOHと適格RDTOHの2つの勘定に分割されれることになった。 会社は適格配当を支払ったとしても、非適格RDTOHからの配当税の払い戻しを受けることができない。
    • 会社が非適格配当を支払う場合、非適格RDTOHを最初に回収することが検討される。
    • 会社の適格RDTOH勘定には、以下が含まれる。
      • 非関連カナダ企業から受け取った適格配当金に対して支払った所得税法第Ⅳ章に規定されている還付可能税。 及び
      • 関連カナダ企業から受け取った適格配当金に関して支払った所得税法第Ⅳ章に規定されている還付可能税。なお、その配当金の支払いにより、他社の適格RDTOH口座からの配当税の還付が行われる結果となる場合に限る
    • 会社の非適格RDTOH勘定には、以下が含まれる。
      • 所得税法第Ⅰ章に規定されている税金の還付可能部分。
      • 所得税法第IV章の非関連カナダ企業からの非適格配当金に対して支払われる還付可能税。 
      • 他の会社の非適格RDTOH勘定からの配当金還付をもたらす関連カナダ企業からの特定の配当金に対して支払われた税法第IV章の還付可能税金。
    • 提案されたビジネスリミットの段階的廃止と、企業のRDTOHに関連する新しい規則の両方に関連した租税回避防止規則も提案されている。

 

2. 国際的な課税措置

フォームT1134の申告

  • 予算では、2020年に始まる税務年度から、フォームT1134を確定申告期限までにファイリングすることが提案されている。フォームT1134は、海外子会社及び海外関連会社に関する報告様式である。

海外関係会社を利用した投資
本年度予算では、2018年2月27日以降開始する海外関係会社の税務年度から、いくつかの海外関係会社に関する追加規制が提案されている。

  • カナダにおいて、海外関連会社のアクティブな事業からの配当は、カナダ納税者へ配当されるまで課税されない。しかし、支配関係にある海外関連会社の特定の所得(例えば、不動産などの財産からの収入、アクティブな事業以外の特定の収入源からの収入など)は、それが分配されているか否かにかかわらず、所得が生じた年に、カナダ納税者の所得として課税され、関連会社が当該所得について支払った税金については控除される。この特定の所得は、海外発生財産所得(FAPI)と呼ばれている。
  • カナダ納税者の海外関連会社の投資事業からの収入は、通常FAPIに含まれる。ただし、例外要件がいくつかあり、そのうちの一つが投資事業が5人以上の常勤従業員(又は同等の従業員)の雇用であり、条件を満たした投資事業からの所得はFAPIから除外される。海外関係会社の投資事業が5人以上の常勤従業員を雇用していない場合は、他社と一緒に海外関連会社に金融資産などを拠出し、その会社を通じて海外の投資活動を行うことで条件を満たそうする場合がある。各社は、その関係会社が単一の投資事業を運営しているという立場を取る一方で、リターンについては拠出資産に応じて決定する。通常、各納税者は、株式や契約上の権利などを拠出分に応じて支配し、その資産からの収益がそれぞれに帰属する契約が結ばれる。こうした契約は、「トラッキング契約(Tracking Agreement)」と呼ばれている。
  • このスキームの元では、海外関係会社は、受動的投資収益をオフショアにシフトさせ、後でその所得をカナダに非課税でリターンさせる導管会社として使用され、今回の予算では各種の規定が設けられた。
    • トラッキング契約の元で行われている海外関係会社の活動を別個のビジネスとみなす規制。これにより、当該活動から生じる所得は、トラッキング契約における各納税者に帰属することとなる。当該規則は、アクティブに実施されている事業について、5人以上の常勤従業員を雇用している一つの事業体の中でリソースをプールすることによって、関連会社が得る受動的所得に関する課税を遅らせるスキームを防止することを意図している。
    • 同様のルールにより、別個のセル又は分離アカウントを利用したトラッキング契約の元で、関係会社の海外発生財産所得(FAPI)がカナダの特定の納税者に帰属する場合は、関係会社は当該納税者の支配海外子会社となる。
    • 負債取引を主な目的とする海外関係会社に係る最低資本規制の導入。この規制を満たさない場合には、当該海外関係会社は、一定のFAPI規制の免除が認められない。

再査定期間の延長

  • 予算では、納税者の海外関係会社から生じる所得に関して、2018年2月27日以降開始する税務年度から再査定期間を3年間延長することが提案されている。
  • 「ストップ・ザ・クロック」ルールが提案されている。CRAから要求される情報提供または順守指示への反論がなされるまでの間、納税者の再査定期間が延長される。以前から、海外情報の要求については、同様のルールがあった。 
  • 2018年2月27日以後開始税務年度で、非居住者かつ非第三者との取引の結果、納税者が損失を被る状況において、首尾一貫した再査定を可能とするため、損失を繰り戻す税務年度に関する再査定期間を追加の3年間まで延長することを提案している。

クロスボーダー・サープラス・ストリッピング取引に関する規制強化

  • 非居住者がカナダの会社を保有している場合に、払込み資本を超える剰余金を払い戻す際には通常課税される。このため、複数の会社間で株式交換などを使って、払込み資本を増加させることで課税を逃れようとする取引(クロスボーダー・サープラス・ストリッピング取引)が行われることがあり、以前からこうした取引を使って租税を回避することを防止する規定が設けられていた。ただ、実際にはパートナーシップや信託などを使うことで、このルールを回避するケースがあった。
  • 2018年2月27日時点でカナダに存在する、クロスボーダー・サープラス・ストリッピング取引に関係する租税回避防止規定を、パートナーシップや信託を利用することで逃れられないようにするため、一連のルック・スルー・ルールを提案している。

各国との情報交換

  • カナダと各国の租税条約、租税情報交換協定、および租税に関する相互行政支援に関する条約に従い、締結国間で租税についての情報交換を促進するため、様々な法案の修正が提案されている。

 

3. その他のビジネスに関する税制改正

階層構造を持つパートナーシップ

  • 最近の連邦控訴裁判所の判決を受け、予算案では、2018年2月27日以降に終了する課税年度において、階層構造を持つパートナーシップの最上位の階層のメンバーに対して、損失(2018年2月27日以前に終了する課税年度に発生した損失を含む)を配分して課税所得と相殺することに制限を課すことを提案している。第二階層のパートナーシップに配分される損失は、最上位階層が負担しているリスク金額によって制限され、未使用損失は将来に繰越して使用することができなくなる。また、この未使用損失は、第二階層のパートナーシップの持分処分時の調整原価に加算され、キャピタルゲイン又はロスの計算に織り込まれる。

クリーンエネルギー関係資産の加速度償却

  • 2025年までに取得された固定資産について、クリーンエネルギー発電と環境保護への投資として所得税法のスケジュールⅡにおけるクラス43.2に含まれる場合は、加速度償却が認められる。

受取配当金に関する規制強化

  • 特定の条件において納税者が他のカナダ企業から配当を受け取った場合、受取金額を所得から控除することができる。配当レンタル契約および証券貸借契約と呼ばれる方法によってカナダ企業の株式から得られる利益または損失が実質的に免税企業もしくはカナダ非居住者に移転されている場合、この受取配当をグループ間の配当控除に適用できないように2015年に規制が導入されたが、それがさらに強化される。配当支払が所得控除できる場合を明確化するために、類似のルール改正も提案されている。いくつかの例外を除き、これらの改正は2018年2月27日以降に支払われる配当に適用される。

自社株買い取りに関する改正

  • 2018年2月27日以降に企業が自社株式を買い戻し、その株式が時価で評価される場合、買戻しによって受け取ったと見なされる配当により、自社株の買戻しで発生した損失は相殺される。これは、カナダ居住企業間の配当の益金控除制度を利用できることが条件である。

雇用主健康保険福祉信託の管理

  • 2020年以降、CRAは所得税法に取扱いの規定が無くCRAが取り扱いを定めていた雇用主健康福祉信託に関連する長きにわたる管理の立場を中止することを発表した。それらの信託が、所得税法に取扱いが規定されている従業員生命健康信託に統合されるのを促すためである。利害関係者は、2018年6月29日までに移行に関するコメントを提出することができる。

 

III. 個人所得税の改正

信託資産の申告・報告ルールの導入

  • CRAが信託やその受益者に関する税負担を評価するために、2021年以降の課税年度について、信託に関する申告・報告ルールが提案された。予算案には、T3申告書を提出しなかった場合や、要求された情報を報告しなかった場合の罰則が含まれる。要約は下記の通りである。
    • 改正の影響を受ける信託は、受託者、受益者、委託人、受託者の意思決定をコントロールすることができる全ての者を報告しなければならない。
    • 特定の信託は、従来T3を提出していない場合はT3を提出しなければならない。
    • ミューチュアルファンド、登録されたプランにより運営される信託、(相続に関連する)優遇税率を受けることができる財産などのいくつかの信託については申告が免除される。
    • これらの報告制度をサポートするためにCRAに予算が配分される。

税額控除制度に関する改正

  • 鉱物探査に関するフロー・スルー株式について、税額控除の延長が提案された。2019年3月31日までに支出された探査費用が控除の対象となる。フロー・スルー株式契約の下では、資源会社で発生した特定の開発費用を、フロー・スルー株式を保有する投資家に移転し、その課税所得から控除することができる。
  • 2019年より、払戻が可能な税額控除である Working income tax benefit は Canada workers benefit に改称される。給付の最大金額は増加され、扶養家族のいない単身者で1,355ドル、家族世帯に対しては2,335ドルとなる。心的外傷後ストレス障害のような精神的な障碍を有する患者のために活動する動物の訓練費用は、2017年以降発生分より医療費控除の対象となる。
  • 法定代理人がいない成人のために適格家族が登録済みの障害貯蓄制度の保有者になることができる一時的な取扱いは、2023年まで5年間延長される。
  • カナダ年金制度(CPP)とケベック年金制度(QPP)の取扱いを一貫性あるものとするため、CPPと同様にQPPにおいても、2019年以降の年金増額部分についての従業員拠出額(自営業の場合は従業員部分拠出額)が税額控除となる。

児童手当に関する改正

  • カナダ国籍も永住権も有していない海外出身のインド人に対して、児童給付の旧制度(CCTB, NCBS, UCCB)の申請が遡及的に認められることとなった。この改正により、2005年~2016年6月末まで遡及的に制度の対象となる。
  • 社会支援制度の事務作業のために、州や準州が納税者の情報を必要としていることより、カナダ所得税法が改正された。2018年7月1日時点のカナダ児童手当に関する情報が、連邦から州・準州に共有されるようになる。

慈善団体に関する改正

  •  一定の状況において歳入庁の承認がある場合に、資産正味価値の100%と同額の失効税を回避するために、税額控除の対象となる資格を解除された慈善団体の財産を、地方自治体が引き受けることができるようになる。この改正は2018年2月27日以降に移転される資産に対して適用される。
  • カナダ国外の大学が慈善寄付控除の対象としての認定プロセスを合理化するため、2018年2月27日よりそれらの大学はカナダ所得税法において指定される必要がなくなる。

 

IV. その他の税制改正

大麻製品に関する消費税の課税

  • 大麻製品について、2001年消費税法の一部として新しい連邦消費税の導入が提案されている。課税は連邦ライセンスを持つ生産者に対して行われ、合法的に購入可能な全ての大麻製品が対象となる。税額は最終製品に含まれる大麻の量に適用される定額レートと、生産者が販売した製品の課税対象部分に適用される従価レートの高い方で計算される。

投資LPに対する間接税

  • 2017年9月8日に公表された投資LP(Limited Partnership)に対するGST/HSTの適用に関する改正は、その後の税制改正により修正が行われるものの、引続き進められることが確認された。

たばこ税に関する改正

  • たばこ税のインフレ調整は、5年毎ではなく毎年調整される。
  • たばこ200本について1ドルの追加的な増税が提案されている。さらに、生産者、輸入者、卸売業者、販売者が、2018年2月27日に所有するたばこの在庫に対しては、1本あたり0.011468ドルの在庫税が課税される(一定の免除あり)。

パブリックコメントの募集

  • 政府は近い将来、GST/HSTに関する企業の規則の観点からパブリックコメントを募集するために、協議文書と改正案を公表する予定である。

本内容は、デロイトカナダによって配信されたCanadian tax alert の日本語参考訳です。原文(英語版)はこちらをご参照ください。

詳細な情報は財務省のウェブサイトをご参照ください

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